南アルプスに行く時はいつも甲府からの広河原行きのバスに乗ることが多いのだが、この路線、登山客専用と言っていいほどの特殊感がある。
いつも登山者とザックで満載で、もし一般客でも乗ろうものなら、
『あら、私、乗ってはいけなかったのかしら?』
と場違いに思うに違いない。
しかし、その時は珍しく、おそらくインド人であろう青年男子が5、6人乗っていた。
一体どこに行くのだろう?
格好は今時な町着だし、モチロン登山靴など履いてはいない。スマホなどを見ながら仲間とワイワイやっている様子からすると、途中の温泉に寄るか、夜叉神峠にハイキングに行くのであろうか?
しかし海外でこんなマイナー路線に乗るなんて、なかなかの行動力である。
自分が逆にインドを旅をしたときの事を思うと、彼等の苦労が透けて見えてくるからだ。海外でローカルバスに乗るのは面倒が多い。路線図などの情報が手に入る鉄道と違い、どこをどう走っているのかまったく分からないのだ。
バスターミナルに行っても英語表記がないので、バスの行き先は謎である。事務所があればそこで聞く事ができるが、それすらないようなところだと、訪問営業のごとく勇気を持ってバスに乗り込み、運転手に目的地を言って聞いて回るしかない。
なので、彼等がどうやってこのバスにたどり着いたのだろうかと想像すると、インドの旅を色々思い出し、ニヤニヤしてしまうのである。
たとえば、ガンジス川の沐浴で有名なベナレスから、カジュラーホという町まで行った時には、バスに乗ったはいいものの、バスの遅れで(当たり前なのだが)乗り換えが間に合わず、全く見知らぬ街に放り出されそうになった。
そこは観光客があまり来ない街だったので、英語が通じにくく、ややピンチ。それを察したか、バスの車掌さんが私と一緒にバスを降りて、わざわざサイクルリクシャー(自転車人力車)を捕まえ、
『宿を探してこのジャパーニーを連れてってやってくれ。〇〇ルピーで』
と値段の交渉までつけてくれた。
その間になぜかバスは行ってしまい、この車掌さんどうするんだろう?と思ったら、
『礼には及ばないさ!あばよ!』
と言わんばかりに去りながら片手を上げ、そのまま町の中に歩いて消えていった。
海外での旅は人の手助け無しにはなかなか成し得る事は出来ない。インドの彼等もそうやってこのバスまでたどり着いたのであろう。
さて、そんな珍しい客人と登山者とザックで満載の広河原行きバスであったが、やがて街を離れ、きつい上り坂の山道に入ってくる。
すると、
『わしゃ〜精一杯頑張っとるんじゃ〜・・・ゼイ・・ゼイ・・』
といわんばかりに、ものすごいエンジン音をあげながら頑張り始める。
バスは一世代前のおさがりだ。最新型ように振動が吸収してくれず、ガタガタする。たまに『一体どこから持ってきたんだ』というようなゼブラ柄の掘り出し物に当たる事もある。
それでもインドのバスを考えると
”ジャパニーズ・バス・フォー・ヒロガワラ”
の安心感は超絶である。
だってインドの山中を走る路線バスに乗ったときなんか、突然エンジンから煙が吹き出して、車内が煙で真っ白になった事があったのだから。インドバス、恐るべしである。
修理するドライバーを乗客みんなでかこんで見守っていたのだが、どうもジャッキか何かがないとダメらしく、すれ違う車に借りるしかないと、修理工具を持っている車を何時間もひたすら待った。
なんとか修理が完了して、無事走り出した。
『ああよかった・・・・』
だが、暗視したのもつかの間、なにやら様子がおかしくなってきた。
なんと、バスの速度が落ちてくると、エンジンは『プスン・・・プスン・・・』と、絶命しそうになってくるのだ!!!全然治ってないじゃないか!!
一応スピードを上げると生き返ってくるので、なんとか走り続けてくれているのだが、ブレーキを踏もうものならまた、何時間も待たされるかもしれない・・・ここは山の中である。
昔、速度が落ちるとバスに積まれたバクダンが爆発するので走り続けないといけないと言う設定の『スピード』というアクション映画があったが、まさにその状態。乗客一同ハラハラドキドキである。
しかし・・・運命とは無情なもの。
山腹の村に差し掛かった時、前方の道が何か白いもので埋め尽くされているのが見えた。
よく見ると、なんと『羊の大群』が道を横断しているではないか!!。
((((;゚Д゚)))))))
流石にヒツジを跳ね飛ばしてまで走り続けることも出来ない。バスがヒツジたちの手前で停止したが最後、エンジンは二度と息を吹き返すことはなかったのである。
インドの青年たちよ!!
日本のバスは素晴らしいだろう!!
さて、山道に入ってくるとバスの中で車掌さんによる改札が始まった。この路線は、切符がなぜか車内販売で、昔ながら車掌さんがモールス信号でも打つかのごとく、パンチで切符に複雑に穴を開ける。インドと全く同じである。一昔前世界共通のやり方だったのではと思えてしまう。
ただ、人満載、ザック満載でカオスと化した車内を車掌さんが掻き分けながら、時間をかけて車内改札をするシーンはインドの彼等からしても奇妙な光景であったかもしれない。
やがて、リーダーと思われるインド青年の番が回ってきた。
彼等のことが気になっていた人は、『いったいどこに行くんだろう?』ついつい耳を向けてしまったのではなかろうか?
温泉か?・・・・夜叉神峠か?・・・・
しかし、彼は誰もが予想もしなかったような驚くべき質問をしたのである!!
『コノ、バス、北岳ノ山頂ヘ、行キマスカ?』
『なにぃぃぃぃぃ!!!!!!!』
((((;゚Д゚)))))))
後編に続く
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www.yamareco.com/modules/diary/36225-category-4
cajaroaさん、こんにちわ。
予想通りの楽しい落ちをどうもです。
続きがとても気になります。
インドのバス。。30年前は英語表記もあって、
問題なかったような気もします。
マナリに行ったときに、手前の街で
置き去りにされた時はあわてましたが、
バスに積まれたザックは翌日幸か不幸か
手元に戻ってきました。
インドのバスはそれ自体がアドベンチャー
みたいな感があります(笑)
次にインドに行く機会があったら、
デリーでカイラス行きのバスを探しているとか、
カトマンズでエベレスト山頂行きのバスを
探しているとか言ってみようっと(笑)
k-yamaneさん
こんにちは!
インドのバスはまさに深夜特急の世界ですよね。
沢木耕太郎も「なんでお前は電車で行かないでわざわざバスで行くんだ?」
と問われたことに対し、相手を納得させることは難しいと言っていましたが、
私も同じことを問われました。
だって、それ自体旅だからとしか言いようがありませんから(笑)
しかし、バックパック戻ってきてよかったですね。
基本的にはいい人のほうが多いはずなのですが、
旅行者には悪人が寄り付いてくるので、戻ってこないイメージのほうが
強いので、すごくラッキーな話に聞こえます。
英語表記は私も言われてみると、話に上がった地区以外は
問題なかった記憶もあるので、たまたまそのあたりの路線が
表記していなかったのか、あるいは乗り換えて行く途中経過の街の名前を
私がわかっていなかったのかもしれません。
自信がなくなってきました・・・σ^_^;
デリーでカイラス行きのバスを探しているとか、いうと
向こうの場合
「ヘイ・ジャパーニー!ソレアルヨ!ノーエクスペンシブ!」
とか言ってくる悪いやからがいそうかも!
読んでいただいてありがとうございました。
cajaroaさん、こんにちは〜!
結末を勝手に想像しつつ、読み進めていましたが、まさか「北岳山頂」って言葉が出てくるとは予想していませんでした(笑)
今日は天気も良くて、山へ行きたいなぁ〜と、仕事に向かう気持ちが下降気味だったので、投稿読んだ後、車を運転しながら、何だか可笑しくて、ちょっと気持ちが軽くなりました。
後編のストーリーを想像しながら、次回の投稿を楽しみに、仕事をしております(^^)
ak0211さん
おはようございます
お返事が遅れて申し訳ありません。連休中、今話題の穂高に行ってまして、つい昨晩、帰ってきました。穂高は遭難騒ぎで大変なようですが、うまく好天をキャッチでき、無事登頂してきました!
奥穂高山荘のブログを見ると、この話のインド人・・・とまではいかないにせよ、実力不足で事故っているのか?という印象も受けます。ひどい例になると、スニーカーを履いて山荘まで来ちゃったとか、ピッケルを持たずに山頂まで行こうとしている人もいるとか・・・・うーん・・・・
インドに行くと人間の原点が見えるなんて言われるのですが、そんな、純粋に行ってみたいという彼らの気持ちと、行動を考えると、あまり憎めないところもあり、登山の常識的にはNGでもなんだか微笑ましくも思えてしまったりもするのです。外国人ならではの情報のバリアもあるでしょう。
とはいえ、つい一昨日、ヘリがジャンダルムで人を引き上げている現場や、あずき沢で目の前で滑落してくる人達を目撃したりしていると、後編のまとめ方も少し見直そうかなと思うところもあるので、もうしばらくお待ちくださいませ。
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