著者yoneyama氏と面談していると、いつも懐かしい話がポンポン飛び出してくる。
親子程もの年齢差にも拘わらず懐かしいのは、氏が伝統的な登山志向をお持ちの故と予てから思っていた。
今回 本書を読んでその登山志向が、多感な少年期からの思想的意志に裏打ちされ、更に北大山岳部の良き伝統を受け継いで醸成されていることを実感した。
昔から岳部 岳会には、夫々独自の伝統文化が存在していた。
方言のようにローカル色に差もあったが、判断 機転 身熟し は岳界共通であったろう。
折角 氏のユーモアに富んだ蘊蓄ある話を、ネタバレにしたくはない。
詳しい内容には触れないが、兎に角 語り口が面白く、読んでいて異論や違和感が全く無く、すんなりと腑に落ちるのである。
特に面白い話の一例は、”キジ撃ち”の後始末と土に埋める理由と方法である。
これには抱腹絶倒する読者も居るかも知れないが、実はとても大切な話なのだ。
結末は樹林帯の土に埋めて微生物に浄化させるのだが、ローカルにはバリエーションもあった。
浅い穴を掘ってキジを落とし、軽く枯葉をかけて平坦にし、上に枯れ枝を十文字に置いていた。
藪に入る人が靴を汚さぬよう目印をし、臭いに引き寄せられる昆虫の蛆に浄化させるのだ。
所属岳会のローカル流儀だったが、単独行時代もそうしていた。
近年、山荘呑談会の席で、岩壁登攀中の”小キジ撃ち”が話題になったことがあった。
緊急の場合、「岩壁に向けての”小キジ撃ち”は忍びないので、向かい風がなければ空中へ撃つ〜」少数派は、私の他には yoneyama氏だけだった。
不便な道具を熟練で使い熟すのも伝統職人の技であるし、地下足袋で洗練した歩きをするのも伝統職人の技である。
山中の自然物を利用するのも全て昔からの伝統の技で、マタギや樵など山仕事の職人が伝えてきた。
氏は、そうした伝統を大切にし、自ら実践し熟達して居られる。
心身ともに山に慣れているから、機転が利き危機にも対応できる。
”山慣れ”は体験を重ねて得られ、座学だけの”山慣れ”はない。
イグルーの造り方を、面白く読ませて頂いた。
冬山もスキー登山もしたが、残念なことにイグルー体験だけはしたことがない。
観光地の、”かまくら”に入っただけである。
1950〜60年代には雪洞が主役で、イグルーを見かけることがなかった。
雪洞は外気が冷たくても中は摂氏0度C付近で暖かく、イグルーは より以上に快適であろうと推察している。
雪洞の入り口に風除けの雪ブロックを積んだが、イグルーを積むには更にノウハウや技術が必要のようだ。
一度造ってみたいが、もう其の機会は無く、残念に思う。
本書は、初心者からベテラン迄の山に登る人に お薦めしたい本である。
読み終えて、日頃から山について思う処が整理整頓され、しっかりと腑に落ちた感がある。
こうした姿勢の山の本を読むのは、初めての事である。ainakaren
*『冒険登山のすすめ』 米山 悟 著 2016年10月 筑摩書房刊
最低限の装備で自然を楽しむ ちくまプリマー新書
*『冒険登山のすすめ』関連のヤマレコ日記
読者cheezeさんの日記
ミニ書評『冒険登山のすすめ』米山悟(ちくまプリマー選書)
http://www.yamareco.com/modules/diary/88619-detail-130053
著者yoneyamaさんの日記
これまでの本屋さんに感謝したい気持ち
http://www.yamareco.com/modules/diary/826-detail-129424
ちくまプリマーブックス『冒険登山のすすめ』
http://www.yamareco.com/modules/diary/826-detail-129010
厚い感想ありがとうございます。
雪洞は、作るのに時間がかかるので、ベースキャンプ形式の登山形態には良いのですが、雪山を次々前進するような方法だともったいない。
イグルーは、軽くて便利なテントの発明で、忘れられた技術でした。やはりテントが吹雪で潰されて死んだ先輩があってのイグルー再発見でした。今年は山岳部でちょうど90周年記念誌の出版があって、まとめの文章を色々書いていたので、そんなことも自分の中でわかってきました。
yoneyamaさん、こんばんは。
コメント深謝です。
当に神髄〜、大変興味深く拝読させて頂きました。
拙い感想ですが、感じたままを遠慮なく書いてしまいました。
お許しください。
そうですか。
イグルーの盛衰(再発見)は、そのような悲惨な歴史が動機なのですか。
胸を打たれます。
緊急時の雪洞はピンからキリ迄ですが、イグルーなら必要に応じた空間を造れそうですね。
再認識され、活用が盛んになればと思います。
北大山岳部90年の歴史の中のイグルーの記録は、山岳史の貴重な資料になりますね。
戦後の登山ブーム以後の自分の周囲では、冬もテントベースが多く、雪洞は緊急用と荷物用に使われる例が多かったように思います。ren
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