神々の山稜〜トレース無き、新雪の奥穂へ〜
- GPS
- 32:00
- 距離
- 35.7km
- 登り
- 2,068m
- 下り
- 2,056m
コースタイム
11日:5:45涸沢テント場‐7:00ザイテングラート右側基部取りつき‐8:30白出のコル(穂高岳山荘)‐9:30奥穂高岳山頂‐10:10白出のコル‐12:10涸沢テント場(撤収!)13:10涸沢ヒュッテ‐15:00横尾大橋‐16:00徳沢園(小休止)‐17:55!上高地バスターミナル
天候 | 10日:晴れ〜雨〜みぞれ〜雪、そして強風。 11日:眩しいくらいの晴天。 |
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過去天気図(気象庁) | 2012年05月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
http://www.sunshinetour.co.jp/alps/ 11日:上高地より、松本行き。最終便! http://www.alpico.co.jp/access/route_k/honsen/ |
コース状況/ 危険箇所等 |
上高地〜涸沢:横尾大橋を渡り、少し入ったところから残雪が出てくる。本谷橋から先は雪山。 涸沢〜白出のコル:前日、昼より雪、強風となり、トレースは消えた模様。ヒュッテの方に聞いたところ、小豆沢は雪崩の可能性高く回避し、ザイテン基部右側より登るべしとのお答え。前日の雪のせいか、恐ろしいほどの急斜面をピッケルを刺しながら登る。(トレース無し) 帰路、穂高山荘の方も同じような回答だった。しかし、この日、昼前より気温は急上昇、ザイテン右側が(も)アリ地獄の巣のようになる。滑落、雪崩の恐怖からザイテングラート(夏道)へと取りつき、小豆沢へ降りる。山小屋の意見を聞きながらも自分の判断力が常に求められる結果となった。 結果、小豆沢から登り、中間点からザイテン(夏道)に取りつく(復路も同じ)。これがベストだったのではと思われる。(雪の状態により、常に判断が変わると思われる)間違いなく、(自分にとって)ここが今回の核心だった。 白出のコル〜山頂:穂高岳山荘から鎖、梯子の岩場を登る。雪はほとんど吹き飛んでおり、慣れていれば、さほど難しくないと思うが注意。帰路、少し迷ってしまい、山荘の女性スタッフに下から教えてもらう。岩場を登ると、いきなり急坂。岩場に沿って登る。頂上までは、消えかかったトレースが残っていた場所も。頂上からの帰路、当然のようにマチガイ尾根に入りこむ。道標に招かれた。荒天の場合、どこまでも気がつかず、降りてしまいそうだ。 |
写真
感想
奥穂高岳。
北アルプス最高峰。
積雪期にここに登ることがひとつの夢だった。
去年夏、八ヶ岳で偶然、御一緒した女性に、
「次はゴールデンウィークの奥穂だね」
と言われたときも、まだ、現実には無理だろうな、と思っていた。
冬山は2年めだった。まだ、経験不足だと思っていた。
ただ、12月に富士に挑戦したことが、ひとつの自信になった。
チャンスさえあれば、行きたい。夢はより傍に近づいていた。
ゴールデンウィークは仕事上、関係ない。
ヤマレコで皆さんの涸沢の賑わいや登頂の報告を、半ば、うらやましく、
でも、自分のことのように喜んで眺めていた。
次第に気持ちが強くなる。
夢は寝て見るもんじゃない。行動に起こすことから始まる。
絶対に行く。奥穂へ。
そんなときだった。連日、北アルプスで遭難事故が続いた。
奥穂でも、2人の方が亡くなった。
山に登らない人は安全な場所から言う。
「自然を甘く見るからだ」「どうして、そんな危険なところに行くのか」
自分も同じように言われる。
ただ、亡くなった方への批判や非難を聞くと耐えがたい気持ちになる。
全ての遭難者は間違いなく最後まで生きるために努力をしたに違いない。
諦めなかったに違いない。
そう思うと、非難するより、健闘をたたえるのが先だと思うのだ。
誰も、自分の運命など知るよしなどない。
「あそこに登れば、どんな景色が広がっているのだろう」
「より、困難なことに挑戦したい」
ただ、そんな気持ちが山に登らせるのではないか。
今回の遭難事故が予定を変更、または中止にさせる理由には少しもならなかった。
夜勤明けで前夜から直行バスに乗り込む。乗客は自分を含めて10名ほど。
3列シートで快適だった。
上高地に着くと、空気が違う。
河童橋が見え、奥に雪化粧した穂高連峰が出迎えてくれる。残雪の穂高を目にするのは初めてだった。
数日前まで天気予報は、芳しくなかったが2日前になって好転した。
誰もが美しいと思う景色だ。数日前に遭難事故があったなんて到底、思えないほど、静かで穏やかな朝だった。
梓川の水面にバイカモが揺れている。そこに早朝の柔らかい光があたっている。
そんな優しい光が上高地をゆっくりと照らしはじる。
明神池を越え、徳沢へ歩を進めていくと、ウスベニニリンソウの大群落が今にも
花を咲かせようとしていた。エンレイソウの花もそこかしこに咲いていた。
何か、動物の気配がする。ニホンザルだ。
全部で7.8匹いる。こちらに気がついても警戒しない。
兄弟だろうか、ノミとりをしあう猿たち。また、近くには赤ちゃんを遊ばせる親猿がいた。
手のひらサイズの赤ちゃん猿は本当にかわいかった。
赤ちゃん猿は、好奇心旺盛で、私に近づくが、そのたびに親に連れ戻される。そんな全ての猿達のしぐさがかわいかった。
猿と人間の遺伝子が1パーセントも変わらないことに妙に納得してしまう。
徳沢園を通過し、横尾大橋を渡ると、涸沢への入り口となる。
残雪も増えてくる。本谷橋を越えて登っていくと、もう、雪山だった。
テントを背負っての涸沢へと続く登りが寝不足の身体にはしんどかった。
テント登山は5か月ぶりだった。月に一度、テント登山ができなければ、ボッカ訓練でもやるべきだと本当に思った。
登るにつれ、天気は雨、みぞれ、そして雪へとめまぐるしく変化した。
ひたすら、登りに耐えて、最後は膝までの雪を蹴り飛ばしながら、涸沢へと到着した。テント場にはテントが2張ほど。Gwの様子が嘘のように閑散としていた。
雪の防壁を間借りし(すみません)、テントを設営し、転がり込むように入り込む。湯を沸かし、コーヒーを飲むと少し、落ち着いた。
外は強風。雪は止んだはずなのに、テント内に風に飛ばされて吹き込んでくる。
風は夜半まで続き、テント内入口には数センチほど雪が積もっていた。
月が出ている。明日は予報通り、晴れるだろう。しかし、この風が問題だ。これが収まらなければ危険なことになることは想像できた。
すでに奥穂へのトレースは消えている。一人でできるのか、本当に。
強風がテントを押しつぶそうとしていた。
3時半起床する。風はだいぶ収まっていた。これで行けそうな気がした。
4時を過ぎて涸沢にゆっくりと光が戻ってくる。
絶景だ。巨大な白銀の彫刻が出現した。一秒ごとに光が角度を変え、穂高連峰の表情を次々と引きだしている。
まるで神が闇から白い彫刻を掘り出しているようだ。
なんて巨大なんだろう。ここが日本であることが信じられない。
簡単に食事を済ませると、お隣の単独者とあいさつを交わし、ひとり、ザイテングラートへと向かう。
前日、小屋の方に小豆沢は雪崩の危険がある、反対の方からザイテングラートに沿って登った方がいいと教えてもらった。
どちらにせよ、トレースはない。どちらから行っても同じだと思った。
涸沢小屋から見てもトレースはなかった。ここからザイテンへと向かう。近づくにつれ、想像以上の急斜面であることが分かった。
4月の谷川岳、西黒尾根が子供だましに思えた。スケールが違う。
前日の雪のせいなのか、これが普通なのか、良く分からなかった。
とにかく滑落、雪崩の恐怖とは今日一日、長い付き合いになるだろうと思った。
ザイテンに取りつくと、すこし平たい小さな丘があった。初めて、安心して休める場所が見つかった。
ナッツ類を口に放り込み、水分補給をする。セルフで撮影もした。信じられない景色の中に一人立っていることが、なんだか、現実とは思えなかった。
また少し遠くで、巨大な獅子岩から2人組みのスキーヤーが滑降していくのを見ると、やっぱり、これは夢を見ているのだと本当に思った。
そこから白出のコル(穂高岳山荘)まで、辛い登りが続いた。
何度も歩いては立ち止った。夏、テントを背負っても楽勝だった同じ道だとは思えなかった。
穂高岳山荘に到着すると、早くも嬉しさがこみ上げた。ほとんど、終わったとさえ思えた。小屋の方が屋根の雪下ろしをしていた。ここはまだ、冬なのだ。
山荘を過ぎて、岩場に取りつく。鎖と梯子の連続。一度、経験していたからか、余裕を持って上がれた。
頂上までの稜線に上がると、当然、雪山だった。しかし風はない。やばい急坂をピッケルを突き刺し、岩を掴んだりしながら登る。振り返ると槍ヶ岳が遠くに見えた。
こんなところを多くの人が登ったなんて少し信じられなかった。右手奥にジャンダルムが姿を現すと、頂上の祠が見えた。
巨大な雪庇もあり、最後まで気を抜けない。慎重に歩を進める。一人きりの奥穂、また、目標の一つが現実となる瞬間だ。
頂上。静かな感動が足元から胸にこみ上げてくる。
360度の絶景の中、ひとつひとつ、この思いを胸に刻みこむ。
登らせてもらった山に感謝する。
そして、祠に手を合わせる。
「亡くなった遭難者の御冥福を祈るとともに、その健闘を称えます」
自然と声が出ていた。さあ、無事に降りるまで終わらない。帰ろう。
良く見るとジャンダルムの方へうっすらとトレースが見えた。前穂のほうにもある。まだ、自分は大したことないなと思った。
帰路は気温は急上昇し、雪は腐り、危険度は増していた。途中から這い上がるようにハイマツを掴んで、ザイテングラートに乗り上げる。
空には彩雲が出ていた。
虹色の雲を見ながら、必至で小豆沢へと降りた。
涸沢へ到着するとテントを急いで撤収し、最終バスの18時までに間に合うか、
今度はその戦いが始まった。
背中のザックが重く、何度も降ろしたりして諦めかけたが、5分前、ギリギリに間にあった。
あのニリンソウは夕日を背にきれいに咲きはじめていた。
きっと、バスに乗り遅れそうになっている登山者を見て笑っていたのだろう。
makasioさん、こんばんは。
レコ全部読ませてもらいました。この時期の奥穂にそれも単独でトライとは恐れ入りました。 しかし凄いです。 雪見てると冬そのものな感じですね。
写真もいいし、いつにも増して作家のような表現力!読んでる方もその場に居合わせてるように感じました。
行のサルはかわいいですね。兄弟も仲いい。観察力のあるmakasioさんならではのショットですね。
目標の一つが現実に、いいですね〜チャレンジ精神にも感服です。
北アの遭難者にはご冥福を祈ります。
p.s.バス間に合ってよかったですね
圧巻のレコ、ごちそうさまでした。
makasioさんが集中し、観察し、挑戦する中で湧きあがる山への想い。
素晴らしい山行あってこその素晴らしいレコ。
ありがとうございました。
これからも、「無茶」はせず(あえて無理とは言いません)、
makasioさんの「お山」をお裾分けして下さいね。
無事の下山、何よりです。
お疲れ様でした。
意気込みと緊張感がヒシヒシと伝わるナイスレコですね!
この時期に単独で挑戦され、無事に帰ってきた事に敬意を表したいと思います
私もいつか!とは考えてますが、なかなか・・
でも今後の強い動機付けになったレコでございます
数年後、行く事になったときには色々教えてくださいね!とりあえず酒は「角」でよかですか!?
私は「山崎」もいける口です(笑)
奥穂、行かれていたんですね。
今気付きました。
初日は悪天候の中、お疲れ様でした。
2日目は素晴らしいお天気でよかったですね。
奥穂の頂上の祠は、私たちの行ったときより雪がうっすらついて、趣がある感じでかっこいいです
ニリンソウも咲いていてうらやましい!
コメント、ありがとうございます。
本気の登山、やってきましたよ
残雪の穂高、やはり、半端、なかった。
Gw中の華やかな雰囲気はそこにはなく、
ただ、自然が作り出した巨大な建造物があるのみ。
下から見上げれば、こんなところを本当に登れるのか、そう、思いました。
今の自分にとって、本当にギリギリの挑戦でした。
だからこそ、やり終えたときの達成感、
分かりますよね。
コメントありがとうございます
「素晴らしい山行、あってこその素晴らしいレコ」
とてもうれしい言葉です。
この素晴らしい経験を、余すところなく、表現したい。
もし、山に行けない方も読んで、景色や感動が少しでも、伝われば。
そう思って書いてます。
僕ので良かったら、どうぞ、召し上がってください。
お二人の山行、次回も楽しみしてます。
僕にもおすそ分けしてくださいね。
acchiさん、コメントありがとうございます。
acchiさんも、来季、残雪の北ア、見てください、やってくださいよ。
素晴らしい健脚の持ち主じゃないですか!
僕でよかったら、いくらでも口を挟ませていただきますよ。
あの場所で飲む、山崎も、いいですね。
行ってきましたよ。
hariさんとtamaoさんのレコが、本気にさせました。
頂きました。奥穂の頂上、独り占めでした。
ありがとうございました。
これからも、お互い、いい山をやりましょうね。
同世代として、やはり、意識してしまいます。
男も女も山では、関係ないですね。
ちょっと遅いコメになってしましたが、本気の登山、お疲れさまでした。
穂高の空気を存分に吸ってこられて良かったですね。
お天気も、あられ・雪・強風・晴れと目まぐるしく変化したようですが、それも山ですね。
白出のコルへトレースなしのルート、ドキドキしながら・・・、
いいですねぇ〜、後々の自信につながります。
イケメン・makasio、独り穂高を行くって、カッコいいなぁ〜!
本気の登山になりました。
残雪の穂高、想像を超えていました。
山を通して、自分の現在の力が分かります。
まだまだ、noboさんまで遠い。
これが実感です。
でも、でも、いつか、noboさんと残雪期、
穂高、バリルートで挑戦したいです。
それまではもっと山力、つけておきますからね。
最近は、ヤマレコメンバーさんを引っ張っていく
素晴らしいリーダー(料理長も兼務?)ですね。
本当に尊敬致します。
やっぱり何度見ても憧れる感じでございます
まさに、「神々の山稜」に相応しい聖域ですからね〜!
拝ませて貰えたら人生観が変わりそうな予感が致します
も〜少し鍛えて、寒さ対策で体毛も1.5倍になったら挑戦したいと思います!
その時は宜しくお願いいたします
makasioさんおはようございます。
色々と落ち着かず、やっとコメントできました
積雪期の奥穂、本格的な冬山登山をしない私のようなものがコメントなんかできようもありませんが、「挑戦」と、そのための「勇気」の大事さをひしひしと感じ、コメントさせえていただきました
現状維持は楽ですが、そこから一歩足を進めることは、なかなかにしんどく、また勇気のいることです。
ご自分の今のレベルを十分に把握し、そこからさらなるレベルアップを図ろうとするmakasioさんの姿勢からすごく刺激を受けました。
「挑戦」と「勇気」はいくつになっても忘れちゃいかんですね
makasioさんの夢への挑戦、陰ながら応援してますよ。
僕にとっても刺激になりますので
ではでは、お体にはお気をつけて
‐本格的な雪山登山をしないような私なんかが‐
なんて、とんでもないですよ。
コメントしてくれて嬉しいですよ。
今回の登山は自分のレベル以上のものだったかもしれません。
雪山は本当に危険なスポーツです。単独ならば、なおさら。だと思います。
一緒に行く人がいないので仕方なく単独やっていますが。
私は、本来、臆病で、小心者です。ホントです
でも、このままではいたくない。
本当にやりたいと思うなら、どこまでできるかやってみようと、ただ、その思いで挑戦しています。
挑戦と勇気はいくつになっても、ですね。
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