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Yamareco

記録ID: 30942
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ハイキング
八幡平・岩手山・秋田駒

トホレコ(日本縦断徒歩旅行の記録)15・秋田内陸を縦貫する。

2006年07月29日(土) 〜 2006年07月31日(月)
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GPS
56:00
距離
95.8km
登り
1,040m
下り
836m

コースタイム

7/29比内〜米内沢
2/30米内沢〜比立内
7/31比立内〜田沢湖
過去天気図(気象庁) 2006年07月の天気図
アクセス
コース状況/
危険箇所等
7/29
 R285から米内沢へ向かう。ちょっとした峠越えになるが、国道を行くよりはなんぼか情緒的であろうと想像される。トンネルを抜けて少し行ったあたりで、左手の細い道に入ってみる。行く手にはこじんまりとした集落。多分、白沢水沢という村と思われる。田舎町の風情を写真に収めてみるのもいいだろう。道端の畑に地鶏の姿など眺めながら民家に近付いていくと、前方から犬の集団がやってくる。この村では犬は放し飼いにしておくものらしい。みんな口々に何か罵り騒ぎながら、ゆっくりとこちらに向かって来る。
「おうおう、てめえ、ドコの組のもんだ。」
「ちょっと見ねえ顔だな。何しに来やがった。」
「このやらう、なめてっとヤッちゃうぞ。」
雰囲気から、多分、そのやうな意味の事を口走っているものと想像される。背中でも見せようものなら、たちまち尻っペタにかじり付いて来そうな剣幕である。今さら後戻りする訳にもいかないやうだ。困ったな、飼い主は何処にいるんだ・・・。そうこうする内に、すっかり取り囲まれてしまった。ススキノでコワイおにいちゃんにからまれてるような塩梅である。まあ、どいつもあまり見栄えのするような風貌では無い。ヤーさんってよりは、ポン引きだな。屈強な秋田犬なんかじゃなくて不幸中の幸いというものだ。中でも一番偉そうで、話の通じそうな奴を選んで渡りを付けることにする。
「別に怪しい者じゃないっス。ただ通り過ぎるだけっスから、今回のところは何とか見逃してもらう訳にはいかないっスかねぇ・・・。」
こちとら、ムツゴロウ氏と違って犬語なんて素養はないので、日本語で話しかけてみる。敵意はないということを表現するために、両手を広げてみせたりして。「だいぜうぶ、ほら、怖くない。」などと風の谷の姫君みたいなことも口走った。ウソみたいな話だが、一応話は通じたらしいく、「ちっ、しょうがねぇな。」みたいなことをボヤきながら、そのボス犬は民家のほうへ引き返しはじめた。取り巻き連中も渋々とあとをついてゆく。まだ納得がいかないらしく「なめんなよ、この・・・。」とでも言いたげに低く唸ってはいるが、とりあえず一安心だ。僕はインドを旅行した折、「オバチャン、ええやんか。ケチケチせんとベンキョウしたってや。」と関西弁で値切る旅行者を見かけたことがある。関西人ってのは何を考えてるのかね、とその時は思ったものだが、アレなんかも意外と通じてたのかもしれない。何事も誠意が大事って話です。
ともあれ、もはや写真撮影って気分でもなく、そそくさとR285に復帰。まったく恐ろしい所があったものだ。
 程無くして湯ノ岱温泉に到着。ここには湯治宿もあるが、日帰り入浴は隣にある「長寿の湯」というわりとこざっぱりした感じの綺麗な施設で受け付けているようだった。折角だから湯治宿の方をのぞいて見たかったのだが、今一つルールがよく分からないので「長寿の湯」の方で妥協しておいた。
ここは「北投石」という放射線を出す鉱石を使っているらしいことが案内に書かれていた。世界的にも珍しいものだそうだが、素人にはそのへんの有難味はよく分からなかった。ラジウムみたいなもんか?ざぶざぶと掛け流してる感じで悪くない湯ではあった。
 空港への分岐にあたる大きな交差点に着くころから雨。米内沢の町に入る手前でいい感じの公園を見付けて野営地に決定。向かいにはラーメン屋もある。野宿を決め込む前に、ラーメンで腹拵えと洒落てみる。立ち並ぶノボリに書かれた文面から、色々とこだわりがあるのが伺える。そのへんの有難味は例によってよく分からなかったが、なんでも悪くない味ではあった。

7/30
 昨日雨に濡れて歩いたせいか、靴擦れになってしまった。靴が足に合ってない所為もあって、結構ヒドイ有り様。中敷きを増やしてみたりしたものの、所詮サイズがデカすぎるのだ。まあ、靴擦れって歩いてる内に気にならなくなるから良いんだけど。多分、どーぱみんとかあどれなりんとか出まくるんだろうね、歩いてると。
 秋田内陸縦貫鉄道に沿って南下してみることにする。秋田内陸縦貫鉄道。なんてイカした名前なんだらう。「ここに鉄道敷設すんの、けっこう大変だったんだぜぇ?」というような雰囲気が滲み出ている。一体どんな有り様なのか、楽しみだ。玉川方面を行ってみようか、実は随分迷ったのである。地図を見ていると何処も彼処も面白そうに思えてきて困る。僕は優柔不断な性格なので、ずばっとココと決められないのだ。ウジウジと思い悩んだ挙げ句に、成り行きに任せる、というスタイルである。まあ、なんでも田沢湖から乳頭温泉経由で奥羽山脈を越えるつもりではある。
 鉄道の線路は川を挟んだ向こう側に続いている。何処か遠くの方からカンカンと踏切の音がしてくると、思い出したようにえんじ色の一両車がトコトコとやってくる。なんともトボけた風景。
 川を渡って阿仁前田の駅へ行ってみる。なんと驚いたことに阿仁前田の駅はローカル線にはあるまじき立派さ。「これ、駅なの?」って感じで、温泉まで併設されている。
とりあえず中に入って一休み。靴を脱いでみると、靴擦れはいい感じで悪化している。古い靴擦れの下に新しい靴擦れが出来て、血が滲んでいる。こうなるとさすがに脳内麻薬も効きが悪い。温泉に入ろうって感じでもないな。
 小渕の手前まで川の右岸を線路沿いに歩いてみる。河川敷にはきれいな公園が整備されていて、散歩をする家族連れや、釣り師の姿がちらほら。野営適地ではあるが、さすがに寝るにはまだ早い。
 阿仁合の駅前にも寄り道してみる。この辺りはマタギで有名なところらしい。坂道の雰囲気がちょっといい感じだ。古ぼけた商店の姿いとおかし。そこいらの旅館に逗留して、森吉山登山などを敢行したらさぞや愉快であらう。
「じゃ、おかみさん、行ってきますよ。夕方には帰りますから。」
「どうぞ、お気を付けになって。熊に間違われて、マタギに撃ち殺されないやうに。」
「ひどいや、おかみさん。誰が熊ですか?こんな男前を捕まえて・・・。」
とかって、美人おかみとの気の置けない会話などあったりする訳だ。まあ、今回のところはちょっと無理。足が痛くて登山どころではない。
駅の近くに「北緯40度シンボル」みたいのがあった。北緯40度上にある世界の都市の名など記されていたと思うが、急にそんなスケールのデカいこと言われても困るよね。
 阿仁合を過ぎる辺りからだいぶ山が迫ってきて、秋田内陸を縦貫しているって風情が出て来る。遥かに望む山脈はたいした標高ではないはずだが、なかなか立派な風貌である。「萱草」という所を過ぎた辺りにちょっとしたパーキングがあって、四阿も設置されている。自販機コーナーにはとれたて卵なども売られている。「今夜はここでヤケ卵でも煽るか?」としばし思案してみたものの、トラックの運ちゃんがアイドリングしたまま休憩してたりして、どうも落ち着かない。まあ、本来ドライバーの為の施設であろうから文句は言えない。がんばってもう少し歩いてみることにする。
 しばらくで笑内の駅に到着。これで「おかしない」と読む。田んぼの傍らにポツ然とちっぽけなプラットフォームが置き去りにされている。ちょっと笑えない位に何もない、笑内だけに。足も痛いし、いい加減寝床を定めたいところだが、「あに」の道の駅までは進んでおいた方がよさそうだ。
 「あんよが、あんよが。」と泣きながら夕暮れの道を歩いていると、目の前に一台のパトカーが止まった。結構狭い道で、家路を急ぐ車も邪魔そうにしている。
「オマワリめ。こんな所に駐車しやがって・・・。
 俺様に文句でもあんのか?やってやんよ?」
などと思っていると、はたしてお巡りさんが降りて来る。見れば温厚そうなおじさんで、人懐っこい笑顔を浮かべている。聴かれるままに札幌から歩いてきた事情など答えていると、
「そいつは難儀だねえ・・・。」
などと言って、コーラのペットボトルを差入れてくれる。ナイス・コーラ。徒歩旅行にはコーラなんだよ。さすが、お巡りさん、分かってるねえ。ちょっと警察ってものを見直しちゃったね。田舎の駐在さんには人情ってもんがあるよ。日本もまだまだ捨てたもんぢゃない。有り難く頂戴して、グビグビやりながらもう一踏ん張り。こうなってくると「あんよが。」なんて泣き言はいってられないだらう。
 陽の沈む頃、比立内の町に突入。道端の商店の前に先程のパトカーが止まっている。晩飯の買い出しでもしようかと近付いていくと、お巡りさんが出て来る。
「やあ、来た来た。」
どうやらここで僕の到着を待っていてくれたやうで。まあ、これでも食べなさい、というんで菓子パンを二、三個頂く。それからこの近くに温泉があるとかで、連れていってもらうことになる。パトカーで、である。
「いいの、いいの、遠慮しないで。乗った、乗った。」
別に遠慮してるわけじゃないけど、どう考えてもヘンだよね、パトカーで温泉に乗り付けるって。ちょっと断れる感じでも無かったので、御厚意に甘えることにする。どうせ道の駅にテント立ててから覗いてみようかと思っていた温泉ではある。「かあさん、僕もたうたうパトカーを温泉に横付けするやうになりました。」などと感慨もひとしお。
このお巡りさんには、結局温泉代まで出して頂いてしまった。「ここの湯はいい湯だからゆっくりして行きなさい。」などと言い残してお巡りさんは行ってしまわれた。今回の旅行中、何かとお巡りさんには呼び止められたが、良い思いをしたのはこれが最初で最後である。良い子のみんな、比立内で万引きとかしちゃダメだぞぉ。
 番台のオバちゃんがあっけにとられたやうな顔をしてこちらを見ている。あんた、なにかヤッたのかい?とでも言いた気に見えたので、
「いや、札幌から歩いて旅行して来てるんスけどね、いろいろしてもらっちゃって。親切な方ですよね、ホント。あははははは。」
などと聞かれもしないことを説明しておいた。湯は、たしかにいい湯である。それにしてもヤケに靴擦れにしみやがる・・・。
 真っ暗な道をヒョコヒョコと道の駅まで戻って野営。自販機にものすごい数の虫がたかっている。ジュースでも買おうものなら、気分はインディー・ジョーンズ魔宮の伝説だ。

7/31
 今日は峠を越えて田沢湖畔まで行くつもりである。我ながら見上げた心掛けだ。ちょっと頑張らなければ辿り着かないよ。というわけでいつもより早めに出発。靴擦れの状態が心配だったが、一晩乾かしておいたら割りといい感じに回復した。テーピングで保護しておけばそんなに痛みもない。温泉効果かもしれない。靴擦れに温泉が効くかどうかは知らない。
 秋田内陸縦貫鉄道にはしばし別れを告げて、沢沿いの道をせっせと歩けば、意外にあっさりと峠を越えてしまう。なんだ、俺ってすごいじゃんか、などと思いつつ物静かな山道を下っていく。戸沢あたりまで行くと再び鉄道が合流してくる。おいおい、あんなとこを電車が通るのかよ、と思わせる様なちっちゃなトンネルが薮蔭に口を開いていたりする。民家の姿もぼちぼち見え始める。小さな集落ばかりだが、ささやかな幸せでも育んでいそうな、いい雰囲気である。思えば、僕は子供の頃から、車窓から垣間見えるこんなささやかな風景を見遣りつつ、
「ああ、あんなとこにもヒトが住んでいるんだなぁ。あんな所に途中下車して歩いてみたらどんな気分がするだらう・・・」
なんて、ぼんやりしたことを思っていたものである。そして今、その風景の中をトコトコと歩いている。いい気分だ。僕は何も、アポ無しで農家に突撃して一泊御厄介になる訳ではない。ちょっと挨拶ぐらいは交わすけれども、さして深い交流をするわけでもない。僕はただ風景を眺め、素通りしていく、それだけのヒトだ。別にそれでいいと思っている。
 徒歩旅行なんていうことをしていると、「なんで歩きなの?」というようなことをたまに聴かれる。答えにくい質問だ。何なんだろうね、よく分からない。何でも日本ってところが、どういう所なのかつぶさに見てみたかったのである。車とか電車じゃなくて。自転車でも早すぎると思った。歩くスピードで通り過ぎて見たかったのである。これじゃ説明になってないか。「人生とは旅である。」みたいな格好いいことの一つも、ここらで言おうと思ったが、何にも出てこねえな。元々たいして深い意味があってやってることじゃないからしょうがない。「意味」とか「何故」とかって重たいものはあんまり好きじゃないんだよね。ただでさえ荷物がデカいんだから、余計なモノは背負ってられっか。
 そんなジャンル違いなことを口走ってしまうほど、このへんの田舎道の風情は僕の御気に入りである。気分よく桧木内まで歩いて、R38を左に折れて田沢湖に向かう。名残惜しいがここで秋田内陸縦貫鉄道とはお別れである。いつか機会があったら電車の旅を楽しんでみたいものだ。
 一日の最後に上り坂があると切ないものだ。なんとか日暮れ前に田沢湖畔到着。御座石乗船場というところで野営。ちょっと高台にある四阿の下で寝た。天気はすっかり回復して見事な星空だった。

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