剱岳(欅平-阿曽原-仙人池-三の窓雪渓-北方稜線-剱岳-別山尾根-室堂)
- GPS
- 68:04
- 距離
- 31.7km
- 登り
- 5,381m
- 下り
- 3,541m
コースタイム
- 山行
- 5:01
- 休憩
- 0:05
- 合計
- 5:06
- 山行
- 5:58
- 休憩
- 0:20
- 合計
- 6:18
- 山行
- 9:38
- 休憩
- 1:05
- 合計
- 10:43
天候 | 12日曇り、13日曇り時々晴れ、14日曇り&ガス、15日ガス&強風時々雨 |
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過去天気図(気象庁) | 2014年08月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 自家用車
ケーブルカー(ロープウェイ/リフト)
復路:室堂からバスで美女平、さらにケーブルカーで立山駅。そこから富山地方鉄道で愛本駅に行き、徒歩15分で道の駅に戻った。 |
コース状況/ 危険箇所等 |
1日目(欅平~阿曽原):欅平からはいきなりの急登。本当の出だしから急登なので、ここで頑張りすぎると後がつらいかもしれない。道は非常によく整備されているし、わかりやすい一本道なので迷うことはなさそう。送電線巡視路が登山道から派生しているが、関係者以外立ち入り禁止と明示されているので間違えることはない。水平歩道に入ってからは、道を踏み外せば谷底に一直線、という場面が延々と続く。岩をくりぬいて道を付けた箇所などは狭いが、たいていの箇所は十分に幅があるので恐怖を感じることはない。ただ、すれ違いの際には特に注意が必要だと思う。岩をくりぬいた箇所などは、頭上に鋭い岩片がある場合があるので、足元ばかりを見ていると、頭をぶつけて最悪裂傷を負う可能性もある。ヘルメットを持参しているなら、被っていても損はないかもしれない。志合谷のトンネル内は、恐ろしいほど真っ暗。ライトがなければまず通行できない。足元も頭上も同時に確認しながら進む必要がある。ヘルメットを被れば、頭上からの水滴を避けれるし、頭部の保護もできる。お盆休みの時期だというのに、阿曽原まではたった一人の方としかすれ違わなかった。紅葉の時期は人が多いようだが、それ以外はかなりひっそりとしているようだ。特にソロの場合、欅平と阿曽原の両端以外に助けを呼べる箇所はないので、あらゆるトラブルに自分一人で対処する必要がある。道中には水が湧いている個所は散々あるので、水に困ることはなさそう。コースタイムは、地図上では5時間とあるが、通常はもう少し長めにかかるようだ。自分は昼過ぎに欅平を出発したが、阿曽原小屋の佐々木さんによれば、七時を回らないと着かないと思ったとのこと。自分もほとんど休憩せずに、比較的早歩きをし通してこの時間。午前中に欅平を出発したい。 2日目(阿曽原~仙人池ヒュッテ):この日も急登で始まり、その後は一気に下る。関電の施設が山中に忽然と現れるので、非常に不思議な感じ。最初はアパート状の宿舎が現れ、次にトンネル風の施設が現れる。このトンネル風の施設をよく見ていると、「登山者はこちら」という張り出しが見つかるので、そこから施設内に入る。こんなところ入っていいのか?と思ったが、施設も確かにルート上である。施設内では、トロッコが横断する線路があるので左右を注意して渡る。施設の外に出ると、旧日電歩道とこれから進む雲切新道が分岐する。わかりやすい看板が出ているので迷うことはない。ダム湖の左岸をしばらく行くと、梯子での急登が始まる。相当にしっかりした梯子なので安心して登れる。ここから先、一時間ほどは途切れることなく急登が続く。この辺は、標高もそれほど高くなく気温が高いうえに、樹林帯で風通しの悪い藪尾根なので多量に汗をかいた。仙人温泉の源泉手前まで水場はなかったような気がするので、阿曽原を出発する際には必要量を十分に持参するのが良い。最高点を過ぎてから下りに入ると、斜面のトラバースが何度かある。下部に草がついているので怖さは感じないが、登山道の下部はかなりの傾斜だ。ロープ等はしっかりセットされている。阿曽原から仙人温泉の間では、登山道上で蛇を3回も見た。蛇さんが自分で避けてくれたが、苦手な人は曲がり角を曲がった先で蛇さんと対面して腰を抜かす、というようなことのないように、対面する心の準備をしておいた方が良いかもしれない。仙人温泉までの間は、登山道はよく整備されていた。 仙人温泉からは、しばらく登ったのち雪渓のある谷を行く。雪渓上を歩く箇所が何度かあるが、雪渓の末端が弱っているため、雪渓への取りつきと降りる際には注意が必要。また、雪渓上にも穴が開いていたりするので、薄い個所を踏み抜かないように気を払わなければならない。この辺り、どこから雪渓を渡るのか、雪渓からどこで登山道に復帰するのか、明確ではない個所が多い。登山道も雪渓の右岸、左岸を行き来するので、対岸の踏み跡、ピンクのリボン、ペンキ印等をしっかり探しながら歩かなければならない。ただし、標識は誰がどう見てもすぐにわかるという密度ではなく、かなり疎らで判りにくい。特にガスなどが出れば、わからなくなるだろう。ただ、谷を遡行する方向なので、進むべき方向そのものが判らなくなることはないと思う。しばらく登ると雪渓が二股に分かれるので、雪渓を分けている中央の陸地?に取りつく。この登山道に取りつくとすぐに、水が湧いていて足元がぬかるんでいてにもかかわらず、トラバース的に歩かなければならない箇所が数か所現れる。滑れば左手の谷にドボン。ロープもセットされている。ここを通り過ぎれば、あとはさしたる危険のない登りをこなせば仙人池ヒュッテに到着する。 3日目(仙人池~剱岳~剣山荘):仙人峠まで10分程度登った後、剣沢に向けて500mの標高差を一気に下る。この区間で三ノ窓雪渓が良く見えるので、雪渓の状態をよく観察しておくと判断材料になる。剣沢の枝沢に出たら、二股吊橋とは逆に河原を上流に向けて進むと三ノ窓雪渓への安定した取付き点が見つかった。仙人池ヒュッテの志鷹さんからは、渡渉が必要かもしれないとのお話を頂いていたが、まだ雪渓がもっていたようだ。三ノ窓雪渓自体の状態は良好。クレバスも目立つほどにはない。ただし、最上部に雪渓が幅2~3m程度まで細くくびれた部分がある。細い分には細いが、下までしっかりと雪が詰まっているので上を通ることができた。雪渓最上端付近で、右手にわりと登りやすそうなガレ場を見つけてそちらを登るが、極めてガレやすく、雪渓の登りの方がはるかに楽だった。三ノ窓からは稜線に向かって右側の谷である池ノ谷ガリーを登る。北方稜線のバリエーションルートだけに、道の案内等はない。この谷は蟻地獄のようなガレ場。容易に落石するので、下部にも登山者がいる場合は十分に注意されたい。このガレた谷は途中で右手に枝谷を伸ばしていて一見するとそちらの方が登り易そうに見えるが、あくまで正面の谷を行く。谷を詰めれば池ノ谷乗越。ここは垂直壁の登り。見た目ほど難しくはない。池ノ谷乗越は休憩適地だが、壁を登っている登山者からの落石が怖いのでなるべく岩陰で休むべきだ。池ノ谷乗越からは稜線上の歩き。目印はないのでルートは基本自分で見つけるしかないが、踏まれた跡で概ね判る。一見、踏み跡のようなものが尾根から下っているように見える場合があるが、よく見ると尾根付近に本当の踏み跡が見つかる。尾根から大きく下る箇所はなかったと記憶しているので、変なところを下って進退窮まることのないようにしたい。尾根を行くと、長次郎のコルに出る。ここは垂直壁の降下。岩がもろく、事故が多い場所とのこと。長次郎のコルからは、わずかに長次郎谷を下降したのち、再び尾根伝いに進めば剱のピークに辿り着く。バリエーションで登頂すれば、あとは一般ルートの下りだけだという気持ちになりがちだが、別山尾根の下りは危険度十分。鎖があるかないかの違いだけで、ルートそのものの難易度は北方稜線と大差がないほどだ。 4日目(剣山荘~室堂):非常によく整備された一般登山道。当日は、別山乗越の辺りでは非常に風が強く、気を付けないとバランスを崩しかねないほどであった。 |
その他周辺情報 | 下山後、宇奈月温泉まで戻り、日帰り入浴施設のとちの湯さんにお世話になった。露天風呂から、トロッコ電車の行き来が眺められるのが面白い。 |
予約できる山小屋 |
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写真
装備
個人装備 |
長袖シャツ
ズボン
靴下
グローブ
防寒着
雨具
着替え
靴
ザック
ザックカバー
昼ご飯
行動食
非常食
ハイドレーション
地図(地形図)
コンパス
ヘッドランプ
予備電池
GPS
ファーストエイドキット
日焼け止め
携帯
サングラス
タオル
ツェルト
ストック
カメラ
ポール
ヘルメット
ピッケル
アイゼン
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感想
注:標高グラフが、実際のGPSデータとかなりずれています。グラフを拡大のボタンを押して、表示変更のところでGPS標高を選択すると、実際の標高推移が表示されます。
一日目:欅平の展望台が観光客でにぎわう中、展望台の裏手にある登山道に向かう。他に誰も登山道に向かう人はおらず、あっという間に静かになる。最初から急登で、すぐに欅平を見下ろす。しばらく登ると、頭上からジー、ジーッと電気的なノイズが聞こえる。この山深い土地に、送電線が巡らされているのだ。登山路は鉄塔の脇を通っており、この道が切り開かれた本来の目的がよくわかる。しばらく登れば水平歩道入口の看板。はるか下にはトロッコ電車が行き交う音が聞こえ、谷を挟んだ先には後立山連峰が望まれる。名前の通り、微妙にアップダウンがあるもののほとんど水平な道だ。進路に岩があろうが、同じ標高を保ったまま豪快に岩をくり抜いて道がつけれらている。やはりここが普通の登山道ではないことを感じさせる。最初の1/3くらいは左手の崖に草木がついており、渓谷を望むことができないが高度感もほとんど感じない。道程も約半分に差し掛かると、目の前に雪渓を湛えた谷が見える。志合谷だ。この区間でアイゼンを使用するとはどこにも書いていなかったが、一体この急傾斜の雪渓をどうやって渡るのか?と思いつつ道を進むと、山肌に小さくトンネルの入り口がある。ヘルメットの上からヘッデンを装着し、トンネル内に入る。中は完全な暗闇でヘッデンだけでは頼りない。雪渓で冷やされたトンネル内は非常に寒く、頭上からは水滴がしたたり落ち、足元にも水が湧く。暗闇の中、自分の足音と滴る水の音が反響し、誰か他の人が歩いているのではないかと不気味さを覚える。冒険気分が味わえるのもこのルートの面白さかもしれない。トンネルには途中、旧出口があり、そこから光が差し込む。ここまで来れば、すぐ先に現在の出口がある。ここを過ぎてからの水平歩道の景色は素晴らしい。渓谷を眼下に、滝を横目に眺めながら歩くのだ。水の流れる小さな谷をいくつも超えるので、水不足に困ることはなさそうだ。アップダウンをいくらかこなしたのち、本格的な下りを迎えると、阿曽原小屋が視界に入る。傍らに湯煙が立っているのも見えてくる。阿曽原小屋の主、佐々木さんは、まさに山男という雰囲気の方。少し遅めの到着だったが、暖かく迎えて下さる。あの時間に宇奈月だっていうから、早くても七時にならないと着かないと思ってたとのことで、いい意味で期待を裏切ることができてよかった。本日の宿泊客は5名とのこと。他の二名も先ほど到着されて入浴中とのことなので、風呂に向かう。サンダルが用意されているが、風呂まではそれなりの傾斜の山道を約五分ほど下るので、自信のない方は登山靴ばきの方が良いかもしれない。人里離れた深い山中で入る温泉は格別だった。この日のルートは、歩行時間の割りには疲れる印象。歩行距離は10Kmを超えていて、水平歩道も水平とはいってもそれなりにアップダウンがあるので、疲れにつながったのだろう。温泉で体をほぐし、食事もしっかりと盛り付けて頂いたので、翌日に向けてのパワーになった。佐々木さんには、剱登頂のためのルートに関してもアドバイスを頂きましたし、大変に良くして頂きました。この場を借りて、感謝申し上げます。夜十時過ぎに、漆黒の中、一人で入浴してから就寝。
二日目:弁当ではなく、小屋でしっかりと朝食を頂いてから出発。弁当よりも腹持ちが良いし、汁物やお茶で水分補給ができるのも嬉しい。朝食後、佐々木さんにお見送り頂いて出発する。まずは、登りをこなす。この辺りは標高がそれほど高くなく、樹林帯で風通しが良くないので、登りの際には顔に滝のように汗をかく。登る途中で、本日1回目に蛇さんと遭遇した。登りきったら、その後は谷に向かって急に下る。すると関電の宿舎が忽然と姿を表す。こんな山奥に、団地風の建物。激しく異質。しかし、これこそが電源地帯というここの土地柄なのである。電源という社会の礎を得るために、多大な労力を払って奥山にこれだけの建物を建てたのだ。そして、関電宿舎を過ぎると、コンクリ作りのトンネル風の建物の入り口に「登山者はこちら」、との看板。まるでダンジョン。ある種の冒険気分。中は明らかに作業用のトンネル。登山道が関電施設内を通過しているのだ。これも、ここにしかない光景だろう。先に進むと、関電の作業員の方が仕事の支度をしておられる。挨拶すると、気を付けて行くんだよ、と送り出して下さった。トンネル内には、電車に注意、という山とは思えない看板や、まさに高熱隧道を彷彿とさせる蒸気の噴出する箇所があったりする。最終的に、トンネルを進むと明らかに何かの建物内に入ってくる。本当にここがルート上か?と不安になりつつ進むと、一枚の扉が現れる。そこを開けて、屋外にある階段を上ると、なんとそこは仙人ダムの堰堤上だった。まさに黒部、という感じだ。そこからは、ダム湖を左に見ながら登山道を進む。そして、ハシゴの出現を合図に、雲切新道の急登が始まる。ここから、標高差にして800mの登りだ。樹林帯の登りで風通しが悪く、標高もさほど高くなく、背後からは日射があるため、登りは本当に暑い。顔からの汗がまたもや大変なことになる。雲切新道のピークからは、仙人湯に向けて下って行く。登山道上に横たわる蛇さんと再度の遭遇。少し晴れ間も出ているので、日向ぼっこ日和なのだろう。道を下って行くと、硫黄臭が漂い始める。もうしばらく進むと登山道の左手に湯けむりが上がっており、それが仙人湯の源泉である。そばまで登って行って触ったが、とても入れる温度ではなかったし、湯の溜まっているところにはガスの噴出孔があってブクブクとガスを吹いていた。斜面なのでガスは溜まりにくいはず。仙人湯の源泉からは、また沢に向かって下りが続く。丸太橋で渡渉した後は、仙人温泉小屋に向けて登り返す。仙人温泉小屋では、行動食を食べるだけで、小屋には立ち寄らなかった。ここで、阿曽原小屋で同泊だったヤマケイの取材班のお二人と再会する。仙人温泉小屋で温泉入浴の取材をされていたとのこと。企画の詳細は伺わなかったが、登山シーンと温泉のシーンを撮影されていて、来年の6月号に掲載されるとのことなので、それまで楽しみにしておく。さらに先に進むと、樹林帯を登る。その後は、雪渓のある沢沿いに出て、その脇を登って行く。確か、三回ほど雪渓の横断がある。最初の雪渓横断の時は、雪渓の末端が弱っているにもかかわらず、そこから岩場に移らなければいけないので少しスリリング。また、雪渓がだいぶ薄くなっており、中央部に穴があるので、気をつけないと奈落の底に落ちる。斜度的に、アイゼン不要で通行できる。また、確か二度目の雪渓横断時には、雪渓を横断するのはいいが、どこで再度、登山道に取り付くべきなのか、というのが印等がなく、辺りをキョロキョロする羽目になった。雪渓が二股に分かれたところで、左手の雪渓沿いに進む。仙人池ヒュッテの主、志鷹さんが草刈りをされているところに出会う。その先、軽くぬかるんだ斜面をトラバースする箇所が複数あるので注意が必要だ。滑れば、左手の沢にボチャンである。その後、エンジン付き草刈り機を持った志鷹さんに追い抜かれた。どんどん遠くなる姿に、やはり素人とは足が違うと痛感する。沢を離れてから、まだかまだかと思いながら登ると仙人池ヒュッテ。仙人池越しに八つ峰が見えるはずだが、ガスで見えない。もともと仙人池ヒュッテには宿泊の予約を入れていたが、予定通り長次郎谷を登るなら、真砂沢ロッヂまで進んだ方がガスが出る率が低い早い時間に雪渓を登り切って稜線に到達できる。進むべきが、当初の予定通り留まるべきか大いに悩むが、昼食の牛丼を食べ、仙人池を眺め、そして小屋のスタッフの方々や宿泊客の皆様、池の平小屋に向かうヤマケイ取材班のお二方と話していたら非常に楽しいひと時が過ごせたので、こちらにお世話になることに決める。山でのコミュニケーションは、今回の山行の中で最も思い出に残ることの一つである。皆さんと語らっているうちに、夕方、念願かなって仙人池に映る八つ峰を見ることができた。ちなみに、仙人池ヒュッテさんにも檜風呂があり汗が流せる。翌日のことを考えると大変に有難い設備だ。
三日目:この日が今回の山行の核心になる日程である。この時点で、3つのプランを考えていた。長次郎谷出会いから長次郎谷の雪渓を詰めて剱の山頂を目指すプラン、剱沢を登り剣山荘で一泊した後、翌朝に剱を目指すプラン、そして三ノ窓雪渓を詰め北方稜線で剱を目指すプランである。阿曽原小屋の佐々木さん、仙人池ヒュッテの志鷹さん、ヤマケイ取材班のカメラマンさんに、ルートを相談させて頂いたところ、貴重な情報を得ることができた。長次郎谷は雪渓の状態が良くないらしく、滑落すればシュルンドに落ちる危険性が高いということで、このプランは除外した。後になって知ったことだが、実際に八つ峰を登ったクライマーさんが雪渓降下時に滑落してシュルンドに落ち込み、翌日、救助されるという事案があったようだ。三ノ窓雪渓のプランは、雪渓は比較的安定しているが、今日のようなガスっぽい日にガスが濃くなり北方稜線で視界を失うのは危険である。また、雪渓の取付きの際に、雪渓の状態が悪ければ渡渉が必要になる可能性もある。思案の末、三ノ窓雪渓の状態を見て、容易に取りつけそうならこれを登る。登っている最中や北方稜線に至ってからも、ガスが濃くなって視界が効かなりそうなら、三ノ窓を降下し剱沢経由で剣山荘に向かう、ということにした。いずれにしても、行動時間が読めないので早立ちする必要がある。したがって、朝ご飯にはお弁当を頂いた。昨晩の食べっぷりから、特大のおにぎりを頂いた。これを頬張りながら、仙人池を眺める。朝、起床の直前に、パラパラと雨が降ったが、雲の動きを見ても、いかにも今日の天気は不安定そうだ。おにぎり一つを食べたのち、朝食に集まって来られた宿泊客の皆様に会釈をして出発。まず、仙人峠まで少々登った後、剣沢に向かって標高差600mの下り。草付きなので気がつかないが、崖上の道のトラバースが何度かあったり、中々ハードな道。下りながら、剣沢の対岸に見える三ノ窓雪渓をチェックする。雪渓の上部には、クラック等は見られない。一箇所、雪渓が大きくくびれているところが問題だが、そこも必要なら雪渓の右側の草付きの斜面でかわせそうだ。剣沢の枝沢まで下ったら、一般ルートの二股の吊橋に向かわず、逆に遡り三ノ窓雪渓下部の偵察。かなりぶ厚い雪渓が生きていたので、場所を選べば、沢の左岸から直接雪渓に取り付けそうだ。そして、今の時点では、八ッ峰には時折ガスが掛かる程度だし、三ノ窓はクリアーに見えている。大きなガレが転がる河原の登りをこなしつつ、良さそうなところで小休止。お弁当の残りのお握りを頬ばり、アイゼン、ピッケル、ヘルメットを装備して、雪渓の登りをはじめた。見上げる三ノ窓までの標高差は、およそ1100m。直近で600m下って、1100m登るとはなかなか辛い。登り始めると、普通の雪渓との違いに気が付く。透明な氷体が随所に顔を出しているのだ。堅雪ではなく、明らかに氷だ。これが、ここが氷河たる所以なんだと思う。ところどころクレバスも存在するが、そんなにガバっという感じではない。むしろ、心配毎の中心は天気である。あまり上部でガスが濃くて視界を失いそうなら、この雪渓を降りるのがベストの判断だと思う。時々ガスが濃くなるが、八ッ峰の上部でも数百メートル程度の視界はありそうだ。頑張って雪渓の上部まで登ると、遠目に砂時計のくびれたところのように見える、雪渓の細ったところに出る。雪渓の幅は、1.5~2メートルほどか。普通の雪渓だったら、こんなところ怖くて渡れないが、ここの雪渓は横から観察することができ、下部が充分に厚いのがわかったので、念のため足早に登りきる。間も無く雪渓の末端付近に辿り着く。左手に雪渓が残っているが、早めに右側のガレ場に取り付きアイゼンをしまい込むも、これが失敗。斜面のガレが不安定過ぎて登るのがきつい。雪渓の方がはるかに楽に登れる。そして、その斜面を登り切ったら、向かって右側からまた別の雪渓が伸びている。結局そっちの雪渓をトラバース気味に登らなければ、三ノ窓には辿り着かない。おい、10分前にアイゼンしまったのはなんだったんだ…と思った。かくして三ノ窓に辿り着いた。ここからは、早月尾根側にピークを巻いた後、池ノ谷乗越までの蟻地獄の登り。ここのガレもまた非常に不安定で、ピッケルを動員して、何とか登り切った。こんなガレは、さすがに一般ルートになり得ないという感じだ。このガレ場、なんどか右側に谷を伸ばしている。しかも、そちらの谷の方が一見登りやすそうに見えるが、これは不正解ルート。元々の谷を詰めると、そこは池ノ谷乗越。このルート、ほとんどペンキ印を見かけないが、池ノ谷乗越にはペンキ印がある。それが指し示すのは、垂直壁の登りだ。バリルートではあるが、このルートで唯一、お助けロープがちょこっとある。ここはホールドが掴み放題というほど豊富ではない。でも、ロープなどに頼るようじゃ、ここに来る意味がない。しかし、問題なのがガスだ。ここは、いよいよ稜線上で標高も高くなってきたので、ガスが今までよりも濃い。ガスのせいで壁の中段までしか見えないが、ここがコースであることは間違いないので登る。そこから先も、浮石だらけのガレ場が続く上、見通しが効かないこともあいまって、ルートファインディングが難しい。ただ、人の踏み跡はなんとなくあるので、それをうまいこと見つけて進むと、大抵、正解ルートのようだ。細かいザレが集まっているところが道のように見え、それが尾根を下降しているところが何か所かあるが、この区間で稜線を派手に下降する場所はなかったように記憶しているので、大半は間違いルートである。次にやって来る難所は、長次郎のコル。ここへの下りが、垂直壁である。岩がもろくて落石しやすいとのことだが、探せば安定したホールド、スタンスがある。ここでは、ガイドの山本さんに率いられた八ッ峰クライミング後の三人パーティーの方々に出会った。ここの降下は危険なので、我々はロープをセットしますのでもし不安なら懸垂でどうぞ、と山本さんに声を掛けて頂いたが、何とか下れそうだったので確保せずに下った。ここから長次郎谷上部のガレ場を少しだけ下った後、剱の頂上に向けて岩稜の登りをこなす。ガスで遠望が利かないが、唯一の稜線なので、眼前に見える小ピークをクリアしていくのみだ。そして、ついに念願の剱の頂上に達することができた。ここまで来ると、後は一般ルートの下りのみだ、ルートも見失うことはない、と安心するが、「剱には一般ルートは存在しない」って言いますよねと、それを戒めるような山本さんのお言葉。これは本当で、鎖とハシゴの補助があることと、ルートがしっかりペンキ印で示されていること以外は、北方稜線と大差がないレベルである。有名なカニのヨコバイだけでなく、平蔵のコルへの下り、平蔵の頭の登り、前剱の門の登りと危険度満点な鎖場が連続し、前剱からの落石しやすいガレ場の下りも危険だ。一服剱を前にした武蔵のコルまで来れば、ほぼ安心できる。最後に一服剱を乗り越え、剣山荘に辿り着いた。展望には恵まれなかったが、逆にガスの中でも必要最低限の視界は確保されており、またほとんど雨にも降られなかったことは天に感謝である。
四日目:下界の今日の天気予報は、晴れのち雨。小屋からは、雲は多いものの見事な朝焼けが見える。立山や剱の稜線はガスっぽい。早い時間が勝負とばかりに、剱岳の山頂を目指す方々は剣山荘を早立ちしていかれた。こちらは、のんびり、たっぷりと朝食を頂く。今日は、天気が許せば立山を廻ってから下山、ダメそうなら室堂直行である。歩き始めから風が強いが、別山乗越への道中で、ますます強風になる。横から吹き付ける強風に、時折、歩を止めて耐風姿勢を取る必要があるほど。別山乗越では、風に加えて雨まで混じる。これでは、立山の稜線どころではない。4日目で疲れた体で無理をする気もないので、室堂へ直行する。吹きすさぶ風の中、ガンガン進む。天候的に写真が撮れないことも、ペースアップの理由だ。ガス混じりの中、なんとか地獄谷やミクリガ池を眺めることができる。最後は、大多数のハイカーと一緒に室堂に到着してこの山行を締めくくった。
総括:山深い黒部の谷を歩き、いくつもの尾根を超え、氷河に登り、そして険しい剱岳の北方稜線を歩いて別山尾根を下る、どこをとっても語りつくせない、中身の濃い山行になった。天気はベストとは言い難かったが、本当に来ることができて良かった。なにより、裏剱のルートは登山者が限られていることもあって、同泊の登山者の方々や小屋の方々とも普段以上に密に交流することができた。とても良い思い出になりました。道中で出会った皆様、お世話になった皆様に、この場を借りて御礼を申し上げます。またいつか、黒部、剱、立山を歩きたいと思います。
Ayoさん、はじめまして。
32、3年前の同時期に室堂から欅平へ逆回りで同じルートを辿ったことを懐かしく思い出しながら拝見しました。
劔はこんなに峻険だったかなとか、雪渓はこんなに急だったかな、などと思い出そうとしても覚えていません。仙人の湯に浸かって気持ちよかったこと、下ノ廊下の尻尾部分のような水平歩道はよく覚えてるんですが、関電宿舎も全く記憶にありません。ひょっとすると当時は無かったのかも。
レコを見ていて、また行って見たくなりました。素晴らしいレコありがとうございました。
Pinball_1957さん、コメントありがとうございます。
関電宿舎部分が登山道として使われ始めたのは、割合最近のことのようです。阿曽原温泉から仙人湯までの区間の現道は、2006年に開道された雲切新道です。それまでは、関電宿舎を経由せず距離の短いルートだったようですが、事故やルートの崩壊が絶えなかったと阿曽原温泉小屋の佐々木さんから伺いました。32~3年前から比べれば、色々と変わった部分もあるかと思いますが、今も非常に魅力的なコースでした。
コメントを頂いたことをきっかけにして、Pinball_1957さんのレコもちらりと拝見させて頂きましたが、鳳凰三山の日帰り縦走は、僕もやってみたいなと思っていたところです。でも、やはり長丁場ですね〜!日帰りで20Km超えの行程は、腰が引けてしまいます。僕もPinballさんの年齢になるころにも同じように長丁場をクリアできるだけの体力を維持できるように励みたいと思います。
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