錫杖岳 前衛壁 注文の多い料理店(その2)
天候 | 晴れ |
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過去天気図(気象庁) | 2016年08月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
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その他周辺情報 | ・平湯の穂高荘倶楽部は広くて、とてもよい温泉でした。 ・みどり湖PAの山賊焼きは確かに美味い…けれど脂っこい。 |
感想
事故を起こしたのは、下山を始めてすぐのことでした。
北沢で直径1m以上はあろうかという大岩に足を乗せた途端その岩がくるっと回転し、加速がついて一瞬のうちに転倒。
受け身を取る間もなく、体の側面が岩に叩きつけらました。
肋骨を強打し、あまりの衝撃に思わず叫び声を上げる。
やってしまった…。
骨が折れたかと思いましたが、呼吸は普通にできる。
呻き声をあげながら、岩の隙間に挟まった足を引きずり出す。
遭難の二文字が脳裏をよぎりましたが、立ち上がってみると、肋骨に激痛はあるものの、脚は何ともないので歩けそう。
いつ歩けなくなるか分からないので、気が張っているうちに下りられるところまで下りようと歩き出す。
少なくとも登山道までは戻らなければ。
錫杖沢出合までの険しい下降が肋骨に響き、何度も呻き声をあげる。
永遠に続くかと思うような時間が過ぎたのち出合に到着し、水を掬って貪るように飲む。
慎重に渡渉し、登山道に上がる。
ここで休むと立ち上がれなくなるかもしれないと思い、クリヤ谷の渡渉地点までひたすら下りることにしました。
苦しい時間が続く。
暑さで尋常ではない汗が滝のように流れ落ちる。
痛みによる脂汗も混じっていたかもしれません。
自力下山しなければという一念でようやく渡渉地点に辿り着き、ザックを下ろしました。
何が何でもその日のうちに自力下山しようと思ったのは、諦めた途端に気力が失われてしまうと思ったから。
そして疲労と痛みを抱えて汗冷えしたままビバークになったら、低体温症になるかもしれないと思ったから。
メパンナさんにクリヤ谷から水を汲んできてもらい、がぶ飲みしてロキソニンを服用する。
自力ではできないので、ザックを持ち上げてもらって背負う。
濡れるのは気にしていられないので、靴を履いたまま水流に足を入れて渡渉する。
その先のちょっとした岩場を過ぎれば楽になるはずと思いながら、ひたすら歩き続ける。
小さな岩のちょっとしたギャップに、何度も呻き声をあげる。
やがて歩きやすい土の登山道が現れ、平坦なところで再びザックを下ろす。
水を飲んでから、メパンナさんに自分のロープを担いでもらい、改めてザックを持ち上げてもらう。
そこからしばらく歩くと、苦行に終わりが近づいていることが分かってきました。
槍見館の建物と道路が見える。
安全地帯である登山口に辿り着いたときには心底ほっとしました。
なぜあのような事故を起こしてしまったのか。
運が悪かったで済ませてしまっては次につながらないので、自分がどうあるべきだったかを何度も考えました。
一つには登攀を終えた直後で気が弛んでいたということはあると思います。
そしてもう一つは、体力にお釣りがあまりなかったこと。
ただその二つに問題がなかったとしたら、あの事故を防ぐことができたのかという疑問も拭い切れません。
経験が足りなかったと思います。
あれだけ大きな岩が、ぐらっとする程度ではなく、半回転もしてしまうとは思いもよりませんでした。
身を持って体験したことが次につながるようにしたいと思います。
たまたま頭を打たなかったからよかったものの、岩場ではヘルメットを外さないことも重要だと痛感しました。
集中力を切らさないこと。まずはこれに尽きる。
それでもどうしようもないことがあるかもしれないけれど、自分にできることをやるしかない。
もっと酷いことになっていたとしても不思議ではなかった。
今回は不運だったのではなく、むしろ幸運だったのかもしれません。
そして今回つくづく思ったのは、バリエーションルートを登る以上、この程度の怪我なら難なく自力下山するだけの気力、体力が欠かせないということ。
山奥でリスクの伴うことをするのだから、生半可な覚悟で臨むべきではないと思い知らされました。
せっかく登攀がうまくいったのに、ご迷惑をかけてしまい、メパンナさんには申し訳ないことをしました。
下山から帰りの運転までずっとサポートしていただき、とても心強かったです。
いつ治るか分かりませんが、これに懲りずにまたよろしくお願いします。
山には様々な危険が潜んでいる。
何事もなく無事下山したときでも、危険に気づかなかっただけ、あるいはたまたま幸運だっただけかもしれない。
山に対する畏れを忘れず、常に五感を研ぎ澄ませるようにしたいと思います。
悲愴感漂う記録になってしまいましたが、事実と自分の考えたことを正確に書きとめておこうと思っただけで、めげてはいません!
しかし痛い、とても…。
※帰京してから病院で診察を受け、レントゲンを撮った結果、骨には異常なしということで一安心。
あれだけ強い衝撃を受けたのに、ひび一つ入らなかったとは。
毎日牛乳を飲んでおいてよかった…。
…と安心していたら、某優秀医師によると、レントゲンでは分からないことが多いらしい。
痛みの度合いからすると、やはり折れているのかもしれない…。
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