エベレスト初登頂者の一人、テンジン・ノルゲイの孫とその奥さん(オーストラリア人)が書いた本の邦訳。原題は「TENZING AND THE SHERPAS OF EVEREST」。全12章からなりますが、良い構成で、前半はテンジン・ノルゲイを中心とした話で、後半はテンジン一族、さらには、他のシェルパ族の活躍、そしてシェルパ社会に係わる諸問題という風に、徐々に全体像に話が進みます。ダライ・ラマ法皇とエドモンド・ヒラリー卿の2人が序文を寄稿しているのも特徴です。
この本を読むと、エドマンド・ヒラリーよりも、テンジンの方がはるかにエベレスト登頂に対する強い長年の想いがあったことが読み取れます。また、訳者あとがきでも触れていますが、テンジン・ノルゲイの一番の親友は、エベレスト登頂に英国隊員として成功する一年前のスイス隊(1952年春・秋の2回)でいっしょだったレイモン・ランベールだったそうで、その友人から預かった赤いスカーフを持参して翌1953年5月29日にヒラリーと二人でエベレスト山頂に立っているのです。スイス隊の挑戦から50年たった2002年5月16日にレイモンの息子イヴ・ランベールと、テンジンの孫タシ・テンジン(本書の著者)が一緒にエベレスト登頂を果たしていることは、私は知りませんでした(映画もあり、一部の人たちの間では結構有名らしい)。なお、タシ・テンジンは、ノルゲイ・テンジンの初登頂後40年目の1993年にエベレストに挑戦して失敗、しかし、1997年に再挑戦して成功しています。
個人的に印象に残ったのは、次に引用する「第7章 その後のテンジン」の最後の段落の最後の部分(「決して忘れてならないこと」以降)です:
テンジンはもうこの世にはいない。しかし、エベレストとその偉大な歴史を愛するすべての人の心の中に、テンジン・ノルゲイはなお生き続けている。テンジンの人生は同胞であるシェルパと彼が愛した山を有名にし、彼自身は人減の意志と開拓精神を体現した。テンジンは強靭で決然としていたが、暖かく控え目でもあった。そして、家族、よき友人、暖かい火、お腹を満たす食べ物、そして、決して忘れてならないこと、すなわち、夢を実現させる人生の純粋な喜び、という質素だが人生において大切な喜びを満喫することがどんなに素晴らしいかを良く知っている男だった。
シェルパについては、「シェルパ ヒマラヤの栄光と死」(根深誠著、山と渓谷社)を先に読んでいましたが、外から見たものと内から見たものとの視点の違いもあり、どちらもお薦めですね。もちろん、この日記で前回取り上げた「ヒラリー自伝」も合せて!
【読了日:2017年9月29日】
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