本書は、ナンガ・パルバートに初登頂したヘルマン・ブール(1924.9.21-1957.6.27)の自伝的なもので、「結び」を含めると9つの章から構成されています。インスブルックに生まれたブールが戦後の生活が苦しい中、アルプスの岩壁登攀に目覚め、青春を燃やす話が主要部分(1〜6章)を占め、7章「偉大な目標への準備」がナンガ・パルバート遠征への序章、8章「ナンガ・パルバート」がそのタイトル通りの内容で、その8章の「下では・・・」「・・・そして、上では」という2つの節が全体のタイトル「八千米の上と下」の意味になっています。
昭和30年代に出版された本だけあって、二段組みで一段に624文字(26文字×24行)も詰まっており、ディームベルガーによる補遺「ブロード・ピークからチョゴリザ」まで含めると、380頁もある長編です。ですが、青春を彷彿とさせる楽しい内容なので、どんどんと読み進みました。査証なしで国境を越えるのに密入国したり、お金がないので藁小屋に寝泊まりしたり、夜中に自転車で長距離走って峠越えをしたり、そして、岩壁での辛いビバークの数々など。また、「星と嵐」にも出てくるように、アイガー北壁の登攀行では、レビュファらも登場します。巻頭の写真には、ナンガ・パルバートの登頂から帰還した際のやつれて老けてみえる顔写真の他、チョゴリザの山頂を目前にして雪庇を踏み抜いて墜死した最後のトレースの写真なども含まれていました。
なお、この世界山岳全集第9巻には、「アコンカグア南壁」(ベラルディニ著、近藤等訳)、「マカルー登頂」(リオネル・テレイ著、近藤等訳)という短編も含まれています。前者はアタック後6泊7日を費やした壮絶な戦いで、岩壁で注射を打つシーンなども登場。他方、後者は8人の登攀隊員全員に加えてサーダー1名も山頂に立つという余裕綽々の世界第5位高峰の初登頂手記。いずれもフランス山岳会会報に掲載されたものを翻訳したものだそうです。
【読了日:2014年11月9日】
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