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静かな感動が忍び寄るように私の心を満足感で満たしていく。
美しい小説だった。翻訳者の仕事ぶりも素晴らしいと感じた。
この小説は、英国の執事が自らの過去や人生を振り返る物語であり、執事の語りは丁寧で常に内省的に進んでいく。
執事とは、一般的に高級な住宅やビジネスオフィスなどの主人をサポートする仕事を指すそうだ。
日本には「全日本執事協会」が存在していて、それによれば以下の通り。
https://thebutler.jp/about-butler.html
執事の仕事内容は、日常的な家事や料理、掃除、家族や従業員のスケジュールの管理など様々です。また、物品の管理や修理、外出先での代行なども含まれます。
この作品で主人公として語りをする執事は、伝統的英国のプロ中のプロの執事であり、第一次・第二次世界大戦の間、邸宅で執り行われた重要外交会議を見事に取り仕切った経験を持つ品格有る執事だ。その執事スティーブンスが国内旅行をしながら昔の思い出を綴る形式で綴られている。
失われつつある伝統的な英国を描いているところが素晴らしい。英国の荒涼とした風景を思い起こさせる描写もある。
日本で言えば川端康成だなと思った。ノーベル文学賞を受賞したという共通点だけではなく、美しい伝統的な風景や習慣、日常を描いている点が共通している。また英国人や日本人の内省的な美徳を描いている点も素晴らしい。
「伊豆の踊子」や「雪国」はもちろん、「山の音」「古都」などを昔読んだ事を思い出させる。当時の感動と共通するものがあると感じた。伝統的であり、かつまた凛としたその国だからこその美を描いているのだ。
名家の条件といった話の件では「品格」というキーワードが出て来る。
一寸脱線
日本百名山の著者である深田久弥氏は百名山選定に当たって、条件の一つとして山の品格を上げておられる。
品格とはなんぞやというと、なかなか難しい。基準も人それぞれになるだろう。
品格は50年や100年で失われるものではなく、永遠性を持ってこそ本物の品格といえるだろう。
日本百名山の今の姿を思うとき、この山が何故百名山に選定されたのか疑問を抱く山が幾つかある。
まあ、当時の最先端をいく山のガイドブックと考えれば眉間に皺を寄せる必要は無いだろう。
本題に戻るがこの本の題名、日の名残り(The Remains of the Day)という題名は、一日は夕暮れが最も美しく日が暮れるときが最も良いのだという。人生も終盤、引退後が最も良いのである、美しいのであるということで、この話は最終段落部分の描写に寄るものだ。
個人的には夕日も良いが、やはり日の出、朝日が好きだな。黒から紫、橙、赤そして青へと移り変わる空の色と、エネルギーが満ち満ちてくる太陽のありがたさを感じる朝日がやはり一番好きである。
夕日が一番美しいという主張は個人的には首肯できないが、この小説は久し振りに清々しい読後感を私に与えてくれた素晴らしい一冊であった。
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