「一に曰(い)わく道、一に曰わく天、一に曰わく地、一に曰わく将、一に曰わく法。」
『孫子』計篇第一より。
とりあえず、孫子の兵法シリーズはこれで最後にします。
孫子の兵法は、「五事」すなわち五つの重要な事を挙げて、まず真っ先にこれらをよく考えて計画を立てるように説く。
「道」・・明確で正しい目標設定。登山者として、「道」が大事だと孫子が言ってくれるのはいかにも嬉しい。しかしこの場合は「大通り」の意で、転じて人間の進むべき正道を指している。孫子は、「民をして上と同意せしむる者なり」と言う。ひとりよがりでなく全体としての賛同を得られるような目標は、何よりも魅力的でなければいけない。なおかつ、(たとえ困難であっても)到達可能でなければいけない。ここで魅力的かつ到達可能な目標設定に成功したならば、計画の半ばは達成されたと言うべきであろう。残る四つは、技術的課題である。
「天」・・天候気象の変化。山登りであれば、これをよく調査して計画することは言うを待たない。
「地」・・地形の有利不利。「天」と同様に、山登りでは言われずとも事前に調査して計画するだろう。
「将」・・有能なリーダーの選定。これは、多数のメンバーで行動するときには必要となってくる。
「法」・・組織内のルール。軍隊では、違反者に厳正かつ合理的な懲罰が必要である。また功績を挙げた者には、褒賞を与えなければいけない。軍隊は会社と同様に、賞罰の利害で制御しなければいけない組織だからである。しかし山登りのパーティはコーポレーション(利害関係による組織)というよりはむしろコミュニティ(利害関係を越えた協力関係)なので、ここだけは軍隊と同列に論じることはできない。
孫子の兵法とは、(1)よい計画を立てる→(2)外部の状況を調査して、内部の組織を整備する→(3)外部の状況を有利にする策を打つ、不利であれば有利であるタイミングが来るまで待つ→(4)こちらが優位に立ち、勝率が高まったら作戦を実行する、、のプロセスである。
孫子の兵法は「詭道(きどう)」、つまり相手をだます術である、と悪評を受ける。だがそれはプロセス後半の(3)(4)で勝率を上げるために行う作戦であって、プロセスの前半には(1)(2)の目標設定・調査・組織構築があるのだ。登山では計画を立てて天候とルートの調査を行うことがまず大事であって、山に入った後には刻々と変化する状況に臨機に対応することが大事となる。そのどちらかだけがあればよい、とは山登りを経験した人であれば、決して言わないであろう。
孫子を私なりに山行に置き換えて考えると、計画の段階でその山行の9割が決まる様に思います
後の1割は急変する天地の状況でしょうか
山と言わず街と言わず、予兆も見せず地滑りや想定外の量を降らせる降水帯等、人知の及ぶべくもない状況が昨今多々起こります
それでも山に行く以上無事に帰る事が、快く送り出してくれる家族への私に課せられた義務だと思っています
孟子・荀子といった儒家思想は理論重視・日常重視であるので、山登りという千変万化する事態への対応の指針とするには足りない。なので、孫子と合わせてみたところです。孫子は無謀を戒めます。それは、絶対の勝利などありえないということをよくわかっているからです。これからも、ご家族のためにも無事に戻れる登山を続けられることを、陰ながらお祈りしております。
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