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更新日:2022年01月05日 訪問者数:1849
ジャンル共通 技術・知識
日本の山々の地質;第3部 中央アルプス、3−2章 中央アルプスの隆起メカニズムについて
ベルクハイル
中央アルプス周辺の活断層群
中央に南北に延びるのが、中央アルプス

・東の伊那谷側に、南北に延びる多数の赤線(活断層)があるが、これらが「伊那谷断層帯」

・西の木曽谷側にある南北に延びる赤線群は、「木曽谷断層群」

※ 産総研「シームレス地質図v2」を元に、筆者加筆。
  なおこの図に示してある活断層は、
 「活断層データベース」から引用されたもの。
(はじめに)
 この章では、中央アルプスの形成(隆起)メカニズムについて、主に(文献2)、(文献3)を元に説明します。
 3−1章でも述べたように、中央アルプスの東側の伊那谷、および西側の木曽谷側には、逆断層(活断層でもある)が存在します。
1)伊那谷側の断層群と、中央アルプスの隆起メカニズム
 まず東側の伊那谷側の断層群と、それによる中央アルプスの隆起について説明します。
 
 中央アルプスの伊那谷側の山麓には、いくつかの活断層があり、北は辰野付近から、南は伊那盆地の南端部の阿智村付近まで続いています。それ以外に伊那谷(伊那盆地)の中にも、いくつかの活断層があります。これらをまとめて、「伊那谷断層帯」(文献2)、あるいは「伊那谷西縁断層帯」(文献3)、と呼ばれています。
 「伊那谷断層帯」の各断層は西側に傾斜した逆断層であり、西側(中央アルプス側)が隆起する活動センスです(文献2)。

 この伊那谷断層帯については比較的詳しく調べられており、ほぼすべてが、西側に傾斜した低角逆断層です(文献2)。なお一部の断層では、地表では高角の逆断層になっている場合もあるようです(文献3)。
 各断層は地下では合流していると考えられ、地下深部では約12度の角度を持って、中央アルプスの地下、約4kmあたりまで延びていることが、人工地震波による研究によって明らかになっています(文献2)。
 その先は明確ではありませんが、地殻中部にあたる地下約15km付近に、水平に伸びる深部断層(地球科学的用語でいう「デコルマン」)の存在が推定されており、そのデコルマンへと続いて、中央アルプスのさらに西方へと続いていると推定されています(文献2)。

 第四紀の前半(?)より、この中部地方一帯は、広域的な東西圧縮応力場になったと考えられています。
 そして、この伊那谷断層群と上記の地下深部のデコルマン(水平断層)によって、中央アルプスを含む領域が全体として東側へと動き、さらに東側の地盤へと乗り上げるように動くことで、中央アルプスにあたる部分が隆起したものと考えられています(文献2)。
2)木曽谷側の断層群
 中央アルプスの西側にあたる木曽谷側にも、断層群が存在します。これらは「木曽谷断層群」と総称され、多くが現在も活断層です。主要な断層としては「上松断層」が上げられます。
 これらの断層群の活動センスは伊那谷断層帯ほどは詳しく解ってないようですが、右横ずれ断層としての活動センスとともに、東側(中央アルプス側)が隆起する、逆断層としての活動センスも持っていると考えられています。

 中央アルプスの隆起の主原因は、この付近が第四紀になってから東西圧縮応力場になり、主に伊那谷断層帯の動きによって隆起したと考えられています。なお一部は、木曽谷断層群の活動の寄与によると考えられています(文献2)。
3)中央アルプスの隆起時期について
 中央アルプスの隆起時期については、その東側にある伊那谷(伊那盆地)にある地層から調べられています。
 具体的に述べると、伊那盆地には、中央アルプス由来の礫層(田切礫層など)があり、その堆積時期が約70万年前と推定されていることから、約70万年前には、ある程度の高度を持つ山並みができており、そこから流れ出る河川によって山から運ばれてきた礫(石ころ)が、扇状地として伊那盆地に堆積したと考えられています(文献2)。
 なお、それより地質的下位には、南アルプス由来の礫層が伊那盆地には堆積しており、中央アルプスよりも南アルプスのほうが、先に隆起を開始したことを示唆しています(文献2)。

 また、伊那谷断層群の活動を元にした研究によると、これらの断層群の滑り速度は、9±3mm/年と推定されています。一方で伊那谷断層群によるトータルの滑り量は約4kmと推定されており、外挿法で単純計算すると、中央アルプスの隆起開始時期は、約40-60万年前と推定されています。これは直近の活断層の活動からの推計なので、かなり誤差を含むと考えられますが、中央アルプスの隆起開始時期に関する、一つの目安となります(文献2)。

 なお、中央アルプスの周辺断層系を詳しく検討した研究(文献3)によると、まず第四紀前期に共役断層系の活動によりブロック状の地塊が生じたのち、第四紀中期から後期にかけ、主に伊那谷断層系の逆断層活動が生じて、中央アルプスの本格的な隆起が進んだ、という隆起メカニズム(仮説)が提示されています。

 さて、直近の中央アルプスは隆起を継続しているのでしょうか?

 (文献2)による、1900年〜1970年までの約70年間の、水準点の変動調査結果によると、隣接する南アルプスは、最大で約+4mm/年という、日本最大レベルの隆起速度が得られています。また中央アルプスの北部も、それに近いレベルで隆起していると推定されていますが、具体的な隆起速度は明確ではありません。
 また、中央アルプスの隆起に大きな働きを持っていると考えられる、伊那谷断層帯の各断層の多くが、活断層と認定されています(注1)。

 それらのことより、中央アルプスは、少なくとも中核部では隆起が継続している、成長中の山脈と考えられます。


  注1)産総研「シームレス地質図v2」のうち、「活断層」レイヤーの情報による。
注釈)「第四紀」の始まりの定義について
 本章、およびこの連載の各章で、「第四紀」という用語が何度も出てきますが、これについてこの場で注釈を加えておきます。

 地質学的時代の名称である「第四紀」という時代の始まりは、2008年度までは、181万年年前、と定義されていました。
 しかし2009年に、国際地質科学連合(IUGS)によって定義が変更され、現在(2020年時点)では、第四紀の始まりは、259万年前と定義されています(文献4)。
 そのため、地質学、地形学などの文献を読む際に「第四紀」という用語が出てくる場合は、その文献が書かれた年代にも留意する必要があります。なお現在も第四紀(完新世)になります。
(参考文献)
文献1) 町田、松田、海津、小泉 編
      「日本の地形 第5巻 中部」東京大学出版会 刊 (2006)
     のうち、4−2章「木曽山脈」

       
文献2) 町田、松田、海津、小泉 編
      「日本の地形 第5巻 中部」 東京大学出版会 刊 (2006) 
       のうち、
      1−3章「中部地方の地形形成環境とその変遷及び木曽山脈」、
      図1-3-2「水準測量結果から得られた最近70年間の総括的上下変動」
      (なおこの図の原文献は、壇原 (1971)※)
       ※の文献は、電子化されておらずネット上では見つけられない。


文献3) 加藤
    「木曽山脈東麓部の断層破砕帯と地形解析からみた山脈の隆起」
     地球科学(誌)、第69巻 p71-89 (2015)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/agcjchikyukagaku/69/1/69_KJ00009789167/_article/-char/ja/
   (J-stageのサイトへリンク)


文献4)ウイキペディア、「第四紀」の項、 2020年9月 閲覧

    https://ja.wikipedia.org/wiki/第四紀


文献5)産総研 「活断層データベース」

   https://gbank.gsj.jp/activefault/



――――――――――――――――――
    (以下は、多少参考にした文献)

文献6)森山、光野
    「伊那谷南部、伊那層の堆積構造からみた木曽・赤石両山脈の隆起時期」
     地理学評論 第62巻 p691-707 (1989)

  https://www.jstage.jst.go.jp/article/grj1984a/62/10/62_10_691/_pdf


文献7)末岡、堤、田上、長谷部、山田、田村、荒井
     「熱年代学的手法に基づく木曽山脈の冷却・削剥史(予報)」
      フィッション・トラック ニュースレター 第22号 p33-36 (2009)

   http://ftrgj.org/FTNLs/FTNLparts/sueoka09.pdf
【書記事項】
初版リリース;2020年9月25日
△改訂1;文章見直し、3−1章へのリンク追加。書記事項追記。
△最新改訂年月日;2022年1月5日
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