(はじめに)
南アルプス北部では仙丈ケ岳が、3000mを越える峰として、その存在感を示しています。その優美な姿、特に雪化粧をした姿は美しく、「南アルプスの女王」という愛称でも親しまれています。また百名山でもあります。この章では、仙丈ケ岳の地質と地形について説明します。
1)仙丈ケ岳の地質
仙丈ケ岳は、地質的には四万十帯に属し、「付加体」型の地質で出来ています。
甲斐駒ヶ岳、鳳凰三山を除く南アルプス主要部の地質は、先に説明したとおり、白亜紀〜古第三紀にかけて、海洋プレート沈み込み帯でできた、砂岩、泥岩、チャート、石灰岩などで構成された、いわゆる「付加体」型の地質です。
(文献1)の図8.1.1によると、南アルプスの四万十帯は、更に細かく、北西側から順に、a)赤石層群、b)白根層群、c)寸又川層群、d)犬居層群、e)三倉層群という地質ユニットに細分化されています。
このうち、a)からd)までは、白亜紀(145Ma〜66Ma)に形成された地質で、まとめて「四万十北帯」とも呼ばれます。e)は、古第三紀(66Ma〜23Ma)に形成された地質で「四万十南帯」とも呼ばれます。
(注;「三倉層群」ユニットのさらに南西側には、 f)「瀬戸川層群」という地質ユニットが分布しています。これは新第三紀 中新世(23〜5Ma)時代に形成された地質ユニットで、(文献1)では、四万十帯主部(a〜e)とは別扱いになっています)
仙丈ケ岳はこのうち、a)「赤石層群」に属します。赤石層群は、主に砂岩/泥岩互層で構成された地質です。「地質図」を見ると、砂岩、泥岩以外の海洋プレート起源の岩体はほとんど含まれていません。赤石層群は(文献2)によると、白亜紀中期(約110Ma〜約90Ma)に堆積した付加体です。
仙丈ケ岳の比較的穏やかな山容は、浸食されやすい砂岩、泥岩で出来ているためもあると思われます(文献3)。
※ ”Ma”は、百万年前を意味する単位
甲斐駒ヶ岳、鳳凰三山を除く南アルプス主要部の地質は、先に説明したとおり、白亜紀〜古第三紀にかけて、海洋プレート沈み込み帯でできた、砂岩、泥岩、チャート、石灰岩などで構成された、いわゆる「付加体」型の地質です。
(文献1)の図8.1.1によると、南アルプスの四万十帯は、更に細かく、北西側から順に、a)赤石層群、b)白根層群、c)寸又川層群、d)犬居層群、e)三倉層群という地質ユニットに細分化されています。
このうち、a)からd)までは、白亜紀(145Ma〜66Ma)に形成された地質で、まとめて「四万十北帯」とも呼ばれます。e)は、古第三紀(66Ma〜23Ma)に形成された地質で「四万十南帯」とも呼ばれます。
(注;「三倉層群」ユニットのさらに南西側には、 f)「瀬戸川層群」という地質ユニットが分布しています。これは新第三紀 中新世(23〜5Ma)時代に形成された地質ユニットで、(文献1)では、四万十帯主部(a〜e)とは別扱いになっています)
仙丈ケ岳はこのうち、a)「赤石層群」に属します。赤石層群は、主に砂岩/泥岩互層で構成された地質です。「地質図」を見ると、砂岩、泥岩以外の海洋プレート起源の岩体はほとんど含まれていません。赤石層群は(文献2)によると、白亜紀中期(約110Ma〜約90Ma)に堆積した付加体です。
仙丈ケ岳の比較的穏やかな山容は、浸食されやすい砂岩、泥岩で出来ているためもあると思われます(文献3)。
※ ”Ma”は、百万年前を意味する単位
2)仙丈ケ岳の地形的特徴
仙丈ケ岳は、地質的にはあまり特徴がありませんが、地形学的には、氷河期の痕跡がある点が、特徴となっています(文献4)。
日本海に近く積雪量の多い北アルプスに比べ、太平洋側に近く北アルプスほど積雪量が多くない南アルプスは、氷河期においても積雪量が北アルプスほどではなかったと思われ、カールなどの氷河地形はあまり多くはありません。
その中で、仙丈ケ岳は、明瞭なカール地形を持つことで、南アルプスでも特徴的な山と言えます。南アルプスのなかでも北西側に位置しているので、現在でもそうですが、氷河期にも、積雪量が南アルプスの他の山より多かったためだと思われます。
具体的な氷河地形としては、山頂の北側に藪沢(やぶさわ)カール、東側には大仙丈沢カール、小仙丈沢カールが並んでおり、小仙丈ヶ岳から仙丈ケ岳山頂までは、小仙丈沢カールと藪沢カールに挟まれたカール壁でできた、細い稜線(アレート)となっています(文献4)。
このうち藪沢カールは、詳しい地形学的な研究が行われています(文献5)。それによると、藪沢カールから下へと谷氷河が形成され、最拡大期(MIS=4)には、標高2250mにある「大滝」付近まで、約2kmの長さの谷氷河が形成されていたと考えられています。
注1)“Ma” は、百万年前を意味する単位
注2)”MIS” は、酸素同位体ステージを意味する
日本海に近く積雪量の多い北アルプスに比べ、太平洋側に近く北アルプスほど積雪量が多くない南アルプスは、氷河期においても積雪量が北アルプスほどではなかったと思われ、カールなどの氷河地形はあまり多くはありません。
その中で、仙丈ケ岳は、明瞭なカール地形を持つことで、南アルプスでも特徴的な山と言えます。南アルプスのなかでも北西側に位置しているので、現在でもそうですが、氷河期にも、積雪量が南アルプスの他の山より多かったためだと思われます。
具体的な氷河地形としては、山頂の北側に藪沢(やぶさわ)カール、東側には大仙丈沢カール、小仙丈沢カールが並んでおり、小仙丈ヶ岳から仙丈ケ岳山頂までは、小仙丈沢カールと藪沢カールに挟まれたカール壁でできた、細い稜線(アレート)となっています(文献4)。
このうち藪沢カールは、詳しい地形学的な研究が行われています(文献5)。それによると、藪沢カールから下へと谷氷河が形成され、最拡大期(MIS=4)には、標高2250mにある「大滝」付近まで、約2kmの長さの谷氷河が形成されていたと考えられています。
注1)“Ma” は、百万年前を意味する単位
注2)”MIS” は、酸素同位体ステージを意味する
(参考文献)
四万十帯 赤石層群の形成年代を、砂岩中に含まれるジルコンを対象として、U-Pb法で測定した研究内容
藪沢および藪沢カールの氷河についての、地形学的研究
文献1) 日本地質学会 編
「日本地方地質誌 第5巻 中部地方」 朝倉書店 刊 (2006)
のうち
各論 8-1章 「秩父帯と四万十帯・概説」の項
文献2)常盤、市谷、志村、竹内、山本
「赤石山地四万十帯白亜系赤石層群から得られた
破砕性ジルコンU-Pb年代」
地質学雑誌、第124巻、p539-544 (2018)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosoc/124/7/124_2018.0012/_pdf
文献3)小泉 著
「日本の山ができるまで」 エイアンドエフ社 刊 (2020)
第11章「一億年前の付加体・四万十帯からなる山々」の項
文献4)町田、松田、海津、小泉 編
「日本の地形 第5巻 中部」 東京大学出版会 刊(2006)
のうち、
4−6章「中部山岳(日本アルプス)の氷河地形」の項
文献5)神澤、平川
「南アルプス仙丈ヶ岳・薮沢の最終氷期の氷河作用と堆積段丘」
地理学評論 第73巻 p124-136 (2000)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/grj1984a/73/2/73_2_124/_article/-char/ja/
(このリンク先から、論文のPDFファイルにアクセスできる)
「日本地方地質誌 第5巻 中部地方」 朝倉書店 刊 (2006)
のうち
各論 8-1章 「秩父帯と四万十帯・概説」の項
文献2)常盤、市谷、志村、竹内、山本
「赤石山地四万十帯白亜系赤石層群から得られた
破砕性ジルコンU-Pb年代」
地質学雑誌、第124巻、p539-544 (2018)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosoc/124/7/124_2018.0012/_pdf
文献3)小泉 著
「日本の山ができるまで」 エイアンドエフ社 刊 (2020)
第11章「一億年前の付加体・四万十帯からなる山々」の項
文献4)町田、松田、海津、小泉 編
「日本の地形 第5巻 中部」 東京大学出版会 刊(2006)
のうち、
4−6章「中部山岳(日本アルプス)の氷河地形」の項
文献5)神澤、平川
「南アルプス仙丈ヶ岳・薮沢の最終氷期の氷河作用と堆積段丘」
地理学評論 第73巻 p124-136 (2000)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/grj1984a/73/2/73_2_124/_article/-char/ja/
(このリンク先から、論文のPDFファイルにアクセスできる)
このリンク先の、4−1章の文末には、第4部「南アルプス」の各章へのリンク、及び、序章(本連載の各部へのリンクあり)を付けています。
第4部の他の章や、他の部をご覧になりたい方は、どうぞご利用ください。
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【書記事項】
初版リリース;2020年10月21日
△改訂1;文章見直し、一部修正。4−1章へのリンク追加。書記事項追加。
△最新改訂年月日;2022年1月5日
△改訂1;文章見直し、一部修正。4−1章へのリンク追加。書記事項追加。
△最新改訂年月日;2022年1月5日
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