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更新日:2022年01月04日 訪問者数:1322
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日本の山々の地質;第6部 関東北部の山々の地質 6-11章 越後山脈
ベルクハイル
未丈ヶ岳付近の地質図
【未丈ヶ岳付近】
・山頂北西部のグレー;メランジュ相付加体(ジュラ紀、足尾帯)
・山頂南東部の黄緑色;砂岩/泥岩互層(ペルム紀)
・山頂より東側のくすんだブルー;泥岩(ペルム紀)
・点在する紫色;カンラン岩、蛇紋岩

【周辺部】
・薄目のピンク(中央から左手);花崗岩(白亜紀)
・濃いめのピンク(右手部分);デイサイト/流紋岩質火山岩(ペルム紀)
・朱色;花崗閃緑岩(古第三紀 始新世)
・右下の薄い黄色;奥只見カルデラ火山噴出物(新第三紀 鮮新世)

※産総研「シームレス地質図v2」をもとに、筆者加筆
浅草岳、守門岳付近の地質図
右下の赤▲が浅草岳
・浅草岳周辺のオレンジ;安山岩質溶岩、火砕岩(第四紀 カラブリアン期)

やや左の上部の赤▲が守門岳
・守門岳周辺の濃いめの黄色;安山岩質溶岩、火砕岩(第四紀、ジュラシアン期)

・全体に点在する薄い黄色;デイサイト/流紋岩質溶岩、火砕岩(中新世、バーディガリアン〜ランギアン期)

※産総研「シームレス地質図v2」をもとに、筆者加筆
御神楽岳付近の地質図
中央やや左上の赤い▲が御神楽岳と本名御神楽山

・オレンジ(御神楽岳付近、および各所);デイサイト/流紋岩質 貫入岩(中新世 バーディガリアン期〜ランギアン期)

・全体に広がる薄い黄色;デイサイト/流紋岩質 溶岩、火砕岩(中新世 バーディガリアン期〜ランギアン期)

※産総研「シームレス地質図v2」をもとに、筆者加筆
浅草岳山頂から望む、越後山脈主稜
手前から、鬼が面山、未丈ヶ岳、最も奥に越後三山

(筆者撮影)
鬼が面山の東面大岩壁
浅草山の隣、鬼が面山の東面は、浅草火山の半分が浸食で削られてできた、比高 約600mの大岩壁となってる。

(筆者撮影)
浅草山山頂部
成層火山時代の名残なのだろう、山頂部はやや平坦な斜面になっていた。

(筆者撮影)
守門岳
登山口から望む、大きな成層火山の名残らしく、大きな山体をしている。

(筆者撮影)
御神楽岳東面の大岩壁
アバランチシュート群(雪崩道)で削られた、御神楽山東面の大岩壁

(ヤマレコ内の、山データの写真を引用させてもらいました)
(はじめに)
 「越後山地」あるいは「越後山脈」という用語は、地理学の本や高校レベルの地図帳には載っていますが、登山界ではあまり使われない用語かと思います(新潟県の方は普通に使っておられるかもしれません、スミマセン)。
 ということでまず、(文献1)をベースに、「越後山脈」の概要を説明します。
 
 一般的に呼ばれる「越後山脈」とは、新潟平野の東側に並ぶ山々を意味し、南端は越後三山で、そこから福島県との県境伝いの分水嶺沿いに北東方向に延び、北端は、東西に流れている只見川下流で、その北側にある飯豊山地と別れています。
 ただし(文献1)によると、その範囲は明確ではなく、巻機山、谷川連峰、尾瀬の山々も含めて使われることがあるようです。

 この連載では、新潟/福島県境とその近辺の山々で、かつ飯豊山地を除いた部分を「越後山脈」ということにします。
 また、越後山脈の代表である越後三山は、既に紹介済みなので、この章では割愛します。

 越後山脈は新潟平野から見ると、ほぼ南北に長く延びた山々の列です。また主稜線の手前(平野側)にも、いくつかのやや低い山並みがあります。
 積雪量が多い山々が多く、また個性的な山々もいくつかあります。
 以下、それら個性的で登山者も多いと思われる山々の地質について、個別に説明します。
(1)未丈ヶ岳
 未丈ヶ岳(みじょうがたけ:1553m)は、奥只見の山々と言っても良い場所にそびえている山です。登山口が、シルバーラインのトンネル内にあるため、私は残念ながら、登山口を見つけることができず、未踏の山です。
 原生林と熊が多い山だと聞きます。

 さて、未丈ヶ岳の地質を、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、
まず、シルバーラインのトンネル内から始まる登山道の途中までは、白亜紀末の花崗岩の領域です。その後、山頂部付近は、ジュラ紀付加体(メランジュ相)となっており、ジュラ紀付加体である「足尾帯」に属します。
 その東側は、登山道がないので、行く人はいないと思いますが、古生代・ペルム紀の泥岩層、砂岩/泥岩互層でできています。
 このペルム紀の地層群は、おそらく「上越帯」に属する地質です。
(2)浅草岳
  浅草岳(あさくさだけ:1585m)は、日本三百名山の一つでもあり、越後山脈の中でも、守門岳と同様、割と登山者が多い印象があります。私も一度登っています。

 新潟側からはやや急な坂道という感じですが、稜線部は割と切り立っており、また奥只見ダム側はかなり切れ落ちています。稜線伝いの「鬼ヶ面山」は、すごい絶壁をもっており、(文献2)によると比高が約600mもあります。
 一方で、展望は素晴らしい山で、天気が良ければ、越後三山はもちろん、奥只見や尾瀬付近の山々まで望むことができます。

 この山は見た目では火山とは思えないのですが、この山の地質を、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、安山岩、玄武岩質安山岩で構成されており、その時代は、第四紀中期(カラブリアン期:180-78万年前)の、やや古い火山体です。

 (文献2)によると、浅草火山は、約162万年前〜約156万年前までの非常に短期間に活動した古い火山です。活動期には成層火山を形成したと推定されています。また、その際、火口部分は、現在の只見川側にあったと推定されていますが、只見川による浸食作用で、山体の半分以上が失われています。

 地質図をよく見ると、浅草岳山頂部から鬼が面山あたりまでの稜線は、ゆるやかなカーブを描いており、そのU字型の内側の、「只見沢」付近が元の浅草火山の中心部だったと思わせる地形です。
 一方、現在の山頂部と、その手前の斜面は、成層火山だった時代の名残の斜面です。

 また、(文献2)によると、この付近は基盤岩(主に中新世中期の緑色凝灰岩(いわゆるグリーンタフ)などの火山性地質)が標高800-1000m付近までの高まりを作っており、残存している浅草火山の部分の比高は500m程度です。基盤岩により標高を稼いでいる、いわゆる上げ底式の火山とも言えます。

 この付近は、JR只見線の走るラインを境界として、その北側は、中新世の火山岩、深成岩を基盤として、その上に、第四紀火山があちこちにできている状況が、産総研「シームレス地質図v2」で見て取れます。
(3)守門岳
 守門岳(すもんだけ:1537m)は、浅草山よりやや北にそびえている大きな山体の山です。この山は登ってみると解りますが、なんとなく古い火山のような山容です。

 産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、浅草山よりやや古い、第四紀 ジュラシアン期(260―160万年前)の安山岩質火山岩が広く分布しています。 なお(文献4)によると活動期は240万年〜175万年とされています。

 また(文献3)、(文献4)によると、もともとは大型の成層火山だったと推定されています。
 山頂部の北側はカルデラ状の広いU字状地形となっています。(文献3)によると、もともと爆裂火口がここにあり、それをベースとした浸食カルデラと推定されています。
(4)御神楽岳
 御神楽岳(みかぐらだけ:1387m)は、この章でいう越後山脈の北端近くにある山です。標高は1500mにも達しませんが、特に東側斜面は険しい断崖となっており、荒々しい山容です。私は残念ながらまだ登っていません。

 この山の地質を、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、この山とその周辺一帯は、新第三紀 中新世(バーディガリアン期〜前期ランギアン期:約20-14Ma)の火山岩と貫入岩(注1)でできています。岩質はデイサイトー流紋岩質の溶岩、火砕岩、貫入岩です。

 このような中新世の火成岩(火山岩、凝灰岩類、貫入岩、深成岩)は、東北日本の日本海側に広く分布しています。これは、約20-15Maに起こった、「日本海拡大/日本列島移動イベント」の時期にあたり、日本海が拡大する過程での伸張場(引っ張られるような力が働く場所)において、地下からマグマが大量に上昇して、その結果、各種火成岩(火山岩、貫入岩、凝灰岩、深成岩)ができたものと推定されています(文献4)。

 なお御神楽岳の山腹、特に東斜面は、地形学的には典型的なアバランチシュート(雪崩道)群を形成しています(文献5)。


注釈1)「貫入岩」とは、地下からマグマが上昇してきたものの、地表まで到達できずに
    地中で冷え固まった岩石を言います。
    形状により岩脈(筋状)や、シル(平板状)などの区分をする場合もあります。
      (文献7)
(5)越後山脈と新潟平野との関係
 越後山脈の西側には、広い新潟平野が広がっています。新潟平野は沈降が著しい堆積盆地的な地形的特徴を持っており、第四紀堆積物は最大で地下4500mまでの深さまで堆積しています(文献8)

 新潟平野も含め、新潟県の中越地方を中心に、山並みと盆地群が、ほぼ北東―南西方向に並んでおり、この地区はその並びと直角方向(北西―南東方向)に圧縮応力が強く働いているアクティブな変動帯、と認識されています。

 この越後山脈と新潟平野との間には、「新発田(しばた)―小出(こいで)構造線」と呼ばれる断層(帯)が地下に伏在していることが、以前から推定されていました。

 (文献9)では、重力異常の測定(ブーゲー異常測定)という手法で、この平野部と山地部との境界に「新発田―小出構造線」が地下に存在していることを明らかにしています。

 その断層(帯)による落差は、最大で4500mに達すると見積もられており、新潟平野が沈降する一方で、越後山脈側が隆起して、現在の山地地形を作ったと推定されています。
(参考文献)
 文献1)ウイキペディア 「越後山脈」の項
     2021年3月 閲覧

  https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B6%8A%E5%BE%8C%E5%B1%B1%E8%84%88


 文献2)浅草火山団体研究グループ
     「浅草火山の地質」
     地球科学、第45巻(2号)、p101-112 (1991)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/agcjchikyukagaku/45/2/45_KJ00005307072/_pdf/-char/ja


 文献3)ウイキペディア「守門岳」の項
     2021年3月 閲覧

 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%88%E9%96%80%E5%B2%B3


 文献4)赤石
    「東北日本弧南部背弧四火山(守門火山、浅草火山、枡形火山、
     飯士火山)の年代学的、岩石学的研究、および
      東北日本弧第四紀火山の時空分布について」
        東北大学理学部 博士論文要旨 (1997)
      (論文要旨のみで、論文自体はネット上にはアップされていない)

    file:///C:/Users/Yokoo/Downloads/S2H091096%20(1).pdf


 文献5)日本地質学会 編
   「日本地方地質誌 第2巻 東北地方」朝倉書店 刊 (2017)
    のうち、第3部 「地質構造発達史」 3−2章「後期新生代」の項
    及び、第10部「海洋地質」 10−1章「日本海側」の項


 文献6)小泉、清水 共編
   「山の自然学入門」 古今書店 刊 (1992)
    のうち、第16章、「御神楽山」の項

 文献7)ネット情報
   産総研ホームページ(GSJトップページ)より、「地質を学ぶ、地球を知る」
    >「専門用語」>「貫入岩」の項

   https://gbank.gsj.jp/geowords/glossary/ka.html


 文献8)町田、松田、海津、小泉 編
   「日本の地形 第5巻 中部」東京大学出版会 刊(2006)
    のうち、3−8章「越後平野とその周辺」の項


 文献9)丸山、大坪、国安、高浜、田中
   「重力異常からみた新潟平野東縁部の新発田―小出構造線」
     地球科学、第35巻、 p274-293 (1981)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/agcjchikyukagaku/35/6/35_KJ00005307023/_article/-char/ja/
 (このJ-stege サイトから、論文(PDFファイル)を無料ダウンロードできる)
【書記事項】
初版リリース;2021年3月2日
△改訂1;文章見直し、6−1章へのリンク追加。書記事項追加。
△最新改訂年月日;2022年1月4日
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