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更新日:2021年12月26日 訪問者数:987
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日本の山々の地質;第8部 北海道の山々の地質、8−5章 渡島半島の山々の地質
ベルクハイル
大千軒岳とその周辺の地質図
・グレー(大千軒岳山頂部付近と、その西側山麓部);メランジュ相付加体(ジュラ紀)
・緑色;(大千軒岳山頂部付近);玄武岩(ジュラ紀付加体)

・オレンジがかった黄色(大千軒岳の北側の山地部など);デイサイト/流紋岩質火山岩類(古第三紀 暁新世〜新第三紀 中新世)

赤い▲が大千軒岳、(右手の)◎印は函館市

※産総研「シームレス地質図v2」を元に筆者、加筆
狩場山とその周辺の地質図
・(赤線で囲った)黄土色(狩場山の山頂部を含む);安山岩〜玄武岩質安山岩 (第四紀 チバニアン期)
・(黄土色の周辺にある)濃いめの黄色;安山岩〜玄武岩質安山岩、デイサイト〜流紋岩質 火山岩 (新第三紀 中新世)

・(狩場山の南東山腹部の)紫色;花崗閃緑岩類(新第三紀 中新世)
・(狩場山山麓 東側の)朱色;花崗閃緑岩、トーナル岩(白亜紀)
・(狩場山山麓 北東側の)グレー:メランジュ相付加体(ジュラ紀)

赤い▲が狩場山の山頂

※産総研「シームレス地質図v2」を元に筆者、加筆
大千軒岳
※ ヤマレコ内の山のデータより引用させていただきました。
大沼湖畔から望む、渡島駒ヶ岳
※ ヤマレコ内の山のデータより引用させていただきました。

・左手の尖った部分が「剣が峰山頂」
・中央の平坦な部分は火口原(プラトー)
渡島駒ヶ岳の山頂火口原
剣が峰山頂付近より火口原を見下ろす。
大きく窪んだいくつかの火口とそれらを結ぶ割れ目が見える。

※ 筆者撮影(1986年春)
恵山
※ ヤマレコ内の山のデータより引用させていただきました。
狩場山
※ ヤマレコ内の山のデータより引用させていただきました
(はじめに)
 この第8部「北海道の山々の地質」では、これまでの部とは異なり、8−1章から8−4章までは、個々の山の地質説明に先立ち、北海道全体の地質構成を、各「地帯」毎に説明してきました。
 
 この8−5章からはようやく、前章までの説明を踏まえ、北海道各地域の山々の地質を説明していきます。

 まず、この8−5章では、渡島半島にある主な山々の地質を説明します。
 なお、渡島半島には渡島駒ヶ岳のような第四紀火山もいくつかあります。主要な火山については、地質だけでなく、火山活動の歴史も説明します。
 
 さて、渡島半島の基盤となっている地質は、8−1章で説明した通り、「渡島帯」と名付けられたジュラ紀付加体型の地質です。ただし実際にはジュラ紀付加体型の地質ゾーンは点在していており、古第三紀〜新第三紀にかけての火山岩類や、中新世の堆積岩(泥岩など)が、かなりの領域を占めています。さらにその上には、第四紀火山がいくつか噴出しています。
1)大千軒岳の地質
 大千軒岳(だいせんげんだけ:1072m)は、渡島半島最南端、松前町にほど近いところにある山です。日本三百名山にも選ばれています。

 この山の地質を、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、山体のほとんどが「渡島帯」を構成しているジュラ紀付加体型の地質で出来ています。
 細かく言うと、メランジュ相の付加体が大部分で、海洋プレート起源の玄武岩体、石灰岩体がわずかに分布しています。

 また、山麓部や山頂より北側の丘陵部は、デイサイトー流紋岩質の火山岩で出来ており、その噴出年代は、産総研「シームレス地質図v2」によると、古第三紀 暁新世(ぎょうしんせい:66−55Ma)〜 新第三紀 中新世(ちゅうしんせい:23-6Ma)までとなっています。

 ところで、津軽海峡を隔てた青森県の北部(津軽半島、下北半島など)も、産総研「シームレス地質図v2」で地質を確認すると、古第三紀〜新第三紀にかけての火山岩類がかなりの領域を占めており、その中にジュラ紀付加体型の地質ゾーンが点在し、さらに第四紀火山がいくつかあり、地質構成的には類似しています。

 第8−1章でも触れましたが、青森側の基盤岩は「北部北上帯(ほくぶきたかみたい)」という「地帯」に区分されていますが、実際は、「北部北上帯」と北海道の「渡島帯」は、津軽海峡で見かけ上、隔てられているものの、実際は一体ものだ、と考えられています。
 文献によっては「北部北上ー渡島帯」と、一つにまとめた「地帯」としているものもあります。

 なお大千軒岳だけでなく、渡島半島のところどころにある、標高1000m前後の山のいくつかは、このジュラ紀付加体型の地質でできています。
2)渡島駒ヶ岳の地質と、火山としての歴史
 渡島駒ヶ岳(おしまこまがたけ:1131m)は、函館から北へ数十kmのところにある第四紀火山で、活火山でもあります。(文献2)では「渡島駒ヶ岳」という名称で、こちらが一般的かと思いますが、(文献1―a)では「北海道駒ヶ岳」と表記されています。この章では「渡島駒ヶ岳」の名称に統一します。

 標高は1000mを少し超える程度の火山ですが、麓の大沼(おおぬま)や、海岸沿いから望むと、かなり広い頂上プラトー部(火口原)と、その片側に剣が峰と呼ばれる尖峰状のピークをもつ、独特の形が目を引きます。日本三百名山の一つでもあります。

 地質的には、産総研「シームレス地質図v2」によると、デイサイトー流紋岩質(=シリカ分が多い=粘性が高い)火山岩類からなります。

 渡島駒ヶ岳はかなり活動的な火山で、少なくとも江戸時代から現在まで、何度も噴火活動を行っています。
 以下、(文献1−a)に基づき、火山活動の概要を説明します。

 渡島駒ヶ岳は、11万年以上前から活動を開始し、3−4万年前には、成層火山だったと推定されており、現在の山体はその下部にあたります。
 成層火山だった頃の上部は爆発的噴火/山体崩壊で既に失われており、剣が峰などの尖峰群は、その時代の名残りと考えられています。成層火山が形成された後、数回の爆発的噴火とそれに伴う山体崩壊によって、現在の形になったと考えられています。

 頂上部の広い平坦部(火口原)には、比較的新しい、割れ目状の火口群があり、剣が峰から見下ろすと、不気味な風景に見えます。
 (文献3−a)によると、窪地状の複数の火口は、1929年の噴火で形成され、それらを結ぶ割れ目状の地形は、1942年の噴火で形成されたものです。火口原(プラトー部)は軽石などの火山噴出物で覆われて荒涼としていますが、これは主に、1942年噴火で噴出したものです。
3)恵山の地質と、火山としての歴史
 恵山(えさん:618m)は、函館にほど近い所にある小型の火山です。
(文献1−b)、(文献2−b)によると、恵山は、十数個の溶岩ドーム(=溶岩円頂丘)が集まった複合火山群です。

 恵山火山群の地質を産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、古い火山では安山岩質、恵山本体はデイサイトー流紋岩質の火山岩で出来ています。
 恵山火山群の活動は約4-5万年前に開始し、徐々にいくつかの溶岩ドームができてきて火山群を形成史、最新の溶岩ドームが、最高点のある恵山になります。

 先の渡島駒ケ岳や恵山は、東北地方に南北に延びる火山列(火山フロント)の延長部とも言えます(文献1−c)。
4)狩場山の地質
 狩場山(かりばやま:1520m)は、渡島半島の付け根に近い日本海側にそびえる山で、標高も渡島半島の中で唯一、1500mを越える、渡島半島の最高峰です。日本三百名山の一つでもあります。

(文献2)によると、この一帯は豪雪地帯のために初夏まで雪渓が残り、お花畑も広がる、と説明されています。また日本列島におけるブナ林の北限(黒松内低地帯)は、この付近です。

 さて、狩場山の地質を産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、山体のほとんどは、新第三紀 中新世(23-6Ma)頃の安山岩質の火山岩で出来ています。
 同じような時期の安山岩質の火山岩は、東北地方の日本海側から新潟県、長野県にかけ広く分布しています。これらの中新世の火山岩の噴出は、約20-15Maに起きた、日本海拡大/日本列島移動イベントに関連して起きたものと考えられます。
 なお渡島半島には、主に丘陵部に、中新世の泥岩や砂泥互層が広く分布しています。これらの堆積岩も、同じく、日本海拡大/日本列島移動イベントの時期に堆積したと思われます。

 狩場山の山頂部や尾根筋の一部は、より新しい、第四紀 チバニアン期(約76−13万年前)に噴出した火山岩で出来ています。そういう意味では、古い火山岩を基盤として、その上に噴出した、やや古めの火山と言えます。

 なお狩場山の山麓部には、その他に深成岩である新第三紀 中新世の花崗閃緑岩、より古い白亜紀の花崗閃緑岩やトーナル岩、更には最も古い、ジュラ紀付加体型の地質も分布しています。
ジュラ紀(堆積岩)、白亜紀(深成岩)、古第三紀(深成岩)、新第三紀(火山岩、深成岩)、第四紀(火山岩)と、それぞれの時代の地質が、モザイク状に分布している山、とも言えます。
(参考文献)
文献1)日本地質学会 編
「日本地方地質誌 第1巻 北海道地方」 朝倉書店 刊 (2010)
  

  文献1―a)
   文献1のうち、第8部 「(北海道の)火山」、
    8―2−6節 「北海道駒ケ岳」の項。

  文献1−b)
   文献1のうち、第8部 「(北海道の)火山」、
    8―2−5節 「恵山」の項。

  文献1−c)
   文献1のうち、第8部 「(北海道の)火山」、
    8―2−1節 「概説」の項。


文献2)「日本三百名山 登山ガイド・上」
     山と渓谷社 刊 (2000)の、各山の項。


文献3)小畔(※)、野上、小野、平川 編
    「日本の地形 第2巻 北海道」 東京大学出版会 刊 (2003)

   文献3−a)
     文献3)のうち、5−5−(5)ー2)節 
     「渡島駒ヶ岳」の項
 
   文献3−b)
     文献3)のうち、5−5−(5)ー4)節 
     「恵山火山」の項

   ※ 「畦」(あぜ)は、本来は旧字体
【書記事項】
初版リリース;2021年7月27日
△改訂1;文章見直し、書記事項追記(2021年12月26日)
△最新改訂年月日;2021年12月26日
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