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更新日:2013年12月10日 訪問者数:13878
ジャンル共通 技術・知識
「自分の安全は自分で守る」ということについて
今では山ばかりではなく労働災害や警察の講習会等でも言われている「自分の安全は自分で守る」ことについて改めて考えてみたい。

「自分の安全は自分で守る」という言い方のほかにも、「自分の身は自分で守る」とか、「自分の命は自分で守る」という言い方もされているが、意味はすべて同じである。
単独登山とパーティ登山
単独登山は、登山の「訓練」としては適している。すべて自分でしなければいけないので準備や山での生活技術も含めて一人の登山者としてのレベルアップにはよい訓練になる訳である。安全意識の面でも複数で山に向かうときよりも強い場合が多いと言ってもいいと私は思っている。ただし、単独登山は遭難しやすく重大な事故に直結するので単独を勧めるという意味ではない。

一方、「連れて行ってもらう」という意識がある場合、複数で登るパーティ登山にはいくつかの点で危険性が潜む。「自分の安全は自分で守る」ということは、主にパーティ登山において強く意識されなければいけないことだと思う。演繹すれば、そういう意識を単独登山にも応用されるべきものだと思う。

「自分の安全は自分で守る」ということを、単独のとき、複数で登るとき、それぞれの場合を想定してその意識をイメージしていただきたい。特に初心者の場合、そういう意識を常にもつことが登山の安全に対する「センス」を作ることにつながると私は思う。
セルフビレイは確実に!
話が一気に具体論になってしまうが、岩登りの場合、セルフビレイが確実にされていれば死ぬことは少ない。

岩登りをやっていない人には「セルフビレイ」という言葉が分かりにくいので説明すると、自分の体を岩壁に打ってあるハーケンやボルトの金具にロープなどで直接結び付けることを「セルフビレイ」と呼んでいる。
(※以下、「自分は岩をやらないから関係ないや」ということではなく、読み進めていただきたい。)

セルフビレイが確実であれば仮にパートナーが墜落しても自分は墜落することがないので安全である。つまり、自分の命が自分で守られている。

このセルフビレイをする意識と行動が「自分の安全は自分で守る」という意味そのものである。
自分の目で確認する
「自分の安全は自分で守る」という意識は、ロッククライミングのときの「セルフビレイ」に象徴されるが、実際に岩登りの現場にいる場合、常に「目」で安全の確認を繰り返さなければいけない。

ロープの操作を無意識でやっていると何かの勘違いでセルフビレイを外してしまうこともある。そんなときに事故が起こるものである。

自分の目で確実に「セルフビレイ」がされていることを何度も確認するクセを付けることで自分の安全が確保される。このことが「登山の安全」に直結する訳である。こういう確認の仕方が一般登山者にも応用できる訳である。これが安全に対する「センス」をつくることになる。
自分の命を守ることは他人の安全を守ることになる
その昔、私が岩登りに夢中だった頃に読んだ本に「安川茂雄監修、青野恭典著 ロッククライミング」という一冊がある。その本の冒頭に安川茂雄氏が槇有恒氏の言葉として登山の本質として吐露し指摘した三つの要素をあげている。
それが、「山」、「仲間」、「天候」である。「山、人、天気」と言い換えてもいいが、登山の本質は確かにこの三つだと私も思う。

細かいことは省略するが、上述した「自分の命は自分で守る」ことは「自分だけの命を守る」というエゴイズムではない。自分の命を自分で守れないような者が仲間(パートナー)の命まで守れるはずはない。自分の安全は自分で確保して初めて他人の安全を守る第一歩になる訳である。

登ろうとする山についても自分のレベル相応な山を選ばなければ事故に結び付く。天候も同様だ。それらを客観的にとらえて初めて安全に挑戦できる訳である。
登山のリーダーについて
登山のリーダーはメンバーの安全を守る責務がある。万一、そういう意識がなければリーダーとは呼べない。

ともあれ、複数で登るパーティのリーダーは他のメンバーが考えている以上にメンバーのことを考えているのが普通である。そのことをメンバーが逆にとらえて、「信頼できる安心できるリーダーだから」という理由で「連れて行ってもらう」という意識ではいけない。

複数で登山する理由は色々あると思うが、事実上「連れて行ってもらう」ような者でも、山域やルートを自分でも研究し、天候判断をし、体調や健康に留意し、持参する共同装備をも完全に頭に入れ、他のメンバーのことも気にしなければいけない。

リーダーの判断が時として命令となった場合、それがメンバーの一人としての自分の判断と異なった場合は難しい。原則論としては判断が異なった場合は安全側に行動するのが正しい。その場合、「撤退」という判断や、逆に、「続行」というリーダーの判断の場合はさらに難しいが、私は原則的にはどの場合でもリーダーに従うべきだという考えをもつ。実際にはそのあたりの問題はケースバイケースになると思うが、万一、リーダーの判断が事故を招いた要因ともなればリーダーはその責任をもつことになる。そのあたり、弱気なリーダーも強気すぎるリーダーもダメなので、リーダーとなる者はリーダーシップの鍛錬もしなければいけないので大変である。

どちらにしても、槇有恒氏が登山の本質とした「仲間」という意味は安全面でも大きいと思う。
水と安全はタダではない
もう40年ほどの大昔にイザヤ・ベンダサン著「日本人とユダヤ人」を読んで私は影響を受けた。この本は当時の大ベストセラーであり、その中に「日本人は、水と安全はタダだと思っている」という一節があった。

当時、山では天水が1リットル100円もしていたり、登山の安全にも真剣に取り組んでいた頃なので、この本を読んだ時にはその表現が嬉しかった。

しかしながら、考えてみれば、水や安全がタダだと思うほど当時の日本は世界から見れば異常なほどの理想郷であった訳であるから、今のようなストーカー殺人事件やミネラルウォーターを高い値段で買うような言わば「水も安全もタダではない」という時代に日本が変わってしまったことは残念なことだと思う。

水のことは別としても、登山の「安全」に関しては、やっぱり、お金をかける必要がある。

装備の充実(それも良い品質のもの=高価な道具)、適切な登山教本の購入、有料の安全講習会などへの参加など、登山の安全のためにはお金はかかる。それは必要なお金であるから無駄金ではないし、それをケチってはダメだ。こういうことにお金を掛けることも「自分の安全は自分で守る」ことになると思う。
安全に留意しているかを調べる方法
ヤマレコユーザーがどれだけ「安全」に留意しているか調べる良い方法がある。

一つは、道を歩くときにレンガやタイルの目地のような細い線の上を歩いているかどうかである。
意味が分からないかも知れないが、登山では重荷を背負って狭い山道を歩く。その場合に重要なのは体力とともにバランス感覚だ。バランス感覚は天性のものだけではなく訓練をする必要がある。何でもない山道でバランスを崩して滑落してしまう事故はとても多い。

しょっちゅう山に登っている人なら別だが、ときどき山に登る程度の人がバランス歩行をする訓練としては、日頃歩くときにもそういう意識が必要であると思う。私たちは岩も最初から登っていたので学校の鉄棒の上を歩いていた。

ちなみに、歩車道ブロックの上を歩くことは車道側に落ちて交通事故になってしまうので止めていただきたい。駅などの点字ブロックの目地の上を歩くことでもいい。(この部分少し修正しました。)
ともあれ、登山を趣味とするならそれくらい真剣に山に取り組んでいただきたい。

もう一つはラジオの天気図を書くことだ。
今ではさすがに天気図を自宅で書くような人は少ないと思うが、天気図を書ける人と書けない人では天気判断のレベルが格段に違う。その意味で天気図を書けない人は天気図を書けるようにしてほしい。
私がヤマノートにした「山で天気図を書くコツ」はそれなりにまとまっているので参考にされたし。
http://www.yamareco.com/modules/yamanote/detail.php?nid=200

今の時代は厳しく言うと嫌われるようだからあまり厳しくは言いたくはないが、天気図を書けないなんてホント言えばお話にならない。天気は山の要素の非常に大きい部分である。天気判断は非常に重要な安全判断でもある。気象衛星とかレーダーがある時代だとか屁理屈をこねる前に天気図を書けるようにならなければ一生初心者呼ばわりのままである。少なくとも私はそういう見方をしている。天気図を書くことができることはそんなに難しいことではない。そんな小さな努力もしないということは他にも安全のための努力をおろそかにしていると言える訳だ。

天気図を書けることが正しい天気判断が出来ることではないが、天気図を書けるようなると気象に興味が湧いてきて天気判断の精度が格段に高まるのである。これは一朝一夕にはできない。一年を通じて気象に興味をもっていなければ山では通じない。テレビの天気予報の番組を注意深く聞いて知識や感覚などを得るようにする。最低でも数年はかかる。その第一歩が天気図を書くことであると私は思う。

その他にも色々あるが、あまり書くとゴチャゴチャ混乱するので止めておこう。
具体的な「自分の安全を自分で守る」方法
たとえば、滑落停止が出来なければ冬山ではお話にならない。これも自分の命を自分で守る方法である。
http://www.yamareco.com/modules/yamanote/detail.php?nid=22
↑私のヤマノート「ピッケルで滑落停止をするコツ」

懸垂下降のセッティングは「目」で確認する。これも指導者にギャーギャーと言われている現場でも確実に自分の目で確認して欲しい。懸垂下降時の事故は非常に多いことを認識すべきである。慣れだす頃が一番危ない。

山で衣類を汗で濡らしてはダメだ。同じグループの人間が防寒着を着ていて平気でも冬に汗をかいて行動してはダメである。お互いに注意しあうことが必要である。濡れた衣類を着ていることで夜になり低体温症で死亡してしまうことがある。すなわち凍死である。
そのあたり、私の日記「【座学】寒いのは我慢できるが、冷たいのは我慢できない」を読んでいただきたい。
http://www.yamareco.com/modules/diary/42284-detail-48171
また、ヤマノートにも「休憩時には先ず防寒着を着よう!!」でそのあたりをまとめてある。
http://www.yamareco.com/modules/yamanote/detail.php?nid=99

食中毒ということもある。怪しいものは食べない方がいい。これも自分で守ることである。

岩や氷をやる人は、ザイルワーク(ロープワーク)を目をつぶってでもできるようにしてほしい。何種類ものノット(結び)を覚えることよりも実用的な結びを確実に覚える方が遥かに大切なことだ。

落石の心配のある場所は常に上方に注意をしていること。雪崩の恐れのある場所はすばやく通過するか通過しない判断をすること。

なにはともあれ、特に初心者の方は山の大鉄則は守っていただきたい。
http://www.yamareco.com/modules/yamanote/detail.php?nid=76
 ↑私のヤマノート「山の三つの大鉄則」

三点支持を守るととか、ナイフを常に所持するとか、他にも色々とあると思うが今は思い出せない。気が付いたときに付け足しておこう!
最後に
私が「自分の命は自分で守る」という言葉を教えてもらったのは「Mさん」という登山具店の店長さんだった。私が二十歳にならない頃の話である。岩登りを真剣にやるようになった頃に登山道具を買うついでに登山技術を教えてもらっていた。Mさんは海外登山や日本の山の壁などの開拓ルートを開いたすごい人だ。
今度はどこどこに行くと私が言うと、Mさんは「いいねぇ」と目を細めてくれた。
そのときどきに、「自分の命は自分で守ってね」とよく言われた。その言葉がとても素直に体にしみこんでいった。
このノートを書くときに、そんなことを思い出したのが実は書こうと思った切っ掛けである。

登山は危険をともなうものである。死亡事故も多い。それゆえに、安全に関する意識レベルを上げていく必要があるのである。そのスタートが「自分の安全は自分で守る」ということである。

自分の命を自分で守ることは他人の命を守ることでもあるということを覚えていただきたい。
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コメント

同感です!
murrenさま、

ありがとうございます!

これはヤマレコのトップ画面に金科玉条のようにして常に表示されるようにならないかなぁとさえ思います。

自分の安全は自分で考えろ、決して人任せにするな、何かあっても誰かや何かのせいにするな。
人をあてにするな。

そしてコピペして私の所属会の新人にも読ませたい

山岳会を無料登山学校かなにかと勘違いしてる人にも読ませたい

「私はどこの山に行ったらイイですか?」なんて間抜けな質問をしている人にも読ませたい

「今度はどこに連れてってくれるの」とか言ってる人にも読ませたい

「だってヤマレコには危険だなんて書いてなかったし…あの人は大丈夫って言ってた…」なんて言ってる人にも読ませたい

すみません、なんだか私ストレス溜まってるようですね
2013/12/4 20:04
こんにちは。
お久しぶりです❗️
昼休みなのでしっかり読めていませんが
最後の所に書いてある事が心に響き書いてしまいました。

自分の安全は自分守る…。
その通りですね。
山では特に…。
楽しさと危険は、紙一重ですね。

あっ、私会社で自分を守らなきゃ…。
いつ、私のせいにされるか…。
山以外でも共通する部分はあるんだよな〜。

ありがとうございます。
2013/12/5 12:58
お元気そうで・・なによりです!
いつもいつも座学の講義ありがとうございます。

なんでもそうですが、慣れが一番怖いですね。

安全なくして登山なし・・

肝に銘じて行動します

      でわでわ
2013/12/5 15:29
ゲスト
コメントありがとうございます。
やっぱりこっちにもコメントがありましたね。
コメントありがとうございます。

bunacoさん、bunacoさんみたいな先鋭な方にお褒めの言葉をかけてもらうと照れますね。まあ、私も私が言われてたことを次世代につなげようとしているだけですけどね。コメントありがとうございました。

ちびこちゃん、そうですよ。登山技術や安全感覚は下界でも十分に役に立つことが多いですね。お金儲けの技術が登山でもあればよかったですが残念ですがそれはむりのようです。そんな技術があれば今ごろはちびこちゃんも私もウハウハなのにね

uedaさん、慣れるというのは長所短所はありますね。緊張感を適時出すような上手な安全感覚が備わっていればそうそう死亡事故までつながることは少ないと思いますが、油断したときにやっぱり魔が差すことが多いかも知れません。まあ、にくまれ者は簡単には死なないですけどね。あっuedaさんのことじゃないですが。
2013/12/6 14:04
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