大室山-加入道山 〜猟犬と私〜 S10
- GPS
- 06:26
- 距離
- 15.6km
- 上り
- 1,355m
- 下り
- 1,350m
コースタイム
- 山行
- 5:56
- 休憩
- 0:29
- 合計
- 6:25
天候 | 晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2017年03月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
西丹沢自然教室発15:40(同バス)かなん沢バス停着16:48、東名松田バス停着16:55(小田急箱根高速バス、1,230円) |
コース状況/ 危険箇所等 |
融雪後の泥濘多かった。スパッツ必携。 大室山と加入道山の間、特に気持ちの良い尾根道だった。 |
写真
感想
これほど印象深い山旅になるとは思いもよらなかった。犬越路を通過したからだろうか。昨年、尾瀬で、熊と一瞬目が合った時よりも、はるかに怖くて愛おしい時間だった。たった20分、けれどもそれは今日一日分の時間だった。
新松田駅でバス待ち30分、珍しく立ち食いソバが食べたくなった。「往復券1割引」の声に、窓口でチケットを購入する。7時20分、満席のバスは定刻どおり出発した。終着地まで1時間10分の旅、そう長くは感じなかった。
久しぶりの丹沢、久しぶりに人の多い山域を歩こう。西丹沢自然教室で降りた人の数、すでに並んでいた多くの車から、予想は的中すると思えた。けれども結果、山中出会った人は4人、いつもどおり終始、静かな時間に包まれることとなった。
用木沢出合まで舗道を歩き、スパッツを装着して泥濘に備える。沢伝いにゆっくりと、緩やかに上った。数度の渡渉を経て、犬越路までの中間地点に至る。そこから階段状の道を上がり、やがて沢から離れる頃、陽射しは穏やかさを過ぎ、暑さを感じるほどになっていた。
登山道に入ってからおよそ1時間後、予定よりも少し早く犬越路に達した。思わず寝ころびたくなる。心地よさに動けなくなる気がして、その、のんびりとした時間の流れる場所をあとにした。
尾根道はこの上なく快適な道だった。そして春霞の中に浮かび上がる富士山。知らず知らずのうちに気分は高まり、足早になる。大室山への1時間半は短かった。木々に囲まれた山頂は、残雪のせいか一層静かに感じられた。今日は大休止の得られない行程、予定どおりのバスに乗車するために長居はできなかった。
分岐点に戻る。間もなく正午、空腹は覚えない。朝のソバが効いているらしい。ベンチを横目に通過した。伸びやかな、ほとんど高低差の無い尾根道を、両手を広げながら歩く。2時間後の出来事が無ければ、今日のハイライト、になるはずだった。
微かな風の通る鞍部を過ぎ、加入道山への最後の登りにかかる。気力体力ともに充実、まだまだ登れそうに思えたが、ほどなく山頂に到着した。出発してから4時間半、ザックを下ろし、腰を下ろした。ここも眺望は得られないが、なぜか愛おしい空間だった。下山には2時間と少し見ておけば十分、もう少し居たい。けれども結局、8分の滞在で出発した。この何気ない判断が、のちに功を奏する。
白石峠までは僅か、そこからは枯れ沢を経て、幾つもの沢を合せながら下りて行く。今日は、沢を登り沢を下る道だった。あまりの静けさに不安になり、時折熊鈴を鳴らす。樹林帯を抜け、明るさを感じ、空を見上げたその時、気配を感じた。戻した視線の先に、一匹の犬がいた。
この衝撃を何と表現しよう。怯む、動揺する、どんな言葉も相応しくない。ただ動けなかった。よく見ると首輪をしている。逞しさから猟犬であることがわかった。一匹は一頭になった。けれども状況に変わりはない。問題は彼がいついかなる状況で人里を離れたのか、或いは飼主とはぐれたか、だった。数日間彷徨っていたのではないか、ネガティブな設定しか思いつかない。
彼はゆっくりと近づいてきた。立ち尽くしているとにおいを嗅ぎ、ゆっくりと遠ざかった。襲われることのないことを知り、思わず撮った。瞬く間に怖れとか疲れとか一切合財消えていった。それにしてももう少し後に山頂を出ていたら、樹林帯で突然遭遇したかもしれない。これはこれで幸運だったのだ。
そのまま何もなかったように歩き始めると、後ろから追いてくる。付かず離れず、絶妙な距離を空けて追いてきた。奇妙なパーティーだった。時折、私の前を行き、待つ。かと思えば急に沢の方へ行き、何かのにおいを感じて戻る。渡渉も訳ない。私より遥かにこの地を知っていた。後から確認すればたった20分の時間。けれども彼を愛おしく思えるには十分だった。麓まで一緒に下りたかった。
突然それまでとは明らかに異なる速さで走り出した。吠えはじめた。ほどなくして草むらから小型犬ほどの大きさの猪が飛び出してきた。野生の猪を見るのは初めてだ。そのまま猟犬に向かって突進して行った。上手に躱すと今度は彼が攻勢に出る。気づくと瞬く間に遠くへ走り去っていた。視界から消えそうになり、急に不安になった。親が出てきても大丈夫なのだろうか。しばらく茫然としたのち、諦め、独りで下山を続けた。
西丹沢自然教室に着き、所員の方に報告すると、ハンターが週末放って回収していない、GPSを付けているから居場所はわかる、人を襲うことは無い、などの説明をしてくれた。その時は気づかず、ふんふん聞いていたが、丹沢の週末は猟犬と遭遇する可能性があるのだ。やはり山では予備知識が有りすぎるということは無い。
建物を出て、来た道を振り返った。彼が今にも追いかけて来るように思えた。
初めてコメします。あまりに流麗な文章を楽しませていただきました。ありがとうございました。
大室山の手前のベンチ大好きです。日当たりが良く、何時迄ものんびり過ごしたくなります。行きたくなりました。
そうは言われても、猟犬が野犬と気づくまでの緊張、感じました。
roadwalker様
おはようございます。
何度も丹沢には足を運んでいるのですが、初めての経験をしました。
ハンターの方と一緒の猟犬とは、他の山域で時々遭遇するのですが、
猟犬1頭のみで山中に放つことなど知りませんでした。
西丹沢自然教室の方によると、20年前には野犬が多く、遭遇すると
命の危機があったそうですが、今では1匹もいなくなったとのことです。
知識は有って困ることは無いですね。
kimichin2様
こんにちは。
空がかすみはじめました。
かすみの空の中でも富士山はほほえんでくれていますね!!
残雪もかろうじてありますが、季節は確実に春になってきているのですね…
猟犬との出会い、さぞかし驚かれたことと思います。
私も、去年石尾根で下山中、前方から首にGPSを3個くらいつけた犬が単独で歩いてきて驚いたことがありました。
猟犬とひととき一緒に歩かれた時の楽しそうな御様子が伝わってきました!!
レコを読ませていただいて、小さい頃の思い出がよみがえってきました。
父方の田舎が福島なのですが、帰省した時、飼い犬がいました。子供達だけで裏山に登りにいった時、彼は心配だったのか、一緒に来てくれました。先導したり、遅れた子がいると、戻ってきて、一番最後から来たりと、一生懸命面倒をみてくれました。
今年は福島で、週末、スキーの練習をしている時、結構磐梯山が見えました。
磐梯山が見える度に、kimichin2様の猪苗代スキー場から裏磐梯スキー場への磐梯山縦走のレコを思い出し、リフトに乗っている時、よく連れ合いに話しをしました。
福島で磐梯山を見ると最近うれしい気持ちになります。
(スキーの練習中で写真が撮れないのでちょっと残念です。)
kimichin2様が富士山が見える山域に行かれて、富士山が見えた時にうれしいと思われるお気持ちに似ているのかなあと思いました。
これからも、静かでおだやかなお山歩き満喫されてください。
reochi19様
こんばんは。
実は私は7年前まで犬が苦手でした。特に吠えられるとダメで、なるべく近寄らないようにしていました。今でも取り立てて好きな訳ではないのですが、賢い犬には敬意を払いたくなります。
独りで静かに登ることに慣れ、ちょっとした(今回は私にはちょっとしたことではないのですが)ことにも驚いてしまいます。花の名前は覚えようとしないし、動物とも出会いたくない、山での楽しみを半分くらい損しているような気がします。
福島の空は変わらず高いのでしょう。磐梯山で、燧ヶ岳で、安達太良山で、見上げると空の青さだけが沁みてきます。でもあまり見上げてばかりいると、気配を感じますよ。
スキー、存分に楽しまれることを!
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