庄部谷山(黒谷左俣源流域周回)☆小さい秋みぃつけた
- GPS
- 04:35
- 距離
- 8.9km
- 登り
- 715m
- 下り
- 707m
コースタイム
- 山行
- 4:26
- 休憩
- 0:09
- 合計
- 4:35
天候 | 晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2019年09月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
一般登山道なし 詳細は感想にて |
写真
感想
山の上には秋風が吹くようになり、そろそろ涼しくなったことだろうか。翌日は日曜日だというのに岡山に出張の予定があり、出張前に泊りがけで中国山地の山行を予定していたが、関西でも天気予報は好天の予報へと転じる。台風に向かって南東から吹き込む風の北へ行けば行くほど雲が少ないようだ。となれば若狭湾に近いこの庄部谷山を選ぶのに躊躇はない。
前回、flatwellさんと共にこの山を訪れたのは晩秋の頃、東側の芦谷山から稜線を辿っての山行であった。下山は庄部谷山の山頂から南へと伸びる長い尾根を辿りながら、すっかり落葉した山毛欅の樹間からすぐ東側に望む尾根が気になっていた。この山行の際に山中で出遭ったKさんにこの尾根の上にも踏み跡があり、いいところだということを教えて頂く。紅葉の季節も美しそうであるが、まずは緑の季節の光景を目にしてみたいという希求が沸き起こる。
問題はこの尾根に入る方法である。黒谷の入り口は左岸に林道がついているが、林道はいくつか連続する堰堤の手前で終わっている。尾根の下部には送電線が走っており、この送電線の鉄塔にたどり着くための巡視路が通じているに違いない。林道が終わるあたりで、谷の両側には崩落地を示す記号が記されているが、堰堤のどちらかに乗り越える道がついていることを期待する。
R367を北上すると、朽木に入ったあたりですっかり明るくなった。あたりの山々には雲がかかっているようだが、さらに北進するにつれ晴れ空が広がってゆく。林道の入り口の広地に車を停めると、夏を惜別するかのような蝉時雨を浴びながら林道を歩き始める。最初に左手に分岐する道は、前回に右岸尾根を下った際、谷を渡渉した後に歩いた林道だ。林道が大きく右手に曲がるところで谷沿いの廃林道へと入るが、堰堤の手前ですぐに林道は終わる。どうやら堰堤を築くための道だったようだ。右手の斜面を登ると谷の左岸を先へ伸びる林道が現れる。
林道とはいえ崩落が著しく、最早、林道の体をなしているとは到底言い難いが、薄い踏み跡が続いている。連続する三つの堰堤が現れる。草薮をかき分け最後の堰堤にたどり着くが、そこから先、堰堤の下に降りる道が見当たらない。左岸の先は崖となっており、さらにその先には大きな崩落地が目に入る。ここを高巻いても、その先に進むことは無理そうである。
撤退の可能性が脳裏をよぎる。しかし、堰堤の対岸をよくよく見るとどうやら踏み跡のようなものが見える。どこかで対岸に渡渉するのが良さそうだ。幸いにして沢の水量も多くはなさそうだ。一番手前の堰堤まで戻ると堰堤の縁を歩いて対岸に渡ると、果たせるかな、堰堤を越える明瞭な踏み跡がある。最後の堰堤まで容易に辿ると、すぐに谷の分岐へとたどり着く。踏み跡はそのまま左俣の右岸を先へと続いているようだが、右俣に入るべく沢の合流部へと下り、渡渉する。
右俣に入った途端、景色は一変し、広々としたV字谷に苔むした岩の間を縫って流れる渓流が目に入る。樹高の高いトチノキ、サワグルミやカツラの大樹が壮麗な雰囲気を引き立てる。まだ日が差し込まない深い谷には静謐な碧色の空気が充満しているようだ。
右岸に沿って踏み跡がついており、ところどころにピンクテープもつけられている。送電線の巡視路だろうか。踏み跡を辿って連続する小滝を高巻くと、丁度、谷が大きく湾曲し、目指す尾根の下端部であった。しかし、谷の先には美しそうな景色が続いているようだ。左手の尾根の斜面は山毛欅の疎林であり、どこからでも登れそうなので、しばらく先へと辿ってみることにする。
沢は平流となり、優美な円弧を描いては緩徐に流れている。渡渉を繰り返しては下藪の少ない河岸段丘を歩くうちに谷には木漏れ日が差し込みはじめる。秋空から溢れはじめたばかり光はなんとも柔和に思われる。右岸の巡視路の薄い踏み跡は左手の尾根を目指して登ってゆく。そのすぐ先には送電線鉄塔が見えている。
ここから先は完全に踏み跡はないが、平な河岸段丘を歩くのに困難はない。まもなく二俣に到達する。国土地理院の地図上で標高550mの等高線で囲まれた領域がまさにピースサインのように見えるところだ。平流を追って沢を先に進みたい気もするが、それは違う季節の楽しみにとっておこう。
沢を離れて左手の山毛欅の斜面を登ることにする。林床にはコアジサイが繁茂しているが、登るのに煩わしいというほどではない。コアジサイの間を縫って斜面を登るとすぐに送電線鉄塔に辿り着く。鉄塔からはすぐ南に大きな反射板を尾根に抱く大御影山を望むが、その向こうの三重嶽のあたりには厚く笠雲がかかっている。
送電線鉄塔からはなだらかな山毛欅林の尾根が続く。尾根の上空ではかなりの強風が吹き荒れているようだ。風に吹かれては樹々が騒めくような轟々とした音が間断なく続く。山頂に近づくと、北西の方角には美浜の湾と紺碧の日本海が樹間から眺望する。秘かに晴れた日本海の景色を期待していたが、青い日本海を目にするのは実に久しぶりだ。
山頂にたどり着くと、前回、昨年の晩秋に来た時には橙色と青色の二枚の山名標があったのだが、青色のものが欠失していた。ふと上を見上げると、強風にそよぐ山毛欅の葉は紅葉が始まっている。
下山は黒谷の山頂直下の山毛欅の平地を左手に大きく曲がって左岸尾根に入る。途端に先程まで樹々の梢を揺らしていた風が静まる。登ってきた尾根のせいで、この左岸尾根は風の影に入ったようだ。しかし、まもなく尾根芯には地面にほぼ平行に生えるリョウブの樹が見られることから、風向きによってはかなりの強風があたるところなのだろう。
風衝樹林の尾根を左に巻くと、再びなだらかな山毛欅の樹林となる。山毛欅の樹に混じって、一足早い紅葉を見せる楓の樹もみられる。ふとサトウハチローの作詞、中田喜直の作曲によるもの哀しいメロディーが頭の中でリフレインする。「小さい秋、小さい秋、小さい秋、みぃつけた」
広々とした山毛欅の尾根は、尾根を歩いているということを忘れそうになるほどだ。さほど標高が下った感じはないものの、いつしか山毛欅の葉に紅葉は見られなくなっている。新緑の頃も美しいだろうが、初秋の柔らかい日差しによる木洩れ陽もなかなかいいものだ。
やがて一つ目の送電線鉄塔が見えてくると、再び尾根上に強烈な風が吹き始める。隣の尾根よりる風の影から出たのであろう。鉄塔と送電線に吹き付ける風が重たい持続音を奏でている。2本目の鉄塔の西側は樹木が伐採された尾根となっている。尾根を少し西に辿ってみると、再び美浜湾が目に入る。この尾根上にも薄い踏み跡が続いているようだ。
尾根を南下するにつれ山毛欅にかわって楓が目立つようになるが、相変わらず広々とした快適な尾根か続く。やがて突然、ススキの草原が広がるピークに飛び出す。583m峰だ。前回、訪れた晩秋はススキの穂が満開であったが、萌出したばかりの細いススキの穂が強風にそよいでいる。ここもおそらく風の通り道であることによる風衝草原なのだろう。確かに風は強いが、東から三国岳から大谷山を経て目の前の大御影山に至るまでの江若国境の山がずらりと並ぶ景色は壮観だ。それにしても興味深いのは丁度、この国境を境にして福井側はすっかり晴れていることだ。これも台風によるフェーン現象のせいだろう。
ススキの原の急斜面を下るとここからは東側の尾根を辿り、半ば地面に埋もれている送電線巡視路の黒いプラスチックの階段を探り当てて、下ってゆく。とはいえ、尾根の形か明瞭なので尾根筋を辿れば問題ないのであろうが。最後の送電線鉄塔にたどり着いた後は東側の急斜面を下る。前回は薄暗くなっていたこともあり、最後に巡視路を見失ったが今回は無事、最後まで巡視路を辿って黒谷の河畔に着地する。
半ば崩落している橋の手前を渡渉して、対岸の林道に上がると途端にあたりの空気が暑い。再び降りしきる蝉時雨の中を歩いて、車を停めた林道の入口に戻る。一気に季節が巻き戻されたようだ。
下山後は密かに楽しみにしているものがあった。早瀬浦の純米酒「夜長月」と「スズミサケ」を手に入れる。生産本数が少ないためにあまり市場に出回らないようだが、とりわけ気に入っている日本酒の一つだ。帰りは久々に熊川宿に寄り道して古民家でのランチに舌鼓を打つのだった。
コメント
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今年の秋には再訪したいと思っていましたが、先を越されました。
前回とは逆回りで、下りはもうひとつ東の尾根を歩いてみたいと思っています。
今回もお立ち寄りいただきありがとうございました。相変わらず奥さんが可愛い(笑)
もう一つ東の尾根が黒谷左岸尾根になりますね。この尾根もきになるところですが、秋の季節はいいでしょうね。レコを拝見するのを楽しみにしております。
>相変わらず・・・
そんなことを仰ってくださるのもflatwellさんくらいですよ
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