東篭ノ登山-池の平湿原、黒斑山 〜晩秋の空、壮大な景(ひかり)〜
- GPS
- 11:41
- 距離
- 27.8km
- 登り
- 1,670m
- 下り
- 1,669m
コースタイム
- 山行
- 4:48
- 休憩
- 0:33
- 合計
- 5:21
- 山行
- 5:09
- 休憩
- 1:09
- 合計
- 6:18
天候 | 22日 晴れ時々曇り、暴風。 23日 快晴 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2020年11月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
23日 高峰高原ホテルBS発16:19、佐久平駅着17:32、発17:51 JR北陸新幹線「あさま676号」(トクだ値50%オフ) |
コース状況/ 危険箇所等 |
なんと言ってもトーミの頭からカルデラへ下りる道(草すべり)。崖を下りる感じ。前夜の雨のせいか、とにかく滑る! |
その他周辺情報 | 日帰り入浴:高峰高原ホテル500円 高峰マウンテンホテル:昨年冬オープン。本物のリゾートホテル。非の打ち所がない。 |
写真
感想
浅間山の山域には、5月の連休に訪れる予定だったが、「宣言」により延期を余儀なくされ、さらにこの間、噴火警戒レベルが2に引き上げられたことにより前掛山へ行けなくなってしまった。
けれども悪いことばかりではない。そこここに感じられる晩秋の趣や、「Go To」や新幹線の大幅割引などは、思いがけずプレミア感を与えてくれた。金色に輝く湿原、雄大な浅間山の姿、眼下に見下ろすカルデラ、そしてようやく叶ったリゾートホテルでの滞在、忘れられない山旅となった。
新幹線で山に向かうのは久しぶりだが、乗車前にベックスでコーヒーを注文する「習慣」は忘れていない。車内は予想以上に空席が目立ち、静かな時間を過ごせた。高崎を過ぎた頃から車窓には青空が映り始めた。みるみる雲の量が減ってゆく。
佐久平駅には8時16分着、バスの発車まで9分であるため、乗り換え時間、乗車人数について心配していたが、乗客は私のほかに6名、全くの杞憂であった。高峰高原ホテルのバス停には、定刻どおり9時18分着、自宅を出てから4時間足らずで辿り着くことができた。
先ずは高峰温泉を目指して車道を歩く。前方には水ノ塔山と東篭ノ登山が待ち受けており、振り返ればゲレンデ越しに今日の宿、高峰マウンテンホテルが在った。
登山口を発ったのは9時45分、私にしては極めて遅い出発となった。ゲレンデの最上部を横目に見ながら岩がちな道を進む。高度を上げるに連れ、強風が吹き始める。予報によれば、風速20メートルは覚悟しなければならない。瞬く間に吐息が白く見え始めた。
水ノ塔山は、意外にも岩峰、直下には大岩が待ち構えている。風は容赦なく叩きつけ、少しでも安定を欠くと岩から滑り落ちそうだった。何とか辿り着いた山頂で、その素晴らしい眺望を堪能したのち、次なる峰を目指す。
40分後、東篭ノ登山に立った。風は更に強く、唯一の岩陰で突風を凌ぐ。パンをかじり、隙を見て東西南北の山々を見に出る。四阿山と後立山連峰が印象的だ。繰り返しているうちに大分撓れるようになった。今日の目的地に向かって「雪洞」を出た。
池の平湿原入口には誰もいなかった。夏場はマイカー規制されるほどの人気スポットも、この季節は閑散としている。先ずは、別名、三方ヶ峰旧火口湿原の「外輪山」を辿る。箱庭のような湿原は、低く立ち込めた雲に今にも覆い尽くされそうだった。まさか雨は降るまい。わかっていても自然に歩が速まる。
今から思えば不思議な体験をした。雲の切れ目からわずかに射した陽の光が、金色の野を照らして行く。まるで映画のワンシーンのような光景が眼前にあった。やがて何事もなかったかのように青空は広がり、ちぎれた雲が漂う。
昨年の入笠山大阿原湿原の時と同様、湿原の中に私一人がぽつんと存在していた。心底癒される時間と、静寂に包まれた空間を思う存分楽しんでいる。いつまでもその場にいたかった。
冬の布団の中から抜け出る勇気で、湿原をあとにする。林道を最高速の歩みで東へ進む。高峰温泉を通過し、おもむろにゲレンデに足を踏み入れる。すり鉢の要に存在する、瀟洒な建造物、いや作品に向かって一直線に近づいて行った。
杉板本実型枠の壁と巧みに配された窓、その美しい姿が、ゲレンデ側に擁する池に映し出される。主張をしない淑やかさで、見る者を惹きつける。チェックインまでの時間、ただただ魅せられていた。
本物のリゾートホテル、久しぶりに五感で感じた。素晴らしい滞在だった。外観に違わないシンプルモダン・コンセプト、粋を集めた設備機器、素敵な料理と笑顔、非の打ちどころが無い。ここまで書いて気恥ずかしいが、チェックアウトの際、設計者を尋ねると、私の古巣であることが判った。足取り軽く登山口へ向かったのは言うまでもない。
車坂峠から表コースで外輪山に向かう。予報では昼前から晴れることになっていた。珍しく朝食を取ったこともあり、いつになくゆっくりと歩を進めた。西と南に開けた場所からは、昨日訪れた山々や小諸市街を見渡せた。今日も良い一日となるだろう。
槍ヶ鞘から霧に霞むカルデラを望む。想像以上に深く、針葉樹林帯が美しい。その場所に下りたい衝動を抑え、トーミの頭に向かう。それはまるで岬に建つ灯台のように、浅間山、カルデラ、外輪山を見守っている。晴れていなくともそれらの存在を教えてくれているようだった。
いざその場に立つと、思わず怯んでしまった。300メートルの落差を一気に駆け下りるような急坂に、である。しかしここを下りなければカルデラの世界に入れない。意を決し、下り始めた。
然もあらん。草すべりの個所よりもはるか手前、滑ったら止まれなくなりそうな裸地部分に悪戦苦闘する。コースタイムより多くの時間を経て、ようやく「底」に辿り着いた。いつの間にか雲は退散し、見上げれば前掛山が眼前に聳える。圧巻とはこのことを言うのだろう。
上から覗くと神秘的な世界も、中に入れば、ごく普通の森の中。湯の平口分岐、前掛山分岐を経て、Jバンドに近づいてゆく。草木の育たない場所から望む外輪山の姿は、さながら堀から見上げる城壁、とても登れそうにない。などと他愛もない想いをしているうちに、雲はそのほとんどが消失していた。早く遅れを取り戻し、その一画でバーナーに火を灯さなければならない。
Jバンドは見た目よりも登りやすい「壁」だった。頂部近くでトラバース路は狭まるが、高度感を覚えるほどではない。登り切って、雲に包まれた四阿山を望む。さらに続く岩場へと足を向けた。
草すべりの道に比べれば、岩場を進むことはどれほど容易いことか。時折、噴煙立ち昇る本峰を振り返りながら、存分に楽しんだ。仙人岳を通過し、休憩予定地の蛇骨岳に到達、12時だった。遠く姥ヶ原の集落から正午を伝える放送が聞こえて来た。腰を下ろし、バーナーとカップ麺を取り出そうとして、食欲の無いことに気が付いた。あの満たされた朝食のお蔭で、気力も体力も充実、しばらく青空を眺めて今日の目的地に向かった。
そよ風は心地よく、稜線の道は当然のように快適だった。見下ろせばカルデラの森。今朝よりも深さを感じない。浅間山は複合カルデラを有する火山。次の訪問時には、前掛山から内側を望みたい。
岩場での巻き返しや、休憩時間を削ったために、黒斑山には予定よりも40分ほど早く到達した。浅間山の姿を目に焼き付ける。そして素敵な山野に別れを告げ、下山の途に付いた。
中コースは樹林帯の中をひたすら下る。ほぼ同じ勾配が続くが、飽きることは無かった。ピッチを上げて下山後の楽しみに思いを馳せる。14時、登山口の車坂峠に帰着した。
高峰高原ホテルにバスの発車時刻までの2時間半を預けた。温泉に浸かり、ソフトクリームを食し、八ヶ岳と富士山を望みながらコーヒーを味わう。雲はたなびき、晩秋の空はどこまでも高い。充足感に包まれながら機内モードを解除し、ネットで下山通知を行い、心配していない人々にスタンプと写真を送った。壮大な夢から覚める時間が近づいていた。
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