茂倉谷(谷川岳〜一ノ倉岳〜茂倉谷)
コースタイム
- 山行
- 12:20
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 12:20
Kさんとは初対面だ。
だが、この山行が遭難未遂山行となり、Kさんとは苦い初対面の山行となった。
前夜に花園の道の駅で落ち合い、我が家の車をデポして、湯沢中里駅へ。
駅で久々のステビバ。
土樽と違って広くて快適。
朝、土樽まで行き、車をデポ。
隣にも山屋のおじちゃん。
装備からして、足拍子か?とか思ってたら、水上方面の電車から降りてきた相方のおじちゃんが登場。
夫とKさんがちらちらそっちを見てるなとか思ったら、どうやら秀峰登高会の元会長さんだったようだ。
土樽に向かうときに、もう谷川に雲かかってるのが見え、
雲かかってるな?
どうする?
なんて会話をしたが、そのときは、行ってみて判断しようとなった。
電車を待ってる間、昔、駅の裏にあった土樽スキー場が見えないか、うろうろ。
土樽スキー場は1941年開業の元祖駅前ゲレンデ。
リフト1本、2コースしかなく、現在のプリンス配下で経営していた小規模スキー場だが、2004年に営業を廃止したスキー場である。
土樽には何回か来ているが、そんなことは知らなかったので、スキー場昔話に興味が出たのだった。
ちょっとだけ見えるが、こんなところにつくって、そりゃ採算合わないだろうなという感じ。
始発の水上行きの電車に乗り、谷川岳ロープウェイの駅へ。
午前中は天気持ちそうなので、人もそこそこ。
天神平から歩き始めるも、すでに稜線は怪しい感じ。
今年はそれなりに、雪が降ったので、熊穴沢避難小屋の手前の岩場は、岩がそこまで露出しておらず、比較的歩きやすい。
Kさんも一緒とのことで、クライマー二人のペースについていけるか不安だったが、子育てで山はしばらくお預け状態だったKさんのペースは思ったよりゆっくりで
、内心ほっとした。
熊穴沢避難小屋あたりからガスり始め、視界も20mほどしか効かなくなってきた。
こりゃ、肩の小屋かオキノ耳までで撤退だなと思い、どうするか夫に聞くも、行く気でいる。
まお、じゃぁ先の様子で判断かと思い、登り続けるも、ガスがとれる気配なし。
肩の小屋に着くも、他のパーティはそのまま引き返して行くパーティが大半。
我々はどうするかと話すも、ダメなら西黒沢下降とか計画書にも書いてないことを誰かが言い始める。
おまけにガスで下も見えないのに、滑れるわけないだろという感じ。
Kさんもこれは撤退でもいいんじゃないと言うが、それでも夫は諦めないで、とりあえず、オキノ耳までときかない。
オキノ耳では、時折、空が明るくなり、遠くにわずかに一瞬青空が見えたりしていた。
そんな感じだったので、もしかしたら、少しは天気ましになるかもとかいう淡い期待を抱いてしまった。
ここで装備トラブル発生。
縦走路の途中で、Kさんのポールがスノーバスケットより数センチ上でポキッと折れてしまった。
ストックでアイゼンにできた、雪だんごを落としていたので、それで駄目になったかもとのこと。
これでは、とても滑れないだろうと、「こりゃ、行くなってことだよ」と言うが、Kさんがまぁでも行けると思うと言ったため、夫も本人がそう言うならとなり、そのまま行動を何故か続けてしまった。
夫は、入山前は天気を気にするくせに、入山して天気が悪くなってきても、天気を気にする気配がない。
天気予報を見ると、少なくともよくなる感じではないのに、来たからには滑りたいという思いから、一ノ倉岳を越えれば天気ましになるからと、論理的な思考ができず、自分の願望で動いている。
次第に天気が荒れ始め、視界がほぼきかない状態となった。
どんどん先に行く夫に対して、私とポールが駄目になったKさんではペースが合わず、待って!と何回も夫を呼び止め、はぐれないようにする始末。
水分を多く含んだ重い雪の風雪の荒れ模様となり、着ているものも濡れてきた。
こんな状況下になっても、茂倉岳まで行けば下るだけだからというような考えでいる夫を見て、Kさんが
「お前、死にたいのか!?こんなことしてたら死ぬぞ!」
と怒った。
この状況で、口には出さずとも胸の中では下手したら遭難するかもと思ってたので、はっきりと言語化されてどきっとした。
夫がGPSを便りにルートファインディングするが、ガスってるとルートファインディングが難しい。
合ってるのか間違ってるのか不安になる。
夫が稜線上の雪庇を嫌って、尾根を南側からトラバースするように歩くが、先は雪壁のトラバース。
夫はバックステップですいすい下って行くが、私は、経験したことのない斜度の雪壁のトラバースにしばらく動揺して動けなかった。
これまで、自分が経験したことのある雪壁といえば、MAXは白馬岳主稜で5峰付近で敗退したときくらいだ。
ガスの合間から急斜面がどこまでも続くのがときおり見える。
ミスれば、そのまま200〜300mほど滑落し、そこで致命的にぬらずとも、怪我で動けない、仲間も救助を呼べない、明日も天候悪く救助ヘリは飛べないのを考えると、低体温症でそのまま「死ぬ」ということが頭によぎった。
仮に稜線上か避難小屋でビバークしても、重度の凍傷を負う可能性がある。
ここで泣いても仕方ない。
泣いたら気持ちに負けてミスして本当に遭難する。
泣きたい気持ちを堪えて、必死にトラバースした。
グサグサの雪にピッケルとカーボンウィペットポール。
おまけに板を担いでいる。
一歩一歩慎重にバックステップで下る。
尾根を乗っ越すところでは、笹が出ていたため、左手に笹を掴み、右手ではピッケルのピックを凍結した土壁に刺して乗っ越し、登り返した。
見えないが夫がファイト〜!ファイト〜!とエールを送っている。
登り返すと茂倉岳から西に伸びる尾根(茂倉新道)に出た。
夫とKさんの顔を見れて、ほっ。
これで生きて帰れる。
少し安堵した。
私がなかなか来ないものだから、Kさんは滑落してしまったのではないかと思ったらしい。
ほっとするものの、茂倉岳の避難小屋は見つけられず。
風と雪が酷いので、茂倉新道は下らず、そのまま茂倉谷を下ることに。
1050mあたりまで標高を落とすと、ようやく、風と雪も弱まり、下も見えてきた。
ただ、今度は踏み抜いたり、デブリがひどい、
今年は3月に入ってから雨が多かったせいか、過去の記録で把握してたよりも、結構、デブっていたように感じる。
スキーで滑るが、Kさんはストックトラブルでストックが片方しか使えず、滑れない。
このままでは、在京担当への連絡時間の21:00をまわってしまうので、私と夫は先にスキーで下山して、在京に連絡、車を回収して、土樽PAでKさんと落ち合うことにした。
途中、先を行く夫が雪崩だ〜雪崩だ〜と叫んでいる。
すでに雪はあらかた落ちてるため、小規模の雪崩だった。
怪我はなかったが、恐らく、これよりちょっと前に福島で震度5の地震があったこと、雨が降ってきたことから、雪崩れたのかもしれない。
下部に行くとやがて沢も割れており、流れている。
夫も私も初めてだったので、渡渉しやすようなところを見つけて、左岸→右岸→左岸と渡った。
ブーツはびしょびしょ。
あとから聞いたら、Kさん曰く、渡渉は一回のみとのことだった。
堰堤を越えると、土樽PAの明かりが見えてきた。
あとは道路に出て、適当に板を走らせて、途中から歩いて土樽駅へ。
21:20頃、土樽駅に到着。
久々の12時間行動となった。
急いで、車を土樽PAに走らせると、Kさんも下山して帰りの準備をしているところだった。
生きて帰ってこれてよかったと話ながら、土樽PAでびしょびしょになった衣服を着替え、我が家の車をデポした道の駅花園へ帰った。
さすがに、つかれてその日のうちに帰る気がせず、そのまま我が家もKさんも道の駅で寝て、翌日、解散。
私は午後から仕事だったので、仕事で家を出る一時間前に帰ってきて、風呂に入り、仕事に行くという感じだった。
今回の山行で、軽度だが凍傷をやってしまった。
二回目である。
足よりも手の指の方が症状が強い。
濡れた手袋で行動をしていたが、外気も冷たかったので、やられたようだ。
中でも、中指と薬指は長いので、他の指より感覚がなくしびれが強い。
指の長さでこんなに違うのかと思う。
この程度で済んだけど、気を付けないと、自分の体の一部を失くすので気を付けないとなと思う。
天候 | 曇り→雪 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2021年03月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 自家用車
越後中里駅でSB 駅の中広くて快適。 ■駐車 土樽駅に車デポ |
コース状況/ 危険箇所等 |
■天神平〜谷川岳 ・危険箇所なし ・熊穴沢避難小屋前の岩場は昨年より雪あり、下りやすい ■谷川岳〜茂倉岳避難小屋 ・一ノ倉岳より先、クラック、踏み抜きあり。 ■茂倉岳避難小屋〜茂倉谷〜土樽駅 ・踏み抜き多し。 ・標高1050mあたりからデブリランド。 ・沢は割れている箇所があるため、よく観察しながら板走らせること。 ・側壁からの雪崩あり。 ・渡渉箇所あり。沢は浅いので落ちても大丈夫。 |
写真
装備
個人装備 |
ピッケル 使用<br />カーボンウィペットポール 使用<br />クトー 使用せず
|
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備考 | カーボンウィペットポール持って行っててよかった |
感想
3月とはいえ、油断禁物。
気象条件によっては、山はあっという間に冬に逆戻りする。
そんなことをこの山行で、改めて思い起こさせられた。
入山時にすでに予想よりも早くから天気が崩れ始めていたこと、GPVを見ても、昼から天気は下り坂で回復する見込みはないのはないのはわかっていたことから、今回の山行の件は、まず天候の判断ミスがあった。
加えて、装備のトラブルがあったのにも関わらず、冷静な判断ができず、山行を強行したのは、自身の技術力や今までの経験に対して過度な自信があったからだと思われる。
いつも滑れているのは、ストックが2本あることが前提。
ストック片方だけで、ゲレンデとは違う自然の中を滑ってトラバースしたりできるだろうか?
今まで谷川のアルパインルートは何回も行っているし、所詮は雪のある一般ルートだから、茂倉岳まで行けばあとは滑るだけ、せっかく来たから滑りたいという考えの甘さもあったように思われる。
(これは主に夫)
私はといえば、何回か撤退しようと言ってもきかなかった夫に対して、もっと強く言うべきであった。
初対面のKさんがいたのもあり、いつもより強く出なかったのもある。
(いつもの感じなら、そんなに行きたければ一人で行けば?とぶちギレる。)
自然の力を前にして、恐怖より自信の願望や甘い考えが勝ると簡単に遭難に陥ると感じた。
親より先に死んで親を悲しませることはあってはいけないし、五体満足で生きて山を続けたいので、この経験を無駄にせず、今後も山を続けたいと思う。
しかし、滑落したら死亡レベルのきわどい雪壁のトラバースをロープなしで板担いでして、一生のトラウマになりそう。。
いつか、茂倉谷はもう一度行って、青い空の下、ひゃっほーしたい。
polarisさん
ご無事で何よりでした。
読んでいて、かなりリアルな恐怖感が伝わってきました。
自分はBCをちょこっとかじりましたが、怖くて現在はやっていません(笑)
歩き慣れたところでも、板に乗っていればまた違うし、強風、寒さは冷静な判断を失いますよね。
本当に、ご無事でよかったです!
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