記録ID: 3756886
全員に公開
無雪期ピークハント/縦走
比良山系
日程 | 2021年11月19日(金) [日帰り] |
---|---|
メンバー | |
アクセス |
利用交通機関
経路を調べる(Google Transit)
|




地図/標高グラフ


標高グラフを読み込み中です...
表示切替:
コースタイム [注]
- 日帰り
- 山行
- 9時間56分
- 休憩
- 56分
- 合計
- 10時間52分
コースタイムの見方:
歩行時間
到着時刻通過点の地名出発時刻
過去天気図(気象庁) |
2021年11月の天気図 [pdf] |
---|
写真
感想/記録
by yamaneko0922
この日は夕方から京都市内での仕事の予定があり夕方までに下山する必要があるのだが、夏以来、調子が悪かった左脚もほとんど快復したように思うので、久しぶりに比良の縦走を考える。
ラジオから流れてくる天気予報では日中の最高気温が19℃から20℃まで上がる予報であり、10月中旬なみの暖かさだという。天気予報の続いて流れてきたのはロシア文学者によるドストエフスキーの話だ。今年はドストエフスキーの生誕200年に当たるらしい。カラマーゾフの兄弟の時代拝見を説明してくれたのはいいが、長大な作品の最後で明かされることになるカラマーゾフの父親殺害の真犯人を明かしてしまうのは如何なものかと思った。
権現山の登山口に到着したのは4時半。前回、比良を南北に縦走したのは5/14であった。レコを確認すると4時に登り始め、権現山の山頂でタイミングよくご来光を迎えている。今の時期はこの時間から登り始めても小女郎峠のあたりでもご来光の時間にはまだ早いだろう。
林道を歩き始めるとすぐにも斜面から湧き出している水場があるので水を汲み直す。ズコノパンを過ぎるとあたりの広葉樹はすべからく落葉した後のようだ。西の空で煌々と光を放つ。権現山に到着すると風があるがさほどの寒さを感じないので手袋をはめる必要性を感じない。堅田のあたりの夜景を撮ると先に進む。
小女郎峠が近づくと東の空が茜色に染まり、ブルーアワーの時間が始まる。西の方角をみると月が笹原の稜線の向こうに沈んでゆくところだった。
徐々に明るくなるにつれて眼下には雲海が広がっていることに気がつく。日の出の時間まではまだ十分な時間がありそうなので、小女郎ヶ池に向かう。暁の小女郎ヶ池を訪れるのは早朝の南比良の山行での大きな愉しみの一つだ。
峠からはわずかに300mほどの距離なのだが、池が近づくにつれ急に気温が低くなりあたりに冷気が漂うのが感じられる。池の伝説と相俟って幽冥な雰囲気が漂う。辺りを見るとい池の周囲だけに霜が降りて、まるで魔法でもかけられたかのように白く凍てついているのだった。
池の周りが凍てついているのは有難い。というのも草が朝露に濡れた草の中を通過すると、この日に履いている防水性のないトレラン・シューズでは靴の中までびしょ濡れになるからだ。
霜化粧を施された草はらを辿って池を周回する。池の水鏡は葉を落とした池のほとりの
樹々のシルエットの美しさを強調している。
再び小女郎峠に戻ると、右手に茫洋と広がる雲海を見ながら蓬莱山へと登ってゆく。蓬莱山の山頂はテラスやブランコが作られ、すっかり行楽地のようだ。ひと気のない蓬莱山で日の出の刻を待つ。雲海が比良の山裾まで押し寄せており、まるで山腹が白い波を洗っているかのようだ。
やがて雲の上から朝日が昇ると、辿ってきた南比良の稜線が茜色に輝きだす。山頂の北側から朝陽を浴びる武奈ヶ岳の姿を確認するとゲレンデを下って打見山に向かう。
打見山の山頂から木戸峠に向かうにはゲレンデの中を下ってゆくことになる。私の存在に気がついたからであろうか。何十頭という夥しい数の鹿の群れがゲレンデの下に向かって駆け下りてゆく。
ゲレンデを下るよりも右手のリョウブの樹林の尾根の中を降ろうと思い、尾根に足を踏み入ると樹の間で動くものがある。鹿が罠にかかって逃れようともがき続けているのだった。
尾根を下るとまもなく木戸峠に向かって山腹をトラバースする古道と合流する。木戸峠からは表比良縦走路となるが、縦走路は比良岳の山頂を通過しないので登山道を離れて、比良岳の南斜面を谷筋を歩いて山頂に向かう。
比良岳の南西に広がる緩斜面にはいくつかの尾根と谷筋がおりなす複雑な地形にブナやカエデの広葉樹の疎林が広がり、比良の中でも林相がとりわけ美しい場所の一つといえるだろう。すでに多くの樹々は落葉しているが、林床ではイワヒメワラビが枯れずに残っている箇所が多い。
前回、比良を縦走した時は烏谷山から南比良峠の間はシロヤシオが花盛りであり、なかなか先に進めなかった憶えがある。足を止めることなく歩き続けるとこんなに近かったかなと思うほどにすぐに荒川峠にすぐに到着する。
南比良峠の手前では杉の植林の急下降となるので、植林を避けて尾根筋の下降を試みる。しかし尾根には踏み跡の類はなく、低木の藪こぎとなる上に、悪意のあるサルトリイバラが頻繁に通行を妨げる。どうやらここは足を踏み入れない方が良いところのようだ。
堂満岳へは南尾根を辿ってピークに向かうのが恒例となっている。尾根の下部では踏み跡が不明瞭ではあるが、尾根芯を辿るうちにすぐにも明瞭な踏み跡が現れる。堂満岳にたどり着くと、東側には相変わらず雲海が果てしなく広がっているようだ。
東レ新道を通って金糞峠に向かう。前回はシャクナゲが多く見られたが、この尾根も花が咲いていないと何とも早く感じる。金糞峠から武奈ヶ岳に向かうにはコヤマノ岳を経て武奈ヶ岳に向かうのが最短コースとなるが、ベージュ色に衣替えをした西南稜からの武奈ヶ岳の姿を見たくなり、ワサビ峠に向かうことにする。
まずは中峠に向かうべくヨキトウゲ谷に入る。ブナの樹が立ち並ぶ中峠を越えて奥ノ深谷の源頭に下る。このルートは昨年の5月、敦賀からこ来られた単独行の男性が奥ノ深谷に迷い込み亡くなられたところだ。コース自体には危険なところはないのだが、谷の左岸のトラバース道に入らずに中峠から深谷に向かって下降してしまったのだろうか。奥ノ深谷の上流の渡渉地点は下流に孕む危険を感じさせないほどに穏やかな平流がコポコポと静かな音を立てて流れていた。
水のない枯沢をワサビ峠に登り西南稜に出る。西南稜から目の間に大きく武奈ヶ岳が姿を表す瞬間は常に感動的だ。この時間帯であれば坊村から登ってこられた登山者が他にもおられるかと思っていたが、珍しく人の気配が感じられない。
視界に入るのは背景に広がる蒼空と山頂へと至るなだらかの稜線に広がるベージュ色のツートーンのみだ。背後を振り返ると蓬莱山から辿ってきた山並みが大きく広がる。パノラマの広がる稜線を歩く爽快感を堪能しつつ、武奈ヶ岳への最後の斜面を辿る。
武奈ヶ岳の山頂に達すると右手の釈迦岳越しに琵琶湖の展望が目に入る。いつ果てるともなく広がるように思われた雲海がさすがに消えており、湖面が鈍く白い光を反射している。相変わらず遠くの鈴鹿の山並みは薄ぼんやりと霞んでいるようだ。
山頂では山頂の北側に広がる苔もいつもは緑色が鮮やかに感じられるところだが、褐色を帯びているようだ。斜面を下るとすぐにもイワヒメワラビノ草原となるが、ここではイワヒメワラビはすっかり枯れていた。
釣瓶岳からは苔の広がるイクワタ峠の稜線が眼下に見下ろし、その先には蛇谷ヶ峰に向かって延々と続いてゆく奥比良の稜線が伸びている。この稜線の下降もかなり爽快なところだ。上から見た時にはかなり距離があるように思えるのだが、みるみるうちにイクワタ峠が近づいてくる。
ここで単独行の女性とすれ違う。釣瓶岳から先は滅多に人とは出遭わないところなので、この日は蛇谷ヶ峰までは人に出遭わないものとばかり思っていたので意外であった。栗木田谷から登って来られたらしい。
イクワタ峠を過ぎて樹林の手前に差し掛かると、蛇谷ヶ峰に至るまででパノラマの展望はしばらくお預けとなる。ここは忘れたくても忘れることの出来ないことを回想することになる。今年の初秋にイクワタ峠でテン泊した時、近江高島方面の夜景を撮りにここに来ると暗闇の中から熊が威嚇する咆哮が聞こえてきたのだった。
地蔵峠のあたりまでは植林が続くが、まもなく横谷峠にかけてしばしの間、林相の美しい自然林の尾根となる。既に多くの樹々は落葉したところではあるが、タカノツメやカエデの紅葉の名残が目を愉しませてくれる。
横谷峠からは滝谷の頭にかけて地味な植林が続くが滝谷の頭からは再び自然林が広がる。2年前の晩秋にここを訪れた時にはもう少し紅葉が残っていたように思われるが、ここでも広葉樹の多くは落葉している。尾根とほぼ平行に走る西側の谷筋の方が紅葉の名残りが見られるので、水のない谷筋を歩く。
源頭が付近から谷の右岸の尾根にわずな急登で登り詰めると蛇谷ヶ峰の山頂はもうすぐだ。山頂では二組のパーティーが休憩しておられた。時間は12時半過ぎ、ほぼ計算通りのコースタイムで来ているように思われる。ここからは朽木の市場に下って安曇川駅までバスで向かうという方法も選択肢に考えていたのだったが、まだ時間に余裕があると見て阿弥陀山に向かう。
蛇谷ヶ峰からは北東の尾根を辿ってスキー場に下るつもりだったのだが、気がついたら東に向かう尾根の急下降に入り込んでいた。急下降が終わってスキー場の東側の尾根に差し掛かると、色とりどりの紅葉が樹林の中にステンドグラスのような透過光を落としている。紅葉が素晴らしく、思わず足を止めることになる。入部谷越にかけての尾根は既に荒れている箇所が多く、尾根直下の斜面のトラバースを余儀なくされる箇所が多い。入部谷越には予想よりもかなり時間を要してたどり着くのだった。
ca520mの小ピークで東向きに方向を転じると、阿弥陀山にかけては尾根上の廃林道歩きが続く。以前、この尾根を歩いた時には饗庭野の自衛隊の演習場から間断なく砲迫の音が聞こえてきて、心地の良いものではなかったが、この日は有難いことに砲迫の演習はないようだ。
蛇谷ヶ峰の山頂から眺めた時は阿弥陀山の山頂一帯は紅葉に染まっており、確かにこのあたりでは紅葉は十分に残っているのだが、スキー場のあたりの方が紅葉は綺麗なように思われた。
阿弥陀山からは地図には記されていないが、かつての木馬(きんま)道が登山道として良好に整備されており、快適に下る。登山口が近くなったところで右手に太山寺城址への案内板がある。以前から興味がある場所だったので杉の植林の中をトラバースして城址に向かうのだが、この選択は後で完全に裏目に出ることになる。
谷を挟んで対岸の尾根に乗ると段丘状の平坦地が忽然と現れ、わずかに石積みも見られる。周辺一帯は植林の杉林となり、晩秋の西陽が林の中に直線的な長い影を落としている。不自然な平坦地のみがかつての太山寺城址の存在を伺わせるよすがであった。
谷に戻り、谷筋の細い踏み跡を辿るとすぐにも林道に出る。電波のアンテナが立つので、スマホで安曇川駅の湖西線の時間を確認すると次は15時34分。その次は40分後となるので、何とか次の列車に間に合いたいところだが、残り6kmほどを30分ほどで走らなければならない。普段であれば問題なく走れるであろうが、既に35km近く縦走してきたところで最後のランニングは精神的にきついものがある。駅まで走り続けて、列車が到着する5分前には駅に到着するのだった。
和邇の駅からタクシーで出発地点に向かい、帰路につく。太陽は既に山の向こうに沈み、法華山から蓬莱山へと至る稜線の上のあたりのみが夕陽を浴びて輝いていた。
自宅に戻り、夕方の仕事に向かうために外に出ると比叡山の上で月が大きく欠けている。この日は皆既月食なのだが仕事があるのが残念だ。
ラジオから流れてくる天気予報では日中の最高気温が19℃から20℃まで上がる予報であり、10月中旬なみの暖かさだという。天気予報の続いて流れてきたのはロシア文学者によるドストエフスキーの話だ。今年はドストエフスキーの生誕200年に当たるらしい。カラマーゾフの兄弟の時代拝見を説明してくれたのはいいが、長大な作品の最後で明かされることになるカラマーゾフの父親殺害の真犯人を明かしてしまうのは如何なものかと思った。
権現山の登山口に到着したのは4時半。前回、比良を南北に縦走したのは5/14であった。レコを確認すると4時に登り始め、権現山の山頂でタイミングよくご来光を迎えている。今の時期はこの時間から登り始めても小女郎峠のあたりでもご来光の時間にはまだ早いだろう。
林道を歩き始めるとすぐにも斜面から湧き出している水場があるので水を汲み直す。ズコノパンを過ぎるとあたりの広葉樹はすべからく落葉した後のようだ。西の空で煌々と光を放つ。権現山に到着すると風があるがさほどの寒さを感じないので手袋をはめる必要性を感じない。堅田のあたりの夜景を撮ると先に進む。
小女郎峠が近づくと東の空が茜色に染まり、ブルーアワーの時間が始まる。西の方角をみると月が笹原の稜線の向こうに沈んでゆくところだった。
徐々に明るくなるにつれて眼下には雲海が広がっていることに気がつく。日の出の時間まではまだ十分な時間がありそうなので、小女郎ヶ池に向かう。暁の小女郎ヶ池を訪れるのは早朝の南比良の山行での大きな愉しみの一つだ。
峠からはわずかに300mほどの距離なのだが、池が近づくにつれ急に気温が低くなりあたりに冷気が漂うのが感じられる。池の伝説と相俟って幽冥な雰囲気が漂う。辺りを見るとい池の周囲だけに霜が降りて、まるで魔法でもかけられたかのように白く凍てついているのだった。
池の周りが凍てついているのは有難い。というのも草が朝露に濡れた草の中を通過すると、この日に履いている防水性のないトレラン・シューズでは靴の中までびしょ濡れになるからだ。
霜化粧を施された草はらを辿って池を周回する。池の水鏡は葉を落とした池のほとりの
樹々のシルエットの美しさを強調している。
再び小女郎峠に戻ると、右手に茫洋と広がる雲海を見ながら蓬莱山へと登ってゆく。蓬莱山の山頂はテラスやブランコが作られ、すっかり行楽地のようだ。ひと気のない蓬莱山で日の出の刻を待つ。雲海が比良の山裾まで押し寄せており、まるで山腹が白い波を洗っているかのようだ。
やがて雲の上から朝日が昇ると、辿ってきた南比良の稜線が茜色に輝きだす。山頂の北側から朝陽を浴びる武奈ヶ岳の姿を確認するとゲレンデを下って打見山に向かう。
打見山の山頂から木戸峠に向かうにはゲレンデの中を下ってゆくことになる。私の存在に気がついたからであろうか。何十頭という夥しい数の鹿の群れがゲレンデの下に向かって駆け下りてゆく。
ゲレンデを下るよりも右手のリョウブの樹林の尾根の中を降ろうと思い、尾根に足を踏み入ると樹の間で動くものがある。鹿が罠にかかって逃れようともがき続けているのだった。
尾根を下るとまもなく木戸峠に向かって山腹をトラバースする古道と合流する。木戸峠からは表比良縦走路となるが、縦走路は比良岳の山頂を通過しないので登山道を離れて、比良岳の南斜面を谷筋を歩いて山頂に向かう。
比良岳の南西に広がる緩斜面にはいくつかの尾根と谷筋がおりなす複雑な地形にブナやカエデの広葉樹の疎林が広がり、比良の中でも林相がとりわけ美しい場所の一つといえるだろう。すでに多くの樹々は落葉しているが、林床ではイワヒメワラビが枯れずに残っている箇所が多い。
前回、比良を縦走した時は烏谷山から南比良峠の間はシロヤシオが花盛りであり、なかなか先に進めなかった憶えがある。足を止めることなく歩き続けるとこんなに近かったかなと思うほどにすぐに荒川峠にすぐに到着する。
南比良峠の手前では杉の植林の急下降となるので、植林を避けて尾根筋の下降を試みる。しかし尾根には踏み跡の類はなく、低木の藪こぎとなる上に、悪意のあるサルトリイバラが頻繁に通行を妨げる。どうやらここは足を踏み入れない方が良いところのようだ。
堂満岳へは南尾根を辿ってピークに向かうのが恒例となっている。尾根の下部では踏み跡が不明瞭ではあるが、尾根芯を辿るうちにすぐにも明瞭な踏み跡が現れる。堂満岳にたどり着くと、東側には相変わらず雲海が果てしなく広がっているようだ。
東レ新道を通って金糞峠に向かう。前回はシャクナゲが多く見られたが、この尾根も花が咲いていないと何とも早く感じる。金糞峠から武奈ヶ岳に向かうにはコヤマノ岳を経て武奈ヶ岳に向かうのが最短コースとなるが、ベージュ色に衣替えをした西南稜からの武奈ヶ岳の姿を見たくなり、ワサビ峠に向かうことにする。
まずは中峠に向かうべくヨキトウゲ谷に入る。ブナの樹が立ち並ぶ中峠を越えて奥ノ深谷の源頭に下る。このルートは昨年の5月、敦賀からこ来られた単独行の男性が奥ノ深谷に迷い込み亡くなられたところだ。コース自体には危険なところはないのだが、谷の左岸のトラバース道に入らずに中峠から深谷に向かって下降してしまったのだろうか。奥ノ深谷の上流の渡渉地点は下流に孕む危険を感じさせないほどに穏やかな平流がコポコポと静かな音を立てて流れていた。
水のない枯沢をワサビ峠に登り西南稜に出る。西南稜から目の間に大きく武奈ヶ岳が姿を表す瞬間は常に感動的だ。この時間帯であれば坊村から登ってこられた登山者が他にもおられるかと思っていたが、珍しく人の気配が感じられない。
視界に入るのは背景に広がる蒼空と山頂へと至るなだらかの稜線に広がるベージュ色のツートーンのみだ。背後を振り返ると蓬莱山から辿ってきた山並みが大きく広がる。パノラマの広がる稜線を歩く爽快感を堪能しつつ、武奈ヶ岳への最後の斜面を辿る。
武奈ヶ岳の山頂に達すると右手の釈迦岳越しに琵琶湖の展望が目に入る。いつ果てるともなく広がるように思われた雲海がさすがに消えており、湖面が鈍く白い光を反射している。相変わらず遠くの鈴鹿の山並みは薄ぼんやりと霞んでいるようだ。
山頂では山頂の北側に広がる苔もいつもは緑色が鮮やかに感じられるところだが、褐色を帯びているようだ。斜面を下るとすぐにもイワヒメワラビノ草原となるが、ここではイワヒメワラビはすっかり枯れていた。
釣瓶岳からは苔の広がるイクワタ峠の稜線が眼下に見下ろし、その先には蛇谷ヶ峰に向かって延々と続いてゆく奥比良の稜線が伸びている。この稜線の下降もかなり爽快なところだ。上から見た時にはかなり距離があるように思えるのだが、みるみるうちにイクワタ峠が近づいてくる。
ここで単独行の女性とすれ違う。釣瓶岳から先は滅多に人とは出遭わないところなので、この日は蛇谷ヶ峰までは人に出遭わないものとばかり思っていたので意外であった。栗木田谷から登って来られたらしい。
イクワタ峠を過ぎて樹林の手前に差し掛かると、蛇谷ヶ峰に至るまででパノラマの展望はしばらくお預けとなる。ここは忘れたくても忘れることの出来ないことを回想することになる。今年の初秋にイクワタ峠でテン泊した時、近江高島方面の夜景を撮りにここに来ると暗闇の中から熊が威嚇する咆哮が聞こえてきたのだった。
地蔵峠のあたりまでは植林が続くが、まもなく横谷峠にかけてしばしの間、林相の美しい自然林の尾根となる。既に多くの樹々は落葉したところではあるが、タカノツメやカエデの紅葉の名残が目を愉しませてくれる。
横谷峠からは滝谷の頭にかけて地味な植林が続くが滝谷の頭からは再び自然林が広がる。2年前の晩秋にここを訪れた時にはもう少し紅葉が残っていたように思われるが、ここでも広葉樹の多くは落葉している。尾根とほぼ平行に走る西側の谷筋の方が紅葉の名残りが見られるので、水のない谷筋を歩く。
源頭が付近から谷の右岸の尾根にわずな急登で登り詰めると蛇谷ヶ峰の山頂はもうすぐだ。山頂では二組のパーティーが休憩しておられた。時間は12時半過ぎ、ほぼ計算通りのコースタイムで来ているように思われる。ここからは朽木の市場に下って安曇川駅までバスで向かうという方法も選択肢に考えていたのだったが、まだ時間に余裕があると見て阿弥陀山に向かう。
蛇谷ヶ峰からは北東の尾根を辿ってスキー場に下るつもりだったのだが、気がついたら東に向かう尾根の急下降に入り込んでいた。急下降が終わってスキー場の東側の尾根に差し掛かると、色とりどりの紅葉が樹林の中にステンドグラスのような透過光を落としている。紅葉が素晴らしく、思わず足を止めることになる。入部谷越にかけての尾根は既に荒れている箇所が多く、尾根直下の斜面のトラバースを余儀なくされる箇所が多い。入部谷越には予想よりもかなり時間を要してたどり着くのだった。
ca520mの小ピークで東向きに方向を転じると、阿弥陀山にかけては尾根上の廃林道歩きが続く。以前、この尾根を歩いた時には饗庭野の自衛隊の演習場から間断なく砲迫の音が聞こえてきて、心地の良いものではなかったが、この日は有難いことに砲迫の演習はないようだ。
蛇谷ヶ峰の山頂から眺めた時は阿弥陀山の山頂一帯は紅葉に染まっており、確かにこのあたりでは紅葉は十分に残っているのだが、スキー場のあたりの方が紅葉は綺麗なように思われた。
阿弥陀山からは地図には記されていないが、かつての木馬(きんま)道が登山道として良好に整備されており、快適に下る。登山口が近くなったところで右手に太山寺城址への案内板がある。以前から興味がある場所だったので杉の植林の中をトラバースして城址に向かうのだが、この選択は後で完全に裏目に出ることになる。
谷を挟んで対岸の尾根に乗ると段丘状の平坦地が忽然と現れ、わずかに石積みも見られる。周辺一帯は植林の杉林となり、晩秋の西陽が林の中に直線的な長い影を落としている。不自然な平坦地のみがかつての太山寺城址の存在を伺わせるよすがであった。
谷に戻り、谷筋の細い踏み跡を辿るとすぐにも林道に出る。電波のアンテナが立つので、スマホで安曇川駅の湖西線の時間を確認すると次は15時34分。その次は40分後となるので、何とか次の列車に間に合いたいところだが、残り6kmほどを30分ほどで走らなければならない。普段であれば問題なく走れるであろうが、既に35km近く縦走してきたところで最後のランニングは精神的にきついものがある。駅まで走り続けて、列車が到着する5分前には駅に到着するのだった。
和邇の駅からタクシーで出発地点に向かい、帰路につく。太陽は既に山の向こうに沈み、法華山から蓬莱山へと至る稜線の上のあたりのみが夕陽を浴びて輝いていた。
自宅に戻り、夕方の仕事に向かうために外に出ると比叡山の上で月が大きく欠けている。この日は皆既月食なのだが仕事があるのが残念だ。
お気に入り登録-人
拍手で応援
訪問者数:351人
コメント
この記録に関連する本
この記録に関連する登山ルート
この場所を通る登山ルートはまだ登録されていません。
この記録で登った山/行った場所
- 武奈ヶ岳 (1214.2m)
- 蓬莱山 (1174m)
- 金糞峠 (877m)
- 堂満岳 (1057m)
- 権現山 (996m)
- ズコノバン (758m)
- ホッケ山 (1050m)
- 小女郎峠 (1077m)
- 蛇谷ヶ峰 (901.7m)
- ボボフダ峠 (656m)
- 小女郎ヶ池 (1060m)
- 権現山登山口 (428m)
- 打見山 (1108m)
- 御殿山 (1097m)
- 比良岳道標 (1040m)
- 荒川峠 (959m)
- 釣瓶岳 (1098m)
- ヨコタニ峠 (644m)
- 中峠 (1061m)
- 烏谷山 (1076.7m)
- 細川越 (1013m)
- イクワタ峠
- ワサビ峠 (1050m)
- 地蔵峠 (770m)
- 地蔵山 (789.7m)
- 比良岳(P1051) (1051m)
- 南比良峠 (912m)
- 葛川越 (944m)
- 木戸峠 (971m)
- レストランバードキャッスル
- レストランどんぐりハウス
- 阿弥陀山 (453.6m)
- ワサビ平 (960m)
- 滝谷ノ頭 (702m)
- 866m分岐 (866m)
- 東レ新道分岐 (953m)
- RP阿弥陀山3
- 入部谷越
- 八田谷越
- 上林新道四辻 (900m)
- 金毘羅道下降点 (1138m)
- RP小女郎2 (1010m)
- 西南稜1120m地点 (1120m)
- 金糞峠西側下の分岐 (853m)
- ヨキトウゲ谷入口の分岐 (844m)
- 細川尾根分岐
- 南西稜
登山 | 登山用品 | 山ごはん | ウェア | トレイルラン |
トレッキング | クライミング | 富士山 | 高尾山 | 日本百名山 |
いや、もう、ビックリです!全山縦走って、それも夕方から仕事があるって!
さらにこのスピードですか、こないだまで調子が悪かったとはとても思えません。
恐れ入りました!やはりyamanekoさん、最強です。次元が違います。
サンライズ、快晴の山頂、紅葉、お腹いっぱいになりました。
特に小女郎に映る落葉した樹々のシルエット、素晴らしいですね。
HBさんが先日、サンライズ・ハイクをされた時は綺麗な雲海と湖からの朝の反射が同時に見られていていましたね。
ホッケ山の北斜面に繁茂する草が気になっておりましたが、テンニンソウなんですね。すっかり葉が散って草茎のみになっておりました。
HBさんが覗かれた水鏡には池畔の紅葉の樹々が綺麗でしたが、あれから3週間、季節の移り変わりは早いものですね。
HBさんに全く同感です。あり得ない!もはや化け猫レベル?😁
ハムストリング損傷は完全に回復されましたね。
それにしても比良の朝の風景はやっぱりいいですね。代表写真にもされている表比良の山々に押し寄せる雲海の波の光景が私は気に入りました👍
ご心配をおかけしたハムストリング付着部炎は快復したものと思われます。
早朝の比良は何度訪れても、そのたびに景色が違うので、それも大きな魅力に思われます。
HBさんとuriuri4211さんに全く同感です。
距離と時間が凄すぎてただただ驚きです。
体力と精神力の両方あってのことだと思います。
レポートも最後まで拝読させて頂きました。
おっしゃるように西南陵からの景色は常に感動的ですね。同感です。
大変お疲れ様でした!
今回、西南稜を辿ったのは少し前のsrgaichiさんのBBQレコを拝見したお陰です。結果的には比良ブルーを背景にベージュ色一色の西南稜を辿る爽快感を堪能することが出来て、srgaichiさんにはとても感謝しております。
体力も精神力もありませんが、ここ数ヶ月、長距離山行を控えていたので、たまには長い距離を歩いてみたくなったのです。
レス有難う御座います。y○m○pのレスみたいですね
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する