奥久慈男体山 三つの岩塔(バリエーションルート)
- GPS
- 06:47
- 距離
- 11.4km
- 登り
- 651m
- 下り
- 657m
コースタイム
- 山行
- 6:46
- 休憩
- 0:01
- 合計
- 6:47
天候 | 快晴 |
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過去天気図(気象庁) | 2022年01月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
大円地駐車場以外に古分屋敷、滝倉取り付き、さらに少し離れた弘法堂にも駐車スペースがあります。 |
コース状況/ 危険箇所等 |
本山行記録に出てくる「座禅小僧」、「座禅小僧の弟」、「座禅岩」、「座禅岩のコル」、「やせ尾根」、「割れヘルメットの谷」は筆者が勝手につけた呼称です。地元で通じている呼称などご存知の方はお知らせいただけますと幸甚です。 参考、筆者の前回の記録(6年前) https://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-791947.html |
写真
装備
備考 | ピッケル(土つき急斜面はホールドを取れないので必需品です) ピッケルリーシュ アプローチシューズ(取り付き前にハイキングシューズから履き替え ヘルメット(出張った岩や潅木に頭をぶつけるので必需品です) ザイル30m(座禅小僧の弟から懸垂下降で降りるので登はん具は必需品です) ハーネス、 スリング エイト環 安全環つきカラビナ3枚 カラビナ4枚 ファーストエイド 行動食 水 スマホGPS |
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感想
以下、自分のためのメモ
■先週の続き
前回のやせ尾根ルートは、もともと座禅小僧から座禅岩を経てやせ尾根ルートに取り付くはずだった。ところが取り尽きを間違えて気がつけば座禅岩のコルまで谷をつめてしまい、序盤を素通りする格好になってしまった。
その先週の下山中、座禅小僧の基部を通過し、滝倉分岐を過ぎるとなにやら興味深い急斜面が目に入った。この斜面をつめていけばヘルメットの谷の反対側から座禅小僧に取り付くことができる。以前座禅小僧を攀じたときに発見した座禅小僧の弟のそばに寄れるかもしれないと考えるとワクワクが止まらなくなってきた。
■取り付き前から楽しめる
1月6日に雪が降った影響で道が凍っているかも知れない。まだノーマルタイヤの自分は早朝からの移動は避け、西金駅のベースキャンプに到着したのは9時過ぎだった。西金駅駐車場から見える久慈川対岸の幻の滝が氷瀑と化していた。歩き始めから厳冬期の奥久慈歩きの楽しさを味わった。
国道118号を渡ってすぐに見える奥久慈岩稜の稜線に興奮した。ナウマンゾウの足跡発見箇所から再び岩稜を臨むと、そういえば岩稜の東側、入道岩の基部あたりがゾウの頭に見えないこともない。馬の背に見立てられたり、ゾウに見立てられたり、岩稜も忙しい。
大円地山荘への分岐へ入ると杉林の切れ目から櫛が峯を望む。適度な午前中の光のおかげで巨人の三兄弟がくっきりと現れている。
■入山、取り付き
男体山に無事を祈願して入山した。滝倉分岐を少し過ぎたところでヘルメット、ハーネスをつけ、ピッケルを出した。靴もハイキング用からアプローチシューズに履き替えた。
そして少し逆戻りし、滝倉分岐を過ぎた部分のピンクテープから入山した。踏み跡が微かにたどれる。去年の2月ごろからこの地域の測量か何かの調査が進んでいて随所にピンクテープが下がっている。今回の登山も恐らく県のものと思われるやや古めのコンクリの標石をテープはいざなっていた。
この標石をさらに過ぎると、茨城県の名にふさわしい茨の薮の歓迎を受けた。見上げれば行く手を塞ぐ岩塔だ。これが座禅小僧の弟ではないか。到底登はんできる性格のものではないが周りを周回するだけでも調査の価値があるだろう。
そしてその向こうには天を突くように屹立する座禅岩。一般コース側から見るメインの岩塔は健脚コース側から見える要塞のような風景とはやや異なり、空へ向けて一点に収束するような岩の槍のように見える。
■断念、発見
さて座禅小僧の弟はどこも垂直、またはオーバーハング気味の岩塔だった。緩い斜度の岩稜で高度を稼ぎ、さらにイノシシが作った踏み跡を借用しつつ座禅小僧側に回ると、踏み台ががある、せめてその踏み台の上に立ってみることにしよう。
踏み台の上に立つことも丈夫の岩塔がせり出していてのけぞり気味になるところだが、何とか立ち上がれた。そこからなら3mくらいの登はんで頂点に立てるだろうが、垂直以上の壁であり、ホールド自体はたくさんあるが、奥久慈の例によりどれもすっぽ抜けの恐れが多い礫岩質の壁だ。とても自分の力では無理だ。踏み台を降り、座禅小僧へ向かうために登高した。
名残を惜しもうと座禅小僧の弟の全貌を振り返って見ると、岩に寄り添うようにして立ち木が伸びている。そして木を使うと垂直の部分をほとんど通過できるではないか。もしかしたらあそこからなら上に立てるかもしれない。引き返してコナラの立ち木を使って高度を稼いだ。
なるほどここなら途中までは容易に高度を稼げる。垂直部分を自分の背丈ほど登れば斜度が緩くなって恐らく立てるだろう。立ち木から離れて1、2歩動こうとしてみるが、手のつかみどころがはっきりしない。立ち木に戻る。立ち木の根元からはさらに岩塔が10mくらい続いている。
ホールドがポロリと欠けてなんてことは絶対にあってはならないので、取り付きやすい大きく飛び出したホールドはあえて避けなければならないから、見た目以上には難しい。狙ったホールドがぐらぐらだったり、すっぽ抜けそうだったりと、なかなか上に進ませてくれない。だが、撤退するのでなければ、あまり時間をかけると体力を消耗してしまうからかえって危険だ。
■突破、危機、そして登頂
第一関節くらいのとりづらいけれども安定しているホールドを取り、アプローチシューズのつま先の固さを利用して狭いフットホールドに立ち込み、進むことにしよう、これからの3手くらいで憧れの頂上に立てる。予定のホールドはどれも浅いけど易しい。
一気に進んでしまえ(今日はこればかりだった)。
ぐいっとフットホールドに立ち込み、予定のホールドをつかんで体を完全に岩に預けた。
想定通り垂壁の最後の部分を通過し緩斜面に到着した。やった、と思った瞬間、その次のハンドホールドがぐずぐずと崩れてしまった。緩斜面部分は風化が進んでいて岩の上に砂礫のベアリングが敷き詰めてある。動こうとするとずり落ちそうになる。
今立っているフットホールドを離れたら、絶対にずり落ちないようにして頂上に進まなければならない。手のつかみどころがないから、腹ばいになりながら、胸、腹、太もも全部使って斜面に引っかかるようにしながら、文字通り這って進むことさらに2mくらい。何とか立ち上がれるところに到達した。
「やったー、できた」思わず歓喜の叫び声を上げた。正面に座禅小僧が見える。前回はあちらからこちらを見て、自分の実力では絶対に立てないと思っていた。今回コナラさんのおかげでインチキではあるものの頂上に立てたことはうれしい。ここは見るだけだと思っていたので2022年の素晴しいお年玉を男体山に頂くこととなった。
滝倉尾根から上下高塚山、健脚コースの展望台岩。なだらかな登山道から急峻な後半の鎖場へと続く健脚コース。目の前に迫り、詳細がまじまじと見える男体山の正面の岩壁。そして何よりも山頂に勝るとも劣らない、あたかも尖塔のように立ち上がる座禅岩の雄姿が素晴しい。
■下降、そして座禅小僧へ
さて、いつまでも初体験の喜びに浸るわけにも行かない。降りなければならない。あの滑りやすい緩斜面をクライムダウンすることは、登れたのであるから不可能ではないかもしれないがリスクが大きい。
大変ありがたいことに頂上にケヤキだろうか。割としっかりした木が一本生えている。ここを支点にとって懸垂下降すれば一気に下まで降りられる。これは岩塔を見たときに考えていたことだ。頂上で実際に強度を確かめてみるとぐらつくこともなくしっかりと根を下ろしている。登りも下りも樹木の力を借りることとなった。
スリングで樹木にビレイ。そしてザックも樹木にビレイ。ロープを出して末端をハーネスに結んでロープが落下するのを防いだ。これで第一段階終了。他方のロープを支点の樹木に回してハーネス側のロープと結んで縄の輪を作り、ロープの中間が樹木に来るように名ロープを繰り出した。以前この繰り出しを手抜きしてロープの全長(二つ折りだから実際は全長の二分の一)を使えず、登り返してやり直しというピンチに陥ったっことをいつも思い出す。
ザックを背負い、エイト環にロープを通せば準備完了。最終チェックをすると、エイト環をつないだカラビナがハーネスのビレイループではなく、ビレイループにつないだ別のカラビナにつながっていた。これ自体で事故にはならないが普段通りに支度しなおした。
支点が足許にあるので最初はロープがぶらぶらだ。気持ちが悪いので支点が頭の位置に来るまでスリングのビレイは取ったままでクライムダウンし、ロープを殺して(摩擦が大きくなるようにエイト環に巻きつけて)、両手の自由が利くようにしてからスリングのビレイを解除した。
あとは殺した縄を復活して、快適な懸垂下降だ。登るときには考え考えだったが、降りるときは楽だなとつくづく思う。これもあくまで幸運な支点があるからなのだが。
無事踏み台への取り付きまで戻ってきた。ロープを回収しようとしてロープが動かず一瞬登り返しかとヒヤリとしたが、一方を繰り出しながら他方を同時に引くようにタイミングを取ることでするするとロープを回収することができた。ふう。
座禅小僧の弟から座禅小僧へはほとんど水平の軽い薮を進めばいい。最後に2-3mの登はんがあるがここは誰でも登れることは経験済みだ。座禅小僧の頂上から、弟を再度眺めて今回の成功を再度噛み締めた。
健脚コースはここからのほうが良く見える。いい眺めだが先を急がなければ。振り返れば尖塔座禅岩が待っていた。
■前回以上に難儀した座禅岩
座禅小僧から座禅岩まではきついけれどもかつてやったところ。正解はわかっているつもりだから何とかなると思っていた。甘かった。
座禅小僧を降りて稜線越しに登れるだけ登る。たちまち岩壁は垂直近くなってくるのだが直接は登らない。もしかしたらやれるかもしれないという微妙な斜度と岩相だが、奥久慈の岩はポロリが多いし、岩の上を何やら怪しげな草(草さんごめんなさい)が覆っていて、草の上に足を置くのは滑りそうで怖い。
幸い登るだけ上ると谷の側に巻くことができる。土の詰まった急斜面におよそ数メートルおきに木が生えている。ここを通過すれば頂上直下のテラスに出る。ここからさらに岩壁を巻けば軽い登はんで頂上に出られるのだ。
この土付きの急斜面が曲者だ。前回ピッケルを土壁に打ち込んで芯で貯まるかと全体重をかけたことを覚えている。同じことをやればいいと思っていたがなかなか思うように行かない。ピッケルにぶら下がれるとしてその次にどこを取ればいいのか。取るところがないではないか。
そして立ち上がったときにどこに足を置くか、安全そうな岩のフットホールドは見当たらないから、ある程度は土つきに乗るしかない。土の下が安定した岩なのか、風化しているのか、ふわふわの草壁で体重などとても支えられないのか、
慎重に見極めながら高度を上げていくのだが、つま先立ちで長い時間ルートファインディングをしているとそもそも立ち続けることができなくなるので一旦安全なところまで下りる。それを何度か繰り返したあと、意を決して一気に攀じて行った。第一関門の松の木の幹をつかんだ。松やにがざっと降って心地よい松の木の香りが鼻腔を満たした。あたかも通貨を祝福するようだった。
これで終わりだと思っていたのだが。もうひとよじしないとテラスにたどり着けない。パズルは続く。岩についた土を落として爪先程度のフットホールドを探す。立ちこんだとt期につかめるホールドを探す。実際につかんでみて、槌や草で滑らないかを確かめた。大抵はふわふわで体重を預けるにはおぼつかない。
立ちこんだその先がわからないから、一気に進んで文字通り進退窮まると滑落だ。谷まで落ちるだろう。そう考えると実際の難度以上に体がすくんで先に進めない。あまりいいパターンではない。この太さ5mm程度の潅木が数本生えているところが頼りになるだろう。これの力を借りて高度を上げ、土を念入りに落とした右側のフットホールドに右足をかければ左のやや高めのフットホールドが取れる。そこに立ちこめば右上のホールドを取り、身体を引き寄せることによってあの安全圏の潅木にまで届く。
細い潅木さんどうかお守りください。ピッケルに左手でつかまれるように土壁に打ち込み、潅木を右手でつかみ、右足、左足と攀じていった。もうあとは迷わないほうが安全だ。左手出た移住を預けるようにしながら予定のホールドを左手で取る。もうフットホールドはホールドというよりも土斜面を蹴りこむような形でバランスを取る。手詰まりなら大変なことになるが、何とか上部の潅木にたどり着くことができてセーフ。
写真を撮ろうと潅木にスリングでビレイを取ったらポケットから何かがぽろっと斜面を落ちた。行動食の飴ではないか。幸いすぐ下の斜面で止まっている。もう一本スリングをポケットから出して長めにビレイを取り、クライムダウンして飴を救出した。しまうところがないからとりあえず包装紙のまま口に入れて登り返した。救出後に頂いたグレープフルーツ味の飴は甘酸っぱかった。
■下山
座禅岩は先週登ったばかりであるが、静かで見晴らしも良い。特に普段行き来している男体山の健脚コースの様子を眺められるのが楽しい。座禅岩から見ていると、健脚コースが明るい尾根筋をたどったかと思うと、急斜面を一気に高度を上げているのがわかる。やっているときにはさほど難しくも怖くも感じないのは一度によじる量はわずかで一息つける平坦地が随所にあるからだろう。露出していたら恐怖度は半端ではなかろう。
今回の最後のテーマは、先週撮影しそこなったやせ尾根ルートの写真を撮ることだった。先週は男体山の正面岩壁に見とれてしまって、自分が(そのとき)これから登ろうとしていた痩せ尾根ルートの写真を取ることを忘れてしまっていたのだ。当初はこの写真撮影が主目的で、健脚コースの谷(割れヘルメットの谷)から座禅小僧に登って、座禅小僧−座禅岩、下山という計画だった。前日になってどうせなら別ルートということで思いがけないお年玉を頂いたのだ。
座禅岩から見るやせ尾根は素晴しい。右側はすっぱりと切れ落ち、一筋の岩尾根が頂上稜線へ向けて伸びている。すがすがしい。しっかりと目に焼きつけ、何枚も写真を撮影した。
撮影後はそのやせ尾根への取り付きである座禅岩のコルまで軽い薮こぎをこなし。あとは割れヘルメットの谷を健脚コースへ向けてクライムダンした。岩塔を攀じ続けたから軽く感じてしまうがここもかなりの斜度だ。しかも落ち葉が吹き溜まりになっていて岩相を隠していて案外怖い。ピッケルのシャフトが根元までもぐるところさえあった。そしてその下はどうなっているかはわからない。なるべく岩が露出しているところ。土が露出しているところを選びながら下降していく。落葉後だから、日が高いうちは明るい谷だ。その点は気持ちのいいハイキングだ。終盤に巨岩を巻きながら下降し、健脚コースに合流した。
道具をザックにしまい、ハイキングシューズに履き替えた。水を飲み、行動食のミニクロワッサンをほおばった。そういえば岩場では救出した飴ひとつ食べただけだった。緊張しているとおなかがすかないのはいつものパターンだ。さあ、暗くならないうちに西金駅へ戻ろう。快適に健脚コース下部を歩くと大円地山荘前に3時ごろ到着した。今日も案外遅くなってしまったな。さてもうひと歩きだ。
林道で先週もお目にかかったおじいさん(自分もおじいさんだが)に再開。「今日は寒いねえ」「こっちはあまり雪が残っていないですね」などとしばしの会話を楽しんだ。
林道はところどころ寒気の溜り場があり、そういうところには清水が凍りついたプチ氷瀑を見て取ることができた。歩きアプローチの小さなごほうびを楽しんだ。
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