【遭難レポ】ザイテングラート滑落事故~通報者の視点から~
- GPS
- 16:14
- 距離
- 26.1km
- 登り
- 1,838m
- 下り
- 1,846m
コースタイム
- 山行
- 2:54
- 休憩
- 0:09
- 合計
- 3:03
- 山行
- 4:44
- 休憩
- 0:55
- 合計
- 5:39
- 山行
- 7:07
- 休憩
- 0:21
- 合計
- 7:28
天候 | 1日目:晴れ 2日目:晴れのち霧、時々雨 3日目:雨のち霧、のち晴れ ※滑落時:濃霧と霧雨 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2024年09月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
|
写真
感想
※本レポートの公開について、滑落されたご本人からのご承諾を頂いております
※滑落レポートにつき、血痕のある写真の掲載がございます。血が苦手な方は閲覧にご注意ください
※本登山記録に掲載している写真は、救助の待機中、特に作業が必要無いタイミングに記録用として撮影したものです
※プライバシー保護のため、個人が特定されないよう顔にはモザイクをかけてあります
※警察への通報者である私の視点での記録です。当時の記憶を思い出しながら書いていますが、時系列が前後していたり間違っている可能性があります
※滑落されたご本人が、大変痛く、もう十分に怖い思いをされています。御本人に対する批判や誹謗中傷はどうぞお控えください
【初めに】
本日2024年9月18日、穂高岳山荘から涸沢へと下山するザイテングラートにて偶然滑落された方と遭遇し、その方の代わりに119番通報をいたしました。
その際の状況を、記憶が新しいうちにできる限り細かく皆さんに共有いたします。
現在、本件について新聞やテレビ局により報道されておりますが、大変残念ながら勝手な憶測による誹謗中傷がSNS上やネットニュースのコメント欄にて散見されます。
そこで、少しでも正確な情報を共有し、このような事態に少しでも歯止めがかけられたらと思い、本登山記録を作成いたしました。
また、他の登山者の皆様への安全啓発にもなれたら幸いです。
【要救助者発見への経緯】
5:18、穂高岳山荘のテン場を出発。この時点で周囲はかなり濃い霧に包まれており、ヘッドランプをつけても10m先ほどしか視界がない状態でした。且つ、1mm弱の霧雨が降っており、岩場が濡れており大変滑りやすかったです。
本当はもっと早い時間に出発して前日まで来た吊尾根~前穂高~岳沢~上高地ルートを行く予定だったのですが、眺望の悪さと悪天候リスクを考慮し、唐沢経由で上高地へ降りるプランへ変更し、レインコートを羽織りザイテングラートへと進みました。
5:30頃には雨は上がりましたが、それでもまだ霧は濃く、足元は濡れたままでした。
【要救助者発見】
6:00頃、標高2770m付近でレインコートをザックに仕舞うために一旦休憩を取る。この時点で、登山道から10~15m程下ったところにオレンジ色のレインコートの男性を発見。
一瞬、”あれ?ひょっとして滑落してる…?”と思うものの、茂の方を向いていて、且つこちらへ声をかけられることもなかったので、”おしっこしてるのかな…?”と思い、一旦スルー(おしっこしてる人をジロジロ見るのは失礼だと思い、キチンと観察していなかった…でも冷静に考えてあんな人通りが多いところで立ちションするはずがない…)。
休憩も終わりザックを背負って出発しよう…と思ったその時、その男性から
”あの…すみません…救助を呼んでいただけますか…?”
と、力のない声がかけられました。
【初動対応】
すぐさま男性の元へ駆け寄りました。登山道から外れたガレ場のため歩きにくいものの、気を付けて行けば登山道から30秒程で駆けつけられる場所でした。
よく見ると男性の近くの岩には血がべっとりとついており、顔は血だらけ、レインコートの右肩あたりが裂けていて、滑落したのだとすぐに察しました。
失血死するほどの量ではありませんが、あまりの血の量に少し動揺。
一呼吸おいて冷静を取り戻し、まず最初に
・まだ119番通報していないか
・いつ滑落したか
・どのあたりを負傷したか、どんな症状があるか
を確認。
ご本人曰く、30分ほど前(5:30頃)に上部から10mほど滑落、肋骨を折った可能性があるとのこと。実際呼吸が浅く、話しづらそうだったので私が代わりに救助要請することに。同時に、付近にいた別の登山者の方へお願いし、常駐している救助隊の方へ来てもらう涸沢小屋へ連絡してもらいました。
幸い私のDoCoMo回線だと4Gが2本立っていたので発信に問題はありませんでした。
【最初の119番通報】
生まれて初めての119番通報で緊張する中、オペレーターの方からの問いかけに1つ1つ答えていきました。
内容としては、以下の基本的な事項を確認されました(いくつか忘れてるかも)
・氏名、年齢(御本人のザックに入っていた財布を確認し、保険証に記載されていた内容をお伝え)
・住所、電話番号(ご本人に確認)
・服装
・怪我の状況や症状
・自力で歩けるかどうか
・現在位置(緯度経度、標高、ルート上の位置)
・天候
・視界(霧の有無、この時点では上空に厚い雲がかかっていたものの、現場付近はクリアだった)
・同行者の有無(単独行orパーティー)
・通報者(私)の氏名、年齢
・通報者、要救助者のスマホのバッテリー残量
…ここで困ったことが1点。
現在位置をお伝えする際に、Google mapを開いて、現在位置の緯度経度をお伝えしたのですが、その際にオペレーターの方から、その緯度経度が世界測地系によるものか、日本測地系によるものかを尋ねられました。
しかし、そんなことさっぱりわからない私は、ただ”ぐ、Google mapにそのように記載されています!!”の一点張りでした…
どうやら日本の緯度経度には基準?によって世界測地系と日本測地系の2種類があるらしく、両者は同じ緯度経度でも450mほどズレがあるそうなのです。
ちなみにGooglemapは前者の世界測地系だそうな。
ちなみにちなみに、通報した時点でオペレーター側では謎技術で通報者の現在位置が特定できるそうなので,実は現在位置の連絡はそこまでシビアではないのかも…ちょっとこのへんは謎です。
あと今この記録を書くためにヤマレコのマップのスクショを確認してたのですが、よく見ると左下に緯度経度が書いてありますね…こちらも世界測地系なのだろうか
一通りお伝えしたあと、これからヘリの手配を進めていく旨が伝えられ、通報者である私の元へ再度連絡するとのことで、私も要救助者のそばで待機することに。
ずっとか細い声で”すみません、すみません…”と仰っていたのを覚えています。
私にとって初めての救助要請で色々と不安でしたが、要救助者はもっと大きな不安の中で戦っているんだよな…と思いました。
なにかしてあげたいと思いつつ、肋骨がやられているとなると下手に動かすのも不味いよな…と思い、特に何もできることなくただただ救助が来るのを待っていました。
不謹慎ですが、このとき涸沢から登ってくる千切れた雲が、稜線から差した朝日を浴びてとても綺麗だったことが印象に残っています。
ひょっとしたら人が一人死ぬんじゃないか、という場面でも変わらずに美しい山に残酷さを覚えました。
こんなときにでも北アルプスは美しいのか…
【登山ガイドさんのサポート】
通報から数分後、偶然通りがかった登山ガイドの方が駆け寄り、要救助者の状況確認(体調確認、止血の必要の確認)をし、手持ちのエマージェンシーシートをかけてくださいました(現場は風が強く、空気も冷えていた)。
この方、普段は救助隊として働いていらっしゃるそうな。
私なんてただのアマチュアですので、こういったときにプロの方がいて下さるのは大変心強かったです。
【119からの折り返し連絡】
6:33、119板通報のオペレーターから折り返しの連絡。
要救助者のザックの重量の確認と、ヘリコプターの手配状況の共有がありました。
なんとこの日、同じくザイテングラートにてもう1件滑落が発生したので、そちらとの兼ね合いでヘリによるピックアップが前後する可能性があるとのこと。
悪天候などでコンディションが悪い状況で遭難すると、当然他所でも発生している可能性もあるので救助が立て込む場合があるんですね…
【救助隊の到着】
6:40頃、涸沢から上がってきた救助隊の方が2名到着。1名が要救助者の容体を確認し、もう1名が開けた登山道上で無線通信を行っていました。
さすがは救助隊、要救助者の意識確認の上、体の各所に触れたうえで”痛くないですか?ここはどうですか?痺れはありませんか?”と的確にヒアリングし、怪我の詳細を確認されていました。
私のような素人ではとてもできない…
…余談ですが、最初に救助隊が到着した際に、まず簡単な状況確認をした上で、
要救助者へ
・救助隊を利用すると料金が発生すること
・報道されること
の2点の確認がありました。
まぁ当然民間サービスだから有料だし、有料である以上押し売りをするわけにいかないので確認がありますよね…
こんな場面で断れるはずもないので、やはり保険は大事ですね。
【消防防災航空センターからの電話】
同時刻、ヘリを手配する長野県消防防災航空センターから電話。
簡単な状況説明の後、救助隊へ電話を代わり詳細な状況説明をしてもらいました。
おそらくヘリを向かわせるにあたって必要な情報の確認があったのだと思います。
私の携帯への電話はこれが最後で、結局計3回ありました。
【要救助者の搬送】
6:50、滑落現場だと落石の可能性があるため、背負い紐?を使って救助隊が要救助者を背負い、登山道の開けたところへと搬送しました。ここで要救助者の手当をした上で、ヘリによるピックアップを待つとのこと。
【下山再開】
7:00、このあとの作業や連絡は救助隊が引き継ぐとのことで、通報者である私はもう下山してもらって良いとお声がけいただきました。
要救助者の呼吸がだんだん浅くなっていて、大変気になる状況ではありましたが、余分な人間がいても邪魔になるだけだと思い、お言葉に甘えて再び涸沢を目指し下山を開始しました。
結局私は要救助者発見から約1時間対応したことになります。
また、救助隊の方から”多少なりとも動揺されていると思いますので、気を付けて下山してください”と言われました。
確かに、初めての119番通報、それも山岳救助で、無意識のうちに動揺していた可能性がありましたので、これは大事なアドバイスだったと思います。
【ヘリ到着&ピックアップ】
後ろ髪を惹かれつつも涸沢へ降り、そのまま上高地を目指し下山しました。
早くヘリ来ないかな…まだかな…ガスは上がってきていないだろうか…と思いつつ歩いていると、8:30頃、横尾方面から奥穂高方面へとヘリが飛んできました。
ヘリは一度ザイテングラート手前を旋回した後、滑落現場で4,5分ほどホバリングし、その間にホイストで要救助者をピックアップ、その後横尾方面へとものすごいスピードで飛んでいきました。
容体は不明でしたが、まずは無事ピックアップできたことに一安心しました。
【まとめ】
以上が通報者である私の記録です。
報道によると、要救助者は脛骨多発骨折、鼻骨骨折などで重傷とのことでした。
大変な怪我をされましたが、それでもとりあえず一命をとりとめることができたのは不幸中の幸いかと思いました。
また、ご本人は肋骨を折った可能性があるとおっしゃられていましたが、肋骨の骨折や肺の挫傷についての報道は見受けられませんでした。このあたりは謎です。
滑落が発生した現場は、ザイテングラートとはいえそこまで勾配や切れているような箇所もなく、危険には見えませんでした。
…が、確かに当日は濃霧&降雨があり、劣悪なコンディションでした。事実、本件に加え別の場所でもう一件滑落が発生していたことがその証左かと思います。
どれだけ気をつけても、どれだけ経験を積んでも、どれだけ準備をしても、アウトドアアクティビティである以上どこまで行ってもリスクはつきまといます。
そして運悪くそのリスクに引っかかってしまったのが今回の要救助者さんだったのだと思います。
当然私にとって初対面ですので、今回の要救助者さんがどのような方だったのか(登山歴、体力、当時の体調等)は知りません。が、装備を見る限り、決して準備が不十分な方には見えませんでした。
また、穂高山荘から下山中とのことでしたので、穂高山荘まで行ける体力の持ち主だったわけです。
つまり、誰に起きてもおかしくない滑落だったのかなと思います。
ただ、長野県山岳遭難防止常駐隊のXアカウントでも言及がありましたが、
今回の要救助者さんはストックを使用してザイテングラートを下山されていたようです。しかし、ザイテングラートのような岩稜帯では両手を使えるようにストックは使用しないほうが安全かもしれません(と言っても、滑落時にストックを使用していたのか、そうだとしてもストックの使用が滑落の原因だったかは定かではありませんが
※以下長野県山岳遭難防止常駐隊のX投稿原文
岩稜帯でのストック使用について
本日ザイテングラートで、ストックを使用して下山中の滑落重傷事故が2件発生しました。
ザイテングラート、北穂南稜、重太郎新道等の岩稜帯では、常に両手を使えるようにストックの使用は控えて下さい。
今回初めての119番通報で緊張しましたが、オペレーターの方が落ち着いた声で丁寧に質問してくださるので、それに沿って一つずつ答えていけば問題なくやり取りできます。
もし皆さんも同様に要救助者と遭遇する場面がございましたら、臆することなく一刻も早く119番通報してされるのが良いかと思います。
明日は我が身です、自分も一登山者としてこれからはより一層気を引き締めて登山に向き合おうと思いました。
最後に、今回大変な思いをされた要救助者様の一日も早い回復を願っております。
自分も低山ではあるものの大石の下りで、荷重を掛けたストックを滑らしてしまい顔から突っ込んで
血だらけになりました 膝も岩にぶつけて痛く、途中で登山はやめてホウホウの体で下りました
トラバースでもストックの空打ちすることもあり、有用な道具ではあるものの
注意が必要ですね
そうですね、
登山スタイルは人それぞれですし、ザイテングラートもルート上全てが危険箇所という訳ではないので、ポールの使用が有効な場面もあるでしょうから一概に否定できませんが…
とはいえ、基本ゴツゴツした岩場ですし、ましてや雨で滑りやすいとなるとポールを使いながらの下山は厳しかったようにも思えます。
ポールの出し入れって都度重いザックを下す必要があるのでめんどくさいかったりするので、
本当は仕舞わなきゃいけない場面でもそのまま進んでしまうことが、僕は正直ちょくちょくありますので反省ですねコレは…
3番テント場の55オヤジです。自分はゆっくりと6時半くらいにテント場を出発して救助隊の方が要救助者を今から背負おうという場面で横を通り過ぎました。
近くにいたであろうに要救助者ばかりに気が行っていて気付けませんでしたね。
話しているときから妙に落ち着いた30歳だなと思っていましたが、冷静な対処、お疲れさまでした。
おおなんと!ここで再会するとは笑
今年31になるいい歳で仕事もせず山登ってるニート山屋にもかかわらず嬉しいお言葉ありがとうございます🙏
なるべく冷静に冷静に…と努めてはいたものの、流石にかなりビビりましたね、119番でヘリ呼ぶなんてことはそうそうあるもんじゃないですからね…
mataryさんもどうぞお気をつけて!
救助要請、対応お疲れ様でした。
No.4のところにテントを張られていた方ですね!あそこで話してたみなさんがこのコメント欄に集合しててなんか変な面白いですね笑
そうなんです、朝起きてテントを開け5m先しか視界のない濃霧を見た瞬間諦めました笑
危険箇所じゃなくても、いやむしろ危険箇所じゃないからこそ油断して足を取られる…なんてこともあるかと思います、どうぞねこまんまさんもお気をつけください🙏
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