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積雪期ピークハント/縦走
槍・穂高・乗鞍
奥穂高岳
2016年04月25日(月) 〜
2016年04月27日(水)
天候 | 概ね晴れ |
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過去天気図(気象庁) | 2016年04月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
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コース状況/ 危険箇所等 |
土日二徹の代償として、GW前にまるまる一週間のお休みをちょうだいした。こんな機会は滅多にないので、黒部源流の山々をひとりでのんびり歩こうと考えていたのだが、週の後半から天気が崩れるらしい。お天気の中で大雪原を歩くのは気持ちよさそうだが、視界のきかない雨の中でGPSを頼りにひとりで歩き続ける姿を想像すると急に自信がなくなり、前半である程度の満足感を得られそうな穂高に登ることにした。 4/25 いつもなら沢渡まで車で移動するところなのだが、ひとりだし荷物も少ないしということで、小淵沢の自宅からザックを背負って駅まで歩き、中央線の各駅停車・新島々までの電車・上高地へのバスを乗り継いで10時から歩き出すこととなった。バスは結構混んでいたので、運転席のすぐ後ろの席に座っている登山者の隣に掛けて、話しながら上高地までの時間を過ごす。この人、定年退職になったというのでもう60歳を超えていると考えるべきなのだが、昨日は富士五湖のウルトラマラソンに参加し50キロのチェックポイントでわずか数メートル間に合わずリタイヤしたとのこと。50キロも走った翌日に北アルプスを登るなんて、元気な人もいたもんだ! ウルトラ氏(昨日ウルトラマラソンに参加したおじさんのことをこう呼ぶことに決定)は、荷物が大きいので先に言ってくれと私に言い残して、上高地のレストハウスに入っていった。 学生の頃から何度も歩いた涸沢への道をとぼとぼと歩き始める。左手に明神岳や前穂高岳を眺めながら一気に横尾まで林道を歩き、そこから本谷橋までは川沿いの登山道を辿る。今年は雪が少ないのか本谷橋まではほとんど雪の上を歩くことはなかった。本谷橋を渡ると、登山道は右岸沿いになり北斜面にあたるのでずっと雪の上を歩くことになる。ひと登りすると涸沢ヒュッテが見えてくるが、ここからが長い。時々踏み抜きもあるが、スパッツをつけずに、もちろん雪は柔らかいのでアイゼンもつけずに、身軽な格好で一気に涸沢まで登りきった。 涸沢のテント場には先着のテントが一張りだけ。ウルトラ氏があとで合流することを考えると、今日は3張りになるのか。小屋はまだオープンしておらず、テラスのあたりを除雪中。念のためキャンプの申し込みをするも、営業開始が27日なので幕営費用は無料、それでも水とトイレは使ってくれとのこと、ありがたい。ウルトラ氏は一時間ほど遅れて到着した。私の方は夕飯も済ませてワインも飲んで心地よくなっていたため、「おつかれさまでした。」とひとこと言ったきり、テントに引っ込んでしまった。 4/26 今日は奥穂高岳を往復してくるだけの予定。しかし、雪の状態が良い早い時間にさっさと帰ってきたい。穂高岳山荘から上の雪壁をがっちり締まった良いコンディションの元で登下降するのが、最も安全だからだ。それに、ザイテングラード横の斜面だって、気温が上がれば雪崩れる危険性も上がるというものだ。そこかしこにデブリができているから、まだまだ要注意と判断した。 6時にテントを出発すると、休みなくいいペースで歩く。下りのトレースを遡るので、一歩一歩の歩幅が大きくて大変なのだが、自分で新しくトレースを刻むことを考えたら相当楽だろう。その分、ガンガン歩いて一気に白出のコルまでたどり着いた。ここからが本番なので、行動食のあんぱんを頬張り、ポカリスエットで水分を補充する 穂高岳山荘から奥穂高岳の山頂にかけては、ふたつの梯子と鎖、そして今の季節だと少なくとも二箇所の雪壁を越えて登るようになる。当然、登りよりも下の方が技術的にも難しく、過去にいくつもの転落事故が発生している。ふたつ目の梯子を過ぎたところがよく事故の起きる斜面で、滑落防止ネットが用意されるのだが、小屋開きをしていない今日はそのネットさえもない。ネットを張る場所の下は数十メートルのミックス壁となっており、転落したらピッケルを使って滑落停止をすることは不可能である。従って、ここは絶対に落ちられない場所であり、パートナーと一緒なら僕は迷わずロープを出すだろう。 ふたつの梯子を超えると、次には急な雪壁をトラバースするように鎖が張られている。しかし、その鎖は途中から雪壁に吸収されており、そこからはピッケルとアイゼンだけで進まなければならない。50度近い傾斜の雪壁がおおよそ50メートルも続いているだろうか。いや、正確にいうと、50度近い雪壁は最初の10~20メートル程度かもしれない。その上は40度くらいに傾斜は落ちているだろうか。雪はしっかりと締まっており、シャフトを持って振り下ろすピッケルのピックは「ガツッ!」と雪に喰い込み、びくともしないピッケルががっちりと支持していることが分かる。アイゼンも同様に前の爪4本がしっかりと刺さり、安定している。いつも使っている信頼性の高い道具が、問題なく登れるよと僕に教えてくれているようだ。 最初の雪壁を越えて、長い雪の斜面をしばらくの間歩き続ける。すると、山頂直下の最後の雪壁になる。今度は、次第に傾斜の増す斜面。乗っ越しが一番急になる斜面では、下のことも想定しながら登らなければならない。下りの方が、はるかに難しいから。 奥穂高岳の山頂に立つ。19歳の夏以来だろうか。その後、滝谷を登った時に北穂高岳に登っているし、北尾根から前穂高岳にも登っているが、なぜか奥穂高岳はずっとご無沙汰のままだった。山頂には、穂高岳山荘に泊まったという若い登山者が先に来ていて、祠の裏で前穂高岳の方をずっと眺めていた。 下りは、上り以上に気をつけなければならない。最初の雪壁は出だしが急なので慎重を期す。雪はまだ十分に締まっており、アイゼンが団子になることはなさそうだ。梯子上の雪壁に差し掛かった時に、アストロ氏がちょうど登り出そうとしていたところだった。急な斜面ですれ違うのもよろしくないので、アストロ氏が上ってくるまで僕は待っていることにした。お互い「お気をつけて」と言葉を交わし、斜面に正対しながら慎重に下り続けた。一番急な雪壁に差し掛かった時に、穂高岳山荘に荷揚げに来たペリコプターが、僕のすぐ後ろでホバリングしている。自分に「集中しろ」と言い聞かせて、雪壁を下り続けた。いつの間にか、ヘリコプターの音は聞こえなくなっていた。気を抜かずに鎖や梯子を下りきって、安全な白出しのコルに到着した。 コルから涸沢までは何てことのない雪の斜面なのだが、あまりにもいい天気のため雪はグサグサになっており、奥穂高岳方面からは小さな雪崩が絶え間なく発生している。それは、まるでちょっと重たいスノーシャワーのような感じだ。この斜面も全く雪崩ない保証はないので、あまり衝撃を与えないように注意しながら一目散に涸沢へ駆け下りた。 涸沢についてから、装備を外し、乾かせるものは全て乾かし、ワイン付きのランチをとりながらアストロ氏の帰りを待った。涸沢小屋にも涸沢ヒュッテにも北穂岳山荘にも荷揚げのヘリが次から次にやってくる。いよいよ明日から小屋開きとのことだ。アストロ氏は、僕が戻ってきてから2時間半後の12時半に涸沢へ下りてきた。奥穂高岳の雪壁は、下りの頃には腐ってきていて少し危険な状態だったようだ。やはり、山は早出早着きが原則だ。 このまま涸沢でもう一晩明かす予定だったのだが、みるみる雲行きが怪しくなってきた。明日雨の中を下るのも嫌なので、今日中に徳沢園まで降りることにした。徳沢園のキャンプ場は芝生になっていて快適そうだし、景色も最高だから。 4/26 食料を食べ尽くし、ゆっくりと徳沢園を出発した。上高地では、上高地開山祭の準備を始めていた。いよいよ今日から大勢の観光客や登山者がくるのだろう。僕は、酎ハイを片手に朝一のバスに乗り込んだ。 コースタイム 4/25 上高地(10:00)-横尾(12:30-12:45)-涸沢(16:00) 4/26 涸沢(06:00)-白出のコル(07:30-07:45)-奥穂高岳(08:30-0845)-白出のコル(09:30)-涸沢(10:00-14:00)-徳沢園(16:30) 4/27 徳沢園(06:00)-上高地(07:30) |
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最近は黒戸尾根に行く方のレコが多く、昨年の秋の甲斐駒を思い出しました。
smalltalkさんはどうしているだろう?と覗かせていただいて、こんなステキなレコがあったことに、ずっと気づかずにいました。
こんな数日を過ごされたこと、うらやましいです。
maple19さん、コメントありがとうございます。
昨年からフリークライミングに力を入れており、昨年の黒戸尾根以来山らしい山に登っておりません。次の正月は南アルプスの南部を縦走しようかと岳友と話しているので、少しは歩かないと。また、秋の黒戸尾根でしょうか。今年から花谷さんが七丈小屋の管理人をしているので、日帰りは寂しい感じもしますが。
maple19さんは、精力的に登られてますね。冬の谷川岳や八ヶ岳に木曽駒。これからの山行も楽しみにしてます。
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