南アルプス深南部 麻布山から黒法師岳 幽遼な原生林の趣と展望を楽しみに登る南ア深南部の山 麻布山登山口→麻布山→前黒法師山→バラ谷山→黒法師岳→中小屋→水窪ダム 2泊3日(静岡起点)(適期5上〜6上・7下〜10下) 5万図:千頭、満島、佐久間、井川 2.5万図:門桁、蕎麦粒山、寸又峡温泉、水窪湖 体★★★技★★危★★ 焼津や静岡の市街から北望すると、黒く円錐形に盛り上がった形のよい山が目につく。 それが黒法師岳(古文書によれば黒帽子獄)だ。この山の一般コースは北西側の等高尾根で、 昔からよく歩かれている道だ。黒法師岳を訪れる登山者の大半が、この尾根を登下降している。 だが、なんといっても魅力をおぼえるのは麻布山、前黒法師山、バラ谷山を経て黒法師岳に至る豪快な縦走コースである。 難路といわれたこの縦走路も、天竜市西雲名を起点として水窪ダムに至るスーパー林道の完成により、 登山口周辺の整備が進んで、ポピュラーなコースとして変身しつつある。 だが、南アルプス深南部に位置する懐深いコースだけに、必要装備をすべて背負い、 自らの経験を頼りにコースを探すという厳しい行動条件は変わらず、決して安易な気持ちで訪れてはならない。 南アルプス愛好者ならずとも、豊かな自然を残す深南部の山々の概要を知るために、 ぜひ一度歩いてみたい縦走路である。マイカーを利用する場合は、浜松方面から国道152号線を浜北、天竜市と走り、 佐久間を経て向市場から野鳥の森へ向かう。静岡市街からは磐田市加茂川交差点を右折して県道44号線を北上、 豊岡北小学校手前で国道152号線と合流する。なお、登山口である野鳥の森に向かう途中にある山住峠には、由緒正しい 山住神社がある。時間が許せば立ち寄ってみたい。樹齢1250年といわれる老杉がたつ境内は、荘厳な雰囲気に満ちて いる。 【第1日】水窪駅から麻布山へ ・歩行2時間10分 ・標高差47OM(登山口−麻布山) 水窪駅(タクシー40分)麻布山登山口(20分→)カエデ林(1時間 8分→)小ガレ(42分→)麻布山 JR東海道本線、新幹線豊橋駅で飯田線に乗換え水窪駅下車。 水窪駅から事前に予約したタクシーで野鳥の森「ウグイスの門」がある麻布山登山口まで入る。 麻布山登山口には駐車スペースもあり、あずまや、トイレが設置されている。 用意を整えたなら登山にかかろう。登山道入口からステップ状の樹脂板が埋設されていて、 これは麻布山の先、戸中山まで設置されている。右のコガネ沢に沿う林道を少し歩き、 尾根道に入る。ひと登りした地点にあずまやと小さな嗣があり、 左に派生した尾根には踏み跡が認められる。 やがて尾根はカエデ林を主体とした美しい落葉樹に包まれ、 林床にはパイケイソウが目立つ。 しばらくはゆるい登りが続きのんびり歩けるが、いまひとつあずまやを見送った先からは 急坂になる植林ぎわを急登していくと小ガレに出る。 このあたりではかつてブッシュにザックがひっかかり、苦労したものだが、 今はよく整備されていて歩きよい。 やがて麻布神社奥社跡地に出ると、そこには麻布神社奥社の由来を記した看板があるが、 意味不明のおかしなものだ。 奥社跡地を過ぎて、かつての作業小屋跡に出る。左手に水窪ダムからのコースが 上がってきている。小屋跡から間もなく麻布山に着く。樹木が育って 展望がなくなってしまったのは残念である。 今日は麻布山の広い山頂にテントを張ろう。 【第2日】麻布山からパラ谷山へ ・歩行4時間2分 ・累積標高差670M(麻布山−バラ谷山) 麻布山(50分→)前黒法師山(1時間→)最低コル(50分→) パラ谷山手前のコル(1時間→)パラ谷山(15分→)水場のコル(7分→)キャンプ地 麻布山から先も道は整備されており、コースは明瞭である。 小さなガレを巻いたあたりから振り返ると、御獄山や中央アルプス、 前方左手には聖岳のシャープな山頂付近がのぞいている。 麻布山と前黒法師山の間にある戸中山は目立たないピークで、それと知らずに過ぎてしまう。 戸中山を越えると前黒法師山の登りにかかり、ひとしきりの急登を終えて、 原生林に覆われた静かな山頂に立つ。 ところで前黒法師と名のつく山はこの近くにふたつあり、 寸又峡寄りのものは前黒法師岳と呼ばれている。 こちらは前黒法師山であるが、山の雰囲気は前黒法師岳より数段勝っている。 前黒法師山頂から少し下った標高172OM付近では、 コガネ沢へ落ちる尾根に引き込まれやすかったが、 現在では道が整備されてその心配はまったくない。 前黒法師山を降りていくにつれて尾根が広くなるが、明瞭な道が尾根の北側に続いている。 荒木平(標高155OM)から最低鞍部へ小ガレ、大ガレをからんで下っていくが、 ガレの縁に出るあたりは展望がよく、黒沢山、光岳、百俣沢ノ頭、合地山、池口岳など 深南部の重厚な山並みが目に入る。 最低鞍部にはテント数張り分のスペースがある。鞍部先のガレはその手前から 右に登ってやりすごす。ゆるい登りから急登となり、いったんゆるんだのち、再び標高差2OOMの急登になる。 笹は1メートルくらいの幅に刈ってあり、コースがはっきりしているので気は楽だ。 樹木につけられたコース表示の赤ペンキが増えてくると、ほどなくパラ谷山に立つことができる。 山頂北のガレ場からの展望は南アルプス深南部屈指のもので、重畳と連なる山並みの眺めには圧倒される思いだ。 ガレの縁を急下降して上西平沢源頭の水場へのコルに着く。ここから沢へ下りキャンプ用の水を得る。 水場のコルからキャンプ地へは数分で、三張ほどの余地があり、加加森山、池口岳、黒沢山、 合地山の眺めがよい広葉樹林帯の中である。 【第3日】黒法師岳から等高尾根を下降 ・歩行6時間40分 ・累積標高差220M(キャンプ地−黒法師岳) キャンプ地(1時間→)黒法師岳(29分→)等高尾根下降点(1時間3分→)小ガレ(48分→) 日蔭沢林道(3時間20分→)水窪ダム(タクシー25分)水窪駅 キャンプ地を出て、シカのヌタ場を二箇所通過する。ヌタ場は2平方mほどの小さな湿地となっている。 コースを左側にとると笹がない。黒法師岳の登りにかかるあたりは笹を1Mほどの幅に刈り払ったので、 手掛かりが得られずかえって登りにくくなってしまった。 黒法師岳山頂には大きな針葉樹が密生し展望は得られないが、南ア深南部特有の落着いた重厚な雰囲気を持っている。 黒法師岳からは、北側の丸盆岳方面へ下るが、間もなくガレ沿いの道となり、足元に注意して等高尾根下降点へと下る。 下降点から等高尾根を日蔭沢小屋をめざして下る。下りはじめでは右の小尾根に入らないように注意する。 尾根を半分くらい降りると小ガレがあり、その縁を通過する。小ガレの上部から笹が出てくる。 尾根通しに末端まで下降すると、林道の切通し部分に出て降りられないので 地形図の標高125OM付近で左の日蔭沢林道にある小屋のほうへ下る。林道に出て右に行く。 休憩所のある中小屋までは、ゆっくり歩いても2時間はかからない。 中小屋周辺には電話がないので、事前にタクシーの配車を依頼しておくこと。 さらに林道を1時間40分ほど歩いた、水窪ダムの公衆電話からタクシーを依頼することもできる。 キャンプ指定地ではないが、以下の各所に設営可能。 麻布山頂(数張)水なし。山麓から用意する。 戸中(とちゅう)山(数張)水なし。 標高1909m地点の南側(二張)水は水場のコルから上西平沢へ下降。 黒法師岳山頂(数張)水なし。等高尾根下降点付近(数張)水なし。