平成の登山を振り返る(ネットの普及から)

2018年12月17日

こんにちは。ヤマレコ代表のmatoyanです。

12月15日に発売された「山と溪谷 2019年1月号」は新元号を迎えるにあたって、平成を振り返るという特集をされています。

ヤマレコとしても取材を受けて、
「山のビジネス最前線」
「テーマで見る平成日本登山史 – 1インターネットの普及」
の2つのコーナーに協力させていただきました。

前者についてはインタビュー記事になります。ぜひ紙面の方を確認いただければと思います。
後者については、メールベースで回答をしたのですが、紙面の関係で載せられない場所が多く、せっかく色々書いたので採用されなかった箇所を中心にこのブログで紹介したいと思います!
紙面と見比べると、どのあたりがどう採用されたのかが見えてきて面白いですね。

以下、質問部分は太字の通常表記で、私の回答は引用表記で紹介します。
※一部読みやすさのために加筆修正をしています。

Q.平成時代にはインターネットが普及していくなかで、たくさんの出来事がありましたが、なかでも印象的なものを3つ教えてください。また、その理由についても教えてください

1.Googleの登場
Googleの検索エンジンの登場により、それまでのAltavista、Infoseek、Yahooなどの検索エンジンと比べて、より高速に見つけたい情報にたどりつくことが可能になりました。特にGoogleマップのサービスではインターネットを通じて全世界の地図を見ることができるようになり、さらにその地図を様々な開発者が利用し、独自の地図サービスを作れるようになったためです。

2.国土地理院の「電子国土Webシステム」公開
当時は国土地理院の地図といえば紙の地図であり、登山で使う地理院の地図は書店で買って自分で折りたたんで使う方法が主流でした。
2006年ごろに、国土地理院が一般の開発者を含めて無償で自由に地図の情報を利用できる「電子国土Webシステム」というシステムを公開しました。このシステムと連携したサイトやアプリを作ることで国土地理院の地図をオンラインで利用し、必要な地図を自分で印刷して持っていくということが可能になりました。

現在は電子国土という名前ではなく「地理院地図」というWebサイトや「地理院タイル」という地図画像を提供されていて、印刷だけではなくスマートフォンなどに入れて持っていくこともできるようになっています。

3.LTE/4G通信の普及
3Gまでの通信は通信速度が速いとは言えず、特に写真や動画などのリッチなコンテンツを見ようとした場合は長い待ち時間に耐えながら使わないといけない状態でした。
スマートフォンに加えて4Gの通信環境が整ったことにより、街中はもちろん山の中でもインターネットの情報に快適にアクセスできる環境が整ったことが生活を変えていったのではないかと思います。

Q. 次の出来事は、登山界や登山者にどのような影響を与えたとお考えでしょうか

*パソコンの普及

情報の共有を紙から電子媒体に切り替えることができるようになり、メールやWebサイトなどのネット上で登山者同士が情報をやりとりできる最初の一歩になりました。
登山計画書の作成などの文書作成においても、(以前所属していた私の山岳会はそうだったのですが)パソコンで計画書を作成し、山岳会の内部で他のメンバーと内容を共有したり印刷して提出するなどの行為ができるようになりました。

*携帯電話の普及

まず通話の機能としてですが、無線機に代わり無資格ですべての人が利用できる緊急連絡手段として使えるようになったことが大きいと思います。

これにはいい影響・悪い影響のどちらもあり「以前は救助要請の手段がなく助けられなかった人が助かるようになった」といういい面と、「自身で対処する努力をせずに安易に救助要請をする一部の人がでてきた」という悪い面の両面があります。

ネットワーク接続については、インターネットによりこれまでラジオが中心であった天気予報や天気図などの情報を山の中でも利用できるという点が大きいです。ラジオでは定時の天気予報を聞き、自身で地上天気図を描いて判断するしかなかったのですが、ネットを使うことでいつでも最新の天気予報を確認し、必要であれば高層天気図などの専門的な天気図も含めて現地で最新の情報を取得できるようになりました。

アプリについてはGPS搭載の地図アプリの影響がやはり大きいです。「高額な専用機器を持たずに現在地を特定できる」という特徴は、特に低山などの道が整備されていない場所においてより多くの人が安全に登山できる状況を作っています。

*SNSの普及

SNSやブログなどが普及する前は、個人が情報を発信するためには専用のサーバーを契約して、HTMLの勉強をしないと情報発信が難しい環境でした。そのため一部の個人や企業しか情報を発信できない環境にありました。
SNSが普及することにより、多くの人が山の情報をネット上で簡単に共有することができるようになり、この段階でやっと山の情報をネットを通じて得られる環境が整ったと考えています。

*ヤマレコなど登山社向けコミュニティサイト

ヤマレコの開設前は、ブログや従来のSNSで山の情報が発信されるようにはなりましたが、様々なサイトやサービスに情報がばらばらに存在していて、欲しい情報を探し当てることが難しい状態にありました。
ヤマレコを開設して登山専用のコミュニティサイトで山の情報を共有する仕組みを提供することで、情報が1箇所に集まり、より簡単に山の情報にアクセスできるようになった、という点が大きいと考えています。

情報を発信する側についても、従来のブログでは文章と写真だけなのでどこを歩いたのかわかりにくく、地図をブログに埋め込むのも技術的なハードルが高いため、必要な情報が中途半端にしか集まらないという状況でした。また自分の登山のいいところだけを抜き出して残すので、必要な情報が中途半端に掲載されているサイトも多くありました。

この対策として専用のシステムを作って登山の記録として残してほしい情報を入力項目として用意することで、誰でもフォーマットにしたがって項目を埋めていくだけで他の人に役立つ情報をきちんと発信できるようになりました。
さらに最近は「GPSのログを登録する」という行為1つで、各地点の通過時刻、歩いた場所の地図、標高のグラフなど必要な情報を自動で生成するようにもなっています。

このように簡単な作業で誰でもきちんとした山の情報発信ができるようになったため、多くの方に使っていただいているのではないかと思います。

さらに山に登った人たちのデータが一箇所に集まったことにより、逆に国土地理院の地図の誤りなどが見えるようになり、国土地理院の地図の修正に貢献できるサイクルもできあがりました。
参考:「国土地理院」と「ヤマレコ」の間で、ビッグデータを活用した地形図の修正のための協力協定を締結

登山の計画や登山届についても、オンラインでの計画書作成の機能や、日本山岳ガイド協会の運営するコンパスのシステムへのオンラインでの登山計画書提出など、登山計画書の作成から提出までがネットだけで完結するようになりました。
こちらは登山者の利便性が向上したという側面もありますが、警察などの捜索をする側にとっても、登山口の登山ポストに提出された大量の紙の情報から登山者の情報を探して確認するという作業から、システムを通じて遭難者の情報を一瞬で探し出せるようになったことも大きいと思います。

登山者同士の交流という意味でも、コメントのやり取りや分からない点を登山者同士で質問・回答するようなオンラインだけの情報交換から始まり、山で出会って話をした人とオンラインでも繋がって次に一緒の登山に行くなど、オフラインとオンラインをつなげる役割も担っていると考えています。

Q.ほかにも、インターネットやIT技術の普及が登山に大きな影響を与えたものがありましたら教えてください

ポケモンGoやIngressなどの位置情報ゲームの普及があると思います。
山に登る目的として色々な目的があるかと思いますが「ゲームを楽しむために山に登る」という選択肢が一つ新たにできたと考えています。
ヤマスタのようなスタンプラリーのアプリも含めて、山で楽しむことに特化したアプリがもっと出てくると面白くなるのではないかと期待しています。

まだ実証実験などをされている段階ではありますが、ドローンの登場も大きいと思います。
特に遭難時に居場所がわからなくなった場合、従来は捜索隊による長期間の捜索が必要になりますが、ドローンを利用することでより速く捜索場所を絞り込んで救助に向かうことができるようになる可能性があります。

平成の次の時代もITは高度化していくと思いますが、それはどのようになっていくとお考えですか?また、それは登山者にどのような影響がありますでしょうか?

ITの高度化は確実に進むと仮定したときに、それをうまく活用してより山を楽しく、安全に楽しめるツールとして役立つものが数多く出てくると考えています。

より高性能な端末がより安く手に入り、より高速・広帯域なネットワークが広範囲で使えるようになり、高精細な映像を残せるようになり、そしてバッテリーもより長く持つような世界になっていくと思います。また登山においてもAIの進化の恩恵を受けられるようになると思います。

例えば見ている映像や今いる場所の情報をリアルタイムに判別・共有できるようになると、いま見ている植物や動物の情報をリアルタイムに得られたり、遭難時にはレスキュー隊が来るまでの間に電話ではなく映像を通じてどの程度危険な状況なのかを見てもらったり、セルフレスキューを指導してもらえたりする世界が来るかもしれません。

また悪天候に強いドローンが登場すれば、遭難時の捜索だけではなく救援物資の搬送や、場合によってはヘリの代わりに人の搬送までできるようになる可能性もあると思います。

このような世界を踏まえた上で、私達もITを活用して登山者のみなさんが安全に登山を楽しめる環境を作っていければと考えています。

以上です。

登山は自然の中で行う危険な活動の1つであり、ICTの技術はその安全性を高めるインフラになると考えて2003年からずっと開発を続けてきました。
時代は進んで新しい技術や新しいデバイスが出てくると思いますが、うまく活用して皆さんの登山に役立つサービスにしていきたいと思います。
引き続きどうぞよろしくお願いします!

山と溪谷の1月号では、平成の30年で変わってきた登山のスタイル、山の道具、環境など様々な視点で記事がまとまっているので、興味のある方はぜひ手にとってみてください。

by matoyan

2 Comments

  1. 篠原 隆 より:

    同感ですね!
    加えて、「海外からの登山者」がマイナーな地方の山でも増えてきました。これも皆様の情報発信のおかげでしょうか? 益々のご発展をお祈り申し上げます。

  2. aonuma1000 より:

    なるほど、そういった面で平成を振り返るわけですね。
    SNSの普及で自分の山行を発信できる。
    写真等を記録として残して置ける。
    更にはデータとして百名山等の記録をカウントできるetc
    山に出かける際、最近の様子がよく分かる
    山に登るだけではなく
    様々な形で足跡が残せることが
    登山当日以外の楽しみにつながるのが素敵ですね。
    更に、年齢を問わず、山を通しての仲間が増えることが
    嬉しいかな?
    まとまりませんが、ブログリレーしておきます。

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