研修登山~外岩でロープワークについて一考する

2019年9月24日

こんにちは、スタッフ2号です。
何だかんだと引き延ばしにしてきましたが、ようやくブログのネタとなる研修登山が行われましたので、今回は少しばかりマニアックな話をしてみたいと思います。

さて、今回の研修登山の主題はクライミングとロープワーク。
長野県内で最もポピュラーな岩場「謙信物見岩」が舞台であります。
この岩場は外岩としての歴史が古く1980年代のいわゆる「ハードフリー」の台頭と共に、長野県内のクライマー達に多大な影響を及ぼした舞台。
現在では長野県警の山岳救助隊がトレーニングを行う場所としても知られています。

そして当日の朝、岩場に到着し、まずは3級ほどの簡単な岩場にロープを張って登下降の練習を行います。
ちなみに岩登りのグレードは主に「RCCグレード」と「デジマルグレード」「フレンチグレード」の3つを主体としており、下記の様な表で表すことができます。

RCC Decimal French
1級
2級
3級下(やや難しい)
3級 5.0
3級上(剱のタテバイとかこの辺り) 5.1
4級下(難しい) 5.2
4級(実はこの辺りが登っていて楽しい) 5.3
4級上 5.4
5級下(非常に難しい) 5.5
5級(昔はこれを登れれば一人前!) 5.6
5級上 5.7 3
6級下(極度に難しい) 5.8 4
6級 5.9(フリークライミングの初級的グレード) 5a
6級上(昔は最高難度だったが10aとは) 5.10a 5b
5.10b 5c
人工登攀のグレード 5.10c 6a
A0(プロテクションをホールドにして登る) 5.10d 6a+
A1(支点が確実で動作も易しい) 5.11a 6b
A2(支点が不確実か動作が難しい) 5.11b(上級者への扉開く!) 6b+
A3(支点が不確実で動作も難しい) 5.11c 6c
5.11d 6c+
5.12a(スタッフ2号リードの限界) 6c+
5.12b 7a
5.12c 7a+
5.12d 7b
5.13a(これを登れると一目置かれる?) 7b+
5.13b 7c
5.13c 7c+
5.13d 8a
5.14a 8a+
5.14b 8b
5.14c 8b+
5.14d 8c
5.15a(現在の最高難易度) 8c+

日本では古くから「RCCグレード」が採用されてきましたが、クライミングシューズの登場や各種ギアの進化により6級以上のグレードが比較的容易に登られることとなり、以降は「デジマルグレード」を使う人が多くなりました。
いや・・・今でもアルパインルートはRCCグレードですね。
逆に言えば、今や5.10aはフリークライミングにおいては入門グレードのようなもの。
そう考えると、如何にクライミングシューズの登場が革命を起こしたか容易に想像できます。

(筆者が80年代の後半に初めて買ったカメットのクライミングシューズ)

閑話休題。

ここで各自、ハーネスを装着してロープを連結させます。
当然、結びはエイトノット(8の字結び)を使用しカラビナは使わず、直接ハーネスに結束させます。
そして岩を登ったら懸垂下降で下り、途中で仮固定をしてみます。

この仮固定はトップロープを張った後、下降時に中間支点を回収する時やルート作成時のドリリング・清掃、その他、救助の際などによく使う技術です。

ロープの通し方は単純なのですが、仮固定を開放するにはちょっとしたコツが必要で十分な注意が必要です。そのため、現場においてはバックアップを取ることが一般化しています。

その後、懸垂下降と仮固定の反復練習を行い、次は岩場の取付きでロープの結び方について実技講習。
ここでロープの結び方や結束方法についておさらいしてみましょう。

名前 別名 用途
エイトノット 8の字結び メインロープとハーネスの結束・ダブルロープの連結・中間8の字
クローブヒッチ マスト結び メインロープでの自己確保・Fixロープの始点・各種固定
ハーフクローブヒッチ 半マスト結び セカンドのフォロー・ロアーダウン・Fixロープ

この他に登山で必要な基本的な結び方として中間8の字(インライン)・カウヒッチやダブルフィッシャーマン、バッチマン・プルージックなどがありますが、この辺についてはまた別の機会にでも。

(バッチマン&ダブルフィッシャーマン)
逆に過去の遺物?として使われない、もしくは使わない方がいいとされているものの代表としてブーリン(もやい結び)があります。なぜ?って、あらぬ方向から荷重が掛かると簡単に解けてしまうからです。
いわゆる「リング荷重」というやつです。
ちなみにこのブーリン、この結び方じゃないと「絶対ダメ!」という場面がありませんので、他の結び方で代用しましょう。
昔は暗闇で「目をつぶってでも結べるようになれ」って言われたんですけどねえ・・・。
この結び方、ダブルにしたりトリプルにすることで様々な用途に使えるのですが、100回以上の救助活動で1度たりとも使ったことがありません。
そして、使っている人を見たこともありません。
テキストには載っているんですけどね・・・。
机上の知識より現場での実践ですね。
あとは完成されたスリングが販売されてからは、テープ結びも滅多に使わなくなりました。

画像はメインロープで自己確保を取るケース。これはクローブヒッチで結束しています。
この時のコツは自分のハーネス側へ伸びてるロープを引いて締めないこと!これ、超重要です。

ハーネス側に伸びるロープを引くと、結び目が狙った位置に作れず、また結び目もしっかりと作れないので注意が必要。
あとは結び目が固定されないハーフクローブヒッチで結ばないこと!勘違いは許されませんね。
因みにスタッフ2号、ハーフクローブヒッチが大嫌いです。

この結びでフォロー(セカンド)のビレーや懸垂をしたことがありません。
「ロープ痛めるじゃん!!」
そう思うのです。

さあ、やることは山ほどあるので次の行動に移ります。
と・・・ここで全員頂上に集結してお昼ごはん。

眼下には長野中心部の街並みが広がります。
画像のほぼ中心、緑に囲まれたところは善光寺。昼時に、その善光寺の鐘の音が「ゴーン」と鳴り、なんとも長閑な時間が流れます。

さて。
午後はクライミングシューズに履き替え、やや難易度の高い岩場を登ってみます。
ここでは固定分散方式でトップロープの支点を構築し、各自、懸垂下降で取り付きまで降りていきます。

懸垂下降に不安が残るKさんはバックアップを取って懸垂。
そしてこのルート、たぶんグレード的には5.9か5.10aほどか。ハング下のスラブの手掛かりが悪く、ハングを越える1手も極小のホールドを繋げる感じです。
そして何より、足がないのが結構つらいのです。

新たにヤマレコのスタッフとして加わったHさんは一撃!
Marvelous!!
代表のmatoyanはリーチとパワーを生かしてあっさり完登、今泉さんも微妙に左手に逃げましたがノーテンションで登り切ったのです。
お・・・これはちょっと意外な展開。
もっと苦労するかと思ったのに・・・。

ロープの結び方は数あれど、その全てを覚える必要はありません。
その状況の中で、確実に間違いなく結べればその方法でいいと思っています。
例えばショートロープや救助の際にメインロープの中間に「輪」を作る場合。たぶん、ロープワークをかじったことのある人であれば候補が幾つか上がると思います。
バタフライ?
中間8の字?
ミッテルマン????
僕は中間8の字をよく使用しています。
特に僕らガイドがよく使う確保技術のひとつに「ショートロープ」があります。みなさんも多分見たことがあると思います。登りの際、先頭からロープが伸びて2~3人と繋がっている「あれ」です。
(下りは逆になります)
で。
よく聞かれるのが「一人が落ちたらみんな引き込まれるのでは?」という、そりゃあ当たり前だよね?っていう質問です。
いえいえ。
ショートロープはそもそも落ちる以前に転倒させない技術なのですが、万一、誰かが落ちてもこの輪を適切な大きさで作っておくとあら不思議。
初期の段階では誰にも荷重が掛からないのです。
これがバタフライなどでは全員・・・さ・よ・な・ら。
また、Fixを張る時に作る「輪」は逆にバタフライを使ったりもします。
(方向により一概に言えないし単純な結び方だが間違えている人が多いので絶対自分で結ぶ)
まあ、そういうことです。
絶対はありません。
その状況において、確実に結べる方法があればそれを採用すればいいのです。
ただし「これは絶対にやってはいけない」という事例が幾つかあります。

例えば8の字の輪にカラビナを掛けて立木などに固定・・・最近、結び方を紹介する動画で見掛けたのですが、これ危ないです。
てか、そもそも固定されません。
よしんば、一定方向の荷重である程度の固定はできますが、カラビナの側面側が支点となり力の掛かる方向によっては破断する可能性があります。
また、ある一定方向ではまったく固定されません。
こういう技術は使ってはいけませし、こういうことをする人は何もわかってないなので信用してはいけません。

今回の講習で1番印象に残ったのはHさんの一言。
「みんなが色々な方法をいうのでどれが正解なのかわからない」
まったくその通りなのです。
ちなみにHさん、日本山岳ガイド協会の登山ガイドステージⅡを所持しています。
そういう人ですら迷うのです。
それなのに、中には「絶対こうだ」と言い切る人もいるようです。
様々な方法を知っておけば、それは自分の技術の「引き出し」としてしまっておけばいいと思うのです。
経験を積むにつれて、感覚的に「このケースはこの結び方」というのが瞬時に判断され、更なる経験の積み重ねになるのです。
そうすることによって会得できる「無意識の技術」ほど洗練されたものはないと思います。
「絶対」は存在しません。
「流動分散でなければ絶対だめ?」
「いやいや固定分散でもいいでしょ」
まずは実践と反復。
そして自分にとって必要で確実な情報を得ること。
これが何より大切。
と・・・。
善光寺を見下ろす岩場の上で、ぼんやりと考えてみました。

2 Comments

  1. mino0747 より:

    私も先日県山岳総合センターの講習会で、物見岩に行って来ました。長野県では、本チャンの岩場は多いのですが、トレーニングゲレンデってその割に少ないのかなと感じています。山岳用品店系の講習会でも、奥多摩や三つ峠山等の県外で実施されるケースが多いですね。
    確かに、参加する講習会によって、教え方もマチマチで、講師先生に合わせるのに苦心してしまいます。しかし、ワンパターンでなく、同じ技術でもバリエーションを持つことも重要だと思うようにしています。
    物見岩に行った時も、別の山岳会系と思われるパーティーが来ていましたが、そこは、懸垂のバックアップを下降器の上にプルージックでとっていました。(今は、少数派のような気がしますが)
    また、県山岳総合センターでは、懸垂のバックアップのフリクションヒッチにスネークヒッチを使っています。数ある本を眺めても、通常はプルージック、クレイムハイスト、バックマンなどで、スネークは見たことがありませんでしたが、実際やってみるとかなり使える印象です。(ただ、片手巻する場合は苦労・・・というより私のレベルではほぼ無理)
    Hさんのおっしゃることが、良く判ります。

    • yotchi より:

      mino0747様
      コメント、ありがとうございます。
      参加する講習会、極端に言えば同じ講習会でも班によって教え方が違ったりすると混乱の元になりますよね。
      同じ技術でも多くの引き出しを持つのは重要なこと、なので教え方が違ってもいいのかなと思ったりもしますが、本人がそれをうまく消化できるかにかかっていると思います。
      懸垂のバックアップにスネークですか・・私は必要に応じてバッチマンを使います。
      ただこれも、いろいろ教わった中で自分が一番確実&安心して使える方法を実行すればいいと思います。
      私の考えだと・・・。
      「色々出来るけど普段使う技術はこれだね」という感じでしょうか。
      あと使う技術とギアは極めてシンプルに。
      うまく伝わらなくてすいません(汗

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