【自分の体力レベルを知っていますか? 】
こんにちは、スタッフHです。
みなさんは日々、山の知識や登山技術の習得に努めていらっしゃるかと思います。
山ノート作成や掲示板で情報交換など、YamaRecoを活用してくださってありがとうございます。
一方で、自分の体のこと、体力レベルはどのくらいか知っていますか?
「アイツよりは体力がある!」「体力が落ちたかも・・・」
ありがちな評価ですが、 明確な裏付けはなく主観が多いかと思います。
また「昨年の夏に槍ヶ岳に登れたから大丈夫!」など根拠があっても、 冬の間に登山をお休みしていれば、今年も同じように登れるとは言い切れないですよね。
・自身の体力の客観的な評価をする、それに見合った山の登り方をする
・自分が健康であること
自己を把握する、管理できることは、自立した登山者への道につながります。
本ページでは、これらに応えたサービスとして「CPX」と「登山者検診」を紹介します。
さらに、実際にmatoyan(ヤマレコ代表)とスタッフHが受診してきた様子もお伝えします。
【体力レベルを測る「CPX」】
体力を数値化して知る方法のひとつとして、心肺運動負荷試験(cardiopulmonary exercise test、以下「CPX」とする)があります。
医療機関で受けることができる検査で、筋力・心機能・肺機能から総合的な体力を判断します。また、運動中の不整脈や狭心症の有無も調べられます。
心臓病患者さんのリハビリに利用されるほか、スポーツ検診やアスリートドッグなどスポーツ医学でも活用されています。
CPXの試験では、運動をしながら心電図・血圧・呼気ガス・血中酸素濃度をモニタリングします。運動はエルゴメーターと呼ばれる自転車を漕ぐか、トレッドミルと呼ばれるベルト上の坂道歩行です。
【登山者向けの健康診断「登山者検診」】
そして、登山者を対象とした健康を見極めるサービスとして「登山者検診」があります。
「登山者検診」とは、日本登山医学会と高所登山・高所旅行を扱う旅行会社によって組織される「登山者検診ネットワーク」が推奨する健康診断です。
主な対象とされるのは、標高3800m以上での宿泊を伴うツアーの参加者、または旅行会社が指定するツアーに参加の75歳以上です。高所登山・高所旅行の予定がない方でも受診は可能です。
登山者検診ネットワークに加入している医療機関で受けることができ、指定項目の検診のほか、日本登山医学会認定山岳医による診察とアドバイスを受けます。
また、旅行先での不測の事態に備えて、日英両文の診断書を作成します。
〇登山外来や登山者検診を案内している医療機関
●北海道大野記念病院・大野病院附属駅前クリニック(北海道) 「登山者検診」「登山外来」
●苫小牧東病院(北海道) 「専門外来_登山・ウォーキング外来」
●東京医科大学病院 渡航者医療センター(東京都) 「登山者・高山病外来」
●佐藤病院(東京都) 「登山者検診」
●神奈川県予防医学協会(神奈川県) 「登山者検診」
●松本協立病院(長野県) 「登山者検診」
オリジナルメニューを用意している病院もあり、登山者検診ネットワーク指定の項目のほか、先述のCPXやバランス検査、栄養相談などを受けることができます。(※詳細は各病院に問い合わせください)
まとめると、
・CPXを受けると体力の計測ができる
・登山者検診を受けると健康面の確認ができる
・CPXを含む登山者検診を受診すると、体力と健康面の評価ができる
といえます。
【登山者検診 体験レポート】
「CPXを含む登山者検診」について、
具体的にはどのようなものなのか、matoyanとスタッフHが受けてきました。
お世話になるのは、長野県松本市の松本協立病院です。
松本駅アルプス口の目の前にあり、交通の便が良い大きな病院です。
ここで実施している「登山者検診」は、登山者検診ネットワークの指定項目に加え、心臓超音波検査、CPXを受けることができて26400円(税抜)です。また、同院の登山者検診を受けた人は、1年以内であれば「CPXフォロー」としてCPXを5000円(税抜)で受けられます。どちらも、保険点数からするとかなりお得な値段設定だそうです。(2020年6月時点)
診ていただく市川医師は、日本登山医学会認定国際山岳医で、そして循環器専門医です。
登山が趣味で、海外登山やアルパインクライミングもされるそうです。
出典:松本協立病院
実施は毎週金曜の午後で、所要は3時間です。
遠方からの受診者には、土日の北アルプス登山と合わせて来院する人もいるとのことです。
matoyanは「登山者検診」、スタッフHは1年前に受診済なので、オプションの「CPXフォロー」を受けます。
(※検診の見学、および写真撮影は、特別に許可をいただいています)
それでは体験レポートです。
某金曜の午後、昼食をしっかり摂ってから来院し、受付をします。
検診の流れは以下の通りです。
出典:松本協立病院
①身体測定
まずは2人共、身体計測、血圧測定、問診です。
問診表には、既往歴や生活習慣のほか、主だった登山歴を記入します。
②血液検査、尿検査、胸部レントゲン
リラックスして採血します。看護師さんの話術はさすがです。
③心電図、心エコー、呼吸機能検査
肺機能検査では、肺活量を調べます。
技師さんの元気な合図に合わせて、精いっぱい息を吐きます。
④CPX
スタッフH、matoyanの順で受けます。
腹部に心電図の電極をつけ、腰には(服で見えませんが)機器を備えたベルトを巻きます。
左腕には血圧計を付けます。
顔には呼気ガスを計測するマスクを装着し、空気が漏れないようにしっかりとバンドを締められます。
電極などいろいろつながれている姿は、ちょっと恥ずかしいです。
良い結果を出したいと、少し気負っています。
開始時はじっと座ったままで、安静状態を計測します。
3分経過すると自転車漕ぎが始まります。
50回転/分のペースを守り、電子音に合わせてペダルを漕ぎます。呼吸の苦しさまたは、脚の疲労の限界まで漕ぎ続けます。
最初は負荷が軽いため、ペダルを速く回し過ぎないように注意します。
一定時間毎に、血圧計が自動で稼働し、技師さんが何やらメモを取ります。市川先生は、心電図波形をチェックしています。
気づかないほど自然に、じわじわとペダルが重くなります。いつの間にか、追い詰められていきます。
検査中は話すことはできません。黙って自転車を漕ぎますが、頭の中はぐるぐる考えています。
「酸素効率を上げるために心を無にしたほうがよい?
いや脚に意識を集中したほうが、良い結果が出るかも!?」
「前回よりも呼吸がしんどい気がする・・・いつ終わるんだろう」
ペースが落ち始めると、技師さんが「イチ!、ニ!、イチ!、ニ!」と合図を取って励ましてくれます。
前を向いて、姿勢を変えないようにしないといけないのですが、限界です。回転数を戻すことができずあっけなくチャレンジ終了です。
その後は負荷が軽くなったペダルを1分漕ぎ、2分安静にします。
マスクを外し、脚と呼吸のそれぞれについて、どの程度きつかったかを答えます。
自転車を漕いでいた時間は10分ほどですが、あっという間に終わった感覚です。
疲労感はしばらく残りました。
次はmatoyanの番です。
期待されているようで、負荷設定は高めなようです。
涼しい顔で、どこまでも漕げそうです。
・・・・・・
たいぶ長い時間漕いでいた気がします。ペースが落ち始めて技師さんの合図が加わります。
が、姿勢は崩れずそこからの粘りもすごかったです。
良い結果が期待できるのではないでしょうか。
終了後はさすがに汗が噴き出でていて、やり切った様子です。
「辛かったよ」とのことで、スポーツドリンクをグイっと飲まれていました。
⑤専門医診察、検診結果説明
最後に市川先生の診察を受け、検診結果の解説と活用のしかたを教えていただきます。
matoyanの結果をもとに、お伝えしますね。
健康面は問題なしとのことでした。
スポーツのし過ぎで心臓が肥大している、いうこともなく、運動中の不整脈などもありませんでした。
もし病気が疑われる場合は、再検査や治療の相談をします。
次に体力測定の結果です。
CPXの説明と測定結果が記入された冊子をいただきます。これを元に説明を受けます。
【matoyanの体力年齢は 20歳】
まず簡易的な指標として「体力年齢」が発表されます。
matoyanは
心肺機能:20歳
下肢筋力:20歳
でした。なかなかの高スペックです。
年齢の平均と比較して算出される数値だそうです。
20歳を下限としているので、実際は20歳の平均値を超えて優れているそうです。
実年齢より若いと、嬉しいですね。
【matoyanの登山の目安は 心拍数146回/分】
出典:松本協立病院
上のグラフは、CPXの一般的な波形です。
運動負荷(赤茶)心拍数(水色)、酸素摂取量(黒)の時間変化を表します。
御覧の通り、運動負荷と心拍数、および酸素摂取量は相関関係にあります。
運動負荷が上がると、心拍数、および酸素摂取量も増加します。
ここで「AT」「Peak VO2」という2つの指標がポイントになります。
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AT(嫌気性代謝閾値):有酸素運動から無酸素運動に切り替わるポイントでの酸素摂取量
PeakVO2(最高酸素摂取量):これ以上もはや運動ができないという強度における酸素摂取量
(※ランニングをされる方にお馴染みの「VO2max(最大酸素摂取量)」と似ていますがやや異なります
CPX終了時の酸素摂取量を示しており、CPXは心電図波形の異常により医師の判断で終了することがあります)
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ATは登山の目安となるパラメータで、測定波形から医師が決定します。
matoyanのATは26.1ml/kg/分で、このときの
心拍数は146回/分
運動強度は7.46METs(※)
でした。
これらを超えない範囲の運動は有酸素運動となり、エネルギー効率がよく、バテにくいそうです。
理論的には、適切なカロリー(行動食)を摂り続けていれば、どこまででも歩けるということです。
※METs(メッツ )
運動強度の単位で、安静時を1とした時と比較して何倍のエネルギーを消費するかで活動の強度を示したもの。( 引用:e-ヘルスネット, 厚生労働省)
登山におけるMETsは、ハイキングが6Met’s、一般的な登山が7METS、バリエーション登山が8メッツと言われています。(参考:山本正嘉,登山の運動生理学とトレーニング学, 東京新聞, 2016年, P.66)
山行中の心拍数は、心拍計を備えたスマートウォッチや活動量計で測ることができます。
matoyanの場合は、146回/分あたりを越えないように意識し、ほどよく軽食を食べていれば、
疲労を溜めず長く歩けるそうです。
また、登山をするには少なくとも5METsの運動強度に耐えられることが望ましいそうです。
登山における行動「歩く」「登る」「休む」・・・などを平均するとだいたい5METsだそうです。
一方で、Peak VO2は自分の運動能力の限界です。
これを超えるような運動が継続する状態は、厳しいということです。
matoyanのPeak VO2は43.0ml/kg/分で、このときの
心拍数は183回/分
運動強度は12.3METs
でした。
登山をするには十分な、良い結果だそうです。
もし、脚力が不足していたり、既往歴があれば注意する必要があります。
健脚であっても心肺機能に疾患があれば、 Peak VO2はぐっと低い値となるそうです。
Peak VO2が低いと、荷物が重い、難路を歩くなどの際に運動耐容能を超えることがあります。
このような状況が長時間続く山行は見直したほうがよさそうです。
【ポイントは自分の運動能力&リスクを認識していること】
ATを超えない範囲内での運動が望ましいですが、登山ではそうはいかない場合もありますよね。
岩場・鎖場の通過は、一時的に運動負荷が高くなります。
落石の危険がある箇所は、休まずに素早く進まなければなりません。
さらに天気の要素として降雨後のぬかるみ、積雪、強い向かい風などが加わることもあります。
そして、鍛えたい!挑戦したい!という気持ちから負荷の高い登山をすることがあるかと思います。
ここで肝要なのは
「自分の運動能力やリスクを認識していること、そのうえで選択して行動すること」
です。
ATを超える登り方は疲労しやすく、身体の負担が大きいため心疾患のリスクが高くなります。
特に年齢を重ねるほど、そして持病があると顕著です。
山での死亡原因の2割近くは心疾患などの病死で、また死亡者の95%が40歳以上だそうです。
(※安全な範囲内の運動であっても心臓突然死のリスクがゼロというわけではありません)
もし挑戦を取り入れた登山をする際は、リスクを自覚し、自分の判断と責任で行動することが自立した登山者と言えます。
高みを目指す、体力をつける一方で、
「高山植物を観察する」「写真を撮る」など景色をゆっくり味わうスタイルも取り入れると、
生涯にわたって山を楽しめそうです。
【具体的な山行:matoyanの常念岳テント泊は 「安全圏内」】
松本協立病院の登山者検診では、事前に山行計画を伝えておくと具体的な相談に乗ってくれます。(※国内一般登山道に限ります)
目標とする山があれば、ぜひ聞いておきたいですよね。
今回は一ノ沢登山口より「常念岳」に登る場合を伺いました。「ルートWiki_常念岳(一ノ沢ピストン)」
matoyanの体力は、テント泊装備を想定した荷物を背負い、コースタイム0.7~0.8倍のペースで登っても安全圏内だそうです。お墨付きをいただけて安心です。
体力が不足している人には、どれくらいペースを落とせばよいか、また、それに伴って行動時間が延びるため、泊数を増やす提案などをしてもらえます。
【定期的な測定が効果的】
市川先生によると、定期的に測定することがおすすめだそうです。
結果の推移はトレーニングの成果が確認できるため、モチベーションがアップします。
そして
・体力は放っておけば低下するもの
・年齢を重ねると病気のリスクは上がるもの
ひとつの結果を、長く維持できるとは限りません。
安心して山に出向くため、役立てていただきたいそうです。
matoyanも、1年以内にCPXフォローを受けるそうです。
さらに市川先生より、筋力トレーニングの方法や、セルフでできる簡易な体力測定方法を紹介してもらいました。
市川先生は普段から登山をされるだけあって、山の話もいくつか伺うことができ、有意義に楽しく過ごしました。
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スタッフHの結果ですが、
体力年齢は前回と同じ20歳!
アルパインクライミングをするなら、下肢を中心にもっと筋力をつけた方が良いそうです・・・。
トレーニングゼロの生活でしたが、自宅で筋トレを始めようかと思います!
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検査結果と市川先生にお聞きした内容は、後日「登山者検診 結果通知表」にまとめられて郵送で届きます。
(※高所登山・高所旅行を予定されている方は、日英両文の診断書が代わりに届きます。「CPXフォロー」の場合は結果通知表の郵送はありません。)
みなさんも機会がありましたら、体力測定と、山岳専門医のアドバイスを受けてみてはいかがでしょうか。
・松本協立病院 「登山者検診」
・Facebook「松本協立病院 登山者検診」市川先生が登山医学情報や、山のコラムを発信されています
登山に当たっての自分自身の運動能力やリスクなど勉強になりました。私は登山初心者でまだ日帰り4回のみです(距離10km未満、高低差800m未満)。砂防や治山の調査業務では渓流遡上や斜面登攀など21年目です。道などは無い沢などを地形図や大縮尺地図を読みながら獣道に頼ったり、滝が出てこれば高巻きできるルートを探しながら山中を歩いて調査をしてきました。業務が一時的に中断してしまったため、体力維持と山歩きの勘を麻痺させないため、初めて「登山」にチャレンジしています。業務で一定の目的を持って山中に入ることと、山行そのものを目的として歩くことは大きな違いがあることを実感しています。是非とも登山者健診を受けて山行における自分の体の可能性を知っておきたいところですが、あいにく私の地域には受診可能な医療機関がありません。今後は自分の勘と経験のみに頼らず可能と思われる力の7~8割を自分の力とわきまえ、業務に取り組むと同時に、始めたばかりの登山にも折を見て挑戦したいと思います。長々と失礼しました。
読んでいただき、またコメントありがとうございます!
水源の涵養や生活環境の保全など、たいへん重要なお仕事に就かれているのですね。
長年、道なき山中を歩かれた経験は、素晴らしいと思います。趣味の登山でも十分に発揮されるでしょうね!少しでも安全に、そして楽しい山行となるようお祈りしています。
自分でできる体力測定のひとつに「マイペース登降テスト」というものがあるそうです。興味があれば、試してみてください。
長野県山岳総合センター 「マイペース登降能力テスト」について
還暦を過ぎて多少衰えを感じていますが、目指している百名山踏破まであと70座弱あります。この記事はとても良いモチベーションとなりました。なんとか70代前半までに踏破したいと考えています。これまでのようにコースタイムよりいかに短くではなくて、難路であってもコースタイム通りに安定して歩けるようにと思います。
高度2500㍍以上の高地では疲労が増し、速度が遅くります。場合によっては高山病をはっしょうすることが度々あり、
再入力
以前から標高2500㍍以上になると疲労が増し、歩行速度が極端におそくなることが良くあります。
宿泊など長期滞在時には高山病が発症したこともあります。
常に自分の体力や状態をよく観察し、体力の維持強化に努めたいと思います。
今後はアルプスなど標高の高い山に宿泊を伴う山行をする前には、登山者検診をしようかとも考えていますが、関西圏で受けられる施設はありませんか。
こんにちは。ご質問の件について私は詳しくないので、日本登山医学会に問い合わせてみてはいかがでしょうか。
登山者検診ネットワークに加入している医療機関または、認定山岳医を紹介してもらえるかと思います。