救助者の心の健康のためにも、野外救命講習

2022年4月6日


こんにちは、スタッフHです。
日増しに暖かくなってきましたね、ブリキのプランターで春っぽい寄せ植えを作ってみました。
冬は登山をお休みされていた方も、早春の花を愛でに再開されたのではないでしょうか??

 

さてさてヤマレコ社内では先日、野外救命講習を開催しました。

安全登山に努めていても、自然を前に事故に遭わないとは言いきれません。
また、他のパーティの事故現場に出合ってしまうかもしれません。。。
万一に備えた知識と技術は、なかなか経験で身に付けるわけにはいかないもの。
それらを学んだ様子をご紹介しますね。

 

【教えてくださるかたは??】

講師は坂本元太(さかもとげんた)さんをお招きしました。
坂本さんは登山ガイドであり、また諏訪地区遭対協山岳救助隊員、救急隊員など、多岐にわたってご活躍されています。
横浜市消防局で隊長をされていたこともあり、都市と山岳の両方に通じる救急・救助のスペシャリストです!
八ヶ岳登山 / 登山ガイド坂本元太 / 諏訪郡原村

 

【どんなことを学んだの??】

今回は、応急手当の流れ、『救命の連鎖』のシステムについて学習しました。
なかでも通報までの行動や、応急手当については実習も交えました。

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『救命の連鎖』とは・・・?
傷病者の命を救い、社会復帰に導くために必要となる一連の行いを「救命の連鎖」といいます。(引用:総務省消防庁ホーム 防災・危機管理eカレッジ 救命処置

「①予防」「②通報」「③一次救命処置」「④二次救命処置」の4つの行いを、
途切れず素早くつなげることで、救命効果を高めます。

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【適切な手順を知らないとこんなリスクが・・・】

応急手当は、傷病者に対しては「救命する」「傷病を悪化させない」「苦痛を軽減する」などの目的があります。

ただ、“どのタイミングで、何をするのか”  がきちんと判断できないと、役に立たないことがあります。

 良くない例
 ・通報の前に1人きりで心肺蘇生法を始めてしまい、手が離せず救助要請が遅れてしまった
 ・目の前の軽傷者の手当てをしたが、近くの茂みにいた重傷者には気づかず、放置してしまった

不測の事態は、目の前のことしか見えなくなりがちです

 

山では救助隊の到着に時間がかかり、傷病者の容体は応急手当に大きく左右されます。
さらに野外はできることが限られており、それが完璧でないと効果が期待できず、
もし完璧であっても都市の救急には及ばないそうです。

また、救助者に対しては、2次遭難パニックを引き起こす可能性も高まります。

良くない例
・負傷者を発見し、真っ先に駆け寄ったら火山ガスが充満しており自分も倒れてしまった!
・何をしたらよいか分からずとにかくパニック!山小屋が目の前でも助けを呼ぶことが思いつかない

落石や火山ガスなど、自身に危険が及ばないかのチェックも重要です

 

【学ぶことは、こんな効果も】

上記のようなリスクを減らすために、知識と技術は不可欠です。

加えて、坂本さんが挙げられた習得すべき理由がとても印象的でした。

それは 『救助者(となった自分)が後悔しない』 ことです。

事故の後で、救助者がPTSD(Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害)にかかることは珍しくないそうです。

「あの時、別の判断をしていれば・・・」
「もっとできることがあったのではないか??」
「私のせいで・・・」

法的に問題がなくとも割り切れることができず、他のメンバーとのトラブルが起こったりと、その後の人生で長くストレスを抱えてしまうそうです。

人助けを頑張ったのに・・・ですよ。

反対に、適切な処置ができ最善を尽くせた場合は、
もし傷病者が助からなかったとしても、結果を受け入れられることが多いそうです。

処置を止めるタイミングも決断できるため、疲弊や日没による救助者の2次遭難の防止にもつながります。

人命救助の目的だけでなく、その後の  “自分のために”  も必要なことです。

 

【まずは座学から】

講習の前半は、救命の連鎖について、各要素の解説を聞きます。
110番と119番の仕組み、都市と山岳の救命の違いなども詳しく教えてもらいました。

「元気ですか~!元気が無ければ救助はできない!」と明朗快活に話される坂本さん(中央)、とても分かり易いです

通報の際に慌ててしまい、救急車が向かう住所を正しく言えない実例もいくつか聞きました。
例えば
・外出先なのに、自宅の住所をひたすら繰り返し伝える
・「ロケット公園のところ!」と地元の人だけわかるニックネームしか言えない

場所を正確に伝えるには、交差点名標識や、コンビニの支店名などが役に立ちますが、
山でも都市でも、最も有効なのは緯度経度だそうです。

ちなみに、ヤマレコアプリの登山中の画面では、現在位置の緯度経度を見ることができます。

ヤマレコアプリ:登山中の画面

登山中の画面左下(上図の赤丸箇所)には緯度経度が表示されています。

ヤマレコアプリ:現在位置のポップアップ表示

これをタップすると、ポップアップ表示され、シェアすることもできます(上図)

 

他には、傷病者に近づく時に気を付けるべきポイントも教わりました。
血液感染を防ぐこともしかり、ご時世柄、飛沫を浴びないことも大事です。

マスクやゴム手袋を使用した後の外し方や、その始末にもコツがあります。

帽子やメガネ、ジャケットもあれば着用します

 

【座学に続いては実習も】

”傷病者発見から救助要請する/しない” の判断まで、シミュレーションも行いました。

1人は指定の傷病を演技し、もう1人は救助者役として状況を評価をします。

意識が無ければ、回復体位にして気道を確保します

ふだんは温和なKJさんの「痛い~!ヘリ呼んで~!」の演技はとても貴重でした。救助者役の私はというと、あたふたしてしまいました。。。

 

そして救助を待つ際ですが、
傷病者への手当てはもちろん、観察と記録もしなければなりません。
・見かけ(顔色、汗のかき具合)に変化はあるか?
・脈拍や意識レベルは低下していないか?
・保温はできているか?

  などなど

傷病者役として寝そべると、床から体温がどんどん奪われるのを感じます。
これが雪上であればなおさら、保温の大切さを感じました!

 

事故とその経過の情報が詳しいほど、救助隊や医療機関への引継ぎがスムーズです。
傷病者の意識がはっきりしていれば、本人の年齢やかかりつけ病院、既往歴なども聞いておきます。

もしヤマレコアプリを使用していれば、メモ機能が便利です。

ヤマレコアプリ:登山中の画面

画面左下の「エンピツマーク」(上図の緑丸箇所)をタップすると、写真にコメントを付けて記録したり、それらを一覧(下図)で見ることができます。(登山終了後は、マイページの「GPSログ(登山メモ)」から参照することができます)

ヤマレコアプリ:メモ一覧

 

また傷病者の腕に、心拍計を備えたスマートウォッチや活動量計などを付けておくと、いちいち心拍を計る手間が省けます。

心拍数表示:Apple Watch(上)、Mi band(下)

 

引き続き、人形を使っての胸骨圧迫も体験しました。
力とスピードが求められ、何分も継続するのは大変です。

プリンセスプリンセスの楽曲「Diamonds」を口ずさむと、テンポがちょうどよく、裏拍があることも動作を助けます

 

身近な物を用いての応急手当にも挑戦しました。
matoyanが腕を骨折したという想定で、固定を試みます。

食品用ラップフィルムは、種々の固定に使えそうでした

皆で必死に、あれこれと道具を持ち出します。たくさんのアイディアを出すことができました!

ただ、「痛い」と訴えるmatoyanへの、愛護的な声掛けが少なかった点は反省です。。。

 

などなど・・・盛りだくさんの、でもあっという間の1日を過ごしました。

 

【振り返り】

山では救命の条件が厳しく、完璧さが求められることを理解する一方で、

スムーズに応急手当をこなすことの難しさを感じました。

また、坂本さんは山岳救助にも携わっておられるので、お金のことや現場の生々しい話など、多岐にわたって興味深くお伺いできました。
講習に参加したことで意識が高まり、逆説的ですが、いっそう学ばなければと思いました。
自分のスキルがまだまだであることもよく分かりました。これからも復習や、定期的に受講する機会を設けたいです。

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