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Yamareco

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トレイルラン
甲信越

雨乞山、能登見平

2011年04月01日(金) [日帰り]
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天候 快晴
過去天気図(気象庁) 2011年04月の天気図

感想

まるで床と同じじゃ〜ん。
病室に初めて入った途端、それをこの眼で間違いなく捕えていたはずなのに、
人が寝るところだと認識できる人生経験が私にはなかった。

その付添いベッドはあまりに小さい。
試しに寝転がったところ、両腕がはみ出て床に垂れる。
足首はそっくり投げ出される。カタイ。セマイ。

ここでどうしろと言うのか。
まさか「ここで寝て下さいね」な〜んて言いませんよね、看護婦さん。悪い冗談でしょ。
夜になれば冷えるだろうと妻に言われて、自宅から持ち込んだ毛布を、
結局は体の下に敷いて寝た。
病人に付き添うのだから、文句は言えないことは分かっている。
見上げれば、付添いベッドに比べて堂々とした上等なベッドで横になっている息子に、
冗談半分でこう言った。「交代して〜。お父さんがそこで寝るからさ。」
それから30分。冗談半分のさらに半分にした冗談となって、同じ言葉が口をつく。
ああ、情けない。

かねてから予定していた手術を受けるために、長男が入院した。
小学校2年生に進級するというのにお医者様のスケジュールでこの日しかなかった。
私が付き添うことにした。

同じ手術の2回目だったおかげか、前回の手術よりは、落ち着いた顔をしていた。
親としては、それだけでほっとした。

普段は息子の方から「手、つないで」なんて言うことはないのに、
ベッドからゆっくり起き上がり、スリッパを履き、トイレに行こうとする度に、
すがるように手を出してくる姿に、100%応えてあげた。
なんでもしてあげるよ。

食事は時間をかけて食べさせて、少しテレビを見て、しりとりをして寝ることにした。
果物限定のしりとりをして、乗り物限定のしりとりをして、マンガのキャラクター限定のしりとりをしてほどなく、息子はうとうとして寝た。
私の方はというと、こっそり持って来たお酒を少し飲んで寝ようとした。
寝れるはずも無く。

今ごろ、体育館で寝ている人たちはたくさんいて、きっとこんなんだろうな。
俺も我慢しなくちゃだなと努めたが、想像の域の気構えでは、
病室で晒されている現状を打破できるわけがない。
隣の隣の病室から聞こえる奇声が、何の縛りもなく廊下に響くものだから寝れない。
付添いベッドの硬さが増した。さらにひとまわり小さくなった。
どうにもこうにも寝れず、小さな電気をつけて「山と渓谷」を読むことにした。
うとうとしても、結局眠れず朝になった。

13年前、おじいちゃんがパーキンソン病で闘病生活を送ったのもこの病院だった。
病院生活が半年以上も続いただろうか。その間、おばあちゃんはずっとこの付添ベッドで過ごしていたのだと思うと胸が締め付けられた。
母が、「私が交代するからたまには、家に帰ってゆっくりしたら」と促しても受け入れなかった。
「おら、うちにいてもすっことね〜し。」
と言って、おじいちゃんのそばを離れなかった。

訃報を聞いたとき、私は学生で千葉にいた。
箱根駅伝優勝に向け、チームは士気高くまとまっていた。
それでも、最後におじいちゃんの顔を見るために新潟に帰省すると決めた。
一発くらい殴られるのを覚悟で鬼監督に言った。
「おれのときは、大阪に帰らせてもらえなかったよ」珍しくやさしく答えてくれた言葉には、
おまえと同じ状況のとき、自分のふるさとに帰らせてもらえなかった。だからおまえは帰れという意味に受け止めた。
お葬式に直行すると、おばあちゃんは静かに泣いていた。


息子の術後は至って順調だ。
病院を出ると、弥彦山がはっきりと見え、青空が広がっていた。
すこし冷たい空気が最高にきもちいい。
そろそろと歩く息子を連れて家に帰るとほっとした。
何のためらいも無く仮眠した。
目覚めた時、ここが自分の家なのか、まだ病院の付き添いベッドの上なのか
一瞬分からなかった。

ぼけ〜っと窓の外をみると、まだまだいい天気だった。
山に行きたくなった。
からだ中の細胞が『ヤマ イコー ヤマ イコー』と
ぷちぷち、ざわめく。健康な体は財産だ。
無意識で、山に行く支度を整えた。


さくらの湯に車を停めて、のんびりと山を走った。
この山が自分のふるさとだと嬉しくなった。
寺泊、出雲崎から柏崎へと伸びる平穏な海岸線、
カタクリ咲く穏やかな里山、
そして広がる田んぼ。
見慣れた景色が違って見えた。


あの ふ〜るさとへ かえろかな〜 か〜えろ〜おかあな〜
千昌夫さんの「北国の春」。
千昌夫さんは陸前高田市の出身という。
先日、NHKで流れたこの歌を聞いて、涙が流れない人はいまい。

TE 2.6
815kcal
HRAV 113
dst 14km
ascent 816m

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2011.4.1 \489

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