甲子山,大白森山


- GPS
- 06:30
- 距離
- 11.9km
- 登り
- 1,204m
- 下り
- 1,200m
コースタイム
天候 | 天気:☔。気温:5〜10℃。風:やや強め。 |
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過去天気図(気象庁) | 2025年06月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
写真
装備
個人装備 |
長袖シャツ
ズボン
靴下
グローブ
防寒着
雨具
靴
ザック
昼ご飯
行動食
非常食
飲料
地図(地形図)
計画書
GPS
ファーストエイドキット
常備薬
保険証
携帯
時計
タオル
ストック
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感想
〜雨中の新緑を行く、甲子山の縦走〜
23歳の私は、人混みを避けてひっそりと山に分け入ることを好む。今回選んだのは、福島県南部に位置する甲子山。新緑の季節、瑞々しい緑に抱かれながら静かに山と向き合う、そんな一日を思い描いていた。しかし、山は私の淡い期待を嘲笑うかのように、その本性を現すことになる。
6月1日、夜明け前の静けさの中、甲子山登山口に車を滑り込ませた。時刻は午前6時15分。まだ薄暗い森の入り口に一人立ち、大きく深呼吸をする。しっとりと湿った空気が肺を満たし、都会では感じることのできない清涼感が全身を巡る。新緑の季節を選んだだけあって、登山口からすでに、目に鮮やかな緑が広がっていた。若葉の透き通るような緑、苔むした岩の深い緑、そして木々の幹を覆う柔らかな緑。それらが幾重にも重なり合い、まるで深淵な緑の海へと誘い込むかのようだ。
登山道の入り口には、熊の目撃情報を示す看板が立っていた。単独行の緊張感をいやが上にも高める。念のため熊鈴をリュックに括り付け、その音を道標としながら一歩ずつ足を進めた。登山道は、整備されているものの、前日の雨の影響か、ややぬかるんでいる箇所もあった。ぬかるみに足を取られぬよう、慎重に、しかし着実に高度を上げていく。
森の中は、鳥たちのさえずりが響き渡り、まるで自然のオーケストラに包まれているかのようだった。時折、木々の間から差し込む朝の光が、足元の若葉をキラキラと輝かせ、思わず立ち止まって見入ってしまう。曇りの予報ではあったが、この時点ではまだ雨は降っておらず、新緑の美しさを存分に堪能できた。
しかし、登り始めて30分ほどが経った頃だろうか。ポツリ、ポツリと雨粒が落ちてきた。最初は小雨だったものが、徐々にその勢いを増していく。レインウェアを取り出し、慌てて身につける。今日の天気予報は曇りだったはずなのに、完全に裏切られた気分だ。雨具を身につけたことで、体から発する熱がこもり、じわりと汗が滲む。
午前8時頃、甲子山山頂に到着した。山頂は、濃い霧に包まれ、残念ながら景色の広がりを望むことはできなかった。周囲は木々に囲まれ、展望はもともとあまりない山頂だが、それでも霧の幻想的な雰囲気は、雨中の登山ならではの趣を感じさせた。山頂標識に触れ、達成感を噛みしめる。休憩もそこそこに、今回の登山のもう一つの目的地である大白森山を目指し、甲子峠へと足を進めた。
甲子山から甲子峠への下りは、雨でぬかるんだ道が続く。木の根が張り出し、滑りやすい岩場も多い。細心の注意を払いながら、一歩ずつ足場を確認して下っていった。視界は白く霞み、遠くの景色は一切見えない。ただひたすらに、目の前の足元に集中する。雨音だけが、絶えず耳元で響き渡っていた。
甲子峠からは、大白森山への登りとなる。雨脚はさらに強まり、もはや小降りとは言えない状態だった。レインウェアは水の侵入を完全に防ぎきれず、服がじっとりと湿っていくのがわかる。冷たい雨が容赦なく降り注ぎ、体温が奪われていくのを感じる。しかし、ここで引き返す選択肢は私の中にはなかった。一度決めた目標は、何があっても達成したい。それがソロ登山の醍醐味であり、時に厳しい試練でもある。
大白森山への道は、甲子山への道よりもさらに険しかった。急登が続き、足元は泥濘で滑りやすい。ストックを強く突き刺し、体を支えながら登っていく。雨に濡れた新緑は、その美しさをさらに増しているように見えた。雨粒をまとった葉っぱは、宝石のように輝き、みずみずしさに満ち溢れている。雨で景色が見えない分、足元の植物たちに目を奪われた。苔むした岩、雨に濡れて鮮やかな緑を放つシダ植物、そして、小さく可憐な花々。それらが、私を励ますかのように、静かにそこに存在していた。
午前10時頃、ついに大白森山山頂に到着した。達成感と同時に、全身を濡らした冷たさが一気に襲いかかる。山頂は、甲子山以上に視界が悪く、辺り一面が濃い霧に覆われていた。展望は完全に諦め、わずかな時間で山頂標識の写真を撮り、すぐに下山を開始した。
下山は、登りよりもさらに難易度が高かった。雨で滑りやすくなった急な下り坂は、一歩間違えれば転倒しかねない。何度も足を滑らせそうになりながらも、集中力を切らさず、慎重に下りていった。全身はすでにびしょ濡れで、レインウェアも意味をなさなくなっていた。リュックの中まで水が染み込んでいるのがわかる。体は冷え切り、指先はかじかんでいた。
しかし、不思議と心は折れていなかった。むしろ、この過酷な状況を乗り越えることに、ある種の喜びを感じていた。都会の喧騒から離れ、大自然の中で自分と向き合う。それがソロ登山の醍醐味なのだと、改めて実感した。
雨の中をひたすら歩き続け、ようやく登山口に戻ってきたのは午後0時30分頃だった。全身から湯気が立ち上るかのように、雨水が滴り落ちていた。泥だらけになった登山靴、びしょ濡れのレインウェア、そして冷え切った体。しかし、その顔には達成感と満足感が満ち溢れていた。
車に戻る途中、ひときわ目を引く美しい滝が目に入った。雨で水量が増しているのだろうか、普段よりも力強い水しぶきを上げながら、勢いよく流れ落ちていた。雨に洗われた周囲の木々も、一層その緑を深くしているように見える。この美しい滝が、今日の登山の締めくくりとして、私を優しく労ってくれているかのようだった。
今回の甲子山縦走は、想像していた新緑の中の爽やかな登山とは全く異なる、雨と霧に包まれた過酷なものとなった。しかし、その厳しい状況を乗り越えたことで、得られたものは大きかった。自然の厳しさと美しさ、そして自分自身の内なる強さを再認識できた一日だった。きっと、この雨の甲子山は、私の中に深く刻み込まれることだろう。そして、次回の登山では、澄み切った青空の下、広がる絶景を心ゆくまで堪能したいと、新たな目標を胸に抱いた。
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