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今年も残雪が多く、“大樺沢”は“八本歯コル”まで雪で埋まっていて、冬山経験者ではないとキケンだ、という事前情報から急遽、右俣から“肩ノ小屋”ルートに替える。しかし結果から考えると、登れないことはなかったようだ。ギンギンの“山オバサン”ではなく、ごくフツーの“オバサン”がけっこう通過してきている。しかもピッケルの準備もなく。しかし、結果オーライとして無事故で済んできたが、わたし的にはやはり、滑落を防ぐためにピッケルは必携と考える(現に数日前に滑落死亡事故が発生している)。
いつもの登りはじめの苦しいひと時が過ぎたころ、“大樺沢”の末端に出る。すさまじい沢音が聞こえるが水は見えない。雪の下を伏流となって流れているのだ。踏み抜いて流れに巻き込まれたら命はないな、などと話しながら登る。
真新しい板を渡した橋をわたり支沢を越えると、上り始めに追い抜いて行った中高年の5人パーティが休憩している。このパーティには二俣分岐でまた一緒になった。信州からきたということで、よく統制のとれたスピードのあるグループだった。それもそのはず、後尾のSLとおぼしき女性は、“白馬”のガイドだという。
「今月末に白馬へいきますよ」
と言うと、ちょうど花の時期なのできて下さい、などと言葉を交わす。右俣を“北岳山荘”へと向かっていった。
15時、小屋に到着。お花畑への往復を協議する。所要時間3時間あまり。18時には帰着することができるが、あまりファイトが沸いてこない。“縄のれん“と”赤ちょうちん“を下げる時間だね、ということで一致。そのかわり翌朝の出立時刻を1時間早めて5時に出ようと決める。
さっそく“赤ちょうちん”開店の時間。お品書きはチョーチョー高額ビールとヒデオさんが担ぎ上げた日本酒、例のPボトル入りオレの赤ワイン。それに細い体のどこにそんな力がるのかラッキョウ、キャラブキ、北海道由来の味つきホッケ、とつぎつぎ“どらえもん”の箱のように出してくるヒデオさん。
そこにホステス2名も加わる。NPO法人“芦安ファンクラブ“のガイドとその会員だ。この二人、芦安からのTAXIに乗り合わせていた。八本歯コル、山頂を超えてきた。そうとうに山馴れた人たちのようだ。
夕景が見事だった。地上2,000m付近に果てしなくたなびく雲海。2,000m超の山々だけが頭を出している。手前に“仙丈ヶ岳”、左奥が中央ア、右奥に北ア、グルリと左を見渡すと甲斐駒、赤岳、鳳凰、ひときわ高くそびえる富士山、南ア連峰は北岳に隠れて見えない。寒さに耐えて日没まで見入った。茜色に染まる雲海。ここまで登った人だけにしか見ることのできない絶景。いつもながら山で見る光景のはずなのにどうして見飽きることがないのだろう?
翌朝5時、生憎の霧雨だったがさながら恋人に会うようなときめきを感じて“お花畑”へ向かう。霧雨を交えた強い風が、斜面を這い上がってくる。“ハクサンイチゲ”と丈の低い“シャクナゲ”が風に揺れている。いかにも耐えている風情がいとおしく感じる。
濃霧の山頂は展望がなく、ただの広場に過ぎない。早々に“お花畑”へと気持ちが急ぐ。稜線から“八本歯のコル”へ下降する。稜線には7,8人のパーティが雨具をつけていた。
「キタダケソウ、咲いていますよ」
と、声をかけてくる。この時期の登山者は、例外なくこの花が目的なのだ。
トラバース分岐から斜面入った。かなりの斜度だ(45度は越えているだろう)。足元には“ハクサンイチゲ”が見えはじめた。“キタダケソウ”を同定するまではなんども間違えそうだった。白い花が斜面いっぱいに展開している。お花畑だ。4人で観察の結果、“キタダケソウ”を確認。とうとう出会うことができたのだ。50年来のユメだった。
思いのほか小型の草姿だった。青緑色の銀色を帯びた葉。なにか神秘性を感じたのは幻の花ともいわれ、開花期が極端に限定されて幾つもの悪条件を克服しないと見ることができないからだろうか?氷河期の生き残りだともいう。絶滅だけはするな!そんな思いで見入った。ドピーカンの日にもう一度会いにこよう、と思った。
満たされた心でいくぶん足取りが軽く感じた。しかしそれはいったん戻った小屋まで。後半、“白根御池小屋”からの下りはツラかった。日頃の鍛錬不足がひびいて足が動かない。限界ぎりぎりではなかったか。とうとう滅多に使用しないポールを取り出した。途中、下腿を骨折した人(はしごをふみはずした)に遭遇したが、まごまごすればこちらがそんな目に会いかねない。救援依頼済みということで、付き添い者もいたので励まして通過した。広河原直前で救援に向かうレスキュー隊と擦れ違う。遭難は、多くの人に迷惑をかけることを痛感。なんとしても自力下山を心掛けたいものだ。
行動時間を1時間早めたので、広河原へ到着したのも予定時間の1時間前だった。運よく予約したタクシー会社の車が来たので途中で一緒になった3人パーティと乗り合わせて乗車する。ラッキーラッキー。
中高年、ことに男女を問わず高年者の単独行者が多く目立った。そのファイトは大いに評価するが、山はなにが起きるか分からない。やはり、単独行は避けて、グループ登山をするべきではなかろうか。仲間に恵まれたわたしたちの幸せを思う。
念願をようやく果たした今回の北岳登山、長く記憶に残るだろう。
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