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2024年03月27日 21:16雑記全体に公開

山で死んではいけない

親友が山で死んでから10年が経った。週末には一緒に山に登る約束をしていた。2ヶ月後には2人でデナリとフォーレイカーに登る予定だった。登山計画も飛行機他の手配も、現地のパークレンジャーへの入山申請も済んでいた。

でも、アイツは死んだ。登攀後の下山中、雪稜から落ちてあっさりと。2014年3月27日のことだった。

とにかく山が好きなヤツだった。知り合った時はまだ、大手企業に勤めながら山を楽しんでいた。「両神山の岩場が楽しい」と話す、そんなレベルだった。

「もっと山に登りたい」とアイツは会社を辞め、山小屋で働くようになった。登山技術も経験も、飛躍的に上昇した。オレとのレベル差も一気に広がった。オレには登れない山、苦手とする岩を軽々と登るようになった。

差が開くことは悔しく無かった。むしろ嬉しかった。
「やんまぁさんは友達じゃなくて親友です!」
そんな言葉の定義などどうでも良い…と思いながらも、わざわざそう口に出すアイツの笑顔に惹かれていたし、応援していた。

一方で、背伸びしすぎて実力以上の山・ルートにチャレンジすることに対して、心配してくださる先輩方も居た。実際に、海外までソロで登りに行って落っこちて、九死に一生を得た…なんてこともあった。本人なりにショックを受けたり思うことがあったようで、帰国してもしばらく会ってくれなかった。

少しは謙虚になったのか、先輩方が見るに見かねて手を差し伸べてくださったのか、世界的にも有名なクライマーの方々が一緒に登ってくださったり、指導してくださるようになった。ピオレドール・アジアの受賞は驚いたし、組んでくださった大先輩に感謝しろよ、と思った。お祝いは池袋の中華料理屋で。めちゃ辛くて口から火が出そうだった。

アイツが働く山小屋にはよく通った。小屋の仕事が終わる時間を見計らってテントを出て、小屋前や玄関で何時間も話をした。冬の赤岳鉱泉は酷寒だった。「寒い、って言ったら負けですからね」と意味不明のルールを課せられつつ、震えながらも、それでも話は尽きなかった。山の話が9割以上、友人や気になる女の子の話はたまに出るか出ないか程度だった。楽しい時間だった。

「やんまぁさんのこと、好きです」と唐突に言われた。仲が良すぎて、周りからは「こいつら付き合ってるのか…?」と思われて(言われて)いたことは知っていたけど、そういう意味ではなかった。「海外の山に登りたいと言う人は多いけど、言うだけで動かない人が多い」「自分で計画して実行に移してる、そういうの好きです」ということだった。オレは欲求に忠実なだけで大したことはしてないので、本人が情熱を持って取り組んでることに対して、周りからの軽口に不満を感じてるのかな、と思った。

「デナリ、行きますよね?一緒に行きましょうよ!アラスカでクライミングしたいんですよ!フォーレイカーに登りたいです!」と目をキラキラさせていたのは忘れない。「デナリはともかくフォーレイカーは登れる気がしないぞ」と言うと、笑いながら「リードはオレに任せてください、でも荷揚げは任せます」と。

登攀技術じゃなくて体力をあてにしてるのは正しいな、じゃあ計画するか。入山手続きやセスナの手配はオレがやるから、ギアの調達は任せるね、と話を進めた。2人での初めての海外遠征計画だった。それがアラスカなのは最高に嬉しかった。真っ白な氷河から5000m峰、6000m峰を見上げる2人を想像した。

これが最後の登山計画になるとは思わなかった。

デナリには独りで登った。枠が1つ空いたわけだけど、アイツの代わりなど存在しなかった。入山申請はソロで出し直した。理由はそのまま、パートナーが死んだから、と書いた。ルートはカシンリッジからウエストバットレスに変更した。カシンリッジをソロで登るには不安が残るし、安全マージンを極大化したかった。

氷河の上を一人で引くソリはとても重かった。バイルやロープ、ガチャなど、フォーレイカーで使う予定だったクライミングギアを大量に持ち込んでいた。デナリだけなら使わないのは分かっていた。でも、ソリに乗せて引いた。ただの重りであり、登高ペースが落ちることは想定していた。でも、アイツのクライミングギアを持ってきてやりたかった。

登山計画を話すと山頂で待ち伏せされ、大声で名前を呼ばれることが何度もあった。他の登山者もたくさんいるし、かなり恥ずかしかった。ここでもそんなことが起きないだろうか、起きれば良いな、と思っていた。「デナリ登れましたね!高所順応も済んだし、次はフォーレイカーです!」と笑ってほしかった。

そんなことを期待して、クライミングギアを引いて行った。
そんなことがあり得ないのは、分かっていた。

デナリの山頂には、誰も居なかった。

デナリ山頂からメディカルキャンプに下降するとき、夕陽に照らされたフォーレイカーが眼前にあった。美しかった。あれに登りたかったんだろう?死んだら登れないじゃないか。本当にバカだなオマエは、と悪態を吐きながら岩稜を降りた。子供のように「ばーか!ばーか!」と叫びながら降りた。遥か彼方の氷河の向こうに、夕陽が落ちていった。

山で死んではいけない。次の山に登るために。

山で死んではいけない。帰りを待つ人のために。
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コメント

まさる君ね
2000年代に彼がスノーボードやってた頃から友達です
まぁあのくらいハチャメチャじゃないと登山界でも実績残せないよねって思うだけで彼の死には特に感想もない
2024/3/28 23:49
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