私にはとうに80歳を越えた伯母がいる。
若い時からおしゃれで、洗練された立ち振る舞いで
素敵な伯母だったが、
年を重ねた今でも身だしなみは整えられ、頭もしっかりしている。
その伯母から3年ほど前に聞いた話である。
今から20数年前、伯母が60歳過ぎた頃に
長年連れ添ってきたご主人(私には伯父)が病気で他界された。
その伯父の遺言で、自分の遺骨を山に散骨するように頼まれたという。
伯父は生前、山登りが好きで、地域のあちこちの山を訪れていたとのこと。
「それがね、」伯母はあきれたような口調で、
「○○山と××山と△△山の山頂から撒いてくれっていうのよ」と言った。
「もう、大変だったんだから」
三峰とも伯父、伯母が住んでいる地域の名山であるが
山登りの経験のない伯母にとって、この三山登拝は
さぞかし難行であったかと思う。
「もう止めとこうと思ったんだけど、遺言だしね」
伯母のテンションは明らかに上がってきた。
「それでね、薬包紙に遺灰を包んで持って行ったの！」
「薬包紙？」思わず小声でつっこんだ。
伯母にはその声は届かず、続けて
「本当にやっとの思いで山頂まで登って、遺灰をぱあっと撒いたの」
「3回もよ！」
と、昨日のことのように目を輝かせて語ってくれた。
薬剤師であった伯母にとって、遺灰を薬包紙で包むのは
（粉薬みたいだし）自然な選択だったのかもしれない。
もう今は、粉薬は機械で紙パックするので、薬包紙を見ることもなくなった。
20数年前、とある峰の山頂で薬包紙を開いて遺灰を撒く
華奢な伯母の姿を想像すると、何とも言えず暖かい気持ちになった。
＊散骨を山で行うのは微妙な問題もありますが、あくまで昔話としてお読み下さい。
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