昔は山で盗難があったと聞いていました。特に北アルプスの涸沢では、長期に滞在している人を涸沢乞食と呼んだりしていたと思います。その方々が実際に盗んだところを見たことはありませんが、次のような経験をしました。
昭和４８年夏の山岳部の合宿で、明日は上高地に下り合宿が終了する日に北アルプス横尾にて最後のキャンプを張りました。翌朝のこと、食料とラジュースの燃料（灯油）の一部が無くなっていました。当時の長期山行の食料は、ぺミカン（肉と野菜をラードで炒めた保存食）をビニール袋に小分けにして、その他の食材と一緒に一斗缶に入れて携行していました。合宿にその一斗缶を何缶持って行ったかは忘れましたが、横尾では１、２缶分位あったのだと思います。その半分くらいが無くなっていたようでした。灯油はポリタン１缶（２リッター）が無くなっていたように思います。予想もしない出来事でしたが、その時に先輩から盗まれることもあると初めて聞いた次第です。
平成８年夏、家族５人（子供８歳５歳３歳）で北アルプス北穂高岳に登った際、１日目は徳沢でテント泊。オムツと着替えが大量にあったため、また下山の時も徳沢でキャンプをするつもりだったので、その分のオムツと着替えと食料とその他雑品を梓川の河原近くにデポ（置いておく）しました。徳沢の小屋に預けなかったのは、小屋泊まりではないので悪いのではないかと考えました。北穂高岳からの帰りにデポを取りに行くと、保存していた大きなビニール袋がズタズタに破られ荒らされていました。これは、人間業ではなく、サルたちの仕業でした。食料のみ持ち去られていました。無雪期のデポはやってはいけないことでした。
平成１３年夏の家族登山で、新穂高温泉からロープウェイを利用して西穂高岳に登った時に西穂高岳山荘のテント場に泊まりました。明日の登頂に備え早々と就寝した夜中、テントの外側で何やらガサゴソと音がしてきました。その音源はどうやらテントの外に置いたポリタン、コンロ、食器類やゴミ袋などを置いていた処からでした。横尾の盗難のこともあり、盗人かと思い、『こらぁー』〜（一拍置いて）〜『なにやってんだ』と大きな声で一喝しました。そうしたら、テントから遠ざかっていったようで、ガサゴソは聞こえなくなりました。翌朝、確認をしたら、水の入った１０リッターのポリ容器（キャンプ用）とゴミ袋が無くなっていました。盗まれた物が水とゴミ袋では人間業ではなく、１０キログラムもあるポリ容器が風で飛ばされることも考えられないので、大きな獣の仕業であると考えるしかありませんでした。大きな獣は熊だったと思います。知らないとは如何に恐ろしいことでしょう、私は、熊を叱って追い払ったことになってしまいました。
盗んだ猿や熊からしてみたら、『お前ら人間こそ、我々の領域に犯している』と言いたいところだと思います。また皆様もご存じかもしれませんが、北アルプス烏帽子岳の登山口の濁沢テント場で、登山者（４人）が襲われ２人死亡２人重傷という悲惨な出来事がありました。裕福な家庭に育った医学生たちは、戦後の食糧難の時にも食料品を沢山持っていたので、その食料が欲しくて強盗殺人という悲劇が起ったとのことを思い出しました。獣の世界にも人間の世界においても、あまりにも貧富の差があると良くないという教訓かもしれません。日本でも格差拡大が増す分配をしている現状は犯罪を創り出してしまっているのではないかと想像してしまいました。
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