中学生の頃、独りで行く「奥秩父全山縦走」が憧れだった。当時は奥秩父へは行ったことは無く未知なる山へのイメージでしかなかった。しかし、その憧れは私から離れず心に有った。惰性のような感情なのかもしれない。思い立ったら吉日の如く挑戦していたら、こんなものかとあっさりとその思いは消えていたような気がする。
昭和３０年代前半、「夕陽が泣いている」（スパイダースのボーカル堺正章）がヒットした。歌詞は海の夕陽の歌だが、僕には山の夕陽に聞こえた。奥秩父の原生林の静かな夕暮れ、そういうイメージが浮かんだ。一人奥秩父の山中にテントを張り日没から闇夜へ続くトワイライトに身を置きたかった。そこには「夕陽が泣いている」が何故か浮かんでいた。また当時読んだ雑誌「岳人」に１日２４時間で１００ｋｍに及ぶ奥秩父の全山縦走する紀行文が載っていた。雨も降りだす悪条件の中、最後の最後の雲取山からの下りで達成への意欲が失しなわれる。その心情心境という内的体験が描かれていて、奥秩父への山行にさらに憧れた。
しかし中学生にして長期テント泊をする自信は無く直ぐに実行はできなかった。高校生になって実行可能な山行となると、沢だ、岩だ、アルプスだ、氷雪だ、等々盛り沢山に目移りしてしまって「奥秩父全山縦走」から遠ざかった。行ける時に行っておくべきだった。家庭を持ってからはさらに目移り以外の要因も加わってさらに行けなくなってしまった。しかし憧れは残像のように消えなかった。
そのような過去の思いや憧れが想起されるのは、いつも現在に心を置いていない、心が「今ここ」にない隙間に入り込み立ち現れる。今ここに注力している時には決して思い浮かばない。もしも今、奥秩父全山縦走に出掛けたとしても長年の思いを為すという心の高ぶりは起きないと思う。そう、奥秩父全山縦走への憧れはイメージに過ぎないのに、そう言い切れない自分はとても駄目で情けない。奥秩父全山縦走のようなことではなく、もし過去の後悔の念への拘りが今を強く縛りつけ振り回わし苦悩を生むものなら持たない方が断然良いと思う。奥秩父全山縦走だって、今にしてみれば感動することもなく憧れだったというだけのものに、心の隙間に入り込んでくる思いは雑念でしかないと思う。過去の思いや後悔に今が振り回されないように、「今ここ」に注力していきたいと思う。
私にもその類の憧れ（未だに果たせない山行）が胸に幾つも秘められていますが、今はそれらが常に想い巡る日々というのが貴いものに感じます。私もヤスジさんと同じお歳になると後悔の念として浮かぶかもしれませんが。
情熱を傾ける山が幾つもあるのは素敵です。後悔しないため一歩前へ踏み出してください。ただし大切な人を悲しませる遭難なんて起こさないでください。全ての物事は踏み出さなければ知らないまま、イメージがあるだけ。失敗しても自分の限界を知ることができます。そしたら次がある。そのように生きていけば後悔とは無縁のような気がします。そう言いながら後悔だらけの私ですが、最近は後悔している私を横目に「時」が私を追い越して行きます。それに気が付いたら、後悔している暇はありません。
追記：無責任なことを書いてしまいました。「全ての物事」は言い過ぎでした。世の中には近づくと大やけどをすることが一杯あります。悪徳商法や危ない宗教などには特に注意の上にも注意を重ねことが欠かせません。そのような物事に安易に一歩前に進むと後悔と悲劇を生んでしまいます。
コメントを編集
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する