月がきれい

"月がきれい"という、アニメ作品を観たのです。
中学生の男女二人が、初恋を成就させるという作品でして
思春期特有のもじもじした心理描写が、とても丁寧に描かれているので、当時の自分を思い起こしたりしながら、楽しく鑑賞していました。

しかし、時代背景は違います。
随所にlineアプリが活躍するのです。
『好きだよと言えずに初恋は〜♫』という名曲がありますが
いまの時代、言えるかどうかはさておき、伝えることは出来てしまうのです。

恋愛に貴賎は無いと言いますが、純度の高低は明瞭に存在します。
これといった根拠もなければ遠慮もない、純粋な『好き』を体験できるのは中学生の時だけ。
それ以降は、ステータスやら格差やら経験則やら打算やらで、どんどん『好き』の純度が失われていきます。
私にとって、あの頃の純度の高い『好き』は特別でした。
その『好き』を応援してくれるlineアプリは、正直羨ましくて仕方がないですね。
『好き』を言うことも伝えることも出来なかった人間ですからね。

で、思うのです。
深田久弥先生を。
深田先生は、期せずして純度の高い『好き』に再会してしまったのです。
そして、職業上パートナー他、諸々の不純要素を含んだ『好き』を唾棄します。
職業上パートナーを失った彼は、純文学作家という立場を保てず、紀行文作家に転身し、後世まで名を残す『日本百名山』という作品を書き上げます。

深田先生の生き様に敬意を払って、適当に埋めていった結果の残り５座。
もし深田先生の時代にlineがあったら、百名山は産まれていたのかなぁ?と
もし自分の中学生時代にlineがあったら、そもそも山登りなんかしてたかしら?と
あとは・・・lineがあってもコミュニケーションを築けなかった、真の暗闇を心に抱いた子らも出てくるんだろうなぁと。

作中に山はまるで出て来ませんが、良い作品でした。

コメント

SM100C

RE: 月がきれい
初めまして、何故なのかワタクシにとってぐっとくる視点で語られる『月がきれい』が、ツボだったもので。

そして『日本百名山』に言及していく流れが何とも意外で素晴らしいです。

でも実はその前の
『ステータスやら格差やら経験則やら打算』で純度が失われていく『好き』、この語り方が本当に好きになってしまいました。

確かにそれは、特別であったと思います。

忘れていたものを思い出した気がしました。
ありがとうございました。

loser310

RE: 月がきれい
コメントありがとうございます。

中学時代に好きだったあの女性が、何故にこうも特別であり続けるのか？
著書に目を通したことも無い深田先生の生き方に、何故深く共感してしまうのか？
それらは私の胸中で、長年燻り続けておりました。

好意を伝えなかった後悔に端を発する、反実仮想的なこじれだと考えていたのですが
"月がきれい"を鑑賞中に、気持ちの純度の問題だということに気付かされました。

胸の燻りは解決しましたが・・・
『嫌いではない』同士で妥協し合い、『好き』の欠片も存在しない現状には、なんの変わりもないのですよねぇ。