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Yamareco

記録ID: 102921
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雪山ハイキング
甲信越

善光寺西街道・雪の猿ヶ馬場峠越え

2008年02月16日(土) [日帰り]
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nobou その他1人
GPS
--:--
距離
10.5km
登り
375m
下り
446m
過去天気図(気象庁) 2008年02月の天気図
アクセス

感想

 甦るお仙茶屋〜雪の善光寺西街道・峠越え
 前夜は北信,中信ともに大雪の予報が出ていた。この場合,北信は間違いなく大雪になる。だが中信地区が大雪と騒がれて大雪になった験しがない。猿ヶ番場峠は北信と言うには南に過ぎ、中信と言うには北に過ぎると言う半端な位置にあるが、峠の向こうとこちらでは雪の量がはっきり異なる。今朝の安曇野は10cm足らずの新雪。たいしたことはないと踏んでためらわず出かける。

 出発点は聖高原駅だが、スキーを履くのは峠の向こうからなので峠まで行ってスキーをデポし、駅に戻って電車で来るTukaさんを待ち、9:30出発。 
 駅から10分で海善寺,50分で市野川の高札場跡を通過し、10:32国道を横切る。その辺りから雪が深くなり、Tukaさんがスノーシューをつける。峠の手前の雪が5日前の下見の時より多いのは昨夜から今朝にかけて降ったものと思われた。
 再び国道を横切る位置に『夢広場』と言う公園のような場所があって最近ここに茶店が出来た。店を覗くと中に4人の従業員の人がいてテーブルを囲み、お茶を飲みながら楽しそうに談笑していた。『やってます?』と聞くと『時間前だけど、どうぞ どうぞ』とにこやかに迎えられる。Tukaさんに知らせて店に入るとテーブルを囲んでいた輪が解けて各人厨房に,受付けにと作業態勢に入っていた。10:45着。
 天ぷらそばや山菜そば等,そばが中心の茶店だが、弁当は持っているし食事にはまだ早いしのでコーヒーをを注文するとすぐにお茶が出たのに続いてお茶うけに蕗の煮物の小皿と、さらにお菓子やチーズケーキまでついてきた。
 『コーヒーよりお茶うけの方が高くつくじゃん・・!』と言うと『商売より こうやって皆さんに喜んでもらうのが第1でボランティアみたいなもんですよ・・』と屈託がない。申し訳ないので花梨ジュースと蕎麦入りおにぎりを追加注文する。
 『さっきのお話しの輪に入れてもらって一緒に喋るだけでよかったのに・・』と言うと『そうするとネ,お代を頂けなくなっちゃうんですよ・・』と笑う。『そりゃ,なおさら都合がいいけど』・・等々,そう言う掛け合いが楽しくてついつい時間を過ごしてしまいたくなる。
 土,日の11時から14時までだけ営業するという店は現代に甦った『お仙茶屋』と言えそうだ。11:25,辞去して本来のお仙茶屋に向かう。

 白蝶乃 湖吹く風に抗わず〜本家・お仙茶屋
 急峻な聖高原につけられた国道403号はうねうねと大きく蛇行して登って行くが、街道はそれを突っ切るようにまっすぐ上に向かっている。茶店のすぐ上で国道を横切り、さらにもう1度横切って本来のお仙茶屋跡にさしかかると雪が一段と深くなる。スキーは峠でなく茶店に置かせてもらうくらいでよかったかもしれないと思った。
 20分で茶屋跡に着く。芭蕉に因んで御影石に刻まれた句の中の『白蝶乃 湖吹く風に 抗わず』が目に止まった。安西冬衛の『てふてふが一匹 韃靼海峡を渡って行った』の詩を彷彿させる気がした。
 茶屋跡から峠までは距離はわずかだが、このコース最大の斜度で雪も膝ほどの深さになり、ツボ足にはちょっと厳しかった。スノーシューに先行してもらって後を追い、12:00に峠下の国道に出る。さらに5分歩いて聖湖のそばのあずま屋で前半終了となり、スキー靴に履き替えて後半に備える。
 湖水は全面結氷しているらしく、その上に雪が積もって何も見えないが、雪を纏った対岸のカラマツが美しい。

 一筋の足跡
 聖湖の東端から国道が下り始める辺りの左手に広場があり、そこから桑原宿方面に向かう幅広のしっかりした林道がある。これが現在の善光寺街道で、もちろん冬期は閉鎖されて歩く人はいない。
 国道の除雪で道路脇に出来た雪壁を乗り越えて広場を通り抜けた所でデポしたスキーを履いて歩き始める。
 新たな雪が積もってはいるが、下見の時に歩いた自分のトレースがはっきり残っていて歩きやすい。全コース下りで滑りすぎるのが怖かったが、この日は適度にフリクションが効いて歩きやすく、また滑りたいところではゆっくり滑って思うように止まることが出来たので快ピッチで進み、念仏石,馬塚と進んで12:55に火打ち茶屋跡に着く。気温は-5℃だが歩いている限りは寒さを感じない。
 お仙の茶屋でソバおにぎりを食べたせいか腹が減らず、みかんと温かいココアを口にしただけで15分休んで出発。そこから先は未踏査の道だが、左右に1筋づつ獣の足跡らしいくぼみがあって、それがちょうど車の轍のような間隔をもってどこまでも続いていた。そのくぼみを辿るとスキーの沈みが小さいのは、獣達が同じ所を何度も歩いているからと思われた。彼らもまた歩きやすい所を選んで歩いているのだろう。
 足跡を追って歩いたり滑ったりしながら小気味よく下って15分で一里塚に着く。一里塚は林道を下に10mほど降りた所にあって古墳のように土を円く盛り上げてあり、見学しやすいように道を取り付ける工事が行われているところ。そこに車が入って来て引き返している本物の轍の跡があった。峠からは3km近く下っていて雪の量も少なくなり、時折ストックの先が直接アスファルトに当たるようになる。
 雪が少なくなったのと轍が邪魔したり滑りやすくなっていたりで歩きにくくなる。滑るかと思えば止まり、止まるかと思うと急に滑り出したりで度々転倒しながら10分(13:30)でのぞき着。かつてはこの場所から中原沖の集落はもとより,遠くは川中島平まで遠望することが出来たところから『のぞき』と呼ばれるようになったと言われる。また、簡単な望遠鏡が据えつけられていて視野の中に善光寺本堂をピタリと捉えていたとも言う。
 善光寺街道はここから中原を経て桑原宿に向かう。桑原宿までは3.1kmで、姨捨駅(3.7km)よりは近いのだが、そこまで行くと最寄り駅は稲荷山駅となり、市街地をさらに3kmばかり歩かなければならないので、当初の予定通り姨捨駅に向かうことにして山の神林道に入る。

 更科の里・更なる信濃へ!
 山の神林道はR403までの約2.1km。植林の中の緩やかな下りで、しばらく進むと左手から高速道路を走る車の音が聞こえて来るようになり里の近さを感じる。
 雪はすでに峠の半分以下なのだが1本の轍に左右のスキーを入れると狭く、片方だけを新雪に置くと滑りにくい。部分的にシャーベット状になっていたりすると片方のスキーが持っていかれて転倒する。転ぶとアスファルトなので痛い。相変わらず下手くそだ。
 ちょっとうんざりしかけた頃に急に目の前が開けてR403が現れ、国道の先に千曲川をはさんだ向かいの山と青空が飛び込んで来て突然林道が終わり、スキーとスノーシューの旅もそこで終わる(14:10)。いささか陰鬱だった白と灰色の世界との鮮やかな対比・・,そこから先は次なる世界だが空の青さに心が弾む。
 スキー,スノーシューを外して国道を横切り、長野道の陸橋を渡って姨捨の駅に向かう道すがら、千曲川沿いの平野部から川中島方面を望む。最後の峠を越えてようやく善光寺平が目の前に開けた。
 14:40姨捨駅着。10分前に上りの電車が出たばかりで次の電車は当初予定の15:41発となり、たっぷりの待ち時間で遅い昼食を摂る。

 姨捨駅がおもしろい!
 『身にしみて 大根からし 秋の風』
 芭蕉秀句の一つ,『大根からし〜』の句碑は会田宿から立峠にさしかかる途中にある。大根はやせ地で育ったものほど小さくやせていて辛い。木曽の大根はだから辛かったのであろうが、その大根の辛さ以上に木曽の秋風の寒さが身にしみる〜の意か・・。更科紀行の旅はそれ以上に身に染みるものがあったのであろうと思われる。
 姨捨駅には芭蕉の句の版画をはじめ、姨捨伝説,棄老伝説にまつわる伝承などを記した額が数多く飾られている。
 中でもこの『大根からし〜』の句をはじめとする地元版画家の芭蕉の句の画や更科紀行を描いた極彩色の絵図が目を引く。
 『俤や 姥ひとりなく 月の夜』
 姨捨伝説は、妻にそそのかされて老母を姨捨山に捨てたが、姨捨山に出る月の美しさに目が覚めて、母を連れ帰ったとするものの他に、苛斂誅求な圧政に苦しんで老人を捨てたとされるものなどがある。
 『十六夜も まださらしなの 郡かな』
 芭蕉は望月(15夜),いざよい(16夜),立待ち(17夜)と三夜続けて信濃の月を愛でたと思われる。更科は去らないの意をかけていると言われている。
 『更科や三夜さの月見雲もなし』は旅に同行した越人の句

 棄老伝説の説明版。昔,年寄りの嫌いな殿様がいて70才以上の老人を山に捨てるようにとのお触れを出す。殿様は隣国から『灰で縄をなえ』『九曲の玉に糸を通せ』等の難題を吹きかけられ、出来なければ国を攻めると脅されるが、母親を山にかくまっていた息子がこれを知り、母親からその答えを聞いて言上した結果国は難を免れ、棄老のお触れを出した殿様はこれを恥じて撤回したと言う伝説が記されている。現代では4月から75才以上を対象とする後期高齢者医療制度という名の棄老政策がスタートする。

 姥石伝説〜見目も心も美しい木花咲耶姫(このはなさくやひめ)とその伯母で見目も心も醜い大山姫にまつわる伝説
 醜さゆえに僻んで着飾ることにのみ腐心し、周囲から疎まれる大山姫を心配して咲耶が神に祈っていたところ、月の神が夢枕に立って『十五夜の夜,大山姫を連れて更科の数々の峰を越え一番高い山に登り、大岩の上に立って四方を見渡す』ようにと告げる。言われた通りに大山姫を伴って大岩の上にに立つと四方は山々は黒く静まり返って、はるか下方の段丘の田毎の水に月が写っているのが見え、2人はその景色に見とれる。
 しばらく後に大山姫が静かに口を開き『田毎の月の美しさに自分の心も洗われるようだ』と語り、『自分がもし月の宮に登れたら諏訪の神様のようなこの国を守る神になりたい』と言う。すると月の宮から『そなたの美しい心こそ月の宮人としても、国を守る神としてもふさわしい。共に月で暮らそう』と言う諏訪の神の声と共に浮橋が降りてきて大山姫は月に登って行った〜,と言う八幡地区の長楽寺に伝わる話しで、その大岩を『姥石』と呼ぶ。

 冠着山伝説。
 日の神が弟の乱暴な振る舞いを諌めようと天の岩戸に隠れたのを神々が酒宴を開いて日の神の興味をそそり、岩戸を少し開けて覗いたところを力の神が岩戸を引き剥がして日の神が出てきたと言う天の岩戸伝説の後編で、日の神が再び岩戸を閉じて隠れてしまわないよう『岩戸をどこかに隠そう』と言うことになり、力の神が岩戸を持って雲の中を走り出す。その途中,力の神は一つの山の上で乱れた装束を正し、冠を着けなおした。それが冠着山(姨捨山)の謂われで、岩戸を隠した山が戸隠山と呼ばれるようになったと言う。

 姨捨駅にて
 姨捨駅は無人駅であるが、JRの職員さんが時々来て清掃等の管理に当たっており、この時は若い人がホームに積もった雪掻きをしていた。下りの電車が来て中高年の一団がゾロゾロ降りてきたが、切符をどうしていいかわからずオロオロしている。そのまま出てしまうのは気が退けるらしい。切符を入れるポストはホームにあって分かりづらい。『記念にもらっとけば・・』と言うと『そうよネェ』と安心顔で出て行き、上山田温泉のらしい送迎バスに乗り込んだ。
 そろそろ電車が来ると言う時間になり、ホームに出てTukaさんと『〇〇はあっちだろう』等と話していると、雪掻きをしていた職員さんがスキー,スノーシューを持った私達に『その格好だと猿ヶ番場峠を滑ってこられたのですか?』と話しかけてきて『そう言う楽しみ方もあるんですネェ』と言い、『ここで仕事をしていると色んな方とお話しできて、それがやりがいの一つです』とつけ加えた。
 『無人だけど駅舎に色々な版画とかパネルがあってなかなか面白いですネ』と言うと『版画は地元の方の作品です。みんなで駅舎を守っていこうと言うことで協力してもらっています』と誇らしげだった。
 ギリギリの時間にやってきた婦人の『南松本に停まりますか?』との問いに丁寧に答え、スイッチバックの電車が出発するのをにこやかに見送ってくれた。
 15:41発。同52,聖高原駅で降りて車で一緒に帰り、途中の戸倉温泉で汗を流す。 終わり

 附;思ったより雪が多かった〜雪の猿ヶ番場峠越え・下見行
 峠から向こうの雪の具合が気になって確かめに行ってきた。思った通り,峠の手前と向こうとでは雪の量がまるっきり違っていて雪の量は予想以上だった。R403から1歩街道に入るとたちまち膝まで埋まる雪。50mほど先まで大きな足跡が一筋ついていたが、そこから先は無垢の雪道が伸びている。
 街道と言っても今は4m規格の林道で、それがかなりの勾配で下っている道なのでスキーが勝手に滑り出す。うまく滑れる人にとってはいい道のはずであるが、何分にもスキーの技術がないので下手は下手なりに、あくまでも歩く道具としてなるべく滑らないように歩く。細いスキーは重い雪に深く埋まって制動をかけようにもテールを押し出せないので止まれないのだ。それでもツボ足よりは有利である。
 多分,スノーシューが一番いいと思うが、自分としてはあれを履く気にはなれないので下手でもスキーを使う。スノーシュー,ワカン,歩くスキー,ツボ足と色々試して見るのも面白そうだと思った。歩く必要がない連続した下りなので滑るスキーも案外いいかもしれない。
 いずれにしても予想以上の雪なので、峠から向こうの『のぞき』までの3kmと国道に出るまでの2kmの区間に要する時間の大幅な見直しを迫られることになりそうだ。
 1kmあまり歩いた所で左側に『念仏石』の案内板を見つける。実際の『念仏石』は林道から左手に50mほど上がった崖の上にあり、本来の街道はそこを通っている。念仏石から200mほど進むと右手に『馬塚』が現れ、さらに300mほど下ると『火打ち茶屋跡』である。林道の入り口からは約30分。
 そこから先も道は急勾配でどんどんと下っていくのでこれ以上進むと帰りがしんどくなるし、雪道部分の3分の1くらいは歩いたのでここでやめて引き返す。 
 帰りはツボ足を試して見ようと歩きかけたが、スキーを抱えて歩くのは面倒なのでまた履いて歩く。本来はテールにアナをあけて紐で引っ張って歩けるようにしておくべきなのだが横着でやってない。歩いてみるとかなりの登りだったが、こう言う登りこそ歩くスキーの本領発揮で40分で帰り着く。
 本番では前半の麻績宿から聖湖まではスキーを背負って歩くわけに行かないので、下りに入るこの地点までスキーを運んでデポしておくか、伴走車を出して運んでもらう必要がある。
 時刻16:40,気温-2℃。日脚も長くなり、このところ暖かい日が続く。心なしか木々の枝先の赤みが増してきている気がする。

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