記録ID: 36711
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ハイキング
東北
トホレコ(日本縦断徒歩旅行の記録)28・Miya君と僕。
2006年09月12日(火) 〜
2006年09月15日(金)


- GPS
- 80:00
- 距離
- 22.4km
- 登り
- 353m
- 下り
- 466m
過去天気図(気象庁) | 2006年09月の天気図 |
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アクセス | |
コース状況/ 危険箇所等 |
9/12 せっかく農家に居候する訳だから、はりきって農作業初体験と洒落やうかと思っていたのだが、朝のうちは出番無し。ナルコランという活け花に使う花の出荷作業だそうである。デリケートなものなので、僕のやうなド素人には触らせたくないのだらう。Miya君のところではナルコランのやうな花の他に、雪下ニンジン、お米などを作っている。雪下ニンジンとは、秋に収穫せず雪の下で一冬寝かせたニンジンのこと。そうすると甘味が出て美味しいんだとか。無農薬での栽培を試みているそうだ。他にも“さといらず”というブランド大豆を使った手作り味噌を近い将来出荷する野望を抱いているとのこと。のほほぉんとした顔して案外やり手だね、Miya君ってば。 「ヤバい草も栽培してんのと違うか?」 などと軽いジャブをかますと、 「ウチは花はやってるけど、ファナはやってねえ。」 とのことだった。まあ、そりゃそうだ。ここは法治国家ニッポンだからね。 そんな訳で、午前中は暇だったんで久々にトランペットの掃除などしてみる。いつ以来かな?デロデロとヘドロが一杯出た。 昼近くなってから、ババさんという方の所へ出かける。なんでも大きい荷物を受け取らねばならないとかで、軽トラで行く。「軽トラはやはりホンダに限る。」なんてMiya君は言ってた。スバルかダイハツなんだと思ってた。将来荷台に足踏オルガンを積んで日本一周をするかもしれないからな、参考にしておこう。 それはそうと、この、ババさんという人が一風変わった人で。自宅のまわりに自力で石垣を組んでおられるのだが、その規模がハンパねぇ。城壁、とまでは言わないが、ちょっとクライミングでも楽しめそうな大きさは充分ある。石は工事現場の廃材とか、山の中の自然石を掻き集めてくるんだとか。石を割るのもコツがあって、腕力ではないそうだ。なるほど、ババさんは華奢な身体つきである。よくあそこまで積み上げたものだ。 「いやぁ、20年かかったよね。 人間さぁ、やろうと思えば何でも出来るもんだよ。」 などとおっしゃっていた。まだ未完成で、これからもっとでかくなっていくらしい。世界遺産にしたいやうな、立派な石垣である。ちなみにババさんの本業はパン屋さんで、“麦風船”という名前のお店だそうだ。決して石垣職人という訳ではない、念のために。 受け取る荷物は木桶である。これを使って本格的に味噌を仕込もうという作戦。って事だったよな、確か。ババさんのインパクトが強烈だったので、その辺の記憶が定かではない。なんでも新潟や冨山あたりの古い農家の納屋には、惚れ惚れするやうな立派な木桶や木樽がゴロゴロ眠ってるものなんだそうだ。 昼食の後、畑に出る。ニンジン畑の雑草取り。除草剤を使わないので、雑草との闘いなんだとか。ちょっと前までは、もう、雑草しかないってくらいの酷い有り様だったそうで、 「あいつんとこじゃ、何を育ててるんだかわかりゃしない。」 なんて笑われてたらしい。でもMiya君はあまり気にしてないみたいだ。 「この頃ようやくニンジン畑らしくなって来たんだよぉ。」 なんてのほほぉんとしたことを言ってる。なるほど草むしりの作業は粗かた終わっていて、引き抜かれた大量の雑草が畝の間に放り出されたままになっている。そいつらを熊手で掻き集めて、ネコ(一輪車)で運び出すのが本日の作業。ニンジンの苗はまだヒョロヒョロと頼りなさ気で、うっかりすると雑草と一緒に簡単に抜けてしまう。雑草の方がしっかり根を張って、格段に丈夫なのだ。無農薬も楽じゃない。 ちなみに、Miya君の農業活動はホームページ「はらんなか」に詳しく紹介されている。興味のある方は是非どうぞ。 ☆Miya君のホームページ「はらんなか」→http://www.mint-j.com/harannaka/index.html 残念ながらシュールな漫画作品は紹介されてません。読みたい!という方はみやざきナイン(Miya君のペンネーム)先生に励ましのお便りをだそう。 9/13 今日もパッとしない天気。週間予報も青一色である。午前中はやはりナルコランの出荷作業で出番なし。カメラを持って作業場をうろつき、いつになく凛々しい顔で作業するMiya君の横顔など激写して遊ぶ。すぐに飽きて、龍ヶ窪の湧水を見学しに行くことにする。あまり邪魔してもアレだしな。シトシトと雨の降る中、雨傘を借りて出発。龍ヶ窪まではMiya君邸から歩いて10分くらいである。 龍ヶ窪には至るところから水が噴き出していて、幾つもの池を作っている。しっとりと濡れて、物静かな風情を湛えている。降るともなく降るサラサラ雨が、静謐な気分を盛り上げてくれる。この清らかな湧水こそ、世界に誇る日本の宝だと思うよ。 ナルコランの出荷作業の終わったMiya君に散髪をしてもらう。Miya君は学生時代から自分で自分の髪を切るカリスマであった。 「どんな感じがいいの?」 「何でもカッコいい感じにして下さい。」 「短い方がいい?」 「うん、短くていいと思うよ。」 「あ。」 「今、“あ”って言ったよね。」 「え?気のせいじゃない。あははははは。」 「そうかな。あははははは。」 そんな感じでちょっと個性的な髪型にしてもらった。前髪くらいは自分でやった方が良かったかも。ま、どうせハンチングで蓋しちゃうしな。なんでもいいか。 風通しの良くなった髪型で早速畑へ繰り出す。ニンジン畑で昨日の作業の続き。なんてことのない作業だが仲々捗らない。畑の近くのパラグライダー場で休憩。河岸段丘の急斜面を利用して離着陸が出来るやうに整備してあるのだ。生憎の雨だが、晴れていれば気分良いんだらう。バナナなど食べつつマンガの話などを少々。わたくしこと、不肖ねずろう、こう見えてマンガの執筆活動に手を染めた一時期があった。イザリウオという小魚が「泳いでる奴等はバカだ。」などと海底で毒を吐く話や、季節外れのコートを着て春の動物園にロバを見に行く話などである。マンガの執筆はとてもハードな作業である。苦労のわりに出来上がるものと言えば、出来損ないみたいなものばかりである。あっさり不眠症に陥って精神的に不安定になったので、逃げ出してしまった。幾つもの連載を抱える職業的な漫画家というのは余程タフな人達なんだろう。何しろ毎週幾つもの〆切が襲って来るのである。考えただけで恐ろしい。漫画家にだけはなりたくないな。現代のマンガってのは分業で製作するものであって、一人でやるもんじゃないのだろうと想像される。僕がやりたいのはそういうことではない。Miya君がやりたいのもそういうことじゃないんだと思う。みやざきナイン先生も活動休止中とのこと。 夕飯は奥さんのAyakoさんの手作りコロッケ。大量にあるんで、これでもかってくらい食べてしまった。慣れない作業をしているせいか、やたらと腹が減るんだ。Ayakoさんは電話の受け応えなどもハキハキとしていて、気さくな感じの人である。諸動作がテキパキしていて、見ていて小気味よい。料理も上手。 娘のFukiちゃんは1歳半だか、2歳になったばかり。ちょっとおっちょこちょいなところがあって、机の角とかおもちゃの馬の把手の所とか、至るところに頭をぶつけている。その度に、何故がMiya君が悪いということになるらしく、終いには 「おっとう、嫌い。」 などと言って泣いていた。 「そうよ、Miya君がちゃんと見てないから。」 「うん、今のはMiya君が悪い。」 妙な罪を被せられて、可哀想なのはMiya君である。 「嫌いって言われた・・・。」 などと、寂しそうな顔をしていた。 9/14 台風が来ている。九州の西海上を北上中で、予想では日本海に進路を取ってくるらしい。しかしこの台風、えらくのんびり屋さんである。沖縄付近に出現してから、ここまで来るのにも随分時間がかかった。この先、いつ通過するのかも定かではない。Miya君の内でやり過ごすか?早めに出発して別の所で迎え撃つか?微妙なところである。来るならさっさと来いや? 今朝も午前中は出番なし。メールチェックなどして過ごす。11時頃から畑へ。相変わらずはっきりしない空模様だが、時折青空も見える。土が乾いて作業がやり易くなった。 午後からは二手に分かれて作業。Miya君は稲の消毒へ向かう。気温の下がり始めるこの時期、病気が発生し易く注意が必要なのだとか。ニンジン畑にとり残されて、独り寂しく作業を続ける。果てしない作業だ。無農薬も楽じゃない。しかし“独り寂しく”ってとこが性に合ってるやうな気がする。 夜はFukiちゃんとMiya君と僕と三人で竜神温泉へ行く。Fukiちゃんは小さい子には珍しくお風呂を嫌がらない。 「Fukiちゃん、温泉好き?」 「すきーっ!」 だってさ。温泉大好き、御満悦の笑顔だ。 湯からあがるとまたパラパラと雨。ほんと、はっきりしない天気だ。これではせっかく撒いた消毒薬も流されてしまうかも、とMiya君は心配そうな顔をしている。温泉のすぐ脇にもMiya君の田んぼがある。変な雑草がぴよーんと飛び出してたりして、ちょっと不格好な田んぼである。 「やっぱ、うちの稲が一番かわいい気がする・・・。」 Miya君は自慢の田んぼをうっとりと眺めて、そんなことを言ってる。農業にも親バカってのがあるのね。 今夜もコロッケ。それにアサリのみそ汁。Fukiちゃんはアサリが大好物だそうで、「かい、かい。」と言いながら一生懸命食べていた。 Miya君親子が早々に寝てしまったあと、居間の灯りを落として独り寝転がってぼんやりした。オーディオのボリュームをうんと下げて、カエタノ・ヴェローゾなど聴いてみる。Miya君はブラジル音楽が好きなんだそうだ。主にサンバを聴くとかで、ボサノバのディスクはそれほど数はなかったが、ガル・コスタのものなどもあった。ジョアン・ジルベルトが来日した時にはコンサートにも出かけて行ったらしい。ジョアンは大幅に遅刻して登場した上に、ステージ上で俯いた姿勢のまま物思いに耽り出したと思ったら、そのまま寝てしまった、などという奇行ぶりだったとか。さすがジョアン。ステージ上で寝ても許されるのは、新ん生と高田渡とジョアン・ジルベルトくらいなものだろう。Bosayo様は新潟でもライブをすることも多いので、お薦めしておいた。 いつしか薄暗い部屋の中が、カエタノの歌う“ククル・クク・パロマ”で満たされていく。この歌は小さい音で聴くのがいい。スペインの巨匠アルモドバルの監督作品、「トーク・トゥ・ハー」にも使われ大変印象深かった曲である。不思議な気分を持った曲だ。そのせいだらうか、やはり明日出発したほうが良い、などと闇の中で思う。 9/15 台風が北上してきたおかげで前線が切れた。この前線のせいでここ何日か愚図ついた天気が続いていたのだ。これで2〜3日は晴天が期待できそう。出発には丁度良い空模様になってきやがった。と言う訳で、朝飯前の一仕事から帰ってきたMiya君にそのことを伝える。ちょっと慌ただしいことになってしまった。気分優先で生きているので、まあ仕方ないか。 出発前に色々とやっておくことがある。まずは北大東島でのアルバイトの件。これは数年前、Miya君からまわってきた話なのだが、北大東島で年明けから2ヶ月ほどジャガイモ掘りのバイトがあるそうで。その時は断ったのだが、まだその話が生きているのなら丁度良い。大体年末までに鹿児島に到達する予定だから、その後越冬も兼ねて北大東島で復路の資金を稼げばいいわけだ。しかしなんでまたそんなところでジャガイモなんて作ってるのかね。そもそも何処にあるんだ?北大東島って。気象通報でおなじみの南大東島の近くなんだらうか。分からないことばかりだ。Miya君に確認したところ、この話はまだ生きているとのこと。取り敢えず相手方の農家の方に電話して、渡りをつけておく。まあでも実際に収穫が始まるまでまだ3ヶ月以上あるので、年明けにでもまた連絡してくれ、とのことだった。仕事が確保出来て一安心だ。沖縄でアポ無し就職直談判、なんてことになったら確実性に欠けるからな。 それから“はらんなか”ブランドのお米を、今回の旅行で御世話になった人達に送ってみる。誰に送ったか正確なところは忘れてしまったが、Crane氏とかBosayo様とかYoneyama氏とか、寝床を提供してもらったやうな人達、五ヶ所くらいに送ったと思う。「魚沼産コシヒカリだよぉ」とかって絵手紙を添えて。Miya君が手塩にかけて育てたお米だから、味の方は間違いないハズ。Miya君の収入にはなるし、ねず奴は義理を果たせるし、いいことずくめ。我ながらナイスアイデアである。こういうのを大人の人達はウィンウィンとかって言うんだらうか。言わないのか?どっちでもいいな。 最後にMiya君がトラムペットを聴きたいというので、例のパラグライダー場へ。みんなで軽トラに乗り込んで行ってみると、パラグライダー場の創始者だという老夫婦もいらっしゃっている。眼下には千曲川。その流れに沿って棚田が広がっている。素晴らしい展望だ。空はすっかり晴れた。さて、困った。僕は御大層にトラムペットなど背負って歩いているが、別にたいして上手に吹ける訳ではない。僕にとって楽器とは人に聴かせるためのものではないのだ。しかし今更断れないやうな雰囲気だ。そんなに珍しいかな、ラッパ。仕方ないのでバイバイ・ブラックバードなど吹いてみる。Fukiちゃんはキョトンとした顔をしていた。まあ子供に聴かせる曲ではないかな。こんなときアンパンマンのテーマとか吹けるとウケるんだろうが。生憎と僕は楽器を練習したりはしないのだ。何故なら僕にとって楽器とは上手に演るやうな類のものではないからだ。これはアプローチの問題である。高田渡風に言うなら、 「上手いとか、下手だとか、そういうことじゃぁ、ないでしょ?」 ってことになる。ただ場合によってはその場の空気が残念な感じになってしまうことがあるってのは否めない。残念だが諦めてもらうしかない。 そんなこんなで結構時間がかかったので、お昼ご飯を頂いてから出発。すいませんね、あわただしくなってしまって。お米やさといらず(大豆)などを持たせてもらう。雪下ニンジンは時期が春なので食べれなかった。徒歩旅行が無事終了して、札幌で落ち着いたらお取り寄せしたいものだ。 久々の直射日光を浴びつつ、急な坂道を117号線へと下っていく。日本一の河岸段丘ともお別れだ。程無くして道の駅に到着する。野菜と飯山の地酒“水尾”を購入。飯山ってのが何処にあるのか不明。道の駅で売られてるくらいだからご近所なんだろう。 千曲川は濁りて流れ、行けども行けども野営適地が見付からない。やがてすっかり日が暮れてしまう。昨夜までアットホームな生活をしていたので、この侘びしさが身に浸みる。どんなにお腹が空いても、もう手作りコロッケはないんだ。この際、橋の下でも何でもいいか?なんて思っていると、うまい具合にパーキングがある。公園が併設されていて仲々に快適。湧水まで湧いてやがる。 |
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