2009.05.13 焼尾東尾根で遭いし者


- GPS
- 07:34
- 距離
- 30.6km
- 登り
- 1,417m
- 下り
- 1,412m
コースタイム
- 山行
- 7:26
- 休憩
- 0:07
- 合計
- 7:33
僕も流行に乗り遅れまいと、計画を立てる。
あまり人の行かないところがいいな。
烏帽子岳と三国岳を周回するルートで行こう。
ここの送電線の下を歩けば、綺麗に周回できるんじゃないかな?
計画は完璧だ。天気は・・・?
午前中は雲が残るが、午後には晴れ間が見えそうだ。
県境を歩いている頃には、天気が良くなるに違いない。
僅かなアクシデントがあるものの、順調にことは進んでいった。
あの男に会うまでは・・・。
過去天気図(気象庁) | 2009年05月の天気図 |
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アクセス |
利用交通機関:
電車
自転車
|
感想
###鉄塔巡視路で周回しよう###
焼尾山は鞍掛峠のすぐ北にあるピークで、山頂付近は石楠花の群落がある。
烏帽子岳は古田集落の西にあり、この山頂付近もまた、石楠花の群落があると記憶している。
今回はこの二つのピークをつないで、石楠花を見比べながら周回して歩こうという企画だ。
焼尾山に麓から登るには、山頂から東に延びる尾根を、尾根の末端にある変電所の裏から鉄塔巡視路を使って登るのが一般的であるが、烏帽子岳まで周回して歩くとなると、麓の車道歩きが、短い距離とはいえ煩わしい。
そこで地形図を良く見てみると、変電所から鞍掛峠を越えて西に走る送電線のほかに、もうひとつ、途中までは平行に走っているが、632mピークあたりで、北に向きをかえる送電線があるのに気が付いた。
「この送電線の下(にあるはず)の巡視路を使えば、もう少しスマートに周回して歩けるかも?」
西藤原駅で自転車を組み直し、いざ、篠立の長楽寺へ。
朝の鈴鹿の山並みは、山頂付近がまだ厚い雲の中。
しかし、天気予報では、午後には天気が回復するいう。
登っている最中は曇りかもしれないが、稜線を歩く頃には、晴れてくるだろう。
雲が厚ければ厚いほど、その変化は劇的で壮大なものになるだろう。
来るべきドラマに心躍らせながら、長楽寺へと急ぐ。
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30分ほどで長楽寺に着いた。
割と広い駐車場があるが、車は一台も止まっていない。
道中また一人ぼっちか。
長楽寺からはコンクリート舗装された「篠立林道」が、さらに山深くへと続いている。
これぐらいだったら、帰りは自転車に乗って帰れるかな?
少し、礫の転がる上り坂を、自転車を押してのんびりと歩く。
「江戸堤」と呼ばれる寛保2年に作られた堰堤跡を過ぎると、
すぐ上流に「竜王さんの大杉」と呼ばれる巨木への登山路がある。(今度はここに行ってみようか。)
そこを過ぎると、一般的な「烏帽子岳」への登山口。
(帰りの巡視路が見つからなかった場合はここに下りればいいわけだ。)
ここを過ぎると、林道は山の中腹を走る水平な道に変わった。
この林道、砕石場跡の崖の上を走っている。
おかげでところどころ眺めが良い。(帰り道、自転車を飛ばしすぎて落ちたらしゃれにならんな。)
道の脇には古い小さな送電線用の鉄塔が建ち、それが、以前烏帽子から三国岳へと歩いたときに見た、
稜線に建つ新しい鉄塔の脇に古臭く立ちすくんでいた物と同じ形であると気が付いた。
(昔の送電線は、林道沿いに山の中腹を通ってから、尾根を越していたのか。)
林道にはタニウツギの濃いピンクの花が咲き、初夏の雰囲気が漂っていた。
遠く送電線が見え、それがだんだんと見上げるようになってきた。
あの送電線の下に巡視路はあるはず。
ところが、送電線まで後、500mといったところで、自転車では先に進めなくなってしまった。
林道が崩壊している。
山の中腹に、半ば宙に突き出るように作られた林道は、その重さに耐えられなくなったのか、道ごと斜面に崩れ落ち、滑り台のような崖となってしまった。
しょうがない、ここまでか。
自転車を安全なところに置き(僕が帰ってくるまで、おとなしくしていてね。)、登れそうな斜面を探す。
ほんの僅かに斜面を登ると、目の前には炭窯跡。これは分り易い目印だ。
帰りはここから下りればいい。
何か古い導管も走っている。ここから水を汲んでいた?どこへ続くのかな?
いったん枝沢に下り、そこから、崩れた林道に復帰する。
崩れた岩が敷き詰められた林道も、また元のコンクリ林道に戻り、
しばらくして、次の枝沢に鉄塔巡視路のお馴染みの黄色い標識を見つけた。
頭上には送電線が走っている。
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###焼尾山東尾根###
標識には「三岐幹線 No7、烏帽子岳反射板」とある。
やはり、道はあったのだ。ならば、焼尾尾根に続く鉄塔の下にも道はある。
こちらの巡視路は帰り道に使うことにして、先に進むとしよう。
この先林道は二股に分かれている。
ひとつはさらに中腹を先へ先へと走っており、おそらく、古い送電線の跡だろう。
これを辿れば、烏帽子岳西の鉄塔鞍部に出れるかもしれない。
(先ほど見たような崖崩れがある可能性が高いかも?)
また次回のお楽しみだ。
もうひとつの道にはゲートが閉じており、三国谷へと下りていく。
ゲートの脇をすり抜け、つづら折の道を谷へと下る。
谷に下りたところで林道は終了。
古い堰堤があるが、崩れ、土砂に埋まっている。
開けた河原は明るく静かだ。焚火の跡もないし、あまり人は来ないのだろう。
そうだ、今度はここにベースキャンプを張ろう。このあたりで道を探すのも楽しそうだ。
お目当ての巡視路は、すぐに見つかった。
林道を下りたすぐ向かい、枝沢の流れこむ、すぐほとりに、またあの標識が立っていた。
「三岐幹線 No6」
プラスチックの階段を登っていく。
周りの雑木林の新緑は、少し色が濃くなったようだ。
山腹を横切る謎の小道を過ぎて、さらに一登りで、鉄塔(No6)へ、出た。
鉄塔の下は、草原になっていて見晴らしがいい。
では山の様子はどうか、と伺ってみたが、まだまだ稜線部は厚い雲に覆われている。
うん、楽しみは後に取っとけば良い。午後には晴れる。きっと晴れる。
さらにひとつ、鉄塔(No5)を越えて、632mピークへと登る。
ここから南北に走る送電線から、東西に走る送電線の巡視路に乗り換える。
この間、特に道らしい道はないが、薮も下草もなく、尾根の上を自由に歩ける。
程なく、「R-19」と書かれた鉄塔に出た。
このあたりは、細長いくぼ地になっていて、昔、僕が小さな焚き火を焚いて、野営をしたところでもある。
もちろん、焚火の跡は丁寧に消した。今その痕跡に気付く人はいないだろう。
ただそのときはなかった大きな碍子が、野営をした場所に落ちていた。
東西に走る送電線は標識によると「三重東近江線」というらしい。
この線には送電線が二本、平行に走っている。三重県側から見て、右が「R」、左が「L]だ。
「R]側の鉄塔は、すぐ北側の尾根に逃げてしまい、しばらくは「L」側の鉄塔を巡って歩くこととなる。
「L-19」の鉄塔を過ぎると、尾根の北斜面が広く伐採された跡へでた。
伐採地手前の林には、なにやら数字の書いたラベルが、立木という立木に付けられている。
大学か何かの研究目的だろうか?
巡視路は伐採地の中を通っているようだが、少々分り辛い。
分り辛い道はまた尾根へと戻り、また明瞭になる。
「L-20」鉄塔を過ぎると、右手から水の流れる音とかえるの声が聞こえてきた。
「R]鉄塔の建つ尾根と「L」鉄塔の建つ尾根の間には沢が流れているようだ。
下のほうでは聞こえなかったのは、この流れは下流では伏流しているのだろう。
登りばかりで少し火照った体には、この音は涼しげで心地よい。
次第にガスが包み込んできた。おかげで涼しさ一転、肌寒くなってきた。
周囲にちらほら石楠花の木が現れはじめるが、花はすべて落ちている。
山頂の木なら、まだ咲いているだろうか。
やがて、次の鉄塔、「L-21」に着いた。
###遭難者###
焼尾山から東に延びる尾根が、二つに分かれ、
その南側の尾根の最初の小ピークの上に「L-21」鉄塔は建っている。
逆から見れば、この鉄塔を越せば、急坂が待つものの、尾根も収斂し、山頂まで後僅かなのである。
いよいよ、石楠花巡りの始まりとなるはずなのだ。いや、なる筈だった・・・。
この鉄塔の下には、広さ僅か半畳ほどの、コンクリートブロック製の物置のような小さな小屋が建っている。
僕は時々、避難小屋めぐりの旅を企画し、
泊まったり、通り過ぎるだけでも写真を撮っておいたりするのだが、
このときも、そのハンターとしての血が騒いでしまった。
(もっとも、この小屋は公共のものではなさそうだし
、第一この広さでは、泊まれるわけがないはずだったが・・・。)
小屋の扉を、そっと、開ける・・・。
中に人が居た。
先客が居たのか、これは失礼。扉を閉めようとした僕を、彼は慌てて押しとどめる。
年の頃、60〜70歳。男性。巡視路の作業員かと思ったが、どうも様子が違う。
よく見れば、彼の服もパンツも、泥にひどく汚れている。はて?今朝方、雨など降っただろうか?
「三国岳、どっち?連れてってくれ!」
舌足らずな口調で、しきりに聞いてくる。
三国岳に行こうとして、間違えて焼尾尾根のほうを下ってしまったのだな。
それにしても、ここまで服が汚れるもかな?雨が降ったのは、昨夜のうちだけだよなあ?
「・・・日曜日に鞍掛峠から入った。」
ん?今は水曜日だ。ということは・・・。
「・・・二晩、ここで過ごした。」
なんだと?! 彼は遭難者だ。
持ってきた水を与える。のどを鳴らしながら、うまそうに水を飲む。
ザックのポケットを探ると、氷砂糖と少し色の変わったミルクキャンディーが出てきた。
包みを破いて、彼の口元まで運んでやる。
一粒で300m歩けるとして、鞍掛峠まで何とかもつか。
「三国岳はどっち?」
「あなたは道を間違えたのです。とりあえず、戻りましょう。」
幸い歩けないという状態ではない。自分の足で戻ってもらおう。
鞍掛峠に車でも停めてあるのかな?烏帽子の石楠花はあきらめるか。
彼を後に、焼尾山に向かって登り始めるが・・・。
「西藤原駅まで送っておくれ。」
なに?車で峠まで来たのではないのか?ならばどうする。
1:鞍掛峠まで彼をつれて歩き、峠から車道を歩き、駅まで送る。
2:焼尾尾根を下山。近くのバス停まで送る。
1なら山道を歩く距離は短いが、車道歩きが長すぎる。
うまく行けばヒッチハイク出来るかもしれないが、この汚れた老人を連れていては・・・。
2は石楠花をあきらめることに・・・。
そういえば、焼尾尾根のGPSのログはまだなかったなあ。
自転車を取りに戻らねばならないし・・・。
「峠に車はないのですね。ならば、尾根を下ります。」
打算的な考えの元、彼に焼尾尾根を下らせることにする。
彼の足どりは少々おぼつかなく、薄っぺらなザックの紐を、後からつかんで支えながら下る。
疲れて足元しか見ていないのか、子供のように下る方向を聞いてくる。その度に歩く方向を指示。
先ほどの水音の聞こえたところで、水を汲みにいったん沢へ下りる。少し、休憩しよう。
三つ作ってきたおにぎりのひとつを渡し、ひとつは自分が頬張る。
もうひとつは、後にとっておこう。
休憩はすぐに切り上げ、下山再開。次の休憩は、あの野営地跡にしよう。
ガスが切れた。
野営地跡で残りひとつのおにぎりを渡す。
ここからきた道を戻れば、自転車はすぐに回収できるのだが、渡渉とがけ崩れ箇所がある。
やはり、変電所へと下るのがいいよな。
最後のキャンディーも彼に渡した。下まで一気に下るか。
野営跡からは常緑樹の森となる。山腹の巻き道は思ったよりも幅が狭い。
彼が足を滑らせないか心配していたら、自分が落葉に軽くスリップ。
見晴らしの良い鉄塔下を抜け、変電所が見えてきた。
植林帯に入り、道も良くなってきた。
と、足元になにやらうごめく生物が・・・。ヤマビルだ。
よく見れば、僕のスパッツにも二匹ほどくっついている。
走って下りたいところだが、この状況では、ままならず。
彼にヒルがいることを告げ、休まず歩き続けるように指示。
ふう、ようやく下りた。
変電所西側のアスファルト道路に着き、ようやく一息つける。
さっそく、ヤマビルチェック。三匹のヒルを取り除く。歩いている最中にも2匹取り除いたから全部で五匹か。
彼のほうの足をチェックしてみるが、一匹しかついていなかった。
どうやら、先頭を歩く彼がヒルを呼び寄せ、僕に取り付いたというわけか。
それとも僕の血はうまそうだったのか?
幸い二人とも献血はしていない。
ごそごそと、彼は自分のザックからガイドブックを取り出す。
どこで道を間違えたか知りたいようだ。説明してみるが、分ってくれただろうか?
家族は心配していないのだろうか?
聞いてみると子供も居ない一人暮らしで、山に登っていることなど誰も知らないようだ。
今日までは結構暖かい日が続いていたが、今夜からまた冷え込むらしい。
もし、僕が通らなかったらどうなっていただろう?
胸がちくりと痛む・・・。
住まいは神戸だという。
バスで阿下喜まで行き、そこから軽便鉄道と近鉄特急に乗れば帰ることができるだろう。
しかし彼の服は随分と汚れていて、周りの乗客に迷惑を掛けそうだな。
僕のザックの中に予備の服が一式入ってるし、貸してあげようか・・・。
いや、そこまでお人好しでなくてもいいのでは・・・。
篠立のコミュニティバスのバス停に着くとバスが後10分ほどでくるようだ。
帰る手順を説明し、礼を言う彼に片手を挙げ、背中で答える。
これから、林道の奥まで、愛車を回収しに行かなくては・・・。
見上げる鈴鹿の山並みは、予想通りに晴渡っていた。(おしまい)
コメント
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yukicchi7さん、こんばんわ。
そんな偶然もあるんですね。
遭難者さんも、yukicchi7さんに見つけられて良かったですね
もし、その時その山に登らなく、
登っていても、小屋を素通りしてたら。。
いくつもの偶然が、重なったからこそ、、
素敵なレコ、ありがとうございます。
fujimonさん、こんばんは。
華のない、しかも7年前の記録を読んでくださり、ありがとうございます。
(さらに、編集ミスまでしているし・・・。恐縮至極。)
本当に偶然の重なりで助かった命だと思います。
前日は雨も降っていましたし、もし小屋がなかったら・・・。
でも、当時の自分は怒ってましたよ。
肝心の石楠花は見れず仕舞いだし、弁当のおにぎりは食べられるし・・・。
せめて、助けた人が妙齢の女性だったらなあ・・・。
なんて思ってました。
ニュースになる事もなく、この事件は終わりましたが、それも怖いことですね。
登山届けはしっかり出さなければ。(自分はちゃんとしているのかな?)
先月の焼尾から烏帽子への周回は、七年越しの再挑戦というわけです。
今度は石楠花が見えてよかった!
yukicchi7さん、こんばんわ。
神戸から、鈴鹿山脈のマイナーな三国岳に登山、それも西藤原駅からとは・・・
死に場所でも探しに来たような・・・
実際、死んでても不思議でない状況ですし。
2,3日ビバークして、且つ下山でなく三国岳に登ろうとしている・・・
ミステリーですね。
2016年の出来事かと思いきや、
7年前のお話とは、これまたミステリーですね〜
smileさん、こんばんは。
彼はガイドブックを頼りに登ってきたようで、その本には鞍掛峠から三国岳への案内が書かれていました。
鞍掛峠から入山し、間違って焼尾東尾根を下ってしまったようです。
ガイドブックの地図は概略図だけでした。
このあたりを歩くなら地形図は必携ですね。
焼尾から烏帽子の周回を期に、この道を歩くきっかけとなった、昔の記録を(こっそり)残してみようと思いました。
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