山の本について少し・・・。

　初めてこの人の名前を知ったのは確か野口健さんの本、「落ちこぼれてエベレスト」の中だったと思う。マッキンレーで出会った時の様子が書かれてあった。野口さんからみても大変な大物登山家であることや、植村直巳さんの岩登りの先生であったことを知った。その人の名前は小西政継さん。登山に関わったことのある人で、ある世代の人にとってはあまりに有名な方だろう。今まで山と無縁の人生を送ってきた私にとって、小西さんのことは、野口さんの本で知るまでは全く知らなかった。小西さんは1996年マナスルで遭難しており、今では伝説の人となっている。小西さんってどんな人だろう。興味が湧いた。小西さんには自身で書かれた本がいくつか出版されていることを知って、買い集め、読み始めてみた。
　山初心者の自分にとっていきなりディープな世界に行ってしまったようだが、小西さんの文章は引き込まれるように面白い。今更、ロッククライミングをゼロから初めてみようだの、厳冬期の山だの、ましてやヒマラヤだのなんてあまりに大それたことは考えられないものの、何だろうか、ちょっとやる気をそそられるような妙な誘惑感がある。
　「山とは金では絶対に買うことの出来ない偉大な体験と、一人の筋金入りの素晴らしい人間を作るところだ。未知なる山との厳しい試練の積み重ねの中で、人間は勇気、忍耐、不屈の精神力、強靭な肉体を鍛え上げていくのである。登山とは、ただこれだけで僕には充分である。」（「マッターホルン北壁」−岩と氷と寒気との闘い−より引用）
　こういう文に出会うと、年甲斐もなく、なんかハイキングレベルでの山行しかしていない自分からさっさと飛躍して、ガッツリ登山の領域へ足を踏み入れたい欲求も出てきてしまう。
　そうは言っても一方で自分の年齢や今の体力や環境をよく考えてごらんよ、こんなの頭の中だけにしときなさいよ！と妙に分別染みた心の声も聞こえてくる。
　まあ、自分の方向性は焦らずじっくりと考えてやっていけばいいかと適当に答えをみつけつつ、「アルピニズム」に真剣に取り組んだ先人の軌跡をめぐる旅に出たいと思っている。