半島とは、三方を水に囲まれた陸地を指す言葉である。つまり田子倉湖ができる以前は、村杉半島という言葉自体存在しなかった。只見川と白戸川を分ける長大なこの尾根を、だれが村杉半島と呼ぶようになったのか、定かではない。ただ、不思議に半島という言葉に人をいざなう効果がある。その意味で、村杉半島は極上の絶対空間なのだ。船でなければ取り付けない不便と隔絶。いったん取り付いてしまえば、主稜線に抜け出るまで逃れられない孤絶の縦走への不安と覚悟。わずがなミスも許されない精神の強さと技術の裏付け。その一方で送電線以外、一切の人工物を添わせない原生の自然と限りない一体感。村杉半島が、今でも登山者を惹きつけてやまないのは、登山本来の魅力が、この半島にあるからだ。
『渓の旅、いまむかし』 高桑信一著
コメントを編集
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する