一方、地理院web電子国土に、2003年(平成15年)7月から槍ヶ峰の名称附近に1692標高点(航空写真により測定)が追記されました。
地理院はこの追記した標高点について、地理院広報等や報道機関などを通じて詳細を説明することはありませんでした。
個人的には槍尾根の主峰である三ノ峰(あまり知られていない1692の山名)の標高が示されたので喜びもひとしおである一方で、何となく不安もありました。
私は1980年代から登っておりますが、この標高点が追記されたことにより、懸念していた事態が徐々に拡がり、現在では誤解された槍ヶ峰の位置・標高が既成事実化する事態に陥ってしまいました。
現在の電子国土を、何の予備知識もなく閲覧すれば、どなたでも、100人中100人が槍ヶ峰1692であると解釈されるのは間違いないと思います。
一般登山者の各ブログ、映像、写真などを拝見しますと、一部の人々を除いた、ほとんどの記事で1692地点を槍ヶ峰、槍ヶ峰本峰、槍ヶ峰主峰、槍ヶ峰北峰、槍北などと認識されております。更に南東側に一段低く隣接した痩せたピークは槍ヶ峰南峰、槍南、槍の穂先などと扱われています。
実は、今となっては信じられないと思われるでしょうが、標高点1692が電子国土に記載される以前に、この場所(1692標高点)を槍ヶ峰であると認識する人は誰もいなかった訳です。
現在、槍ヶ峰南峰とされるピーク以外に、槍ヶ峰であると認識される場所は勿論ありませんでした。ただ、以前からの登山者であっても、あまり詳しくなかった方などは現在の情報を確認して、納得されている人もいらっしゃるようです。
地理院が地形図に新たに記載する名称等は、必ず地元役場等の確認が必要ですが、標高点に関しては地理院の判断で記載されます。
判断基準のひとつに目立つ山頂なども含まれているのですが、そういった意味合いでは1692標高点も相応しい場所であると納得できます。
この基準だと、残念ながら槍ヶ峰(本当の)では地形的に心もとない気もしますし、現実に槍ヶ峰(本当の)標高は示されていません。
地理院にこの場所の標高点、槍ヶ峰1692の名称記載の経緯について伺い、これでは誤記に等しいのでは?と質問したところ【山名は、山体に対して配置するため、必ずしも三角点や標高点を指し示す位置に注記する訳ではありません】と、地形図記載に関する決まりごとに従って記載している、との一点張り?が繰り返されるばかりです。要するに標高点と名称は一致しない場合があるという事です。
ただし、そういった決まり事が地理院内にあるのであれば、少なくとも一般に向けて、日頃からそれを解り易く伝える事が必要ですし、槍ヶ峰1692といったような一般的には100%誤解されるような表記場所があれば、最低限、詳細を伝える必要があるはずです。このままでは、何の為の決まり事で、誰の為の地図なのかが解りません。
この場所の地理院電子国土の最大の問題点は、槍ヶ峰1692が槍ヶ峰の位置・標高点を示していないという事実が、一般の閲覧者や、ガイド本、ガイド地図、webなどでの、二次利用する媒体の制作者側に全く伝わっていない事にあります。誤解された情報のまま、最終的に読者へと伝わる訳ですから。
現地において1692ピークと槍ヶ峰(本当の)はかなり隣接していますので、地形図での表記には限界があり、仮に例えば、本当の槍ヶ峰の標高点が追加記載されたとしても、1692が槍ヶ峰で、追加された標高点が槍ヶ峰南峰であると、既成事実と全く同じ解釈がされてしまうでしょう。
以上の一件について是非皆様にお伝えしたく、お知らせした次第です。涸沢岳や北岳の場合、三角点以外の高所が指摘され最高点が追記されても、所詮同じ山の山頂部ですので問題は無いのですが、槍ヶ峰の場合、いくら隣接しているとはいえ、全く別の山1692(三ノ峰、この名称あまり知られていません)が槍ヶ峰であると、一般的にも誤認識されているので極めて珍しいケースだと思います。
私にお知らせする義務などあるはずも無いのですが、既成事実化していく過程を目の当たりにしてきた以上、懸念していた状況に陥っている現状に危機感(約10年間、推移を静観しすぎて後悔)を抱き、お知らせした次第です。以前をご存じない皆様に、あまりにも信じて頂けない状況に、やるせない想いはあるものの、何かアホらしくなり、もう止めたい気持ちになってしうまう事も正直ありますが、何とか伝えたいという一心であるとご理解ください。地名の由来には歴史的な側面があり、後世に正しく伝えていかなければならないのは当然の事だと思います。
【一見何の問題も無く見える地形図】であるがゆえに【全く問題にもならず】、放置されたまま【誤解された既成事実が拡がり続けている】のが現状です。非常に気づかれ難い事実であるが為に。
電子国土に1692が追記された時点で、地理院から広報等を通じて詳しい説明でもあれば、既成事実化のスピードは遅くなったかも知れませんが、槍ヶ峰1692と記載されている以上、そこはそうだと思っても、そこはそうではない、などと誰も思うはずがありませんので、誤解情報の拡がりは、やはり防げなかったであろうと思います。誤解情報が拡がっていく責任も、一体何処にあるのか?明確には示しづらいような、難しい事態ではあります。
いずれ、槍ヶ峰1692は電子国土だけでなく、次に発行される紙地図2万5千図に、確実に記載されると予想されますので、少なくともそれまでに、この槍ヶ峰1692の表記の裏に隠れている真実は、出来るだけ多くの人々に伝えなくてはいけない事だと思う訳です。
そして、これをご覧の皆様、一人ひとりの、正しい情報を伝え、発信して行く、ご協力が無ければ、環境問題と同じように、一度壊れたものを元に戻すことは、いくら正しい事であっても、そんなに簡単にはいかないと予想されます。時間をかけてでも、確実に解決しなければならない問題です。およそ10年間も誤解されてきた場所だけに...。
天空人
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