毎度のこと、読書好きの妻に「図書館で読む本を借りて来て」と頼まれた。妻にとって気に入る本など分かるわけもなく適当にいつも選んでいる。私は小説などの文学に詳しくないし親しむことも少ない。図書室に入って直ぐの書棚に“空也”という文字が目に留まった。著者は脚本家の山田太一、書名は「空也上人がいた」。名前は知っているが実像が分からない空也を詳しく知りたいと思いつつパラパラ目を通すこともせず、他に２冊を加え３冊借りてきた。
私も暇を持て余してはいないのだが、人生の問題は直ぐ対処し解決するものでもなく、また時間を掛ければ前に進むことでもなく、ついつい面倒なことは後回しにしてしまうので、私には手持無沙汰な時間が生じてしまうことが多い。その間の時間に、借りてきた「空也上人がいた」を手に取った。読み出したら止まらず一気に読んだ。小説に疎い私だが、さすが脚本家の小説で、次から次へと展開する場面や状況などが現実感として半端なく頭に浮かび、つい感情移入した。“山田太一、上手いなあ‼“と感嘆した。
しかし空也の正体は殆ど語られておらず、軽々に言えば、高齢男性（81歳）、中年女性ケアマネ（46歳）、男性ヘルパー（27歳）の３人が織りなす恋愛小説。内容のネタバレはこれから読もうとする方への配慮でお話しできないが、化学式で表すと、46歳と27歳では反応が進まないが、81歳が触媒で絡むと、全く違う反応が起こったようなものかも。否、浅くも深くも読める。ある人にとっては救われる力となるかもしれない。
空也は高貴な出でありながら、身を捨てぼろを着て念仏を唱えながら下賤の人々に救いの手を差し伸べ、道路や橋など当時のインフラの整備を行ったという。その評伝から想像を凝らすとその姿はまるで、アフガニスタンで医療活動だけではなく、生活に苦しむ人々を救うため土木事業（用水路）を行ってきた中村哲医師のようだと空想が飛んだ。（親しみを込めて中村さんと呼ばせていただきます）日本で医師としての栄達もあっただろうに、望みもしないで、遠いアフガンの人々のために泥だらけになりながら苦闘を続けたのは何故だろうと不思議に思う。中村さんのことを初めて知ったのは、40年以上前の雑誌「山と渓谷」で中村さんのアフガンでの活動が特集されていたから。それからずっと黙々と。凄いとしか言えない。中村さんはアフガンにとって空也だったのかもしれない。「空也上人がいた」を読み思ったのは、月並みに人は幾つになっても人を恋し愛し関わりたいのだなということでした。一期一会を大切に、そしてこの人はと感じたら決して一期に終わらせないでいろいろな関係で関わっていく、そこに何か事の始まりがあるのだろうと思った。「空也上人がいた」の３人は、最後に南・無・阿・弥・陀・仏と吐く空也に寄り添われ、それぞれに悟りがあったように思う。そして私もこの本の中で、空也上人（立像）の前に立たせていただいた。
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