山を描いたクラシック音楽といえばリヒャルト・シュトラウスのアルプス交響曲がある。
台風で山に行けない週末、テレビで演奏を放映していたので鑑賞した。そこでは指揮者の沼尻氏が「下品すれすれ」の音楽と語っていた。
抽象的な音楽ではなく、登山の経験を聞き手ができるだけ具体的に想起できるように表現した音楽である。
なので演奏を聞くだけでなく、その表題を見ながら聞くのが正しい聞き方で、テレビだとその表題を見ながら聞けるのでありがたい。
登山の観点からこの交響楽を考察して見るとなかなか面白い。
まずは登りだけでなくちゃんと下山まで描かれているのが好ましい。多くの登山テレビ番組などは山頂に到達してクライマックスを迎え、そこで終わってしまうが、この交響楽は違う。山頂の到達は全体の曲の真ん中くらいで、そこから先は下山。曲は盛り上がりではなく、日没の光景を示しながら静かに幕を閉じる。
登山をやる人間であれば下山の長さ、苦しさ、安全なところにたどり着くまでの緊張感の維持の大切さを身にしみてわかっているだろう。この点この交響楽は盛り上がりを犠牲にしても忠実に登山を再現しているように思われる。
また登山の高揚感だけでなく、リスクについても考慮、描写しているところも好ましい。道迷いをした時、なんとも言えない小さな不安感がだんだんと大きくなっていく感覚。山頂直下の最後のがれ場、岩場に取り付く時の緊張感。そして天候悪化。ポツリポツリと落ちてきた小さな雨粒が不安感を呼び、やがて嵐となって我が身に襲いかかる。ピッ、ピッというオーボエによる雨音の描写のなんと身につまされることか。
シュトラウスが登って、経験した山はどこらへんなのだろう。途中氷河の描写があるのでヨーロッパアルプスのどこかなのだろうけれども、曲の最初のほうには樹林帯や牧場の描写もあるからちゃんと麓から登っているのだろう。
とすると、リヒャルト・シュトラウスはかなり登山経験があったのではないか、と思われるのであった。
ただこれを表現するためにオルガン付き超大規模なオーケストラを要求してしまうあたり、やはりものすごい作曲家なのだろう。
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