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信州とある病院へ入院5ヶ月目に突入、怪我も順調なほど回復に向かっているのだが、相変わらず退屈な日々が続いている。
小さな鏡台を机の上に立て≪つまんねぇ〜≫嘆息を吐いた.今度は手のひらで頬を引っ張り舌だして思いっきり、≪あかんべぇ〜≫とおどけてみせると鏡の向こうに(奈津)と書いた名札が写っていた。
そのままのポーズで後ろに振り変えると、看護婦の奈津が呆れた眼差しで、上から目線で私の顔を見ると「それだけお元気であれば、ほかの病棟へ移っても大丈夫ですね」.内心このオヤジ、あたま平気かな?という声が伝わってきた。ちょこざいな小娘が…(`◇´*)
ショートボブのスタイリングに太い黒縁の伊達メガネをほんのちょっぴり眉間からさげて右手の人差指で押さえている.初代平成社会人は自己キャラを造ってビジネスに取り組むようだ。果たして本心はどうなのだろうか…
≪お奈津さん、世話になった≫.奈津は気安く呼ばないで、といった表情をしたが、口元を小さくはにかんで魅せたのを、私は見逃さなかった。
≪そういえば、私がここへ来たばかり北病棟は新築建設現場であったな≫奈津と二人、荷物を台車に載せて渡り廊下を進み、4階北病棟へとエレベーターに乗る「ほんとラッキーなお方ですわ、しかも個室ですよ!今ならなんと無料で、こんなチャンスめったに御座いませんわ〜」。まるで浪花の商人のような豪快な口前で手を叩いて小さく拍手する…通販キャラを使いこなすそうとしているがいま一つ…「では、ここからはご自分でどうぞ」奈津は荷物をおろして再びエレベーターに乗った。
4階北病棟の踊り場から窓のウインドを開け、景色を覗くと北八ヶ岳の峰々が荒波のように続いているのがみえた.つまらぬ入院生活も少し華やいだ気分となった。
屋上にはヘリポートもある.設備の行き届いた立派な新設病棟である。
「ではお大事に…ありがとう♡」一時、呆然と奈津の顔をみつめた.返す言葉は見つからなかったが奈津は初めて白い歯を見せてにこりと微笑んだその時、エレベーターのドアが閉まった。
最後に奈津の素顔を見たような気がしたが、どうして礼を言われたのか私にはわからなかった。
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