登山の栄養・体のケアのメモ

登山前の食事→登山開始48時間前からの、必要カロリーを超えた分の糖分は、インスリンにより筋肉(1200kcal)・肝臓(600kcal)・全身のその他の細胞(200kcal)にグリコーゲンとして貯蔵できる（カーボローディング）。そのため、登山開始48時間前から炭水化物を2000kcalまで余計に取るのは効果がある（単純計算で、登山開始48時間以内の主食（ご飯やパン、パスタ）の量を2倍量にすればよい）。また、クエン酸を含む飲食物（果物やオレンジジュース、レモン風味スポーツドリンク等）はグリコーゲンの貯蔵を促進する。低血糖になった場合はグルカゴンの作用により貯蔵されたグリコーゲンが分解されエネルギーとして消費される。また、登山中は交感神経優位により腸の蠕動運動が低下するため下痢をしやすいので、登山開始48時間以内の動物性脂肪、食物繊維の摂取は避ける。植物性脂肪（サラダ油、オリーブ油、豆類）は問題ないので、48時間以内はタンパク質を豆腐や豆乳、ソイプロテインとして摂取すべきである。また48時間以内は運動を抑制もしくは中止すべきである。筋肉量は2週間以内であればトレーニングしなくても変化しない。

登山前のストレッチ→筋肉のケガ予防に効果がある可能性がある。ストレッチ１か所につき30秒間継続すると効果は有意に高い（15秒間・60秒間は有意に低い）。65歳以上では60秒間継続すると効果は有意に高い（平均84.7歳、15秒間・30秒間は有意に低い）。

登山中の食事→カーボローディングの分を差し引いたカロリー摂取を考えればよい。ただし運動をしながら消化吸収できるカロリーは１時間当たり200〜400kcal、トレーニングを積んだ人で600kcal程度が限度。
１時間あたりの登山に必要なカロリー＝体重(kg)×7〜10
（荷物4.4kgまで7、4.5kg以上9.4kgまで8、9.5kg以上19.0kgまで9、19.1kg以上またはトレランは10をかける）
登山中の脱水量(g)＝体重(kg)×行動時間(h)×5

登山後のストレッチ→効果は無い。
登山後のアイシング→RICE（安静・冷却・圧迫・挙上）は効果がある。
登山後の食事→重量あたりで多い順で、鶏むね肉・赤身の回遊魚（マグロやカツオなど）・豚もも肉・豚ロース肉・馬刺しには、疲労回復物質FRが多く含まれる。（手軽に入手できるのはサラダチキンか）

トレーニング→筋トレと有酸素運動（ランニング・登山）の間隔が短いほど、筋トレの効果に対して、特に遅筋には顕著な悪影響を及ぼす可能性がある。筋トレとランニング・登山は、３時間以上空けるべきである。筋トレを週に１時間行うと、心血管疾患・癌・糖尿病などによる早期死亡率（平均寿命よりも前に死亡する確率）が10〜17%下がる。

参考文献
カロリー
https://www.jpnsport.go.jp/tozanken/Portals/0/kougisiryou/H24haru unndouseiri.pdf
ストレッチ
W. D. Bandy et al, "The effect of time on static stretch on the flexibility of the hamstring muscles", Phys Ther, 1994.
J. B. Feland et al, "The effect of duration of stretching of the hamstring muscle group for increasing range of motion in people aged 65 years or older", Phys Ther, 2021.
Takeuchi, Kosuke & Nakamura, Masatoshi et al, "Stretching intervention can prevent muscle injuries: a systematic review and meta-analysis", Sport Sciences for Health, 2024.
脱水量
https://www.finetrack.com/tips/tips-03/
カーボローディング
https://brand.taisho.co.jp/contents/sports/526/
https://www.alic.go.jp/content/000140400.pdf
塩瀬圭佑他「非アスリートの食事内容自己選択型グリコーゲンローディングにおける糖質摂取量と筋グリコーゲンの変化」, ランニング学研究 25 (2), 17-23, 2014
アイシング
https://www.healthcare.omron.co.jp/pain-with/sports-chronic-pain/basic-knowledge-of-rice/
疲労回復物質FR
https://imidapeptide.jp/
https://runnet.jp/topics/sports/220301.html
２週間トレーニングしなくても筋肉量変化しない
Ogasawara, Riki et al, "Effects of periodic and continued resistance training on muscle CSA and strength in previously untrained men", Clin Physiol Funct Imaging. 2011 Sep;31(5):399-404.
Paul S Hwang et al, "Resistance Training-Induced Elevations in Muscular Strength in Trained Men Are Maintained After 2 Weeks of Detraining and Not Differentially Affected by Whey Protein Supplementation", J Strength Cond Res. 2017 Apr;31(4):869-881.
筋トレと有酸素運動
Moritz Schumann et al, "Compatibility of Concurrent Aerobic and Strength Training for Skeletal Muscle Size and Function: An Updated Systematic Review and Meta-Analysis", Sports Med. 2022 Mar;52(3):601-612. doi: 10.1007/s40279-021-01587-7. Epub 2021 Nov 10.
筋トレと全死因死亡率低下
Momma, Haruki et al, "Muscle-strengthening activities are associated with lower risk and mortality in major non-communicable diseases: a systematic review and meta-analysis of cohort studies", Br J Sports Med. 2022 Jul;56(13):755-763. doi: 10.1136/bjsports-2021-105061. Epub 2022 Feb 28.