マルチピッチ講習2回目は日陰を求めて瑞牆の地獄エリアのバケモノ屋敷へ。
もう名前からして不穏な空気が漂ってますが、まさに苦行の講習となった。
苦行その1
現場についてまず唖然としたのが前日の雨で岩がビショビショだったこと。
湿ってるのではなく水が滴ってるのですよ、奥さん！(gera風）
ほとんど沢登り状態。沢靴もってくればよかった。
5.8程度のグレードとはいえ濡れてるとなるとかなり怖い。
おまけに泥のチムニーを抜けたりして全身泥だらけ。ギアもロープも。
日曜は洗濯とギアのメンテで1日潰しました。
苦行その2
その上雨まで降ってきちゃいましたよん。えーん。
なんか遠くで雷鳴ってるし。
予報的には雨は想定内でしたがカッパ着てクライミングするとは思ってなかったっす。
でも小雨程度ですぐ止みました。
苦行その3
落石。
バケモノ屋敷だけにいろんな仕掛けがあるんだな。
2ピッチ目、ワイドクラックの左側に幅30cm長さ1.5mほどの隆起したひだ状の岩塊があり、中央部は穴があいていてリードの組長はそこに支点を作っていた。
しんがりの私が支点を回収し、その岩塊の穴に手を入れ思いっきり引き付けたところ、ボコっ、と鈍い音がしてその岩塊がまるごととれてしまい、そのまま落下。
さきほどまでいたビレイポイントに直撃し、大音響とともに粉々に砕け散ったのでした。塊の一部はワタシの足の上に落下し、こりゃ骨折したな、と思いきやくぼみに足を置いていたので幸いにも直撃は免れました。
これがリードで起きていたらと思うと背筋がゾー。
苦行その4
懸垂のトラブル。
これが今回最大の苦行。
さすがに塾長もコンディションの悪さに続行する気にならなかったのか、それとも心が折れてテンションダダ下がりの講習生の空気を読んだのか、4p目でまだ時間も早いのに「そろそろ時間も見て撤退をいつするかの判断をしてください。」
は〜い、撤退しま〜す！オフコース！！
喜々として懸垂の準備に取り掛かりましたよ。
ワタシが先陣。
4P目のビレイポイントのテラスから登ってきた方向とは逆の壁から懸垂すると歩いて戻れることを組長は教えてくれたが、講習なのでその情報は知らなかったことにして先ほど上がってきたルンゼから開始点まで直線的に下降することを選択。
今思うとおとなしく組長の言う通りにしておけばよかった。
ルンゼまでは藪っぽい緩い傾斜から切れ落ちた壁を下りる（ここがポイント）、そこからルンゼを直線的に下降し広いテラスに出た。ここでピッチを切ろうかと思ったのだが、いったん立ち木でセルフをとってからリップから下を除くと開始点まで空中懸垂であと20mほど。ロープはまだけっこう余裕がありそう。試しにロープを落としてみると余裕で届いた。
じゃあこのまま降りちゃえ〜。と降りちゃいました。
実はテラスの手前でルンゼが少し屈曲していたのも見落としていた。
時刻は15:30。早く上がって風呂入って全身の泥を落とし明日の小川山へ移動してビールじゃあ！とニヤニヤしながら合図のロープを引く。
が、引けない。
ロープは引けないが血の気は引いていく。
全体重をかけ渾身の力で引いてみるがびくともしない。
ここで自分の失敗に初めて気付く。
ロープの抵抗を甘く見ていた。ルンゼに下りるところとテラスから下りるところと2カ所岩角で曲がってしまっているのがかなりの抵抗を生じているのだ。実はブッシュの抵抗とテラス直前の屈曲もあったことをあとで塾長から指摘される。
やはりテラスでピッチ切っておけばよかったと思っても後の祭り。
大声で呼びかけてみるがまったく反応なし。あとで聞くと、なにか叫んでるのは聞こえたが何を言ってるのかわからなかったとのこと。
さてどうする。
この20mの空中懸垂を登り返してテラスまでもどればロープが引けるかも。
またはトラブルに気付いた塾長が下りてくるのを待つ、かだ。
迷わず塾長を待ちました。
思惑通り塾長が下りてきました。
事情を説明すると、「こいうときはどうしたらいいですか」との問い。
まじめな講習生としては「塾長になんとかしてもらいます、キリっ」とは言えず、
「登り返して引けるところまで戻るしかないですかね、えへへ」
「じゃ、やってください」
マジっすか！？
ワタシが懸垂下降終えてかれこれ30分以上は経っている。
ここから実線未経験の空中登り返しをしたらいったいどれくらい時間がかかることか。組長はその間ずっと一人で待たされることになるではないか。
「kanosukeのヤローは何しとるんじゃボケっ！！今度会ったらエンコツメさしたるっ！！」
山野井さんは指が数本なくても登れるがワタシは登れるのだろうか？
実は登り返しは2年前のロープワーク講習でやってその後何度か復習したが少なくとも1年以上はまったくやっていない。
うろ覚えで登り返しのセットをしてみる。
クレイムハイストはできたが、ルベルソのセットがわからない。
塾長に教えてもらいなんとかセット。
登り返しをしぶしぶ始めるが登り始めは少し上がってもロープが伸びてなかなか離陸できずじたばたする。こんなんで果たしてテラスにたどり着けるのか？
1回の作業で登れる距離はせいぜい50cm程度、20m÷50cmは？
カチカチチーン、はい、40回でーす！...クラッ...
あまりにもひどいありさまを見たら塾長も見るに見かねて「もういいです、私が行きます。」と言ってくれるに違いない、よし、それだ！
とりあえず必死に頑張るふり。ところがなかなか「もういいですよ」の声がかからない。そうこうしているうちにいつの間にかテラスの縁まで来てしまった。ここまで来れば最後まで行きたくなるのが人情というもの。
ところが縁とロープが接触しているところではマッシャーを上げられない。でももう少し上がらないとテラスに乗り込めない。
そうだ接触部より先のロープにマッシャーを新しくセットすればいいのだ、オレって頭いいー。
ところが新しくセットしたマッシャーを引いたら緩くて接触部を越えて手元に降りてきてしまいましたよん。がちょーん！
さてどおする？
ふと見ると新しく作ったマッシャーが踏み台になるではないか。
そこに足で乗り込むとなんとかテラスに上がれました。
やったね！ついに勝利したのだワタシは。
立ち木にセルフを取り、さあロープを引いて組長に合図だ。
ところが、引けない。
うそ〜ん！
ここでも引けないのか！！
仕方ないので組長に引けそうなところまで下りてもらい、懸垂支点を取り直してもらおう。
「組長ぉ〜！お待たせしました！！下りてきてくださ〜い」
「kanosukeぇ〜！どんだけまたせとんじゃ〜、今そっちに行くから首を洗ってまっとけやゴラ〜！！（うそ）」
組長にルンゼまで下りてもらい、そこでセルフを取ってロープを引いてもらう。
が、しか〜し！なんとそこでも引けない。
塾長に状況を説明し、片側のロープで私がビレイをし塾長に上がってきてもらう。結局塾長が組長のところまで登り返し、組長にルンゼの対岸に登ってもらいそこでロープを引けることを確認し懸垂支点を取り直してようやく全員無事に帰還しました。
時刻は18:30。
もう日が暮れるのでとっととロープを回収して帰りましょう。
組長がロープを引きます。
あれ？引けない？
またも引いていく血の気。
がーん。
冗談はよしこさん。
これで引けなかったらまた登り返し？こんな時間に？
ワタシも参戦して渾身の力で一緒に引くとなんとか少しずつ引けてきて無事に回収できました。おどかしやがって。
I塾名物ヘッデン下山で駐車場に着いた時にはすっかり疲れきってしまいました。
今回の懸垂下降で身をもって多くのことを学びました。
ロープの抵抗はばかにならない。わずかな屈曲も気にすること。
特に緩い斜面での懸垂は要注意。
屈曲しそうなら細めにピッチを切る。
どこでピッチを切るかロープの流れに配慮する。
状況をよく観察して下降ラインを選択する。
登り返しは重要なスキル。
懸垂下降以外にもいろいろと課題がありまして、キリがないのですが、あとひとつあげるとすると、ビレイポイントにフォローが登ってきたときにビレイしてるリードのどちらを通るか、またロープをまたぐのかくぐるのか、それでロープの裏表がごっちゃになってしまうということ。
マルチピッチは考えるべき要素がたくさんあって次から次へと課題は出てくるし、ワタシの頭ではまだ対応できていない。
卒業までの道のりは遠いことは再認識した。
最後にテラスに１人１時間以上も待ちぼうけ食わされていた組長には大変申し訳ありませんでした。指は勘弁してくださいね〜。
kanosukeさんも苦行をしていたのですね。嬉しい。
マルチが嫌になってしまった、なんてことはないですか？ダイジョビ？
今回はトラブル対応の経験を積むことができて、よかったですね！
私は実戦で登り返しをしたことがないので羨ましいです。
懸垂下降の失敗はあったものの、登攀に関しては上手くいったようなので、一歩前進したのではないでしょうか。
それとも、書いてないだけなのかしら？
懸垂下降で待たされると、ホント不安になるんですよね〜。
私だったら1時間も待っていられないので、自分も下りてきちゃいますね。
質問
一番下(地面)からロープにぶら下がって、登り返したのですか？
geraさんの苦行に比べたら大したことないですけどね。
いまのところまだイヤになったりしてませんよ〜
でも前途多難です。
質問の答えは地面から登り返したんですよ
スリングに乗り込んだ右足のふくらはぎが筋肉痛になってしまいました
1時間以上待たされた組長は状況がわからず、ワタシが大事故に見舞われたのではないかと心配してたそうです。
きつい体験でしたが講習でなるべく多くのトラブルを経験したほうがむしろ自分のためになると割り切ってます。講習のトラブルは最終的にはお助けマンがなんとかしてくれますけど、本チャンでは自分たちでなんとかしなければなりませんからね。
引き出しは多いにこしたことはありません。
ネタにもなるし。
登攀そのものはオブザベを間違えて行き止まったり、作業がモタモタしてたり、ロープが絡まったり、落石したり、と大したトラブルはなかったですよ〜。
それでも前回よりはマシになった気がしますから少しは前進したんじゃないでしょうか。
次の講習ではどんなトラブルが待っているのか、楽しみのようなコワいような...
カノスケどん、
ダブルロープでのマルチピッチトレーニング、お疲れ様でした。
克明な状況説明ありがとうございます。アルパインクライミングにおいて、ボク自身も経験したことのあることばかり
本チャンでは、いくら慣れたパートナーとでも、お互い、特小トランシーバをリュックの肩掛け上部（前にするとこの厚みがじゃまになる）に付けてコミュニケーションをとるようにしています。特に沢や雪山では、声が全く聞こえないので重宝しています。コミュニケーションがとれないと、新たなトラブルを呼ぶ可能性があります。少しでもご参考になればと思いました。
http://www.yamareco.com/modules/diary/1884-detail-67919
クマ
クマさんも経験済みと聞いてなんか安心しました。
他人の失敗談というのはとてもオモシロ...タメになるので他のも今度教えてくださいね〜
まさかあれくらいで引けなくなるなんてびっくりしました。
60mをほぼフルで使ってしかも岩で屈曲してるところが２カ所もあるんですから当たり前なんでしょうが、シロートにはそんなことは夢にも思わなかったですよ。
マルチではやってみないとわからないことが多いので実践あるのみですね。
塾長はなるべく自分で考えさせる方針で間違っていてもすぐには教えないので講習ではこういうことは多いのですが、実際に痛い目に会うと忘れませんから、大変なことも多いですけどとてもためになります。
本チャンで悲惨な状況にならないように講習でたくさんトラブルを経験しておこうと思います。
情報提供ありがとうございます。
クマさんのトランシーバーの紹介日記、見覚えがありました。
今は本当に小さいんですね〜
講習なのでトランシーバーは使わないですが、本チャンでは用意しておこうっと
追記：塾長のブログも見てみてください。写真があるので状況がよくわかります。
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