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更新日:2015年02月21日 訪問者数:29905
ジャンル共通 技術・知識
実際の滑落停止技術と練習の違い
jyunntarou
緩い斜面でしばらく尻セードしてから、程よく加速できた時点で反転しピッケルを撃ち込んで両膝を上げて綺麗に停止する 所謂お決まりの「滑落停止訓練」は百害あって一利なしです。
とにかく滑ったら即刻ピッケルとアイゼンを撃ち込むか、腕や足、果ては顔面でもいいから直ぐに止めることが大切です。
五月の涸沢から北穂に向かうトラバース中、滑落しました。直ぐ下はハングした壁です。加速を付けたら終わりです。直ぐにピッケルを撃ち込みましたが、五月の柔らかい雪は細いピック部分などお構いなしで流してしまいます。それよりも直ぐにアイゼンの出刃をぶち込むことです。アイゼンをぶち込んだら急ブレーキがかかって頭から堕ちる…なんて言うのは机上の論理です。
この時に止まったのは、アイゼンの出刃と両肘がかき集めた雪のブロックでした。もう少し加速がついておれば数百メートルも堕ちていたと思います。
悠長に流されてから反転してピッケルを打ちつける 形だけの滑落停止訓練は、やればやるほど体が「流される」ことを覚えてしまいます。とにかく滑ったら1mmでも早く、0.1秒でも早くどんな形でも「止まる」ことを練習することです。
昨年のGWで涸沢岳西尾根蒲田富士岩稜付近でも鉱石沢側に流れました。アイゼンはしっかりと雪面に食い込こませているのですが、その食い込ませた雪ごと流れ出したのです。とっさに取った行動は、両腕の指を雪面に食い込ませ、右膝蹴りで思いっきり雪を蹴り上げ頭も雪に頭突きした不細工な格好で斜めになった状態で1m程で止まりました。ピッケルは紐にぶら下がったままでした。後、数十センチ流れていたら鉱石沢に堕ちてしまっていたでしょう。
反対のブドウ沢に堕ちても鉱石沢に落ちても あの角度(60°以上)では、お決まりの滑落停止など なんの役にも立ちません。先ずは滑らないことが勿論ですが、万が一雪が流れたら雪質を考えてピッケルやアイゼン、体全体を使って一刻も早く流れ出さないことに努めることです。
滑落停止訓練は流れてからでは遅いです。
アイスバーンでの滑落停止は・・・
えー。どんくさいので富士山でも2回滑落しました。2011年の年末です。この年は雪が少なくて意外と簡単に登頂を果たして7合目で気を抜いて確保せずに斜面のテラスでお尻をつけて座ってしまったのです。あっという間にするすると仰向けに体が流れ出し氷のアイスバーンですから、加速は半端ではありませんでした。慌ててピッケルを打ちつけたのですが、腕が伸びた状態でしたので軽く弾かれてピッケルは飛ばされました。残るは加速が増す前に岩にお尻からの「激突停止」を試みました。
しかし、お尻ではなく右足の大腿部を思いっきり岩に打ち付けて停止しました。
余りの激痛に骨折したと思いその場でうずくまりました。寒さで我に返り足を動かしてみますと痛みは走りますが折れてはいませんでした。幸い飛ばされたピッケルも近くの岩に挟まって停止していましたので、それを拾って足を引きづりながらの下山です。
そこにガスが発生しホワイトアウト。?20℃近いガス&強風の中方向を失い須走方面へ降りてしまい、大石小屋のテントに帰り着いたのは、真夜中の午前2時でした。厳冬の富士山での足へのダメージは「死」に近づくことを知りました。
とにかく何が何でも滑りだす瞬間に「止める」事が何よりもの滑落停止技術だと思い知らされました。

そして、年が明けて3月にまた富士にチャレンジしましたが、9.3合目の大弛沢でピッケルもアイゼンも刺さらないコンクリートアイスバーンで敗退でした。
そして2012年4月8日 高気圧にぽっかり覆われて好天の予報の富士に再度アタックしました。この日はなんと大荒れブリザードに突風が吹きまくりアイスバーンを風が引っぺがしてその氷片が宙に舞うほどでした。
何とか匍匐前進で山頂部の三島岳までたどり着くも下山が大変でした。この日はヤマちゃんさん率いるパーティーの1人が滑落し(10m以上流されブリザードで姿が消えたそうです)、単独の青年も滑落しました。ただ7合目下でしたのでピッケル制動が効いて事なきを得たようですが・・・
実は、私も飛ばされ堕ちました。猛烈な吹きおろしですので踏ん張りながらの下山ですが、7合目の斜面上のテラスで急に風が止まったのです。やっと足の踏ん張りを解いた所にいきなりの突風が吹いて頭から落とされてしまいました。付近はまだまだアイスバーンです。しかも頭から落とされましたので、ピッケルを打ちつけるとぐるんと体が半回転しました。焦らずにそこでアイゼンを打ちつけたら止まりました。2m以内で止まりましたので、事なきを得ました。

アイスバーンでも圧雪でも新雪でも とにかく滑った!と思ったら躊躇なく直ぐに止まることの練習をした方が絶対に良いと思います。
特に下りでの滑落が多いです。昨年GW私が滑った涸沢西尾根の翌朝…滑落事故が起こりました。雪がかなり緩んでいましたのでアイゼンが効きにくかったと思います。
1月の方がピッケルアイゼン共に効いてクライムダウンも安心でしたが、5月は雪が腐って本当に危なく感じましたから。

とにかく、滑らないことが一番なのですが、滑ってしまった時は あの加速をわざとつけてからの反転ピッケルグサッ・・・のカッコイイ綺麗事の滑落停止訓練を絶対に行わないことです。どんなにへっぴり腰でもどんなに不細工な格好になろうが、直ぐに停止できているのが花丸、百点満点なのです。
面倒なアイスバーン
このように凹凸があるアイスバーンを下るときは、慎重にアイゼンを食い込ませるか、周りを見渡し色の白い部分を狙った方が無難です。色のどす黒い所はものすごく固い氷になっている場合が多いです。
スケートリンク化
こうなるともう風が吹けば飛ばされてしまいます。冬富士は、こういう状態が常に続きます。
全くアイゼンが食い込まないこともありますが、こういう時は地球が割れるくらいにけり込んで降ります。翌日は猛烈な筋肉痛で歩けないほどです(私の場合だけかもしれません)
歯が立たない・・・
1ミリ刺さればなんとかなります
完全にアイゼンが浮いているように見えますが、1ミリ位は氷に食い込んでいます。意外とこれ位刺さってくれれば安定している方なのです。富士山に出かけるときはヤスリでアイゼンの爪を針の様に尖らせないとダメですね。
6合目の大斜面
ここも見事なアイスバーンが出来上がります。ココで滑りますと命が有りません。
富士山大弛沢(死の滑り台)
厳冬期のココは、本当に固いアイスバーンです。ココを登降する時は、全身全霊で一歩ずつ確実に降りなければなりません。少しでも油断して滑りますと、絶対にどんな方法を取ったとしても停止したければ、岩に激突するしか手はありません。
長田尾根を使う方がノーマルです。が、こちらの方が時間的には早く山頂のお宮にたどり着けます。
蒲田富士山頂直下ルンゼ登攀
古いフィックスロープが張られていますが、雪に埋まっている時もあります。ここはピッケルとアイゼンで登った方が安心です。(ロープは凍って滑る場合があります) 降下はアンカーは有りますので、持参したロープで懸垂下降を行うチームもありますが。シングルピッケルでクライムダウンで降りました。ただ、GW頃の晴天時は気温が上がりピッケル・アイゼンとも流される場合があります。
蒲田富士雪庇迂回トラバース
蒲田富士は岩稜ルンゼを上がりますと巨大な雪庇ができた山頂部に出ます。年によって違いますが雪庇の次はナイフリッジが出来上がります。特にブドウ沢側は切り立っておりますので、風に煽られ滑落したり雪庇を踏み抜いたりしたら命はありません。勿論鉱石沢側に寄りすぎますと、こちらも半端でない角度ですからトレースの無い場合はどこを狙うのかの判断力を要します。
涸沢岳西尾根難関Fコル
蒲田富士から見たFコル周辺の写真です。Fコルから一旦ルンゼに入り、そこからギリギリの岩稜を這い上がります。こんな所で優雅な滑落停止はできません。堕ちたら終いです。
涸沢岳西尾根岩稜部登攀
朝の気温の低い時はいいのですが、午後から雪が緩みだすと怖い事になります。あまりにも暖かい「好天気な日」ほど気をつけて下らなければなりません。
Fルンゼからの登攀
この角度では、絶対に滑落停止訓練の技術では100%止まりません。一歩一歩確実に登降することが大切です。万が一雪ごとアイゼンが流されましたら全身を雪にへばりつかせ、もう一度アイゼンを撃ち込んでピッケルを撃ち込み腕や足で雪の凹凸を作り加速が付く前に止めることです。
中・低山でも同じです。
トラバースかクライムダウンか?
兵庫県の日本海側にある最高峰氷ノ山(1510m)のコシキ岩を通過するときは、トラバースコースかコシキ岩直登降ルートかを判断します。私は見た目に怖い直ルートを辿ります。理由は「堕ちない」からです。ここのトラバースは写真で見られますように登山者さんが不安定な姿勢で横切っています。コレよりも直でクライムダウンした方が絶対に安全なのです。
基本は稜線歩きです。
コシキ岩をクライムダウンしてきたルートを見上げます。ピッケルとアイゼンの出刃のぶち込みは、不安定な流れ出す要素の大きいトラバースより余程安全と言えます。ただコシキ岩の左手のオーバーハング乗越は冬場は凍っておりますのでこれを突破するのにはダブルアックスが必要になります。やや右ルートを取れば、シングルでも全く問題がありません。
雪庇の踏み抜きには要注意です。
こういう雪庇、天気が良ければ近寄らずに内側を通ると問題はないのですが、ガスでホワイトアウトになった場合にともすれば、この雪庇の上を歩いて踏み抜いてしまう事が起きかねないです。雪庇を踏み抜きますと下は必ず急斜面ですし崩壊した雪で埋まってしまう恐れもあります。
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