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更新日:2022年01月05日 訪問者数:1467
ジャンル共通 技術・知識
日本の山々の地質;第3部 中央アルプス、3−3章 中ア北部;経ヶ岳とその周辺 −付加体が変成岩へと変化した地質―
ベルクハイル
中央アルプス北部の地質図
・オレンジ色(図の中央部、経ヶ岳一帯);粘板岩(領家変成岩類);(白亜紀末〜暁新世に変成)

・赤色(下部中央、木曽駒ヶ岳の周り);花崗岩類(花崗閃緑岩、トーナライト);(白亜紀末)

・黄色(中ア北部の一部);砂岩質付加体;(中〜後期ジュラ紀)

・薄いミントグリーン(伊那谷);段丘堆積物;(第四紀)

※赤い太線内が、中央アルプスの範囲。

※ 産総研 「シームレス地質図v2」を元に、筆者加筆。
経ヶ岳(中央アルプス)
中央アルプス北部の代表的な山、経ヶ岳(標高;2296m)

※ ヤマレコ内の、山のデータ集より引用させてもらいました。
(はじめに)
 さてこの章以降、中央アルプスの山々の地質について、具体的に説明していきますが、実は中央アルプスの地質は、第2部の北アルプスとは比べ物にならないほど、単純な地質でできています。

 そこで、このような大まかな区分で説明していく予定です。
  (3−3章)中ア北部;経ヶ岳とその周辺
  (3−4章)中ア中核部;木曽駒ヶ岳、宝剣岳等
  (3−5章)中ア南部;空木岳、南駒ヶ岳、越百山
1)中央アルプス北部の地質
 まず、この3-3章では、中央アルプス北部、具体的には経ヶ岳(標高:2296m)を中心とし、北は塩尻付近から、南は権兵衛峠までの範囲の地質と、その成り立ちについて説明します。

 産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、この領域は9割がた、「粘板岩(ねんばんがん)」という種類の変成岩で出来ています。この地区の粘板岩の変成年代は、「地質図」の記載によると、白亜紀末期から古第三紀 暁新世(約70Ma〜約60Ma)です。
 また粘板岩に混じって、変成したチャートが、レンズ状に点々と分布しています(例えば経ヶ岳山頂部)。

 なお、(文献1)によると、粘板岩とは、一般には泥岩が源岩の変成岩であり、色は黒っぽく、性質は薄くはがれやすい岩です。英語ではスレート(Slate)と呼びます。

 それ以外の地質としては、ジュラ紀中期から後期(約180Ma〜約150Ma)に、プレートの沈み込みによってできた「付加体」である砂岩層が、標高の低い部分に分布しています。
 これは、「第2部 北アルプス」のうち、常念山脈南部(霞沢岳〜大滝山〜蝶が岳)で説明した地質と同類のものであり、「丹波・美濃帯」に属する地層群の一部です(文献2)。

 さて、これらの地質のうち、粘板岩は、「領家変成岩(類)」に属します。
さらに言うと、このゾーン一帯は、日本列島の地体構造区分のうち、「領家帯」に属します。

 次の(2)節にて、「領家帯」、「領家変成岩(類)」とはなんなのか?説明します。
2)「領家帯」、「領家変成岩(類)」について
 日本列島の地質は、古第三紀以前の地質をもとに、約20個の “〇〇帯“ という領域に区分されています。その一つに「領家帯(りょうけたい)」があります。(文献3)、(文献4)、(文献5)。

 「領家帯」は、日本列島の地質グループの三大区分のうち、「西南日本内帯」に属します。
 その範囲は、東は中部地方(中ア北部、南ア西部、愛知県)から始まり(実際には関東地方にも一部あり。詳細は以下の「補足説明2」を参照のこと)、近畿地方中部、瀬戸内海の島々へと続きます。西端は九州東部の大分県あたりですが、その先は阿蘇山の噴出物で覆われていてはっきりしていません。いずれにしろ全長700km以上ある、東西に細長いゾーン(帯)です。
 
 またその南側は中央構造線によって区切られて、西南日本外帯の「三波川帯」と接しています。北側は主に「丹波・美濃帯」に接していますが、瀬戸内海付近では、北側は「秋吉帯」など、ほかの地質帯と接している場合もあります。

 「領家帯」を構成する岩石は、簡潔に言うと、花崗岩類(「領家花崗岩」)と、高温型変成岩(「領家変成岩(類)」)の、2つのグループの岩石で出来ています(文献3)。
  実際は花崗岩類では区別が難しいことから、「領家変成岩(類)」の存在しているゾーンが「領家帯」、と定義されています。


続いて、「領家変成岩(類)」について説明します(文献6)、(文献7)。

 領家変成岩(類)は、変成岩の分類のうち、高温型変成岩(高温低圧型変成岩)に分類されています。領家変成岩(類)には、変成度が高い「片麻岩」と、変成度が低い「粘板岩」が主にみられ、場所によって岩石の種類が異なりますが、中央アルプス北部では、変成度の低い粘板岩で出来ています。

 「領家変成岩(類)」と「領家花崗岩」とは密接な関係があります。

 もともと非変成の堆積岩層(源岩)であったものが、領家花崗岩の元となったマグマの地下からの上昇に伴い、そのマグマによって熱せられて岩石の構造が変化し、変成岩となったものです。
 従って、源岩ができた時代と、熱変成作用を受けて、変成岩へと変化した時代とは、地質学的に大きな時間差があります。
 
3)プレートテクトニクスに基づく、領家帯とその付近の地層の説明
 さて、これらの地質の関係を、プレートテクトニクスの観点を元に、整理して説明します。

 まずはじめに、主にジュラ紀(約2.5億年前〜約2.0億年前;250Ma〜200Ma)において、現在の中央アルプス北部、北アルプス南部、岐阜県南部(美濃地方)、滋賀県の一部、京都府中北部、兵庫県中部(丹波地方)を含む、東西に細長い一帯(丹波・美濃帯)では、海洋プレートの継続的な沈み込みによって、沈み込みゾーンに、砂岩、泥岩を主体とした「付加体」が作られました(文献2)。

 続いて、白亜紀末期(約70-65Ma)に、「丹波・美濃帯」の南側に沿って東西に帯状に、地下でできていたマグマだまりが固化し、地下数kmに、花崗岩類(「領家花崗岩」)ができました。(おそらく、そのマグマだまりの上には火山列ができていたと推定されますが、跡形は残っていません)。この花崗岩類は「領家花崗岩(類)」と呼ばれます。

 花崗岩類は、元はと言えば、地下にあった高温のマグマなので、その熱により、その上部に以前より存在した、「丹波・美濃帯」の堆積岩層に影響(熱変成作用)を及ぼして、変成岩ができました。
それが、「領家変成岩(類)」と呼ばれるものです。この節で説明した、中央アルプス北部に現れている粘板岩も、その「領家変成岩(類)」グループの一員です。

 つまり、経ヶ岳付近の地質(主に粘板岩)は、元々はジュラ紀から白亜紀にかけて、プレート沈み込み帯でできた「付加体」が源岩であり、それが白亜紀末期に地下にできたマグマだまりの熱によって(熱)変成作用を受けて、粘板岩となった、ということになります。

  ※ ”Ma”は、百万年前を意味する単位
(補足説明1)「粘板岩」、「スレート」、「スレート屋根」のややこしい関係
 地質学、岩石学において、英語で言うスレート(Slate)は、日本語では「粘板岩」(ねんばんがん)と訳されています。

 一方で住宅の屋根材としての「スレート」いうものがあります。
 (建材業界では「化粧スレート」と呼んでいるようです)

 この屋根材のほうのスレートは、実は工業生産品であり、天然の岩石であるSlate(粘板岩)とは全く異なります。各メーカ毎の屋根材としてのスレートの製造方法は良く解りませんが、一般には、セメントと繊維質のものを混ぜて、シート状に固めたものです(文献8)。

 元々は天然の粘板岩(Slate)が、その性質(平べったいシート状に割れやすいので、屋根材として便利) を生かして、西洋の建物の屋根材として古くから使われていましたようです。
 また日本では、明治以降、洋風建築の高級屋根材として使われていました。
  (例えば、JR東京駅(丸の内側駅舎)の屋根材 (文献8))

 その後、天然スレートに似たような見た目の人工の屋根材が開発され、建材業界、住宅産業業界で、「スレート屋根」と呼ばれるようになった、という経緯があります。
(補足説明2) 「領家帯」、「領家変成岩(類)」の東方延長部について
 第2節では、説明がややこしすぎないよう、あえて「領家帯」の東端を糸静線としましたが、これは実は、正確ではありません。

 実際は、「領家帯」、「領家変成岩(類)」の領域は、糸静線、および「いわゆるフォッサマグナ地帯」を飛び越えて東へと延びていて、関東地方にも「領家変成岩(類)」が、わずかに分布しています。

 関東地方のうち関東平野は、そのほとんどが比較的新しい時期の、分厚い堆積物におおわれていますが、「地質図」をよく見ると、茨城県の筑波山周辺に、白亜紀末期から古第三紀初期に変成作用をうけた、泥質片岩が分布するゾーンがあり、領家変成岩の東方延長と考えらています。

 また、(文献3)、(文献4)での日本列島地体構造区分の図でも、「領家帯」は関東平野北部まで続いている、と図示されています。

 現在は、日本列島の大区分の地体構造区分のうち、関東地方は「東北日本」に属することになっています。
 しかし、新第三紀 中新世に起きた日本海拡大イベント(約20-15Ma)の前には、関東地方に相当する場所は、「西南日本内帯」、「西南日本外帯」の延長部であった、と考えられています。
(参考文献)
文献1)西本 著
    「観察を楽しむ、特徴が解る 岩石図鑑」 ナツメ社 刊 (2020)


文献2)「日本地方地質誌 第4巻 中部地方」日本地質学会 編 (2006)
    のうち、各論 第5部「美濃帯」の項


文献3)磯崎、丸山、青木、中間、宮下、大藤
   「日本列島の地体構造区分再訪
    −太平洋型(都城型)造山帯構成単元および境界の分類・定義―」
    のうち、図1「日本列島の地体構造区分」。
   地学雑誌 第119巻 p999-1053 (2010)

   https://www.jstage.jst.go.jp/article/jgeography/119/6/119_6_999/_pdf


文献4)Isozaki.Y.
   “ Anatomy and genesis of a subduction-related orogen:
     A new view of geotectonic subdivision and evolution of
the Japanese Islands “ ( Fig.3 )
   “The Island Arc “ vol.5 , p289-320 (1996)

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/pdf/10.1111/j.1440-1738.1996.tb00033.x

(このサイトに論文のPDFファイルがあり、論文本体を見ることができる)

※この文献のFig.3 は、その後の他の文献でも良く引用されている。


文献5)高木 著
   「年代で見る日本の地質と地形」 誠文堂新光社 刊 (2017)
    のうち、図2「日本列島の地体構造」
    (図2は、市川(1980)の原典を一部改変したもの、との注釈あり)


文献6)「日本地方地質誌 第4巻 中部地方」日本地質学会 編 (2006)
    のうち、各論 第6部「領家変成帯」の項


文献7)ウイキペディア 「領家変成帯」の項、2020年9月 閲覧
          https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A0%98%E5%AE%B6%E5%A4%89%E6%88%90%E5%B8%AF   


文献8)ウイキペディア 「スレート(建材)」の項 2020年9月 閲覧。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%88_(%E5%BB%BA%E6%9D%90)
【書記事項】
初版リリース;2020年9月27日
△改訂1;文章見直し、一部修正。3−1章へのリンク追加。書記事項追記。
△最新改訂年月日;2022年1月5日
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