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更新日:2022年04月11日 訪問者数:1441
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日本の山々の地質;第12部 九州地方の山々の地質、12−4章 九州地方の地質概要(2)
ベルクハイル
図1;「中部九州地質区」の地質概要
・青い線(※)の間がここで言う「中部九州地質区」
 (※左上の青線は「北部九州地質区」との境、
   中央やや下の斜めの青線は、
   「南部九州地質区」との境界

・佐賀関ゾーン(赤線で囲った部分);
   三波川結晶片岩+白亜紀堆積岩分布域
・竹田ゾーン(緑線で囲った部分);
   変成岩分布域(この章では解説してない)
・肥後ゾーン(ピンク線で囲った部分);
   各種変成岩類分布域(「肥後帯」)
・天草ゾーン(オレンジ色線で囲った部分);
  白亜紀〜古第三紀の、非付加体型堆積岩分布ゾーン

○それ以外の地域;第四紀火山とその噴出物分布域

ーーー
※産総研「シームレス地質図v2」を元に筆者作成。
なおここでの「○○ゾーン」とは、説明用に筆者が独自に設定した地質ゾーンで、名前も含めオーソライズされたものではありません。
図2 「南部九州地質区」の地質概要(1)
・中央部に斜めに走る緑色線;「中部九州地質区」との境界線(「臼杵ー八代構造線」)

・「秩父帯」分布域;緑色の線と、水色の線とに挟まれた領域、(ジュラ紀付加体+黒瀬川帯)
・「四万十帯」分布域;みかん色で囲った部分(白亜紀〜古第三紀の付加体)、この図では「四万十北帯」と「四万十南帯」の両方を含む。
・「中新世火成岩ゾーン」;朱色で囲った部分、数か所に分散して分布している。

ーーー
※産総研「シームレス地質図v2」を元に筆者作成。
なおここでの「○○ゾーン」とは、説明用に筆者が独自に設定した地質ゾーンで、名前も含めオーソライズされたものではありません。
ただし「秩父帯」、「四万十帯」はオーソライズされた名称、領域です。
図3 「南部九州地質区」の地質概要(2)
・「四万十北帯」;きみどり色で囲った部分、白亜紀付加体
・「四万十南帯」みかん色の線で囲った部分(古第三紀の付加体
・ピンク色で囲った部分;「中新世火成岩ゾーン」

・「鹿児島火山ゾーン」
 ・第四紀火山(陸上);赤線で囲った部分(上から霧島連山、桜島、開聞岳とその周辺
 ・海没カルデラ;赤紫で囲った部分(上から姶良、阿多北、阿多南の各カルデラ)

○それ以外の領域は、新第三紀〜第四紀の古い火山岩、阿多カルデラ噴出物(シラス)、及び新第三紀中新世〜鮮新世付加体、及び同時期の前弧海盆堆積層の分布域

ーーー
※産総研「シームレス地質図v2」を元に筆者作成。
なおここでの「○○ゾーン」とは、説明用に筆者が独自に設定した地質ゾーンで、名前も含めオーソライズされたものではありません。
ただし「四万十北帯」、「四万十南帯」はオーソライズされた名称、領域です。
(はじめに)
  前の12−3章では、「九州地方の地質概要(1)」として、まずは九州地方の地質区分を「北部九州地質区」、「中部九州地質区」、「南部九州地質区」の3つに大まかに分け、このうち「北部九州地質区」の地質を解説しました。
 
 この12−4章ではそれに引き続き、「中部九州地質区」と「南部九州地質区」の地質を解説します。なおベースとした文献は、文献1)と産総研「シームレス地質図v2」です。
1.「中部九州地質区」の地質概要
 ここで言う地質的区分域としての「中部九州地質区」は、地形的な区分域としての「中部九州地区とほぼ同じ範囲になります。(図1もご参照ください。)
 この地質区の主要部は第四紀火山とその噴出物に覆われた領域ですが、一部には非火山性の地質が分布しているゾーンがいくつかあります。以下に各ゾーンごとに説明します。

(※ 以下の「ゾーン」名称は、筆者が説明の都合上、独自に付けた名前で、
   オーソライズされているものではありません)
 1−1) 「中部九州火山ゾーン」
 この「中部九州地質区」は、地形の説明(12−2章)でも述べたように、第四紀火山が数多く分布し、かつそれらの火山の噴出物によって広く覆われています(文献1−a)、(文献2−a)。
 その地質ゾーンをここでは「中部九州火山ゾーン」と呼ぶことにします。12−2章で述べた「別府―島原地溝帯」を含むゾーンです(文献2−a)。
 したがって、ここは火山岩や火山性噴出物が多く分布する、地質的には割と単調な地質区です。

 これらの火山性噴出物の地下深くに、より古い時代の地質体が隠されているのか?あるいは既にマグマ活動によって破壊、溶解して失われているのかは、良く解っていません。

  この「中部九州火山ゾーン」には、登山対象、観光対象となっている有名な火山が数多く含まれます。具体的には東側から順に、鶴見岳(つるみだけ:1375m)、由布岳(1583m)、英彦山(ひこさん;1200m)、くじゅう連山(最高点は中岳で、1791m)、阿蘇山(最高点は高岳で、1592m)、金峰山(きんぽうさん;665m)、雲仙岳(最高点は平成新山で、1483m)、多良岳(最高点は経ヶ岳で、1077m)が挙げられます。
  いずれも第四紀火山ですが、英彦山、金峰山、多良岳は、第四紀の前期から中期(約260〜100万年前)に活動したやや古い火山です(文献2−a)。

 岩石学的には、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、もっとも分布域が多い火山岩は、「安山岩」類で、それ以外に火山によっては「玄武岩」、「デイサイト」、「流紋岩」も分布しています。

 それらの明瞭な火山岩とは別に、阿蘇山の巨大噴火(おそらくAso-4;9万年前や、それ以前の巨大噴火)によって噴出した大規模火砕流堆積物が、阿蘇山を中心にかなり広い範囲に分布しています。この堆積物の岩石学的な性質としては「デイサイト/流紋岩質」です。
 1−2)「肥後ゾーン」(肥後帯)
 「中部九州地質区」のうち、熊本県の八代市付近から阿蘇山の外輪山の南側にかけて、長さ約50kmほど、幅が最大で20kmほどの範囲で変成岩が分布している領域があります。地質学上は「肥後帯(ひごたい)」とも呼ばれます(文献1−b)。ここでは「肥後ゾーン」と呼ぶことにします。
 なおこのゾーンの南側は「臼杵―八代構造線」によって区切られています。北側には明瞭な境界線はなく、熊本平野と連続しています。
 
 この「肥後ゾーン」に分布する変成岩類は、(文献1−b)によると3つに小区分されています。
北側から順に3つの領域に分かれているので、北側から順に説明します。
  なおこの小区分は、「ゾーン」の下位区分なので、ここでは「○○ブロック」という名称を使用します。
   (※「○○ブロック」という用語も、この第12部で、説明のために筆者が独自に
      使う用語で、オーソライズされたものではありません)

 a)「間の谷変成岩」ブロック;
 「肥後ゾーン」の一番北側には、トリアス紀(約2.5−2.0億年前)の高圧型変成岩(結晶片岩類)が分布しています。このブロックの高圧型変成岩は、そこの地名を取って「間の谷(あいのたに)変成岩」と呼ばれます(文献1−b)。
 (文献1−b)によると、「間の谷変成岩」ブロックは、「北部九州地区・東部ゾーン」に分布する「周防帯」の変成岩(トリアス紀の高圧型変成岩)と、同時代かつ同じ変成作用を受けた変成岩であり、「周防帯」の延長部との考え方が示されています。

b)「肥後変成岩」ブロック;
 「肥後ゾーン」での主要部で、最も分布範囲が広い部分の変成岩は「肥後(ひご)変成岩」とよばれる、白亜紀前期(約125−100Ma)に変成作用を受けた高温型変成岩(主に「泥質片麻岩」、「石灰質片麻岩」)です(文献1−b)。また白亜紀の同時期の花崗岩類(「肥後深成岩」と呼ばれる)を伴うのが特徴です。
 中国・四国地方や近畿地方に分布する「領家帯(領家変成岩類)」とは、変成相、変成年代など類似していますが、最近では、「領家帯」の延長部ではなく、複雑な変成作用を受けた独自の変成岩帯とされています(文献1−b)。

c)「竜峰山(りゅうほうざん)」ブロック;
 「肥後変成岩」分布域の南側、「臼杵―八代構造線」との間には、(文献1−b)によれば、「竜峰山(りゅうほうざん)変成岩」と呼ばれる高温型変成岩が最大延長で約25km、最大幅で約2kmと、細長く分布している、とされています。
  ただし産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、どこが「竜峰山変成岩」分布域か?はっきりしません。同図では、「肥後ゾーン」最南部にはカンブリア紀の花崗岩とペルム紀の堆積岩層が分布しているように記載されてます。

 このように「肥後ゾーン」(肥後帯)とは、3種の変成岩体(と随伴する深成岩)が、(見かけ上?)隣接した、非常にややこしい地質ゾーンです。

 その由来として例えば、「肥後帯とは、トリアス紀に北中国地塊と南中国地塊が衝突した衝突帯の、東方延長部と考えられる」(文献3)など、様々な説がでていますが、良く解っておらず、謎の多い地質ゾーンです。
 1−3)「天草ゾーン」
 熊本県の本土の西側に、天草諸島があります。ここは第四紀火山噴出物に覆われてはおらず、非付加体性の堆積岩が分布する、独自の地質区となっています。また熊本県の本土側(熊本平野周辺)にも類似の地質体が分布しています。ここではまとめて「天草ゾーン」と呼ぶことにします。

 「天草ゾーン」での主な地質は、産総研「シームレス地質図v2」や(文献1−c)、(文献1−d)、(文献2−b)によると、白亜紀後期(セノマニアン期〜マーストリヒチアン期;約100〜66Ma)の(非付加体型)堆積岩、及び古第三紀 始新世(56−34Ma)の(非付加体型)堆積岩です。
 (文献1−c)、(文献1−d)には、地質の詳細や堆積場に関する考察が記載されていますが、詳細は割愛します。

 (文献1−c)によると、天草に分布する白亜紀(系)の堆積岩は「御所浦層群(ごしょうらそうぐん)」と呼ばれ、熊本県の本土部分に分布する白亜紀(系)の堆積岩は「御船層群(みふねそうぐん)」と呼ばれています。
 「御在浦層群」、「御船層群」ともに、白亜紀の恐竜やアンモナイトなどの生物化石が、産出することで知られています(文献1−c)。南西日本では数少ない、恐竜化石が出る地質といえます。
 1−4)「佐賀関ゾーン」
 大分県の東部、瀬戸内海に面した場所にある佐賀関(さがのせき)半島には、高圧型変成岩である結晶片岩類が、東西長さ約25kmにわたって分布しています(文献1―e)。
  また、その内陸側には「大野川(おおのがわ)層群」と呼ばれる、白亜紀末の堆積岩層(主に砂岩)が分布しています(文献1−c)。
 この2つの地質体分布域をまとめ、ここでは「佐賀関ゾーン」と呼ぶことにします。

 まず佐賀関半島に分布する結晶片岩類は、豊予海峡の最狭部(約15km)を隔てた、四国の佐多岬半島に分布する、「三波川帯」の結晶片岩類の延長部です(文献1−e)。
 また、「大野川層群」は、四国地方で「三波川帯」の北側に隣接して細長く延びている「和泉層群(いずみそうぐん)」の延長部と考えられています(文献1−c)。
 また「大野川層群」は、前述の「天草ゾーン」で取り上げた熊本県の「御船(みふね)層群」とも関連が深い、とされています(文献1−c)。

 ところで四国地方から連続しているこの「佐賀関ゾーン」の地質体は、その西側では火山噴出物で覆われ、地表には現れていません。火山噴出物の下に伏在して九州の西側へと続いているのか?あるいはここで実際に分布が途切れているのか?は解っていません。

 なお「西南日本」を内帯と外帯の2つに分ける地質境界線としての「中央構造線」は、定義上、「佐賀関ゾーン」のうち三波川結晶片岩類分布域の北縁部にあたりますが、その西方延長は、三波川結晶片岩分布域が無いため、どのようになっているのか、はっきりしていません。
  一方、「佐賀関ゾーン」の南側はジュラ紀付加体である「秩父帯」ゾーンであり、その境目が「臼杵―八代構造線」です。九州では「臼杵―八代構造線」が、「中央構造線」の代わりのような、重要な地質境界線となっています。
2.「南部九州地質区」の地質概要
 ここで言う「南部九州地質区」とは、九州中央部を東西に縦断する構造線である「臼杵―八代構造線」より南側の地域です。
 (図2,図3もご参照ください)

  地質構造としては、お隣の四国地方に分布する外帯の「地帯」、すなわちジュラ紀付加体を主とする「秩父帯」が最も北側にあり、その南側には白亜紀〜古第三紀付加体である「四万十帯」が広く分布しています。これらは九州山地の主要部を構成している地質体です。なお「四万十帯」は、細分化する場合、白亜紀(145−66Ma)の付加体が分布する地域を「四万十北帯」、古第三紀(66―23Ma)の付加体が分布する地域を「四万十南帯」と呼びます。
  
 一方、九州山地にはあちこちに、新第三紀 中新世に活動した火成岩(火山岩、深成岩)からなる小領域が点在しています。これらは九州山地では主要な山々を構成しています(文献2−c)。
  また、12−2章の地形説明の項で述べたように、霧島連山から鹿児島地溝帯(桜島、開聞岳、海没カルデラ式火山群)にかけて火山列が並んでいます。

  大まかな「南部九州地質区」の地質は上記のとおりですが、それ以外に、鹿児島県の北西部、熊本県との境にあたる部分には「肥薩(ひさつ)火山群」や「北薩(ほくさつ)火山群」と呼ばれる、やや古い火山地帯があります。
  また大隅半島には、白亜紀の花崗岩類が分布しています。
  その南の屋久島は、大部分が花崗岩でできた巨大な花崗岩体です。種子島は「四万十帯」に属します。

 以下、説明のため、「南部九州地質区」を、「秩父帯ゾーン」、「四万十帯ゾーン」、「中新世火成岩ゾーン」、「鹿児島火山ゾーン」、「屋久島、種子島ゾーン」、の5ゾーンに分けて、説明します。
  (※ 上記の各「ゾーン」の名称や区分けは、説明の都合上、筆者が独自に設定した
      もので、オーソライズされたものではありません)
 2−1)「秩父帯ゾーン」
 「中部九州地質区」と「南部九州地質区」との境目は、大分県の臼杵市から熊本県の八代市までほぼ直線的に走る「臼杵―八代構造線」です。この線の南側に接して、幅が約5−20km程度の範囲で、ジュラ紀付加体を主体とする「秩父帯」の地質体が伸びています(文献1−f)。
 (図2もご参照ください)
  ただ、「秩父帯」と区分けされる部分の内側あるいは北辺部には、より古い地質群が線状に数本延びています。これらの、より古い地質群はまとめて「黒瀬川帯(くろせがわたい)」、あるいは「黒瀬川構造帯(くろせがわこうぞうたい)」と呼ばれます(文献1−g)、(文献1−h)、(文献1−j)。
  (※ 以下、「黒瀬川帯」という呼称に統一します)

 ということで九州地方では、「秩父帯」と一括される「地帯」の実態は、ジュラ紀付加体である狭義の「秩父帯」の地質に加え、より古い「黒瀬川帯」の多種多様な地質も混在している、複合的な「地帯」となっています。

  この「秩父帯」の内側に含まれる「黒瀬川帯」を構成している地質体は非常に複雑です。
 産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、まず時代的には、古生代初期から末期(カンブリア紀〜ペルム紀;約5.4億年前〜2.5億年前)にかけての色々な地質時代の地質体が含まれます。
 また地質の種類としても、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、堆積岩(非付加体型)、堆積岩(付加体型)、火山岩、深成岩(主に花崗岩類)、高温型変成岩(片麻岩類)、高圧型変成岩(結晶片岩類)、超苦鉄質岩(おそらく蛇紋岩)が確認でき、多種多様です。
 文献1)の中では各部に分散して説明されており、解りにくいのですが、(文献1―g)、(文献1−h)、(1−j)に、詳細が記載されています。
 (※ この章の後のほうに「補足説明1」として、九州地方における「黒瀬川帯」を構成する地質体の種類と形成年代をまとめました。)

 「秩父帯」の内側に分布するこの「黒瀬川帯」(注1)を構成する地質体は、お隣の四国地方にも分布しており、どちらかというと四国の「黒瀬川帯」に関して多数の研究が行われています。 

 いずれにしろこの「黒瀬川帯」は非常に複雑な地質構成で、そもそもその定義(どの地質体を黒瀬川帯の構成メンバーとするのか?)も、成り立ちも、ジュラ紀付加体である「秩父帯」本体との関係も、サッパリ解っていない、謎の多い「地帯」です。色んな学説が提案されていますが、ここでは詳細を述べるのを控えます。

 一方、それ以外の、本来の「秩父帯」(ジュラ紀付加体)を構成する地質は、砂岩、泥岩、チャート、石灰岩、メランジュ相と、ごく一般的な付加体型の地質組み合わせになっています(文献1−f)。

  「秩父帯」に含まれる主な山は、九州(脊梁)山地の最高峰、国見山(1739m)とその周辺部です(文献2−c)。祖母山(そぼさん)、傾山(かたむきやま)は、後述の中新世火成岩類(主に火山岩)で形成されていますが、その近傍(尾平(おびら)地区など)には「黒瀬川帯」に相当する地質体が分布しています。


 注1)「黒瀬川帯」の名前の由来となっている「黒瀬川」は、四国の愛媛県にあった「黒瀬川村」(現在は西予市)、もしくはそこに流れている河川である「黒瀬川」から命名されています。
 2−2)「四万十帯ゾーン」
 四国地方と同様に、「南部九州地質区」では「秩父帯」より南側に、白亜紀〜古第三紀の付加体である「四万十帯」に属する地質体が分布しています(文献1―k)、(文献1−m)。
  (図2,図3もご参照ください。)
 九州地方での「四万十帯」の特徴は、白亜紀(145〜66Ma)の付加体(四万十北帯)に加え、古第三紀(特に、始新世(ししんせい)、漸新世(ぜんしんせい);56Ma〜23Ma)の付加体(四万十南帯)がかなり広く分布している点です。

 (文献1−k)、(文献1−m)、及び産総研「シームレス地質図v2」によると、「四万十帯」(北帯、南帯)全般に、砂岩、泥岩、砂泥互層など、ごく一般的な付加体型の地質で構成されています。玄武岩、チャートの海洋起源の地質体も、少ないですが含まれています。
 分布域は、九州山地のかなりの範囲の他、大隅半島、薩摩半島にも分布しています。また後述する種子島、屋久島にも分布が認められます(文献2−c)。

 「九州南部地質区」のうち、「四万十帯」に含まれる主な山は、市房山(いちふさやま:1720m)が挙げられますが、それ以外にも九州(脊梁)山地のかなりの部分は、「四万十帯」の地質で形成されています(文献2−c)。
 2−3)「中新世火成岩ゾーン」
 この「中新世火成岩ゾーン」というものは、実際は一つにまとまった領域ではなく、前記の「秩父帯」と「四万十帯」の中に、ポツポツと点在している火成岩でできた小ゾーンの集合体を、説明の都合上、まとめたものです。
  (図1,図2,図3もご参照ください。)

  ところで、この連載の他の部でも触れたように、日本列島では、約20−15Maの期間、「日本海拡大/日本列島移動イベント」という大きな変動が起こりました。
  九州地方を含めた「西南日本」ブロックは、一つにまとまって大陸部分から離れ、九州北部付近を回転軸として右回りに回転しつつ南下して、現在の位置まで移動した、と推定されています。このイベントに関しては多数の文献がありますが、例として(文献4)、(文献5)を挙げておきます。

  このイベントの最後の頃やその後の時期(約16−12Ma)では、「西南日本」ブロックが、まだ出来立てで比較的高温だった「フィリピン海プレート」の東部(四国海盆部分)へと、無理やり乗り上げたような状態となり、地下に押し込められた「フィリピン海プレート」の一部が部分融解してマグマが形成され、「西南日本外帯」の各所で火成活動(火山噴火や、マグマだまりの形成(=後の花崗岩質深成岩体))が起こったと考えられています(文献4)、(文献5)。

 この「西南日本外帯・火成活動」の一部として、ここで説明している「南部九州地質区」でもいくつかの場所で火成活動が生じました(文献1−n)。
 (文献1−n)によると具体的には、主に以下の場所です。

  (1)祖母山(そぼさん)、傾山(かたむきやま)ブロック;カルデラ式火山活動
  (2)大崩山(おおくえやま)ブロック;カルデラ式火山活動+マグマ溜り由来の
     花崗岩体の形成
  (3)市房山(いちふさやま)ブロック;マグマ溜り由来の花崗岩体の形成
  (4)尾鈴山(おすずやま)ブロック;大規模火砕流噴火を伴う火山活動と、
        マグマ溜り由来の花崗岩体の形成
  (5)大隅半島ブロック;高隈山地、肝属(きもつき)山地などでの
        マグマ溜り由来の花崗岩体の形成
  (6)屋久島ブロック;マグマ溜り由来の花崗岩体の形成

 これらの多くが、現在も比較的目立つ山々を形成しており、九州山地で登山対象として登られる山々が、多く含まれます。

  ※ ”Ma”は、百万年前を意味する単位
 2−4)「鹿児島火山ゾーン」
 第12−2章の地形説明のところでも触れたとおり、霧島連山とその南へ続く鹿児島湾沿いは、「鹿児島地溝(帯)」と呼ばれ、火山活動が活発なゾーンです(文献1―a)、(文献2―d)。ここでは霧島連山を含めて「鹿児島火山ゾーン」と呼ぶことにします。
  (図3もご参照ください。)

 このゾーンは、地形説明を行った第12−2章で細かく触れたので、この章では簡単に触れますが、霧島連山、桜島、開聞岳がこのゾーンの主な山で、いずれも活火山に認定されています(文献6)。
 それ以外に、鹿児島湾内は少なくとも3つの海没カルデラ(姶良(あいら)、阿多北(あたきた)、阿多南(あたみなみ))があります。

 地質的には、霧島連山、桜島、開聞岳のいずれも安山岩質の火山岩で形成されています。また鹿児島県の本土のほぼ全域にひろがっている、いわゆる「シラス」は、姶良カルデラから噴出した大規模火砕流堆積物です。非溶結なので岩石とは言えませんが、産総研「シームレス地質図v2」で確認すると、性質的にはデイサイト/流紋岩質です。
 2−5)「屋久島・種子島ゾーン」
 鹿児島県の本土から約20−30km南には、屋久島と種子島がありますが、両者は地形的にも地質的にも対照的な島です。

 まず屋久島は、九州本土最高峰(くじゅう連山の中岳:1791m)よりも更に高い山々(最高点は宮之浦岳;1936m)を含め、1500m以上の高峰が立ち並び、「洋上アルプス」とも呼ばれます。
 島の形状も円形で、一見すると火山島のようにも思えますが、地質的には中新世の花崗岩でほとんどができており、火山ではありません。

 2−3)節でも触れたように、中新世の「日本海拡大/日本列島移動イベント」に関連して、地下でマグマが生じ、そのままそのマグマ溜りが固結して大きな花崗岩体となり、その後、なんらかの駆動力で地中深くから上昇して現在のような高い山々を持つ島となっています(文献1−n)、(文献2−e)。
 なお、屋久島の東部沿岸部では、「四万十南帯」に属する堆積岩が分布していることから見て、元々は屋久島と種子島を含む一帯は、「四万十南帯」の堆積岩で形成されていた場所であり、そこに地下から巨大な花崗岩体が顔をだしている状態だと解ります。

 一方、種子島は、屋久島とは対照的に平地〜丘陵性の島で、登山対象となるような山もありません。この島の大部分は「四万十南帯」の堆積岩で形成されています。
 (文献2−e)によると種子島も海底から徐々に隆起してできた島で、隆起速度は約50〜70m/100万年と推定されています。屋久島の隆起速度は解っていませんが、屋久島のほうが隆起速度が大きかったため、現在のような対照的な地形の島となっていると思われます。
【補足説明1】九州の「黒瀬川帯」について
 本文の第2章でふれた「黒瀬川帯」を構成する地質(群)について、少し細かいですが、ここで記載しておきます。
 ベースとした資料は、産総研「シームレス地質図v2」及び(文献1−g)です。

[九州地方での「黒瀬川帯」を構成する地質体](古い順から)
 a)カンブリア紀〜シルル紀(約5.4〜4.2億年前)の、高温型変成岩(片麻岩類)
 b)オルドビス紀〜シルル紀(約4.9〜4.2億年前)の深成岩類(花崗岩類、閃緑岩)
 c)オルドビス紀〜デボン紀(約4.9〜3.6億年前)の火山岩(デイサイト/流紋岩質)
 d)オルドビス紀〜ペルム紀(約4.9〜2.5億年前)の高圧型変成岩(結晶片岩類)
 e)ペルム紀(約3.0〜2.5億年前)の非付加体型堆積岩(主に砂岩)
 f)ペルム紀(約3.0〜2.5億年前)の付加体型堆積岩(メランジュ相)
 g)トリアス紀(約2.5−2.0億年前)の高圧型変成岩(結晶片岩類)
 h)トリアス紀(約2.5−2.0億年前)の非付加体型堆積岩
 j)時代不詳の、超苦鉄質岩類(おそらく蛇紋岩体)

さらにこれ以外に、
 k)ジュラ紀(約2.0−1.5億年前)の非付加体型堆積岩
 m)白亜紀(約1.5ー0.66億年前)の非付加体型堆積岩
を含むとする考え方もあります。
(参考文献)
文献1) 日本地質学会 編
     「日本地方地質誌 第8巻 九州・沖縄地方」朝倉書店 刊 (2010)

   文献1−a) 文献1)のうち、
      第5部「(九州地方の)火山」の、
        5−1章「(九州地方の火山の)概説」、
        5−2章「(九州地方の)フロント上の火山」、及び
        5−3章「(九州地方の)背弧側の火山」

   文献1−b) 文献1)のうち、
      第7部「(九州地方の)変成岩」の部の、
        7−3−2節 「肥後帯の変成岩類」の項

   文献1−c) 文献1)のうち、
      第4−3章 「(九州地方の)シルル紀〜白亜系 陸棚成・非海成堆積物」の、
        4−3−2節「九州中軸帯の白亜系」の項

   文献1−d) 文献1)のうち、
      第3部「(九州地方の)新生界」の、
        3−3−1節 「天草の第三系」の項

   文献1―e) 文献1)のうち、
      第7部「(九州地方の)変成岩」の、
        7−2−2節 「三波川変成岩」の項

   文献1−f) 文献1)のうち、
     第4部「(九州地方の)中・古生界」の、
      4−1−1節「(九州地方の)中・古生界の分布、構造の概略」の項、
      4−1−2節「(九州地方の)中・古生界の、構成岩類と年代」の項、及び
      4−2−4節「九州島内の秩父・三宝山帯ジュラ紀付加体」 の項   

   文献1−g) 文献1)のうち、
     第4部「(九州地方の)中・古生界」の、
      4−1章「(九州地方の中・古生界)概説」の項、
      4−2−2節「黒瀬川帯のペルム紀付加体」の項、
      4−2−3節「黒瀬川帯のジュラ紀付加体」の項 及び、
      4−3−4節「黒瀬方帯のシルル〜白亜系正常堆積物」の項    

   文献1−h) 文献1)のうち、 
      第6部「(九州地方の)深成岩」の、
       6−2−1節「古生代黒瀬川帯」の項
      
   文献1―j) 文献1)のうち、
      第7部「(九州地方の)変成岩」の、
       7−5−1節「黒瀬川帯の変成岩類」の項

   文献1−k) 文献1)のうち、
      第4部「(九州地方の)中・古生界」の、
        4−2−6節「九州島内の四万十帯の白亜紀付加コンプレックス」、及び
         図4.2.27「九州島内の四万十北帯の
               白亜紀付加コンプレックスの地質概略図」

   文献1−m) 文献1)のうち、
      第3部「(九州地方の)新生界」の、
        3−4−1節「四万十南帯」の項

   文献1−n) 文献1)のうち、
       第6部「(九州地方の)深成岩」の、
         6−4−2項「(九州地方の)新生代南部(外帯)」の項


文献2)町田、太田、河名、森脇、長岡 編
     「日本の地形 第7巻 九州・南西諸島」 東京大学出版会 刊 (2001)

    文献2−a)文献2)のうち、
      2−1章「別府―島原地溝帯」の項、
      2−2章「別府−島原地溝帯中心部の火山群」の項、及び
      2−3章「別府―島原地溝帯周辺の古い火山」の項

    文献2−b) 文献2)のうち、
      2−11章 「天草諸島と周辺の島々および海底」の項

    文献2−c) 文献2)のうち、
      3−3−(1)節 「九州山地」の項
       及び図3.3.1「九州山地及び周辺山地の接峰面と地質」

    文献2−d) 文献2)のうち、
      3−2章「鹿児島地溝の火山群」の項

    文献2−e) 文献2)のうち、 
      3−6章 「屋久島・種子島」の項

 
文献3) 磯崎、丸山、青木、中間、宮下、大藤
    「日本列島の地体構造区分再訪
       ―太平洋型(都城型)造山帯構成単位および境界の分類・定義―」
     地質雑誌、第119巻、p999−1053 (2010)

  https://www.jstage.jst.go.jp/article/jgeography/119/6/119_6_999/_article/-char/ja/
   (このリンク先より、当該論文をダウンロードできる)


文献4) 日本地質学会 編
     「日本地方地質誌 第5巻 近畿地方」 朝倉書店 刊 (2009)のうち、
       2−3―3節「背弧海盆の形成と西南日本弧の回転運動」の項、
       2−3−4節「前弧域の火成弧化と島弧の発展」の項、及び
        図2.3.6「近畿地方および周辺地域の
                始新世〜中新世の古地理および構造発達史」

文献5) 日本地質学会 編
    「日本地方地質誌 第4巻 四国地方」朝倉書店 刊 (2016)のうち、
      7−4章「西南日本外帯および瀬戸内火成活動の成因論」の項


文献6) 気象庁ホームページより  
     「日本活火山総覧 第4版」
 https://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/souran/menu_jma_hp.html
【書記事項】
初版リリース;2022年4月11日
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